【E評価】令和2年 予備試験 再現答案 刑事実務基礎科目

第1 設問1(以下刑事訴訟法は略)
1 小問(1)
(1)間接事実とは、主要事実を推認させる事実のことをいう。
まず、証拠⑤から、令和2年2月1日午後2時頃、Bが外出し、同日午後9時45分頃に帰宅したことから、右時間帯にV以外の居住者が不在であったことが証明される。 次に、BがV方1階居間にあった応接テーブル上面を、同日午後1時45分頃に全体に渡り拭き掃除をしたことが証明される。そして、拭き取り掃除したら以前に付着していた指紋は取り除かれるという経験則、及び、V方1階居間中央の応接テーブルの上面にAの指紋が付着していた事実もとい、指紋はものと指が接触することにより付着するという経験則から、Aが午後2時から9時45分以前にそのテーブルを触った事実が推認される。
 そして、テーブルは家具であり、容易に移動させたりしない経験則から、テーブルのあるV方1階居間中央に上記時刻にAが立ち入ったことが推認される。そうすると、AとVがV死亡に近接した日時・場所で接触していたことが推認される。
 そして、証拠⑤より、Aが15年間Vの経営するクリーニング店で働いていたが、令和元年12月末に解雇し、令和2年1月20日頃から毎日のようにV方に訪れては再雇用を懇願するも、これを断られていたことから、AはV殺害のための動機が存していたと言える。また、実際に同月27日には、AはVを突き飛ばす行為をしていて、現実に障害行為を行っている以上、害意が顕在化していたと言える。
 そうすると、AがVを殺す目的でV宅に立ち入ったことが推認され、もってAの犯人性が立証される。よって、指紋付着の事実は犯人性推認のための間接事実となる。
(2)もっとも、AがVと死亡と近接した日時で接触していた場合、必ずしも殺害する
という経験則はなく、また、Vの突き飛ばしという悪性格が発露していたとしても、その証明力は低い。よって、その推認力は限定的である。
2 小問(2)
(1)上記事実により、限定的に犯人性が推認されることを前提として検討する。
(2) まず、証拠⑦からV死亡以後の令和2年2月1日夜に、AがCに対して「ムカついたので人をナイフで刺した」「刺したナイフは、M県N市O町にある竹藪に投げ捨てた」と述べたことが証明される。AとCは高校時代からの長年の友人であり、友人に対して自己が不利になるような嘘はつかないという経験則から、Cの発言が一定程度真実であることが推認される。そして、⑧から、AからCへの同日9時頃の電話記録があることが証明され、⑦と⑧の日時と人物が一致することから、⑦の通話についての記録であると推認できる。
 そして、⑨から、M県N市O町の竹藪から、刃渡15.5センチメートルの血付着のナイフが存在していたことが証明される。通常誰かナイフがあると言及した場所と同じ竹藪にナイフがあることは考えられないため、⑨のナイフは、⑦でAが言及したナイフであることが推認される。
 そして、④と⑧より、Vの傷跡とナイフの特徴が一致する(刃渡り15. 5センチ)。また、⑧と⑨からナイフに付着した血痕のD N AがVと一致することから、⑧のナイフがVに接触したことが推認される。そして、上記のように傷跡と特徴が一致することからすれば、ナイフによりVは殺傷させられたと推認することができる。
さらに証拠11より、凶器が強い力で刺されていたことからすると、強い殺意が存していたことが推認される。
 よって、このナイフがVの言及するナイフと一致し、右事実は偶然では一致しえない以上、Aの犯人性が十分に推認される。
第2 設問2
1 小問(1)
(1)手続:類型証拠開示請求(316条の15第1項、第3項)をするべきである。
(2)明らかにすべき事項:まず、証拠類型(3項1号イ)を述べる必要がある。本件で、
供述録取書が6号にあたることを示すべきである。
次に、証拠を識別するに足りる事項(3項1号イ)として、供述録取書等と示すべきである。
 次に、検察官請求証拠であるW2供述は、令和2年2月1日午後6時頃、V方からの物音を聞いたことを内容とするものであり、他の者が同時刻に音を聞いていたか否かは、その証明力の判断のため重要であり、この有無により被告の攻撃防御方法が変わりうるため、開示が必要であるということ(同号ロ)を明らかにするべきである。
2 小問(2)
検察官は、W2供述の証明力判断には、同日同時刻に同じ場所から怒鳴り声を聞いた旨の証拠が存在したか否かが重要であり、また、証拠⑥は被告人以外の者の供述録取書で、W2供述により証明しようとする物音の事実について述べており、6号の類型に該当する。
よって、検察官は証拠⑥を開示した。
第3 設問3
1 伝聞供述(320条1項)とは、公判廷外供述のうち、内容の真実性が問題となるもの
をいい、供述内容の真実性は、要証事実との関係で相対的に決する。
2 本件で、証拠13と同旨の公判廷での供述が伝聞供述にあたるか検討する。
まず、Cの供述における、Aの供述部分は、公判廷外供述にあたる。そして、AはCに対して、「ナイフで刺して人を殺した」と言っているところ、要証事実はナイフで刺したことである。そうすると、内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠にあたる。
3 そこで、伝聞例外にあたり、証拠能力が認められるか。
まず、右供述はCという「被告人以外の者の公判廷外の供述」で、Aという「被告人の供述をその内容とするもの」(324条1項)であるから、322条を準用する。そして、自ら刺したという「不利益な事実の承認を内容とするもの」(同1項)であり、類型的に虚偽であるおそれはない以上「任意」(同項但書)でなく、伝聞例外が認められる。
4 よって、証拠能力が認められる以上、証拠排除するべきではない。
第4 設問4
1 まず、勾留決定に関して準抗告(429条1項2号)を申し立てるべきである。
2 次に、葬式という冠婚葬祭が「適当」であるとして、勾留の執行停止(95条)の職権
発動を促すべきである。
3 最後に、葬儀により「勾留の必要がなくなった」(87条1項)として、勾留取消請求をするべきである。
以上

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