介護タクシーを利用していい人(乗客)を乗務員がバラしてみた
介護タクシー起業にむけて進行中の方からこのような問い合わせがありました。
「一つ伺いたいのですが、介護タクシーを利用される方は、普段、車椅子を利用していなくても足が悪い高齢者でも良いのでしょうか。
私の周りには、車椅子を嫌がり、外に出ない高齢者の方が少なくありません。」
介護タクシーを利用できる人は誰なのか?
あらためて、このシンプルな問いに介護タクシー事業者の私が応えてみようと思います。
結論から申し上げると、お金を頂ける乗客対象者が1人以上乗っていればOKです。
乗客対象者とは誰なのか?
以下のように限定されているのですね。
・身体障がい者(身体・視覚・聴覚 )
・精神障がい者
・知的障がい者
・発達障がい児
・要支援高齢者
・要介護高齢者
・内部障害者(透析患者)
・公共交通機関のバス・タクシー・電車などに自分一人の力で乗ることが難しい人、または危険性をふくむ人
もう少し、かみ砕いて説明していきましょう。
■介護タクシー乗客対象の身体障がい者とは?
原則的には「障がい者手帳を持っている人すべて」です。
1)肢体不自由の電動車椅子/リクライニング車椅子/スタンダード車いすユーザー
※肢体とは手足のこと
先天性(生まれながら)の脳性麻痺をかかえていることによって腰から下の脚力が発達せずに直立二足歩行ができない方や、交通事故・労災事故などによって脊髄を損傷して胸から下の感覚がマヒして動かすことができない方は、車椅子というツールを活用しないと外出や移動ができません。
とはいえ、車椅子ユーザーと言っても一くくりにはできない多種多様な障害を抱えているものです。
・片足・片手で車椅子操作する人
・腰から下は動かないが上腕二頭筋マッスルでウィリー走行できる人
・細やかな指の動きはできないが車椅子をこぐ筋力はなんとか持っている人
・言葉の発音が不明瞭、両腕だけで地面を這うように移動する人
・片麻痺で杖歩行するけれど10分以上の移動が厳しい人
このような身体の状態をもちながら日常生活の外出や移動は車いすを活用しています。活用というか、もはや、身体の一部なんですよね、彼らにとっての車いすというのは。
私の運行データ上、乗客の8割強が車椅子ユーザーです。これは全国的にも同様のデータがはじき出されると思います。
そのような事情も絡んでか、
病院正面出入り口やショッピングモール障がい者専用乗降所などで車椅子乗降をおこなう緑ナンバーを見かけた方の潜在意識に「介護タクシーは車椅子の人しか乗せてはならない」という刷り込みがかかるんだと思います。
そんなことはありません。
車椅子ユーザー以外にも乗客対象者はいるんですよ。
2)光が全く見えない/視界がぼやけて見える視覚障害者
私のお客様にも視覚障がい者はいらっしゃいます。
かれらは指先や腕の動き、両足の動きに支障はないけれど「目の前が真っ暗・歩道のマンホールが識別しにくい・真っ正面の範囲しか見えない」という視覚力にハンデを抱えている人たちです。
つまり、手を添えたりマンツーマンで付き添わなければ外出の安全が保たれないわけです。白杖という伸び縮み式の白い杖の先を地面に左右に這わせながら単独移動する視覚障がい者もいますが、彼らですら駅のプラットフォームから転落したり前から突っ込んでくる自転車をよけきれずにぶつかってしまう…という危険性を日常から孕んでいるわけです。
地域支援事業という制度のなかに同行援護という枠組みのサービスがあります。視覚障害者の方へ外出の安全を提供しながら買い物やイベントへの参加に同行するというものですね。
視覚障がい者は、通常、家族や知人が付添い同行して外出しているケースが大半なので介護タクシー依頼をお願いされる事例はそうありませんが、外出先の物理的バリア(車の往来・段差・穴・目線高さにある街路樹など)を先回りして回避できる同行スキルを当事者はつよく求めているので、視覚障害者も乗客対象者となっています。
余談ですが、彼らは光を失った代わりに嗅覚・聴覚・触角の感覚が際立っています。「あれ?エンジン音静かになったんじゃない?」って突っ込まれましたからね、エンジンオイルを交換した翌日のことでした(笑)
3)音が全く聞こえない聴覚障害者
