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春に学生のきみが死んでも

忌々しい季節、春が、来てしまう。

入学式とか卒業式の、めでたくて華やかだけど、スーツとか袴の息のしづらさが苦手だった。人間関係に始まり全てがリセットされるのも無理だよ。環境の変化に体がついていけないせいか、花粉症でもないのに体調が常にほどよく悪くなる。
自分の誕生日もあるのにな。その誕生日は何年か前に当時の恋人がお祝いデートをドタキャンしたショックで、幸せな思い出は記憶から薄れてしまってる。
なんかもういろいろあった。わたしの好きな人たちと、大切に抱えていたものが、全部この手から零れていってしまう、春。そりゃ桜はきれいだけど、それはその下に死体が埋まってるからでしょ、知ってるよ。わたしにとっての春は、別れの季節。だから春が憎くてしょうがない。
ここまで前置き。


“学生余命一年”なんて絵を描いたのは、今から2年前の4月。わたしが大学4年生になった春。
わたしは大学生活が大好きだった。人生で1番、自分の人生を自分の手で動かしてる感じがしてたから。
デザインの課題で自分の好きを思いっきり詰め込んでプレゼンをした。時間もお金も使い方が自由で、私は実家暮らしだったけど門限なんてとっくになくて、誰とどこに行って何をするのかも、全部自分で決められた。毎日好きな服を着て、髪をオレンジに染め、ピアスをしてても誰にも怒られなかった。そんな自由な生活の中で、わたしは「わたし」を見つけられた。
あと単純に、わたしのいた軽音サークルを愛しすぎていた。お酒と音楽に生かされているような人たちと、もみくちゃにされながら最前でandymoriのコピバンのサビで手をあげたり、寒い夜空の下で梅酒のストレートで暖をとったり、急に海までチャリを走らせて花火をしたり、バンドの練習のときに曲の合わせよりお喋りをしてる時間の方が長くなっちゃったり、絶対にひとりにさせないクリスマスのアコライブとか、そういう。
ほんの少しの命と引き換えに見る朝焼けが、ほんとうに好きだった。
だからさ、学生じゃなくなるなんて、社会人になってしまうなんて、せっかく手に入れた「わたし」を手放さなきゃいけないなんて、死ぬのと同じでしょ、そんなの。
刻一刻と迫る春が、学生のわたしの死を迎える春が、ものすごく怖かった。


そしてこの2023年春、わたしの一つ下の後輩たちが、卒業する。あの子たちは今、社会に出る前の残された時間を死に物狂いで生きている。
この前の卒業ライブで、その中のひとりの子が「いつまでもこんなふうに隣にいられるような気がしてるよ」なんて唄うから、泣きそうになってしまった。ほんとにそうだよね。会いたいと思う前に気がついたら隣にいて、馬鹿みたいなことを本気でやって、倒れそうになるまで遊んだあの日々。 
また他の子が、「今日で21g軽くなった気がした」って言ってた。21gは魂の重さ。これまでの自分全て、飛んでなくなっちゃうような気がするよね。そうして魂を手放して、もぬけの殻でこれから生きていかなきゃいけないのかな。
どの子と話しても、ずっとこのままでいたいって言う。一年前のわたしもそうだった。卒業したら死ぬんだと思ってた。
でもいま、そこそこ元気に生きている。

長くてごめんね。ここまでも前置きだったかも。暇だったらでいいから、あともうちょっとだけ聞いていって。


社会人を一年やり過ごせたわたしから、きみへ。
きみが大切にしたきたものが、桜の花びらと一緒に手から零れ落ちそうでも、その端っこだけは掴んで離しちゃだめだよ。わたしが社会人になるとき1番恐れていたのは、社会の荒波に揉まれて、当たり障りのない生活と、可もなく不可もない人間になってしまうこと。去年の今ごろ、誕生日が一緒の最高の友達と、つまらん服って言ってGUで通勤服を買ったのを覚えてる。最初はそうやって新社会人のふりをしなきゃいけないかもしれないけれど、少しづつ自由になれるといいな。職場によるけれど、わたしは髪の毛先にオレンジを取り戻した。厳しいところだったら、ポケットに好きな飴でも忍ばせておきなよ。あとは通勤中に、イヤホンで点滴みたいに音楽を体に流しこめば1日は持つから。
そして、仕事を人生にしようとしてないきみが選んだ仕事は、きっとお休みの日があるはずだから、そのときは思いっきり遊ぼ。子供心を忘れるな。やりたいこと全部やろ。寝るのが最高に好きだったら寝ててもいいけど、やり残したことがある人生なんていやでしょ。先にチケットとったり友達と約束しちゃいな。否が応でもベッドから出たらあとは最高になれるから。
もちろん体を壊してたらたくさん休んでね。ほんとに。たのむよ。いのちだいじに。

まあ、わたしもまだ社会人一年しかやってないからこの先どうなるかわからないけれども。
わたしは、人がその人らしく生きてるのを見るのが好き。だからお願い。今のきみを殺さないでくれ。社会人になっても、好きなものを見失わないで、好きなことを諦めないでね。わたしもそうするから。

あと、会いたい人には素直に会いたいって言おうね。きみに言ってるんだよ。よかったら、わたしとも会ってくれたら嬉しいな。


最後に、話に出てきた、きのこ帝国のクライベイビーを貼ろうかと思ったけど、わたしからの曲じゃないなと思ったから、こっちにします。

夢は夢のままで終わらせないで、
きみはきみのままでいてね。約束だよ。

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