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大好きな先輩を助けたくて、デートに誘った話


〜大学構内 廊下〜


講義が終わって廊下を歩いていると、先輩の奈於さんに会って一緒に食堂まで歩きながら喋っていた。


奈於:でね、この前真佑と一緒にダイブしに言ったの。

〇〇:へ〜、なんか凄いですね。

奈於:あ、間違えた…

奈於:ドライブだ!

〇〇:え?

奈於:ごめん、ごめん。でもね、その後に海に真佑と一緒に潜ったんだよ。

〇〇:ああ、なるほど!

〇〇:じゃあ、田村先輩と奈於さんでドライブに出かけて、行き先の海でダイビングしたと。

ダイブとドライブを言い間違えたと謝ってきた奈於さんをフォローするつもりで話を整理した。


奈於:そうそう!

〇〇:へ〜、めっちゃ良いじゃないですか。

奈於:うん、すごく楽しかった!

奈於:もうね、海の中がすっごく綺麗でね、ちっちゃいお魚さんたちがいっぱい目の前泳いでて。

〇〇:うわ〜、絶対癒されるヤツじゃないですか〜

奈於:も〜、ほんと可愛かった!

奈於:なんかさ、あれみたいだった。なんだっけ?あの…ほら、ランディング…

〇〇:ん?ランディング…あ、ファイン○ィング・○モですね。

奈於:それだ!いや〜、〇〇くん流石だね〜


訂正してあげると、どうやら正解だったみたいだ。


〇〇:ランディングって、魚にまたがっちゃってますから笑笑

奈於:それはやばいね笑笑

〇〇:それとも本当に奈於さんが魚にまたがって泳いだんですか?

奈於:いやいや、してないから!

〇〇:でもあれですよね、ダイビングって言ったら結構装備とか大変だったんじゃないですか?

奈於:へ?なんで?

〇〇:ほら、ダイビングってダイビングスーツに着替えたり、酸素ボンベ装備したりしないとじゃないですか。

奈於:いや、つけてないよ〜持ってきた水着と、ゴーグルと、あとは現地で借りたあの筒状のものつけて海から先っぽ出して呼吸できるやつだけだよ。

〇〇:あ、それ…


話を聞いた瞬間、先ほどのフォローを撤回しないといけないことが判明した。


〇〇:シュノーケリングですね…

奈於:え、まじ?

〇〇:まじです。似てますけど、ダイビングはもっと海の深いところまで潜ったりしますが、シュノーケリングは比較的浅いところでするものですから。

奈於:そっか…なんか、ごめん!

〇〇:いえいえ、けどシュノーケリングで良かったですよ。ダイビングだと奈於さん溺れてたかもしれないし。

奈於:いやいや、そんなこと無いってば!

コツン

〇〇:ぶふ、すいません。冗談です笑

奈於:ふふ、良いけど笑


でも、その話を聞いていたら羨ましく思えてきた。


良いな〜、田村先輩。

奈於さんとお出かけか。

俺もいつか誘おうかな…


?:弓木ー!

と、遠くで女子たちが奈於さんを呼んでいた。

奈於:あ、ごめん。呼ばれちゃった…

〇〇:ああ…

〇〇:お、俺は大丈夫ですよ!

〇〇:また今度、一緒に食堂で食べましょ?

奈於:ありがとね。じゃあ…

と、俺と別れてそのまま女子たちの方へ向かった。


けど、その中に田村先輩とかはいなかった。

それに…向こうに行く時の奈於さんは、表情が曇っていた。


〇〇:今日も、だ…


以前もそんなことがあって、心配で奈於さんに聞いたが、


奈於:え、大丈夫だよ!全然、平気だから!

と満面の笑みで返されて、何も出来なかった。




渡:おーい、〇〇。

奈於さんと別れて一人で食堂でラーメンを啜っていると、親友に呼びかけられた。

〇〇:おぉ、渡。

渡:今からボウリングにみんなで行くけど、来るよな?

〇〇:マジ?行くわ。

渡:よし、じゃあ早くラーメン食い終われ。

〇〇:え〜、やだわ。焦ってラーメン食いたくね〜よ。

渡:んじゃ、俺もも〜らいっと。

〇〇:おい、てめぇ最初から食う気だったらだろ!