音が全く聞こえない聴覚障害者が介護タクシーを使って外出…という事例はさらに少なくなりますが、かれらも乗客対象者の一人です。
音の無い世界で生きている彼らは、我々が発する「あいうえお」を聞き取れないため、言葉を話せません。言葉を発したとしても「あ~ う~」とかになります。
手足の動きになんら不自由はない・目の前の状況が的確につかめているので、介護タクシー乗務員に運賃と介助料金を支払ってまで外出同行を求めることはそうありません。バスにも乗れるし一般タクシーに乗ることも不可能ではありませんから。
ただ、手話ができるとなれば話は別です。
例えば、ショッピング同行で聴覚障害者が欲しいTシャツを一緒に買いに行った。あいにく売り切れ。どうしてもそのメーカーのデザインするTシャツが欲しい聴覚障害者は「今度、いつ、リリースされるのか」を店員に聞きたい。
限定企画商品でいまのところはリリースされるのかもしれないし、今回で販売終了となるかもしれない。店員側としてはそう答えるしかない状況な時に、このような細やかなやりとりを筆談でやりとりするには時間がかかるわけです。なにより、店員がイライラするかもしれない。
そういった場合に、手話のできる介護タクシー乗務員が間に立って店員側の事情を聴覚障害者に手話で伝え、障がい者の意思を手話で読み取って店員に言葉で伝えることができれば意思疎通にかかる時間の短縮になるため、頼れる相方→介護タクシーにお願いしてみようかな というふうな流れに繋がりやすくなります。
4)リウマチを抱える人も介護タクシー乗客
間接の曲げ伸ばしに制限があるリウマチの人も障害手帳を保有しているので乗客対象となります。
ただ、特段、身体介助を提供しなくても外出できる方が多い印象ですし、日常生活の外出は家族所有の自家用車で対応できているようなので、介護タクシーへの依頼が頻繁に来るかと言えばそうではない現実があります。
しかしながら、大切なお客様の一人であることに変わりはありません。
■精神障害者も介護タクシー乗客である
今は依頼件数が減少しましたが、精神障害者の送迎にもかかわっています。
タクシーへの乗降介助を必要としない方もいますし、歩行障害(ちょこちょこ歩く・よろめく・足をひきずる/上がらない)を抱えてしまう精神障害者は車椅子を使って施設内外の移動をラクにするわけですね。
かれらの特有の症状としては、目がうつろ・奇声を発することがある・ぶつぶつ独り言をつぶやく・急に笑ったり急に黙り込む などがあります。
そのような方の移動を一般タクシーはやりたがらないわけです。身内の家族も血がつながっているからこその葛藤があって関わりたくない・一切かかわろうとしない人も結構いる。そのような方々の転院や一時外出依頼が介護タクシーにかかってくる。
最初は怖いですよね、正直。
運転中に後ろから殴りかかってくるんじゃないか?という恐怖があると思います。けど、そのような危険性をはらむ乗客は車椅子そのものに固定する拘束ベルトをあらかじめ付けているため、走行中に飛び掛かられることはまずありません。
家族でも対応できない・一般タクシーも嫌がる という精神障害者の送迎ニーズに介護タクシーなら応えられるわけです。余談ですが、精神障害者への医療ケア/デイケアサービスを提供する病院へも営業活動なさったほうがいいですよ。
必ずニーズはあるので。
■知的障害/発達障害児も介護タクシー送迎対象者である
厚生労働省の定義によれば、知的障害とは18歳以下に見られる何らかの特別な援助を必要とする人 とされています。
発達障害の定義を厚生労働省公式サイトの文面から読み取って私なりに解釈すると、
言葉の発達の遅れ(話せないなど)・こだわりが強い・落ち着きがない・読み書きが苦手な児童たちとなります。
知的障害と発達障害の区分けというか、定義が重なっているようにも見えて、説明が難しいのですが(笑)、〝一見ふつうにみえるけれども特性を理解したうえで接する必要を持つ人たち〟と独自に定義づけました。
専門的な知見を持つ方からのご意見お待ちしています、コメントください。
さて、今現在も発達障害児の通学送迎に携わっている私ですが、過去の運行経験上、かれらに対しては身体介助を提供したことはほとんどなく、どちらかと言えば見守り・付添いの要素をもとめられます。
