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【#ずんだもんの振り飛車解説】vol.1 鳥刺し(嬉野流)対策 7八金・7九飛型三間飛車試論



7八金・7九飛型三間飛車の概説


🫛ずんだもんなのだ。将棋ウォーズ六段(3分切れ負け)、序盤特化型の振り飛車党なのだ。よろしくお願いしますなのだ。

🩷聞き手の四国めたんです。連盟道場2級です。よろしくお願いします。

🫛今回発表するのは鳥刺し(嬉野流)に対して、三間飛車の7八金・7九飛型で受ける形なのだ。とりあえずボクが指した1号局(ウォーズ10切れ VS四段戦)の図面を貼っておくのだ。

図1:後手の3二金・3一飛型が新工夫。二枚銀の攻めに対して、振り飛車も金銀二枚で対抗するというのがコンセプト

 🩷なんか後手の飛車&金が珍しい形してるわね。

 🫛部分的には最近出て来た形で、対エルモ急戦とかではプロでの実戦例もあるのだ。バランス型で、堅さを多少犠牲にする反面、左辺を金銀でがっちり受け止めてるという特徴があるのだ。この場合、相手が二枚銀を繰り出して玉形は薄いから、攻めの姿勢を取る先手に対応しやすいと考えたのだ。

 🫛振り飛車の理屈としてはこんな感じなのだ。 

相手が二枚銀を繰り出している→振り飛車も金銀二枚を投入して受け止めるのが手堅い
相手の玉形が薄い→金銀二枚の片美濃でも、振り飛車は相対的な堅さを主張できる
相手は3筋と5筋を両方狙っている→3筋の4六銀+7九角には4三銀+3三金(+3一飛)、5筋の4六銀+6六銀には4三銀+5一飛と数での対抗ができる

 🩷特に③のメリットは実戦の中では大きいんじゃない?ひとまず数で受け止めてるから、安心感があって良さそうな気がするわね。

 🫛理論的にはこんな感じなんだけど、そもそも思い付きで最近指し始めただけなので、システム化には程遠い状況なのだ。なのでボクが指した実戦例二局をベースに検討していくのだ。

 

実戦例① 1号局、上手く指されて完敗 10切れ VS四段戦

2図:途中の△4五歩が呼び込みすぎで歩切れに陥り振り飛車劣勢に。それでもこの局面はまだまだ戦えそうに見えるが・・・

 🫛1号局はウォーズ10切れで四段との将棋だね。総譜はこの記事の下の方【参考棋譜】にあるから、参考にしてほしいのだ。
 前の図から▲3五歩と仕掛けられて、2図のようにあっさり居飛車良しになったのだ。もっとも△3二金の組みあがり自体は互角っぽくて途中に疑問手があった感じなのだ。
 後手は途中で△4五歩から銀を引っ張りこんだんだけど、その銀に退却されて、歩損&歩切れが残る展開になったのがまずかったんじゃないかな。研究が浅かったのは反省なのだ。

🩷とはいえまだまだ難しそうに見える局面だけど?

🫛対局中ボクもそう思ってたんだけど、ここから先手に巧い3手1組を指されて参ったのだ。みんなも答えを見る前にちょっと考えてみてほしいのだ。


▲5八金寄 (!)△4二角 ▲8八玉(!)がこの戦型を知り尽くしている者にしか指せない手順。鳥刺しでありがちな、薄い玉形にカウンターが入って逆転負け、という展開を未然に防いでいる。

 🫛▲5八金寄 (!)△4二角 ▲8八玉(!)。これで参ったのだ。

 🩷3手1組って聞いたから、なんかもっと派手に決めにいく手かと思ったから意外ね。これって先手は単純な手待ちっぽくみえるけど、そんなに有効な手なの?評価値で見ても先手下がってるけど。

 🫛鳥刺しって、中盤までは二枚銀で押し込んで居飛車よし→6九金しか守り駒のいない7八玉の薄い陣形に反撃が刺さって居飛車逆転負け、がありがちな展開なのだ。だからこそ、優勢になった局面で相手に有効な手段がないことを看破して、薄い自陣にじっと手を入れて逆転の可能性を潰すこの指し回しはうまい構想で、「負けない将棋」なのだ。

🩷薄い玉形の将棋は優勢になっても逆転されやすいけど、裏を返せば優勢な局面で、なおかつ相手に手段がないときは、自陣を補強すればかなり勝ちやすくなるってことね。

🫛そうなのだ。だからこの先手の指し回しは評価値的にはあまりよくないけど、人間的には逆転の芽をつぶした好手順という評価でいいんじゃないかな。実際この手順を指されて、実戦的にはかなり振り飛車が勝ちにくくなったのだ。当時10切れの四段達成率96%だったこともあって、以下無駄に延々と粘ったけど、全然届かなかったね。評価値グラフを見ても後手に傾いた局面はなくて、完敗だったのだ。

🩷敗因は?△3二金型自体はそこまで悪くなかった気もするけど・・・

🫛やっぱり△4五歩じゃないかな。本来この振り飛車の形って、徹底的に相手の攻めを受け止める方針なんだけど、△4五歩っていう手は相手の銀を引っ張りこんで捌き合いに持ち込む手なので、方針としてちぐはぐだったのがよくなかったと思うのだ。

