ブックオフ回顧録#4「初勤務」

初の勤務日。はっきり覚えているのは、初日のトレーニング店長が担当してくれたのだが、店内を案内してくれた時、文庫本のコーナーで「小説とエッセイの違いってわかる?」と聞かれ、わからないと答えたら「小説家が書いてたら小説、エッセイストが書いてたらエッセイだよ。ガハハッ!」と言われ、いや、誰が小説家で誰がエッセイストなのかがわからんがな、と心の中でツッコミを入れたこと。そして、今ではサンドウィッチマンのネタに使われるくらいメジャーになった、ブックオフの伝統的な挨拶であるところの“やまびこ方式の挨拶”の練習がきつかったこと。そのふたつくらいだ。

この“やまびこ方式の挨拶”だが、これはブックオフのマニュアルにも書いてある重要なもので、アルバイト初日のスタッフに(当時そのお店では)必ず教えていた挨拶なのだ。

ブックオフがメジャーになる前、いくつか古本チェーンというものは存在したと思うのだが、ブックオフは従来の(チェーンではない)古本屋のイメージを変えていこうという考えがあったと思う。

従来の古本屋のイメージ。それは回顧録#1でも触れたような
“お店は狭くて薄暗く、立ち読みを防止するためか一点一点丁寧に袋詰めされた商品は埃をかぶっている。狭いので本棚の上、天井ギリギリまで商品が積み上げられて、店のメイン通路にはエロ本が平積みされている。奥にあるカウンターには店主が鎮座し、万引きを警戒してか鋭い眼光を客に向けていた。”
というようなイメージだ。

そういった古本屋に対しての、なんだか“暗くてジメジメしていて、カビ臭くて、気軽に立ち寄れない”雰囲気を変えていこうということで、明るい照明、広い店内、コンビニのように磨かれた床、店員の明るい挨拶、というようなマニュアルが整理されていったのだと思う。お店の自動ドアを通り抜けて入店した瞬間に響く明るい挨拶の声。それによって、まず「あ、なんか古本屋なのに明るい」という印象を持っていただきたい。という気持ちの表れなのだろう。

しかし、この時代の“やまびこ”は『とにかく大きな声を出せ』というようなものだった。後になってそれは変わっていく(そもそも違ったはずなのだがこの時代はこう解釈されていたのだ)のだが、この時代(このお店)はとにかくそう。入口からお客様が入ってきたらそれに気づいたスタッフが(隣にお客様がいても)大きな声でいらっしゃいませと挨拶をする。そしてその声を聞いたスタッフが続けて(目の前で接客をしていても)大きな声でいらっしゃいませと挨拶をする。そしてそれに気づいたら…♾️

途中からこれはまずいという気づきがあって、というかお客様からご意見を度々いただいた事によって原点を思い出して、隣にお客様がいたり目の前で接客中でも、とようなことはしなくなったのだが、10年くらいはそんな時代が続いた気がするので、サンドウィッチマンがネタにするのも無理はない。だいぶ滑稽だもんね。。。

話が脱線したが、とにかくこのやまびこ方式の挨拶の練習がきつかった。何しろ学生時代は挙手をして発言したりなどしたことがほとんどない僕である。いきなりやってみてと言われてもできるわけがない。何回かお客様が来店して、周りのスタッフさんたちが挨拶をしたのだが、もじもじしてなかなか大きく発声することができなかった。するとそれを見かねた店長が僕をお店の裏口へと促す。裏口から外に出るとそこはお店の駐車場だった。「ここで声を出す練習をしよう。僕が挨拶するから、続いて挨拶してみて」そう言うと店長はいきなり「いらっしゃいませー!」と挨拶を始める。これは…拷問だ!!僕はその場から脱したい一心で声を張り上げた。何回かそのやりとりが繰り返され、なんとか僕は店内に戻ることができた。

その時のやりとりは僕の心に根深く残り、それから十数年経った後も会社で飲み会が開かれる度、僕はその時のことを持ち出して社長(その時の店長)に文句を言って絡むのだった。

そして、この時のトラウマがあり、僕は店長になった後、絶対にこのようなトレーニングはすまいと強く誓うのだった。そういう意味ではいい勉強になったとも言える(後になればなんとでも言える)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?