感情の起伏が激しいので、ぐずついたり急に泣き出したり大声出したりするんですが、そういうものだと理解していればたいへん苦労する…という事はありません。
親御さんとしては送迎中に迷惑かけていないかヒヤヒヤしているそうですが、私の率直な印象は特徴ある子どもたち というだけです。身長が高い/低い・スポーツが得意/下手・優しい/怒りっぽい子供って全国にいるじゃないですか。それと同じ位置づけですね。
発達障害児をもつご家庭の事情(自家用車をもっていない・仕事の都合で送迎できないetc)により、介護タクシーに通学送迎を依頼される…というニーズはあります。自宅から通学バスが停まるバス停までだったり、直接、特別支援学校まで送迎依頼されることもあります。
知的障害/発達障害児は、ピンポイント移送できて障がい者への理解をもつ介護タクシーならではの乗客対象者であるといえます。
教育委員会や特別支援学校に営業すると定期収入を得られる送迎契約をゲットできるかもしれませんよ。
■要支援/要介護認定をうけた高齢者からの介護タクシー送迎はけっこう多い
特別養護老人ホームのデイサービス利用者や寝たきり生活を余儀なくされている入居者も介護タクシー乗客対象者です。ほかにも介護老人保健施設や有料老人ホーム入居者も対象ですね。
主に、胃ろう交換などの定期通院・熱発して診察を受けなければならない・救急搬送後 病院からの退院などの目的で介護タクシーが使われます。
冒頭の問合せ者の「車いすは利用していないけど足元が悪い高齢者」もおそらく要支援の分類に入っているはずです。かれらの特徴は
一人暮らしの独居か夫婦二人ぐらし
杖をついて何とか歩行
歩行カート(酸素ボンベ入りなど)を押して外出移動
膝・股関節に痛みを覚えていてすり足気味で歩行する
などがあります。
車椅子を活用する方もいればそうでない方もいる。介護タクシーの乗客対象者は車椅子ユーザーでなければいけない…なんてことはありません。もう一度念を押してお伝えしておきます。
上記のような特徴を持った高齢者へは、外出先にちらばる段差・凸凹・階段などのバリアで転倒させることがないように付添い/見守りが求められるんですね。
ご本人としては外出して買い物したい・演劇を見に行きたい・友達と外食しておしゃべりしたい、、けれど付き添う人がいないし家族にお願いしようかと思うけれども仕事で忙しそうだし迷惑かけたくないので仕方なしに引きこもりがちになる。こういう高齢者たちは車椅子に乗っていようが乗っていまいが十分に介護タクシー乗客対象者です。
もちろん、付添い/見守り介助を提供するわけですから、万が一にも転倒事故を起こさないように配慮しなければならないのは言うまでもなく。
運転席から降りて乗客の荷物をもったり歩行器よろめく高齢者へそばに寄り添う…なんてことする一般タクシードライバーはほとんどいないので、そういった高齢者にも寄り添うサービス提供者であることをさりげなくPRすればリピートにつながるはずです。
■内部障害・いわゆる透析患者も乗客である
透析患者の特徴として3~4時間透析治療後にはふらつき・めまい・脱力感におそわれる方が大半です。また、車椅子を使用される高齢者も多い。そういった方に身体介助と車いすがそのままはいる福祉車両タクシーで運行を提供する介護タクシー乗客の対象者であることを忘れてはなりません。
通常、透析治療を提供するクリニックや病院では無料送迎バスをだしているところが大半ですが、
・クリニック側のスタッフ不足
・送迎対応範囲外に住んでいる患者
・送迎タイムスケジュールと患者の生活リズムがミスマッチ
などの理由が絡んで介護タクシーに透析送迎を依頼してくるパターンがあります。
週3回・往復送迎を請けるとなれば事業者にとって定期収入が見込めますので大変にありがたいのですが、送迎時間がカッチリ決まっているため、他のタクシー依頼に応えられないもどかしさを覚えることも。
1日貸切観光依頼が舞い込んできたときには八重歯でくちびるを噛み締めながらお断りせざるを得ませんよね(笑)
とはいえ、やりようによってはどちらにも迷惑かけずに送迎対応できるものです。こちらの記事を合わせて読んでいただければ。
