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おたまじゃくし

不思議な友達がいた。
ある時、彼女はずっとおたまじゃくしを探している。なかなかみつからず私たちはバスを転々として帰ろうと催促していても聞いていなかった。仕方なく私は途中で何も言わずに帰ると、
次の日またおたまじゃくしの探す旅に付き合うことになった。彼女はずっと楽しそうに探している。次のバスに降りた時、彼女は私の故郷を紹介したいと言い田舎の集落に案内された。電灯もないような小さなところで、人の気配もしなかった。
ただ変わっているところと言えば小さな滝の音がしていることだった。彼女は嬉しそうに一つ一つ集落の魅力を語ってくれた。
どうしてだろうか、彼女の言うことには信憑性が感じられなかった。緑が生い茂り、春にはたくさんの花が見られる。夜にはかえるの合唱の子守唄をきき、星を見ながらみんなと語った。
一見すると普通の田舎の風物詩だ、しかし、彼女の言う「みんな」とは一体なんなのだろうか。
最後に彼女は小さな滝の方向へと案内してくれた。途中に大きな蛇の死骸があったり、くたびれた洋服が落ちていたりした。私は彼女の小さな背中を背景に、段々と大きくなってゆく激しい滝の音を聞いていた。
ここだよ、と言ってくれた彼女の肌には水しぶきが飛び、私のメガネは水玉模様のようになった。それだけ近くに来たのだから、と彼女は顔を洗い、その場に座る。
私たちは特にそこでは話さなかった。話す必要も無いし、この音がある限りきっと聞こえないだろうと思っていたからだ。
私はずっと疑問を晴らしたかったけれど、我慢した。
朝焼けが始まっていく中、色が溢れ出る世界で、どうしてこう透明なものは愛おしいのか、私たちは同じことを考えていたようで、それは無意識に手の中に込めたオレンジ色の水を見つめあいながら笑ったことだ。
井戸に吸い込まれる中、私たちは間違いなく共存していた。

私は最後まで聞かなかった。どうしておたまじゃくしはいなかったのだろうか、と。

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写真 Take 様

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