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海神号事件

鬼滅の刃2次創作小説

8月の横須賀港沖に停泊している豪華客船『海神号』に鬼を追い詰めた水柱:冨岡義勇と新米隊士:胡蝶しのぶ達の外伝。


<踊り場にて>

「変ですね。乗客が見当たりません」
「・・・」
「それほど強い鬼では無いはずなんですが・・もしかして別の鬼が居るのでしょうか」
「・・・」
「それか私たちが移動したのかも、だとしたら分散するのはまずいかも」
「・・・」
「聞いてます?水柱」
「・・ああ。」
「ああ、って」


<ボイラー室>

ボイラー室にも人の気配がない・・
「やはりここも・・喰われたにしては痕跡がありませんね」
「・・・そうだな」
「1000人以上も一飲みにできる鬼であれば、我々がこうして生きているのは・・」
「君は左利きなのか?」
「?唐突になんです?なぜ今そんなことを?」
「鞘を右に差している剣士は珍しいからな。普通は矯正するものだが・・」
「・・いや、右利きですよ。・・・冨岡さんだって右に差しているじゃ・・ハッ!!冨岡さん!!!」
「・・いつからか迷い込んだようだな。」


<見えざる攻撃>

「・・なんだこの格好は?!」
「日輪刀は・・大丈夫、腰にあるわ。冨岡さん、これは一体・・」
「血鬼術か・・目的はオレのようだが・・」
「こんな回りくどい方法ということは、なにか因縁があるのでは?」
「さあ・・鬼殺隊であれば鬼に恨まれるのは常だが、身に覚えがないな・・」
「意識が飛んでしまうのはやっかいですね。」
「外の隊士に連絡取れれば・・」


<画家の卵>

「胡蝶、服を着ろ。」
ソファーで目を覚ます。・・・日輪刀は手に握っている。
「日輪刀を恐れているんですかね。見ましたね冨岡さん」
「絵を描かされたようだが・・」
素早く隊服を纏ってから絵を覗き込むが、そこにはトドかアザラシか。冨岡の絵心に呆れを通り越して怒りが。うら若き乙女の裸体を晒していたのに。
「フンム、少し細く描きすぎたか?」
・・嘘でしょ。


<鉄面皮>

「近いです。冨岡さん」
「・・ああ」
あやうく唇が重なるところで意識を取り戻した二人。
なんなんだこの状況は・・舳先から海へ突き落とせば済むものを、二人で抱き合っているなんて。
どうやら血鬼術で操ることはできても、殺すような行動は無理のようだ・・まるでなにかの活動写真をなぞるように操られている・・直接襲われもしたが影のような使徒は脆く、日輪刀さえ失わなければ命の危険はないようだ。
だが、脱出方法がわからない。外の隊士とは鏡を通して連絡することはできたため、鏡が出入口なのは予想できるのだが、本体を発見できずに意識を飛ばされ続けている。
意識がはっきりすると服装は元に戻るが。。水柱とはいまいち意思の疎通が図れない方が難儀している。
「冨岡さんは顔も整っていらっしゃるし、さぞ場数を踏んでいるようで。それか小娘はお嫌いで?」
表情一つ変えない鉄面皮にイヤミの一言も出る。町一番の美人姉妹だった自負もある。
「・・・イヤ、俺も焼き魚にすればよかった」
ブチッ!!


<要救護者>

誰もいなかったはずの船内に一人の少女が。
日輪刀を手放さない二人に対し、鬼が乗客を送り込んで来たんだろうか。
少し不安そうにしていたが、義勇のイケメンさに一目ぼれしたのか腕から離れない。
どうやら外国人らしく、義勇とは意思疎通ができていない(言葉が通じても難しいが)。
一等客で上流階級であるため傲慢な態度。外国語は少し話せるしのぶにあなたたちは恋人かと
しつこく尋ねてくる。エリザベトの無邪気さにイラつくしのぶであったが、なんだかんだ仲が良い模様。


<浸水>

血鬼術の外にいる隊士より、外の状況が伝えられる。
船内の鏡が破壊されつつあるとのこと。情報は鏡を通しているということは、行き来できてもおかしくないのだが。何かが足りないのか?
そうこうするうちに血鬼術の内側の船内より爆発音が轟く。海水がなだれ込んできた。
8月の海なのに氷のように冷たい。自分たちは呼吸によりしばらく耐えられるだろうが、エリザベトを早く外へ出してやらねばならない・・ただの鏡ではダメなのか・・
エリザベトは化粧台で遊んでいて気づいたらこちら側に連れ込まれたと言っていたが・・
「冨岡さん!合わせ鏡です!虚像では抜けられないのかもしれません!」
「・・わかった。ヤツの本体は破壊されないだろう。急ごう」


