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感想『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

作品の出来がものすごくいいかと言われると、うーんと悩んでしまうような作品でした。

ただ、映画とは面白さではなく、どれだけ見た人間に傷を与えられるかだという考え方で言えば、間違いなく良い映画です。

もし予習されてみるのであれば
タクシードライバー
キング・オブ・コメディ
ウィンドリバー
トゥルーマン・ショー
辺りを抑えてみるといい感じがします。

以降、ネタバレありです。


①私目線での、この作品のテーマ
②作品の中で取り上げられた事件
③ノイズ
の3つについて感想を述べます。


タクシードライバーやキングオブコメディは、現実から幻想に逃げ込む男達が描かれます。
主人公達は狂気的に見えつつ、でも俺もそうだよなという共感も覚えます。
そして彼らは現実に一つぶち込んでやろうと試み、最終的には、現実に、世間に認められます。
しかし、この2本の映画の独特の後味の悪さは、それがハッピーエンドなのか?と感じられるところで、まさにそれこそが私が好きなところです。

有名になれて、社会に認められて、自分が現実に無視されている妄想だけの存在なんかじゃないと証明できて、、でそれがなんだってんだ?

私はサラリーマンをやっていますが、大事な友達や家族と会う時間より、くそしょーもない仕事をして、プライベートに興味のない隣の同僚や上司に気を使って生きてます。
底辺とは言えないがくだらない生活です。
だが、それに価値がないかと言われたら、言ったやつがどんなやつでも殴っても良いんじゃないかという気持ちになるでしょう。
きっとそれは何かを真っ当にやっているという自負心からくるもので、キングオブコメディを見たあとは、「仕事を少しでも真っ当にやって何か良いことを残さないとな」という気持ちが湧いた記憶があります。
ふと共有したくなったので貼ります。

転じて、今回のキラーズオブザフラワームーンでは、住む場所を奪われ行き着いた保留地で油田を掘り当てたネイティブアメリカンの子孫が、その権利により年金を貰って生活するなか、そこにヒモ旦那になる男の物語です。

主人公は、戦争帰りで行くあてなく叔父を頼りタクシードライバーのようなことをして、それをきっかけにネイティブアメリカンの女性と結婚します。
叔父は地域の白人コミュニティの名士で、マフィア的に裏側で街に影響力を持つ人物で、彼の命令に則り、主人公は親戚連中を殺し財産を奪おうとします。
主人公は賢くなく盲目的に指示に従うものの、最後に家族愛を再発見し、そして妻に、家族愛なんかより自分の金銭欲の方が上位で、実際にはそこまで愚かではないから自覚的に全てを行っていたことを突きつけられます。

タクシードライバーが男の妄想に共感させ、妄想が実現させた上で正しくなさを万感の自戒を込めて笑うという映画なら、本作は丁寧に男の妄想を剥ぎ取り、それでも現実の自分から逃げる愚かさを笑うという映画だったように思います。
正直、信頼できない語り手の技法に慣れているため、呆気ないように感じる部分はありましたが、それでも3時間映画館で飽きさせない映像を作っているのはさすがの老練さを感じました。
最後に出てくる、消費するなよこの事件をといわんばかりの演出も、かなり好きでした。


上でもかなり述べたものの、基本的にかなり胸糞の悪い事件ですが、これに対する受け止め方というのには非常に難しいものがありました。

加害者側を執拗に描くのがこの作品の良さですが、裏を返せばネイティブアメリカンに対しての言及が減っているということは明らかです。
やはり明らかに日本人などのアジア系と似た特徴を持つ顔の彼らに、私は共感してしまいましたが、ストーリー上の扱いは淡々と殺される余所者とすら思えるものでした。

オッペンハイマーでは広島・長崎を描かないと言うけれども、多分同じような問題を孕んでいるとは思います。


ロバートデニーロが80歳なのにどうやら50歳くらいの役、ディカプリオが48歳なのに30歳くらいの役を演じている、というのがめちゃくちゃノイズです。
デニーロがおじいちゃん過ぎる感じがしてとにかくノイズです。

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