🩷やっぱり振り飛車からは手を出さずに△6四歩からじっと待つのがよかったみたいね。数で受け止めてるから、先手からは手出しができなそうだし。

🫛その展開のほうがよかったのだ。ただ、本譜みたいに▲1五歩の位を取られている場合は、【参考A図】みたいに5筋で1歩持って▲2四歩~▲2二歩というちょっと嫌な筋があるんだよね。

▲2一歩成△同飛 以下、振り飛車も桂損の代償に2筋逆襲を狙えるので、互角の範囲内。ただ先手に桂得という確実なポイントを稼がれてしまっているので、若干振り飛車不満。

🩷この筋を避けるなら途中で△3二飛って上がるっぽいけど、一度引いた飛車を上がるのに抵抗があるのと、形がだいぶ悪いわね。

🫛もし振り飛車に△1四歩が入ってれば△1三桂でかわせるから問題ないんだけどね。居飛車が端を突き越すのは特殊なパターンだけど、3二金型にとっては若干厄介かもしれないからこれは今後の研究課題なのだ。


実戦例②:2号局、8筋逆襲が実現して快勝

10切れ五段昇段をかけた大一番で再び採用。

🫛二局目はウォーズ10切れ三段戦、ボクにとっては五段昇段の一番になったのだ。初手7八飛に対して後手は鳥刺しでやってきたのだ。

🩷後手番と先手番ではやっぱり違うの?

🫛少し違いがあると思うのだ。本譜の展開だと特に顕著だったけど、先手番の7八金・7九飛型は、後手より一手進んでいるぶん反撃力が強いんじゃないかな。後手番の3二金・3一飛型は先手の攻めを徹底して受け止めるのが正しい方針だけど、振り飛車の手が進んでる先手番だと、機を見て捌き合いも視野に入ってくるのだ。

🩷この実戦はまさしくそんな展開になったわね

▲7七桂と跳ねられるのが▲7八金・7九飛型の大きなメリットのひとつ。実戦はこの桂馬がのちに大活躍することになる。

🫛相手の飛車先交換に対して、▲7七桂(5図)と跳ねたのが、のちのカウンターを秘めた構想だったのだ。実戦でも実現するんだけど、▲8九飛からの飛車先逆襲を狙いつつ、▲6五桂跳ねが銀に当たるという組み立てなのだ。

△4五銀は隙を作って疑問手だった。

🩷5図から △3一角 ▲8五歩 △9五歩 ▲8九飛 △4五銀と進んで6図、ここからの先手の反撃がうまく決まって、先手有利になったみたいね。

🫛ここからの手順は振り飛車会心の指し回しだったと思うのだ。
 まず▲6五桂 で銀取りに桂馬を跳ねたのだ。後手の△6二銀 は角道をキープして△8六歩を用意した受けの手だけど、構わず▲8四歩 。ここで△8六歩は▲同角で無効なので、つらいとはいえ△7二金は仕方ないところかな。
 もう一押しが欲しい局面だけど、そこで▲3五角 と出たのが△4五銀をとがめた一着になったのだ。後手は△8六歩 で飛車を止めてきたけど、 ▲6二角成 △同 金 ▲8三銀 (7図)で相手の飛車を詰ませて先手優勢になったのだ。

一直線の手順でたたみかける。鳥刺しは飛車打ちの打ち込みに弱い陣形なので、他の戦型よりも相手の飛車を取る手が効果的になることが多い。

🩷この手順は研究範囲だったの?

🫛部分的には考えたことがあったし、通常の美濃囲いの形でも、▲3五角の筋は指したことがあったから、基本的にはそのへんの経験を組み合わせて実戦のなかで考えた感じかな。

🩷先手の陣形は角と桂馬が使いやすいから、本譜みたいな桂馬を跳ねて角を右辺に展開する反撃する流れになりやすいっていうのはあるわね。

🫛そう考えると、先手番で一手進んでたのが大きかったとも言えるね。鳥刺し(嬉野流)に対して、三間飛車から7八金・7九金に組む指し方はまだまだ発展途上だけど、うまくいけば2局目みたいに奇麗に攻めが決まるので、今後も実戦と研究を重ねて続編を発表できるようにしたいと思うのだ。

🩷それではこの辺で、ありがとうございました。

🫛ありがとうございましたなのだ。


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【参考棋譜】


①将棋ウォーズ10分切れ負け
先手 四段の人 後手 ずんだもん(四段)