渡:良いじゃん、早く食い終われるだろ?笑

〇〇:くっそ、ボウリングは行きてぇけど、ラーメンが…


仕方なく渡と半分こしてラーメンを完食させて、大学で出来た友人たちのところに合流してボウリング場に向かった。


カコーーン!!!


?:ウェーーイ!!ナイス〜

〇〇:っしゃーー!!

一投目で投げたカーブの球がピンを全て倒してストライクになり、みんなとハイタッチした。

渡:〇〇、相変わらず上手いよな〜

?:え、俺ちょっとカーブで投げようかな?〇〇教えてくれない?投げ方。

〇〇:良いぜ〜、まずは…

と、カーブでの投げ方を教えた。


ゴンッ


が、見事に友人はガーターになって得点は0だった。

?:えぇ、嘘だろーーー!!!

?:お前、下手すぎるわ笑笑

?:いやいや、ちゃんと〇〇に言われた通りにしたぜ???

?:おい〇〇、嘘ついてねぇよな?

〇〇:ついてないわ。良いか、よく見てろよ?

と、ガーターを出した友人の目の前で実践した。


カコーーン!!!


またも、俺はストライクを出した。

?:マジか…うーー、悔しい!!!

?:まぁ、頑張れって次。


それから、先ほどの心配事を忘れたかのように俺は渡たちとボウリングを楽しんでいた。


が…


ゴンッ


〇〇:えぇ…嘘だろ…

3ゲーム目あたりから、ガーターが多めになっていた。


?:おや、〇〇パイセンひょっとしてスランプかな?

〇〇:いや、おっかしい〜なぁ〜

?:よし、今なら〇〇に得点追いつけるぞ!!

〇〇:いや、それはさせねーよ??


しかしそれ以降、戦績はあまり芳しくは無かった。


〇〇:悪りぃ、ちょっとトイレ行ってくるわ。

と言って、その場から離れた。




トイレで用を足したあと、自販機に向かい炭酸飲料を飲んでいると、


渡:なんかあっただろ?


と渡が眉をひそめてやってきた。


〇〇:え、何?なんかって?

渡:誤魔化すなって。大丈夫、茶化したりしないから。

そう渡が言ってくれたからか、素直に気持ちを打ち明けた。


渡:なるほど〜。弓木先輩が最近サークルじゃない別の女子たちのところに行ってて、でも全然楽しそうじゃないと?

〇〇:うん。気になって一度聞いたことがあったけど、結局その時ははぐらかされちゃって。

渡:ああ〜、それはガチでヤバいやつだな…

〇〇:やっぱり奈於さん、あの人たちに虐められてるのか…

渡:んまぁ、確証は無いけどそれに近い状態にはありそうだよな…


そう思うと、さっき別れた時に奈於さんを呼び止めなかった自分に罪悪感を覚えた。


渡:っし、こうなったらお前が漢を見せるしかないな。

〇〇:え?

渡:とりあえず、デートな。

〇〇:へ?

渡:だから、弓木先輩をデートに誘えっての。



〇〇:いやいや無理だって!!!

渡:なんだよ、好きじゃ無いのかよ?

〇〇:んなことは無いって…あっ!

渡:ぶふ、やっぱ弓木先輩好きなんじゃん。

〇〇:っるさいな…

渡:同期でお前だけだもんな、弓木先輩のこと奈於さんって呼んでるの。

〇〇:で、でもどうする?もし断られたら…

渡:いや、無理矢理でもデート誘え。

〇〇:ええ…

渡:弓木先輩のことが心配なんだろ?

〇〇:そりゃああ…うん。

渡:なら、尚更だよ。お前から助けてやらないと。

〇〇:わ、分かった。

渡:応援、してっからな?

肩をポンっと叩かれ、渡が先にみんなの元に戻ろうとした。


〇〇:渡!

渡:ん?どした?

