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[図工06] 芸術は爆発する

ある日Aくんの芸術は爆発した!Aくんはアトリエに通い始めの頃は恥ずかしがり屋で、来てすぐにちょっとだけ絵を描くと、あとは材料をただながめたり、生き物図鑑を開いたりする時間が長かった。少しずつ慣れて、ハサミを使ったり、両面テープをつかったり、ちょっとずつ道具を試したり、絵の具を混ぜて、いっぱいできた茶色を持って帰った。何かもう一つ作ってくれないかなと、工作キットを渡して「いやだ」と断られることもあった。半年くらい通うとあたらしい道具を使ってみることもだんだん楽しめるようになってきて、根気強く絵を描く日もちらほらあった。小学生になったAくんはお母さんの付き添いなしで、一人で来るようになった。一人で来た最初の日は緊張してなにもしないかなあっと思ったが、私の予想は完全に裏切られ、自分で絵の具のBOXをドンッっと机の上に運ぶと、次から次へと色をだして、大きなダンボールにグリグリ、ガシガシ、ペタペタっと、力強く斬新な絵を描いた。すぐに描くスペースがなくなっちゃうので、新しいダンボールを出すのが忙しかった。せんせー、嬉しかったなあ、ちょっと勘違いしてたなあとも思った。Aくんが材料や図鑑をじーっと眺めていた時間も頭の中で図工してたんだなあと。あれはどんな道具?魚って、どうなってるの?絵の具の色って、混ぜるとどうなるの?何かを作ることの基本は観察と試行だったな。全部延長線上にあって、焦らずじっくりしっかり、Aくんは作ることの楽しさを体験してくれていたのだ。私はAくんのおかげで、何かをつくって?と、言うことはやっぱりはっきりとやめることにした。その日、時間になってお母さんが迎えにくると、Aくんは筆をぽいっと投げ捨てて、振り向きもせず帰って行った。

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