<雲外鏡(設定)>

  • 結界は万能ではなく、影を操り侵入者を襲う。ただ、影は日輪刀に弱く、雲外鏡は幻覚を用いて武装解除させようとする。

  • 雲外鏡自身は、結界内の環境へ自在に干渉できるが、細かい干渉は影が行う。

  • 結界内と外は薄くつながっており、ガラス等を通じて光なら伝達が可能。・外の隊士は投光器などで船全体を照らして情報を伝えることも可能。

  • 雲外鏡は義勇を狙っていたが、返り討ちにあって停泊中の客船に逃げ込んだ。狙った理由は不明。

  • 現在はエリザベトの部屋にある3面鏡に憑依している。

  • 合わせ鏡で実像を認識することで血鬼術から脱出できる。

  • 武装解除が困難と判断したため、影たちに鏡等を破壊し船を沈没させた。(結界外では沈んでいない)

  • 雲外鏡は美しい女性の姿をしている。義勇を狙ったのは個人的な恨みがあるのか?


<投光器>

「冨岡さん!!これを受け取ってください!!」
投光器を蹴り飛ばすしのぶ。時間が無い。
「内部は凹面鏡です!!早くエリザベトを戻してやってください!」
船内より湧き出してくる影にしのぶが応戦するが数が多い。
「フロイライン、少しがまんしてくれ」エリザベトを抱きかかえながら甲板へ飛び降りる。
投光器の蓋を切り落とし、鏡を露出させた。
恐怖で目を塞いでいたエリザベトだったが、勇気をもって目を開いて実像を認識した。
スッとその場からエリザベトは消える。っと同時に投光器が影に破壊される。
「うまく行ったようですね!・・それで、どうします?冨岡さん」
反対側の投光器は健在だが・・船が沈む方が速いか、影に先回りされるか・・
「いったん引く・・考えがある」
「え?引くって言ったって、後ろ海ですよ・・ええぃ!ままよ!!」
凍てつく8月の海へ飛び込む2人・・


<帰還>

「いや、まだ策はある!」
凍てつく海は二人の体温を急速に奪っていく。義勇は潜って鏡を探し出すぐらいの体力はありそうだったが、体の小さなしのぶは持ちそうにない。色変わりの刀の輝きがこんなに鈍く、鏡面として使えないとは誤算だったが。本命の策でいくしかない。
「・・・冨岡さんだけでも・・帰還してください・・私は持ちそうにありません・・」
「胡蝶!俺の目を見るんだ!」
「・・め?・・さっきの続きですか・・端正なお顔立ちで・・」
「しっかりしろ!奥の自分を認識するんだ!二人で戻るぞ!」
操られた際には気付かなかったが、妙な違和感があった。あのまま見つめ合っていたら帰還できたのだ。
「・・ハハ、魚臭いのに申し訳ないですね・・」もう体中の力が入らない。義勇に身を任せる。
「ああ、次は鮭大根がある店を選ぶさ」


<わたしたち?・・>

トプン・・水面に落ちる。
あまり高くなくて助かった。
熱い、さっきまで凍るような水温だったから余計に熱く感じる。体温よりは低いのだろう。
思ったより体力を消耗している。間近に停泊している船の甲板から仲間の声が聞こえた。
自分より体力を失っている胡蝶が心配だったが、甲板から吊るされた梯子を登っている姿が確認できた。
うす暗い中、義勇も梯子を登りきる。
「ご無事でなによりです水柱!血鬼術に捕まらないよう、乗客と乗組員は後部に集めております。」
自分たちの動きを読んでくれて避難誘導をしてくれていたようだ。
「ハァ、ハア・・よし、二人は引き続き警戒、乗客の安全を確保。胡蝶、動けるか?」
「・・ええ、問題ないです。」
やりとりを見ていた隊士が不思議そうな顔をする。
義勇、しのぶがお互いの姿を見てハッとした。
「「まさか・・入れ替わってる?」」


<Kein Problem>

『ギユウ!着物を返すわ。ありがとうね!』
無事に帰還していたエリザベトが義勇に羽織を手渡しに近づいてきた。
入れ替わっているが、義勇のふりをするしのぶ。
『どういたしまして、フロイライン。無事で良かった。』
義勇が急にドイツ語で話し出したのに驚いたエリザベト。その驚いた頬に軽くキスをする男前。先ほど裸を見られた仕返しだ。不幸面で有名なあの水柱が外国人少女に手を出すなんて・・考えただけでニヤケが止まらない。少し困ればいいのだ。
水柱のご乱心を見ていた仲間の隊士は目を丸くしたが、当の本人は変わりなく「いくぞ」っと言い放つ。
おそらく鬼を討てば元に戻るだろう・・鋼のような肉体は羨ましかったが、やはり自分の体でないと落ち着かない。戻る前に裸踊りでもしてやろうかと考えずにはいられなかった。