〇〇:その…、ありがとな。

渡:おう。


普段ふざけてばかりな奴だけど、こういう時はなんだかんだ頼りになる奴だ。

有難いと思った。

それと同時に、決心がついた。




そして数日が経ったある日のことだった。


今日1日の講義が終わり廊下を歩いていると、少し離れたところに歩いている奈於さんを見つけた。


〇〇:奈〜於さん!

奈於:わ!?びっくりした…

〇〇:お疲れ様です。

奈於:うん、お疲れ様。

〇〇:お昼、一緒に食堂で食べません

奈於:あ、うん!良いよ、もちろん。

〇〇:じゃあ。


奈於さんを誘って一緒に食堂で食べようとしたが、少し歩くと遠くの方にあの女子たちが目に入った。

〇〇:!

チラッと横を見ると、奈於さんが少し怯えたような表情をしていた。

〇〇:(奈於さん…)

奈於:・・・

奈於:え?

俺は奈於さんの手を引いて、女子たちの視界から自分たちを外す為に移動した。


奈於:どうしたの?〇〇くん?

〇〇:やっぱり、大学の外で食べませんか?

そう提案すると、

奈於:あ…うん!

奈於:奈於も、今日は外で食べたいな〜って思ってた!

曇った表情から満面の笑みになっていた。




奈於:ねぇ、ここにしない?

大学を出て少し歩くと、奈於さんが海鮮料理屋さんを見つけて指差した。

〇〇:良いですよ。

奈於:ありがと。


店に入ると、港街にありそうな雰囲気で風情があって良いなぁと思えた。


店員:へい、っらっしゃーい!お好きな席にどうぞー!

〇〇:ここにしますか?

奈於:うん、そうしよっか。

席に着くと、メニューを取り出して2人で何を食べるか決めた。


奈於:うわぁ〜、美味しそう!

奈於:めっちゃ迷うな〜

〇〇:ですね〜

奈於:ん〜、こっちのまぐろたたき丼にするか
しらすとイクラの増し増し丼にするかで迷うな〜

〇〇:あ、じゃあ2人でそれぞれ頼むのどうです?

奈於:それだ!天才〇〇くん!

〇〇:いやいや、大袈裟な笑

奈於:ふふ、じゃ店員さん呼ぶね。

〇〇:はい。


店員さんを呼んで先程の2品を注文して、しばらくすると俺たちのテーブルにまぐろたたき丼としらすとイクラの増し増し丼が運ばれてきた。



奈於:わぁ〜、めっちゃ光ってる!

〇〇:美味しそうですよね!

奈於:うんうん、早く食べよ。

〇〇:じゃ、せーの。


2人で手を合わせて、いただきますを言った。


奈於:んぅ〜〜、イクラめっちゃぷるぷるしてて新鮮♪

奈於:しらすも美味しい!

〇〇:ん、こっちはまぐろがトロトロしていて美味いです!

〇〇:いや〜、ネギとまぐろって最強ですね〜

奈於:んふふ、めっちゃ美味しそうに食べるね〇〇くん。

〇〇:そりゃ、そうですよ!

〇〇:そういう奈於さんも、美味しそうに食べてますね〜

奈於:そりゃ〜ねぇ?

〇〇:ふふ。

奈於:ふふ。

美味しそうに食べている奈於さんを見て、安心していた。


奈於:あ、交換しよ?

〇〇:ああ、そうでしたね。

〇〇:危ない、うっかり全部食べちゃいそうに…笑

奈於:いや分かる!本当そうなるよね、美味し過ぎて笑


丼ぶりを交換して、俺はしらすとイクラの増し増し丼を、奈於さんはまぐろたたき丼を食べた。


奈於:あ、うっま!

奈於:めっちゃとろけるね♪

〇〇:ですよね。

交換して食べたのも美味しくて、このお店で大正解だったなと思った。



奈於:はぁ〜、美味しかった♪

〇〇:いや〜、最高でしたね。

奈於:ね。あ、会計済ませてくるね?