A ▲6八銀 3四歩 ▲5六歩 △4二銀 ▲5七銀 △4四歩 ▲7九角 △4三銀 ▲2六歩 △3二飛 ▲1六歩
B △6二玉 ▲2五歩 △3三角 ▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉 △8二玉 ▲4八銀上 △7二銀 ▲3六歩 △5四歩 ▲4六銀 △4二角 ▲5七銀上 △3一飛 ▲6六銀 △3二金 (図1) ▲3五歩 C △3三金 D ▲1五歩
E △4五歩 ▲同 銀 △3五歩 ▲同 角 △4四歩 ▲3六銀 △3四金 ▲5七角 F △6四角 G ▲4六角 △4二角 ▲7九角 △6四角 ▲4六角 △4二角 ▲9六歩 △9四歩 ▲3七桂 △4五歩 ▲5七角 △6四角 ▲4八金 △4四金 ▲3五歩 △4二角 ▲2六飛 △5一飛 ▲4五銀 △同 金 ▲同 桂 △4四銀打 ▲4六金 △3三桂 ▲同桂成 △同 角 (図2)
H ▲5八金寄 △4二角 ▲8八玉
(図3) △6四歩 ▲3六飛 △6五歩
▲同 銀 △5五歩 ▲3四歩 △5六歩 ▲同 金 △5三桂 ▲6四銀 △4五桂 ▲7五角 △3五歩 ▲4六飛 △3四銀 ▲7三銀不成 △同 銀 ▲4二角成 △5四飛 ▲6三角 △5三飛 ▲同 馬 △同 銀 ▲4五金 △6二銀左 ▲7四桂 △同 銀 ▲同角成 △4五銀 ▲同 飛 △7三銀打 ▲5六馬 △5四角 ▲4一飛成 △5一歩 ▲7四桂 △同 銀 ▲同 馬 △7三金 ▲7五馬 △6三桂 ▲5七馬 △7四金 ▲1一龍 △7五桂 ▲7八銀 △7三桂 ▲1二龍 △6五桂打 ▲4六馬 △7七桂成
▲同 玉 △9三玉 ▲7六歩 △6六歩 ▲7五歩 △同 金 ▲6六歩 △6五歩 ▲9五歩 △同 歩 ▲6四銀 △6六金 ▲6八玉 △7二歩 ▲9四歩 △同 玉 ▲8六桂 △9三玉 ▲9四飛 △8二玉 ▲7四桂 △8一玉 ▲8二香 △7一玉 ▲9一飛不成
まで145手で先手の勝ち

A ▲6八銀:先手は初手から嬉野流宣言 

B △6二玉:代えて△3五歩から石田流を目指すのは後手の引き角+4六銀の格好の餌食になる。この局面に限らず、対鳥刺しでは石田流に組めるチャンスがあっても組みにいかないのが無難。

C △3三金:金銀二枚を三段目に押し上げて先手の二枚銀に対抗。このあたりまでは構想通りだったのだが・・・

D ▲1五歩:謎の手渡しだが、ここで意外と手が難しいことに戸惑う。△6四歩は△6四角と覗く筋が消えるので指したくなかったが、これが最善だったようだ。他に△9四歩の様子見は第一感ながら、▲9六歩との交換は、将来的に▲9七角の角ぶつけから角交換になるのが嫌に映った。

E △4五歩:呼び込みすぎてやや疑問。銀を引っ張りこんだつもりだったが生還されてしまい、歩損だけが残って振り飛車苦しくなった。

F △6四角:後手はこの角出に期待したが・・・

G ▲4六角:当然ながら好手。金銀が上ずっている後手陣は打ち込みの隙が多く、角交換には応じられない。以下千日手に逃げ込もうとするも、先手から打開され、歩損と歩切れが響いて苦しい展開に。

H ▲5八金寄~▲8八玉:こちらに有効な手段がないことを見越され、実戦的な好手順を指されて参った。相当玉が深くなるので、振り飛車からの攻めがかなり遠のいた。以下延々と粘るも、着実に押し切られ完敗。


②将棋ウォーズ10分切れ負け
先手 ずんだもん(四段) 後手 三段の人

▲7八飛 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7七角 A △4二銀 ▲6八銀 △5四歩 ▲4八玉 △5三銀 ▲3八玉 △3一角 ▲6六歩 △4二玉 ▲6七銀 △3二玉 ▲7九飛 △6二銀上 ▲2八玉 △9四歩 ▲3八銀 △7四歩 ▲5六歩 △7三銀 B ▲7八金 (4図)
△4四銀 ▲6八角 △8六歩 ▲同 歩 △同 角 ▲7七桂 (5図)
△3一角 ▲8五歩 △9五歩 ▲8九飛 C △4五銀 (6図)
D ▲6五桂 △6二銀 ▲8四歩 △7二金 ▲3五角 △8六歩 ▲6二角成 △同 金 ▲8三銀 (7図)
△同 飛 ▲同歩成 △6四歩 ▲8二飛 △5二金寄 ▲7三桂成 △同 桂 ▲同 と △4四角 ▲6三と △4二金寄 E ▲5七桂 △3四銀 ▲8六飛上 △6五歩 ▲同 桂
まで61手で先手の勝ち

A △4二銀 :この一手で後手は鳥刺し模様に
B ▲7八金:テーマとなっている形を採用。これが2局目で、後手番の前局との一手の違いがどうなるかが焦点
C △4五銀:隙を作って疑問手だった。
D  ▲6五桂~▲8三銀:一気にたたみかける。
E  ▲5七桂:相手の△4五銀を追い払いつつ、△6五歩を消した受けつぶしの一手。以下、後手は先手の二枚飛車を阻止することができない局面となり、投了となった。

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