■高齢者・障がい者以外にも介護タクシー乗客対象者はいるの?はい、います
実際にあった送迎事例ですが、病院側が35歳の若者の搬送をお願いしたいと介護タクシー依頼をしてきたことがありました。
病院側としては回復の見込みがたったりこれ以上医療的ケアを提供する必要が感じられなければ、即退院を促してきます。
その若者はバイクの転倒事故かなんかで右足を骨折していてギプスを巻いたまま病院から出てきました(笑)足元の角度調整が容易に行えるリクライニング車椅子を使用して右足をピンと伸ばした状態を保ったまま無事自宅へと送り届けたんですね。
障がい者でも高齢者でもないけれど「自宅に帰るまでの移送中も骨折部分に負担をあたえない配慮」が求められ、それに応えられる移送手段が介護タクシーなのです。
【警報!】こんな介護タクシーの使い方は絶対ダメ
つい最近です、こんなことがありました。
要介護高齢者を病院からクリニックへ移送、弊社のリクライニング車椅子をレンタルして診察終了後にはふたたび病院へ戻る往復送迎依頼でした。
診察3時間後にご家族からお迎えコールを頂きました。
クリニック正面口に着くと弊社リクライニング車椅子が空っぽ状態のままご家族が一人。
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お客様ご家族:
「いやー、急遽入院扱いになっちゃって。悪いけど病院まで送ってくれないかな。あ、もちろんタクシー代は払うよ」
介護タクシーめぐり:
「いや、健常者の方からは料金頂けないことになっているんです。乗客対象者が1人以上乗っていないとお金を受け取れないんですね。」
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お客様の認識では、介護タクシーは、車椅子ユーザーの移動や健常者の脚として両方使えるだろう…という認識があったんです。ただ、こういった事業活動はできない。
冒頭でもお伝えしましたが、乗客対象者が1人以上乗っていなければ、介護タクシー乗務員はお客様から料金を頂くことができない「限定範囲のタクシー事業許可」を国土交通省から与えられているんですね。
◆介護タクシー乗客対象者はこちら👇◆
・身体障がい者(身体・視覚・聴覚)
・精神障がい者
・知的障がい者
・発達障がい児
・要支援高齢者
・要介護高齢者
・内部障害者(透析患者)
・公共交通機関のバス・タクシー・電車などに自分一人の力で乗ることが難しい人、または危険性をふくむ人
こういった限定範囲を設けたことで一般タクシー会社とのすみわけが出来ています。ちなみに、一般タクシーの乗客範囲は老若男女・健常者障がい者問わず誰でもOKです。
ただ、車椅子/ストレッチャーがそのまま入る専用車両でないこと・障がい者高齢者への専門的知識(介護保険・障害福祉)や身体介助スキルを網羅的に学んでいないこと・車椅子&ストレッチャー&介護スロープなどの機材を備えていないので、そこに対応できない乗客は介護タクシーに任せるしかない…という構図になっています。
まとめ(福祉バギー使用者も乗客対象である)
介護タクシーの乗客は車椅子ユーザーだけではありません。
いっけんベビーカーのようにも見える福祉バギーも乗客対象者ですし、
何らかの外出サポートや見守り介助を行わないと危険性をともなう方すべてが対象者と言い換えていいでしょう。
以外に乗客範囲が広いことがお判りいただけたかと思います。
あ、申し添え忘れていました。
乗客対象者が1人乗っていればあとの付添い者は健常者何名でも全然OKです。
料金も対象者1人分しか頂けないので、乗った人数分頂く…なんてバスみたいな運行システムではないので安心して介護タクシーを利用してください(笑)
ここから先は
依存せずに自立する介護タクシー開業/経営導きのnote
現役乗務員15年のキャリアを活かして介護タクシーを起業したい方が知りたい情報16記事をマガジンでまとめました。開業申請から稼げる福祉車両選…
頂けました貴重なお金(信用)は、信頼へと繋がる情報コンテンツやオフラインの状況でお返し出来たらなと思います。 移動にお困りの高齢者・障がい者がより良い生活が送れるよう微力ながら私の言葉で発信していきます。