〇〇:あ、今日は俺が奢りますよ。

奈於:いや、良いよそんな。

奈於:ここは先輩に任せなさい。

そう意気込んで、奈於さんは会計の紙を持ってレジに向かった。

〇〇:あぁ…


しかし、


奈於:ヤバい…財布忘れた…

奈於:うわぁ…どうしよう…

と奈於さんが慌てていた。


〇〇:大丈夫ですよ。

財布から千円札を2枚出して2人分の代金を払った。

奈於:え…あ… ありがとう。

〇〇:いえいえ。

店員:ありがとうございましたぁー、またお越しくださいませー!


店を出ると、奈於さんが頭を下げてきた。


奈於:なんかごめんね!結局奢ってもらって…

奈於:次会った時には返すね!

〇〇:いや、全然大丈夫ですよ。

〇〇:それに、お昼一緒に食べようって誘ったの俺ですから。奢って当然ですし。


奈於:く〜、良い子過ぎる〇〇くんはぁーー!

〇〇:わ⁉️

急に抱きつかれて、びっくりした。


でも、それ以上に…


〇〇:(奈於さん、めっちゃ良い香り…)



奈於:はっ!

奈於:ごめん、つい…笑

慌てて俺から離れた奈於さんだった。

〇〇:いえ…


奈於:ふふ、ありがとね。

目の前の、屈指のない笑顔をしている奈於さんを見ていたら、自然と口角が上がっていた。


奈於:はぁ〜、この後どうしようかな〜?

奈於:家帰っても、何もすることないしな〜

散歩しながら、奈於さんがぼやいていた。

〇〇:奈於さん!

奈於:ん?何?

〇〇:良かったら、今から江ノ島辺りでも行きません?


渡からのアドバイスを実行するなら今だと思い、流れで聞いてみた。



奈於:え?本当に行く?

〇〇:はい。

奈於:じゃ、行っちゃおっか!

ちょっとしたデートの誘いが上手くいき、心の中でガッツポーズした。


奈於:よし、江ノ島へレッツゴー!

ぎゅっ


〇〇:⁉️

奈於さんに手を握られ、引っ張られた。

〇〇:あ、ちょ…


奈於:ふふ、善は急げだー!

少し狼狽えたが、でも今こうして奈於さんが楽しそうにしているのを見ると嬉しかった。



奈於:あ、忘れてた…

〇〇:ん?

奈於:財布、家に置いてあるんだった…

〇〇:あ、そうでしたね…


急いで奈於さんの家に向かい、玄関前で待っていた。





それから、無事2人とも財布を持って駅の改札口を通り、駅のホームで電車に乗って江の島まで向かった。


江ノ島近辺に近づくと、車窓から海岸が見えた。


奈於:海綺麗だね。

〇〇:綺麗ですね。

奈於:ふふ、楽しみになってきたな〜

〇〇:俺もですよ。


そして駅に着き、電車から降りた。


奈於:着いたー!

〇〇:着きましたね。

奈於:ねぇ、あっちからなんか焼いている匂いがしない?

〇〇:あ、しますね。


奈於:よし、匂いのもとへレッツゴー!

そう言ってはしゃいでいる奈於さんにまた手を握られて引っ張られた。

〇〇:あ、ちょっ…

〇〇:ふふ。

さっきと同じように少し狼狽えて、でもなんだかこっちまで楽しさが伝わってはしゃぎたくなった。




早歩きで歩いていくと、屋台が並んでいるところに着いた。


奈於:うわ〜、宝の山じゃん!

謎の喩えをしてきたが、確かにどれも美味しそうな食べ歩きに良さそうなシーフードが売られていた。

〇〇:どれも美味しそうですね。


色々店を回って、奈於さんはイカ焼きを俺はホタテ焼きを買って、食べ歩きを始めた。


奈於:うわ、イカめっちゃ美味しい!

〇〇:ふふ、良かったです。

奈於:ほい、〇〇くんにも分けてあげる。

イカの足を千切ったのを分けてもらった。

〇〇:ん、うまっ。

奈於:でしょ?

〇〇:じゃあ、ホタテどうぞ。

奈於:お、やっさしい〜


それから、江ノ島の街を散策していった。


江ノ島の路面電車を見つけては二人で叫んだり、海岸線沿いを歩いて潮風に当たったりしていた。

途中で、江ノ島スイーツなるアイス最中を売っているお店を見つけて、二人でそれぞれアイス最中を買って食べた。


〇〇:ん〜、あっま。

パクっ

〇〇:え?

