『おっさんずラブ』『おっさんずラブ-リターンズ-』

2018年に『おっさんずラブ』を初めて見たときは本当に衝撃を受けた。
今までBLなんて一部の人だけのもので、同好者で話すくらいだったのに、あっという間にメジャーなものにしてくれた。
同性でも、普通に悩んで恋愛してるんだって、世の中にきっかけを作ってくれた。
そこからタイドラマのブームがあり、ちぇりまほで強化されて、今は日本のBLドラマもかなり増えた。まだ深夜枠でしか放送はないけれど、あの頃と比べものにならないくらい量も増えて、質もよくなった。映画だってメジャーなものがどんどん出て来た。

それは、脚本と演出と役者みたいな、全員が一丸となって、ものすごい集中してできた集大成だったのだと思う。
春田がすべての登場人物の中心にいて、ものすごい求心力で、感情を揺さぶり続けた。
牧の、儚く切なく、苦しい、過去の経験と、かなうことのない、胸を張って公にできない、恋心。
部長の、仕事とプライベートのギャップ、誰でも恋をして我を忘れてしまうことがあるという具現化、でも包み込むような慈愛。
ちずの、当たり前にいた異性がふと気がつくと恋愛対象になっていて、手遅れだと気がついた瞬間と、そのすがすがしさ。
武川さんの、得体の知れなさと、次にいきたいのにいつまでも引きずってしまう過去の恋愛。
それを邪魔しない程度に、でも色んなアクセントになってる他の登場人物たち。
春田を中心に、全部が絡まりあって、すべての登場人物に感情移入することができた。あぁ、自分もこういうときがあったな、とか、こうなる可能性があったな、と。
あの頃のBLドラマは、それをコメディでやる意味もあった。メジャーではなかったBLだから、まっすぐな恋愛ドラマにするよりも、敷居を低く、笑いを多めにいれて、万人に受けるように、BLを知らない人にも丁寧に描いた。

すべての相乗効果が、奇跡のようなドラマを生み出して、私は死ぬほどこのドラマにハマった。
何度も繰り返し見て、いつも同じ場面で号泣している。
何度も見ているのに、また感情移入をして、愛おしくてたまらないと思う。
結末まで知っているのに、春田と牧に幸せになってほしいと本当に思って、ドキドキハラハラして、切なくて。
6話でちずと牧に泣いて、6話の最後の最後に部長が台所に立っているのを見て、「うえぇーーー?!」と声に出して笑ってしまう。
最終話で、「神様の前で嘘はつけないね」と言う部長に心からしびれるし、牧のことを思い返す春田に涙してしまう。
橋の上で「向こう側」に飛び込む春田に拍手して、牧によかったねって号泣しながら思う。
昨日もまた見直して、同じように泣いて思った。これは本当に奇跡だったんだって。

その後、恐ろしいほどのブームが起こり、続編や映画化された。
でも、どれも奇跡は起こらなかった。

『おっさんずラブ-リターンズ-』は、久しぶりのキャスト全員集合で、もちろん楽しみだった。
みんな年齢を重ねて、後日談がたくさん見えて、新キャスト(特に菊様)も素敵だった。家政婦兼姑になった部長も面白いなって思った。
特に「新婚初夜」は、一番見たかったものが凝縮されていて、ずっとニヤニヤしながら見てしまった。自然体で二人が同棲したら、こうなるんだなって、とても嬉しかった。
でも、それがピークだった。

今回の作品では、登場人物がバラバラになっていて、関係性の重なりがあまり見えなかった。前回のような春田を中心とした求心力がなく、それぞれの家庭の事情を説明しているだけだった。
春田と牧のラブラブ具合も、あざとくてすぐに飽きてしまった。単にいちゃいちゃするだけのシーンは、今BLが認知されてきて、ファンが求めているからって理由で差し込まれているように思えて、必然性を感じないものが多かった。もちろん、そういうシーンを私も見たかったし、最後の桜のシーンも素敵だったけど。普段二人きりの時も「春田さん」「牧」って呼んでいるのに、あそこだけ下の名前で呼ぶのが媚びているようで私は受け入れられなかった。(映画もそうだったけど)
牧と部長の乱闘シーンは、2018年の屋上のシーンや、映画のサウナのシーンが好評だったからだと思うけど、過剰演出に思えて、やはり必要性は感じなかった。どこかで見た、嫁と姑ドラマの同性版のパロディなんだろうけど、なんだかちぐはぐに感じた。たぶんそれは、このドラマがコメディに振り切るわけでもなく、社会派を謳っているように感じるからだと思う。家族とのあり方とか、結婚がゴールじゃないとか、説教臭く感じた。いくつかのエピソードではラストにメッセージ性を前面に出して締めていて、政府が作ったお勉強ドラマかと思ったし、冷水をかけられたようにドラマから一歩引いてしまう自分がいた。
その繰り返しが多く、ストーリーが浅くなっていて、登場人物のもっと深い人間性が見たかった私には物足りなかった。

これらのことは映画版にも感じていて、エンターテインメントとしてはしょうがないところもあったのだと推測する。
時間的制限、新キャストの起用、視聴者の反響や期待に応えるというビジネス的な判断。
ストーリーとしても、きっと色んな巡りあわせがあるのだと思う。
もう恋愛成就してしまった春田と牧には、いちゃいちゃする以外に進展がなく、二人以外にフォーカスする必要があるだろうし、部長はああいう立ち位置でしか3人の関係が成り立たないだろうし。かと言って、よくあるサブカップル的なものは既に出尽くしてしまった後だったし(蝶子さんとマロ、鉄平兄とまいまい)。新キャストのサブカップルのボリュームあれ以上だと、前作のキャストが薄くなりすぎるから、ぎりぎりであの感じだったのだとも思う。

だから、改めて思う。
『おっさんずラブ』は、本当に奇跡だったんだって。
今回の続編は、その奇跡の、後日談で、エピローグで、「新婚初夜」みたいな夢のようなスペシャルエピソードを見れてよかった。

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