<一等室>

「こちらです!この部屋に閉じ込めております。」
明かりがあると鏡伝いで素早く動けるらしい。そのため通路の照明は落としている。
「わかった・・踏み込むぞ胡蝶」「はい、冨岡さんは左手を警戒願います」
入口を封鎖していた新米隊士は二人のやりとりを不思議そうに聞いていた。
部屋の中は明るく荒らさせた形跡はない。
ただ、壁と天井には無数の鏡が据え付けられている。
「誘いこまれたか・・・来るぞ!」仲間から受け取った日輪刀を構える。しのぶの日輪刀は特殊すぎて扱いづらいので変えてもらったのだ。
鏡が光るたびに斬撃のようなものが二人を襲う。
「は、速い・・」射線に急所が入らないように体を躱すものの、光は四方八方から襲い掛かってくる。
背中を合わせていた義勇が少し離れる。
「水の呼吸・・拾壱ノ型・・凪」
義勇の奥義にて斬撃を全て払いのける・・やったか?っと期待したが、まだ首は刎ねていないようだ。
「・・・ここまで脆弱だとは思わなかった」しのぶの体では技についていけず踏み込みが甘くて首まで到達しなかった。おまけに肩を負傷したようだった。「申し訳ありませんね!下がってください!!」
技は不発だったが、剣撃の音で分かったことがある。同時になにかを撃ちだしているわけではない・・本体は1つだ。射線は予測できるが、尋常な速さではない・・せめてどこかに閉じ込めることができれば。
「冨岡さん!照明を落としてください!!」


<万華鏡>


しばし暗闇の中で静寂が続く・・ヤツが鏡から出れば即座に水柱の刃が首を刎ねるだろう。
しかし、今の状況は若干の不利だった。このまま朝まで待つか?
いや、後手に回るのは避けたい。鬼の攻撃は単純だが、正面から切り落とすのは困難。側面から切り落とさねばならない・・万全の義勇ならば苦も無く叩き斬るだろうが・・
しのぶは義勇の手持ちを確認して策を思いつく。

マッチを擦り、空中に放る。即座にしのぶへ攻撃が飛ぶ。
照明を落とす前に鏡の位置は確認済みだ。あえて正中線に脳天を晒して射線を誘ったのだった。
「いらっしゃい!!逃げれるもんなら逃げてみなさいよ!!!」
脳天の一撃を寸でで躱し、変わりに万華鏡の口へ誘い込んだ。
しのぶがエリザベトに渡した万華鏡・・あの子ったら・・ホントに。
蓋をして義勇に投げつける。「お願いします!!」
「水の呼吸・・水面斬り!!!」左腕の一撃で万華鏡を両断。
『ひぎゃああーああkっくぉお!!!!』断末魔が劈いた。


<任務完了>

鬼の痕跡を確認するが、残滓も消えている。
元の体に戻れるのだろうか?っと少し不安になったが、徐々に意識が鈍くなってきたので、いづれ回復するのだろうと安堵する。甲板に戻らないと・・ぼんやりしながら二人は階段を登る。
仲間の隊士に討伐が完了したことを伝え、事後処理のために隠を呼ぶ手配をする。無線は修理されているようだったので、数刻で到達するだろう。意識はほぼ戻りつつあった。
義勇の元へエリザベトがやってくる。なにか耳打ちをして伝えてるようだが・・言葉が通じてると思っているんだろう。だいたい話の内容はしのぶには想像できた。まったく罪な男だ。イタタ・・意識がはっきりするとともに、右肩の激痛が自分のものになってきた。他にも全身あちこち肉離れを起こしているのだろう。ここまで酷使されるとは・・ギロリと義勇を睨み付ける。
視線に気づいた義勇がしのぶに声をかける。
「もう少し筋力を鍛えた方がいいな。鍛錬を怠らぬことだ」
眉間のしわが深くなっていくのが自分でもわかる。
「それと胡蝶、股座から出血があるようだ・・早めに治療した方がいい」
それを耳にした同僚隊士が噴き出す。
。。この唐変木が!!・・やっぱり裸踊りをするべきだったと後悔した。


あとがき

pixivにて好評(?)連載していた鬼滅の刃二次創作小説です。
途中までタイタニック展開でハラハラドキドキしてしまいますね。都度アンケートを取っていたのですが、ラブい展開を希望される方が多かったのには申し訳なかったです。
正直、ぎゆしのってどうも苦手で・・あんまりこの二人がカップルになるイメージが無く・・基本マジ無関心なんじゃないかと。
ラブい展開はさねカナで続けたいと思いますよ!ではでは。

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