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自然や生体に学ぶ

新幹線のデザインにカワセミ、効率的なポンプのデザインにオウムガイ、省エネで快適な住居を作るためにアリ塚。

自然の造形は実に効率的で無駄がない。たくさんの生き物が組み合わさった生態系のシステムはとてつもなく興味深く、さらに生態系と地形や気候が絡み合った自然のシステムは効率的でもう本当に美しくて尊い。
というところを知るだけでも楽しすぎるのでぼくはサイエンスオタクなわけなのだけれど、この「自然の無駄のない造形やシステム」は人間社会で生きているぼくらにもとてつもない恩恵をもたらす可能性が眠っていると思う。

冒頭の例は実際に世にある生き物や自然を活かしたプロダクトなわけだけれども、それだけではなくて、例えばそこら辺の草花(ざっくり言うと雑草)の生き方がたくましくて逆境に陥ったときの参考になるとか、アリの社会で三割くらい働かないヤツがいるけど実は交代で休んでいてずっと働かせる仕組みはいかんよね、とか。
ともかくぼくらが自然や生き物から学んで活かすことはとてつもなく深く広く存在する。
それはただの参考書ではなく、生物誕生35億年の歴史、いや地球誕生46億年、いやむしろこの世界つまり宇宙誕生138億年の歴史が積み重なった、もうなんというか偉大という一言では片づけられない偉大なものから学ぶことを指す。
(ちなみに人間の英知も確かに偉大ではあるがたかだか一万年くらいなので、それに比べると桁が違う)

現状、ぼくら人類は危機的な状況に立っている。今の人間社会を維持するには地球1.3個分の資源が必要で、これから人口がもっと増えたらさらなる資源が必要になってくる。さらに資源が足りないだけではなく、気候変動が進むことによる干ばつが起こって緑や湖が失われたり、気象に変化が起きて災害が激甚化していく可能性が高いとされている。人類が今後も繁栄していくためにはこれまでやってきたやり方、考え方では成り立たなくなっている。

じゃあどうすれば、というところで「自然や生体に学ぶ」ことが必要になってくるとぼくは考えている。無駄がなく、とても効率的で、しかも持続性がある生き物や自然のシステムを参考にしない手はない。

ということで、前置きがとても長くなってしまったが「自然や生体に学ぶ」を体現している(一社)バイオミミクリー・ジャパンさんが実施した「バイオミミクリー入門講座」に参加してみたのでその感想を書いてみようと思う。

まず初めに、「バイオミミクリー」と「バイオハックは違う」ということが非常に印象的だった。

バイオミミクリーには、三つの要素がある。
まず「Emulate」、単に「生き物の形状や性質を真似る」というだけではなくその対象に敬意を併せ持つこと。尊敬するメンターから学ぶ、みたいなニュアンス。
次に「Ethos」、生き物が持つ行動様式、価値観、意図を学ぶ。単純に「真似る」だけではなくて、生き物や自然がどんなふうに成り立っているのかを知る。
そして「Connect」、生き物とつながること。同じ大地、同じ世界で生きている人類と他の生き物、そして自然が分断してしまっているこの現状を今一度きちんとつなげる。
つまりは単に生き物から形状を学ぶだけではなくて、その生き物の造形、行動、意味合いなど、深い部分も学び取り、生き物、ひいてはそれを作り出している自然と調和していくことが大きな要素になる。

「バイオハック」と「バイオミミクリーは」、デジタル技術でいうところのDXと単なるIT化の違いに似ている。
IT化は単純にデジタル技術を導入してプロセスの強化とか効率化を目的にしているけれど、DXはデジタル技術を用いての「トランスフォーメーション」、生活や社会を変容することが目的だ。
生き物の特性をプロセスの効率化やプロダクトの強化にただ利用する「バイオハック」ではなく、循環型・再生型社会、ひいては自然に対するスタンス、そして生物多様性の新しい見方や価値観を人間社会に取り入れていくことが「バイオミミクリー」。
IT化とDXは「人間社会だけ」の話だけど、「バイオミミクリー」は視点が生き物や自然にまで及んでいて、「なんて革新的なのだ!!」と、とても感激してしまった。

なので「バイオミミクリー」の実行には、生き物の「Form」をまねる、生き物が動く、そして行動する「Process」をまねる、そして生き物同士、生き物と自然が作っている「System」をまねる。この三つが必要になる。
「Form」と「Process」までならこれまでもやられているけれど、「System」まで真似ることで、効率的で調和的な自然の持つ英知まで人の社会に還元する。これをしていけば便利だけど人間本位で自然から多大なるしっぺ返しを食らっている今の人間社会から、自然と調和して永い時間を継続して暮らしていける人間社会にしていけるかもしれない。

ぼくが学生を卒業したころは、バイオやバイオテクノロジーという言葉が流行ってはいたものの、まだ実生活に入り込むまでには至っていなかった。しかし今は技術が発展してバイオテクノロジーがそれなりに実生活レベルまで入り込んできていて、その度合いはますます増えると思う。そして今後は「バイオ」だけではなく「バイオ」が絡み合って成り立つ「ネイチャー」のレベルが入り込んでくる社会になるとぼくは考えている。

講座の最後、こんな問いが渡された。
「あなたはバイオミミクリーでどんなことを実現したいですか?」

もう数十年前のこととはいえ、ぼくは生物に関するさまざまなことを学んできた。大学を卒業したあと、学んだことは仕事や生活に間接的には役に立っているとは思う。けれど、生き物や生態系、自然のシステムの有用性がこれまで以上に注目されている今、ぼくが親しんで学んできたものを直接的に活かすことができるんじゃないだろうか。

ぼくは自然のように柔軟でレジリエンスのある組織や社会を作っていきたい。
そのための一つとして、○○みたいな状態に対する自然からの有効な例はこれ、みたいな誰でも使える事例集のようなものがあったらいいと思っている。
専門家だけで作るのではなく、いろんな人が自然から得た学びを集められて活用できるような仕組みがほしい。

そのためにまずぼくは自分なりに面白いと思ったことを発信していく。
そしてぼくが発信したことや考えることに対して面白いと思ってくれたり、共感してくれる人たちと一緒に自然から学んだり、学んだ方法を活かす仕組みやシステムを考えたい。
そうすればこれから愉しい社会を作っていけるんじゃないか、とそんなことを感じた講座だった。

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