【D評価】令和2年 予備試験 再現答案 民事訴訟法

第1 設問1
1 裁判所がするべき判決
 (1)裁判所は本訴についてどのような判決を下すべきか。
 (2)まず、判決内容について検討するには、本訴の訴訟物を確定する必要がある。訴訟
物は基準の明確性の観点から実体法上の請求権一つにつき一つ認めるべきである。そして、実体法上も債権の分割行使ができ、試験訴訟の必要性があることから、明示がなされていれば、一部請求が認められるべきである。
 本件で、Xは人的損害についてのみ不法行為に基づく損害賠償請求権が生じていないとして本訴を提起している。
 したがって、本訴の訴訟物は、人的損害の部分についての、YのXに対する、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)である。
 (3)そして、本件において、裁判官の心証が、Yに頭痛の症状があったものの、既にその治療は終了していて、本件事故による損害、すなわち人的損害については存在していないと判断している。また、物損については、損害が填補されていると判断している。
 もっとも、明示的一部請求の場合、残部については訴訟物を構成しない以上、判例は判断をしていない。
 (4)したがって、裁判所は、本訴について「損害賠償請求権が存在しない」旨の判決を下すべきである。
2 判決の有する既判力
 (1)では、既判力(民事訴訟法(以下略)114条1項)はいかなる判断について生じ
るか。
 (2)そもそも、既判力とは、確定判決の後訴に対する通有性のことをいい、その根拠は、当事者に対する手続保障に基づく自己責任と、紛争の蒸し返しの防止にある。
 (3)そして、既判力の及ぶ客観的範囲は、「主文に包含するもの」(114条1項)、すなわち訴訟物の、基準時における存否について及ぶ。また、理由中の判断については、裁判の迅速な進行を妨げるおそれがあるため、既判力が及ばない。
 (4)本件で、本訴訴訟物は、人的損害部分の不法行為に基づく損害賠償請求権である。そうすると、基準時において、右債権が存在しないことについて、既判力が生じる。
一方、頭痛が慢性であること、治療が終了していることについては及ばない。
 (5)また、残部についての判断、すなわち「物損について全額の支払いを済ませたこと」についても、訴訟物を構成しない以上、既判力が及ばない。
第2 設問2
1 Y側の立場から、下記の理由に基づき残部請求が認められる旨主張することが考えられる。
2 まず、後訴の訴訟物は、300万円分についての不法行為に基づく損害賠償請求権である。
 (1)ここで、前訴の本訴の訴訟物は上記の通りであり、反訴の訴訟物は500万円の不法行為に基づく損害賠償請求権である。
 (2)そして、前訴において、XとYは「当事者」(115条1項1号)であり、前訴の既判力が及ぶ。
3 そして、前訴の本訴との関係では、人的損害について損害賠償債務が不存在であることについて、既判力が生じていて、前訴訴訟物と後訴訴訟物は同一であることから、既判力が作用し、裁判所が前訴判断と矛盾する当事者の主張を排斥する(消極的効果)から、右請求は認められないとも思える。
 (1)もっとも、後訴は、後遺症を理由として行われたものである。ここで、後遺症については、基準時においてもその発生を感知することが困難であり、一方で、後発的に生じた損害についても、被害者救済のために請求を認める必要性が存する。
 したがって、前訴においては、後遺症に基づく損害賠償請求を訴訟物から取り除き、一部請求をしたと考えるべきである。
 (2)そうすると、本件においても、前訴の本訴との関係では、訴訟物を異にする。
 (3)よって、Yの残部請求は認められる。
4 前訴の反訴との関係
 (1)では、前訴の反訴との関係はどうか。ここで、反訴訴訟物は、500万円という一部であり、後訴も300万円という一部であるから、訴訟物は異なり、既判力は及ばない。
 (2)もっとも、反訴は請求棄却されている。一部請求が請求棄却された場合、通常は残部についても審理が及んでいることから、残部について審理が及んでいないと認められる特段の事情のない場合を除き、残部請求は訴え却下される。
 (3)本件では、後遺症による後訴であり、この部分については、未だ審理が及んでいないと考えることができる。
 (4)したがって、Yの請求が認められると根拠付けることが可能である。
以上


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