見ると、横から奈於さんが口を開けて俺の買った抹茶アイス最中を頬張っていた。

奈於:んふふ。

〇〇:もう、欲しいなら言ってくれれば良いのに笑

奈於:ごめんごめん笑

奈於:じゃあ、お礼に。

〇〇:え?

奈於:あげる。

バニラアイスの最中を、俺の口元まで運んできた。


奈於:あ〜んして。

〇〇:え、あ、あ〜ん…

パクッ

奈於:可愛いね、〇〇くん。

そう言われて、顔が赤くなった。

〇〇:もう、奈於さんのいじわる…

奈於:ごめんってば〜

〇〇:ま、良いですけど。笑


悪い気なんてするわけが無かった。

まるで、恋人同士みたいなことを初めてした。

もしかして…

と、少しだけ淡い期待を抱いてしまった。




しばらくすると、辺りが夕焼けに照らされ始めていた。


俺と奈於さんは、二人で海岸近くの灯台付近に設置されていたベンチに座っていた。


〇〇:海、綺麗ですね。

奈於:そうだね。

紅に染まっていた海に二人して見惚れていた。


奈於:もうこのままここにずっと居たいな〜

〇〇:ふふ、そうしたいですね。

奈於:このまま時間なんて止まっちゃえば良いのに…

奈於:そうしたら、もう大学なんか…

そう呟く奈於さんの目から、涙が溢れていた。


〇〇:(奈於さん!?)


すっかり江ノ島観光を二人で楽しんでいて忘れていたことが、その涙で思い出した。


奈於:え?

そっと、奈於さんにハンカチを手渡した。

〇〇:使ってください。

ハンカチを受け取ると、ハンカチの中で思いっきり泣いていた。


奈於:うぅ…ありがと…

〇〇:俺で良かったら、話聞かせてくれませんか?

〇〇:その、奈於さんが嫌じゃなければ…

奈於:〇〇くん…

鼻を啜って深呼吸してから、奈於さんは話し始めた。


それはやはり、ここ最近奈於さんが一緒にいる女子グループのことだった。

最初は向こうから奈於さんに声をかけてきて、奈於さんの方もその女子たちとは初めのうちは楽しくて一緒にはしゃいでいた時期もあった。

けど、ある時そのグループが一人の女子を虐めたり恐喝したりしていることを知り、奈於さんは距離を置こうとした。

すると、女子たちの虐めの標的が奈於さんに移った。

昼休みに無理矢理呼び出しては金を強引にせしめたり、気に入らないと髪を引っ張られたり背中を蹴られたりと暴力をされていたらしい。


〇〇:(アイツら…よくも奈於さんを。)

話を聞き終えた俺は、怒りを覚えた。


奈於:怖かったけど、まゆたんとかに心配かけたく無かったし…それに〇〇くんにも。

〇〇:奈於さん…

その気持ちは俺にだって分かる。

友だちとか後輩を、危険な目に遭わせたくないっていうのは。

でもだからといって、これ以上奈於さんに苦しみを背負わせる訳にはいかなかった。


〇〇:俺に任せてもらえませんか?

奈於:え?

〇〇:奈於さんを脅してきたそいつらを、コテンパンにしてやるので。

奈於:そんなこと、出来るわけ…

〇〇:大丈夫です、ちゃんと法的に則ったやり方でするので。

〇〇:もう、奈於さんが悲しむ顔を見たくないんです!!

〇〇:俺と別れてあっちに行った時のような、あんな悲しそうな顔を…

奈於:!?


気持ちが入りすぎて大声になってしまった。


ぎゅっ


〇〇:!

奈於:本当、ごめんね!!

抱きつかれ、肩に奈於さんの涙が垂れてきた。

奈於:でも…ありがとう…


当たり前じゃないですか…

と心の中で呟いた。

だって俺は、あなたのことが好きだから…




そして後日、俺は奈於さんに協力してもらってあの女子たちに報いを受けさせるために計画を実行した。


女子A:よお〜、弓木。

奈於:!

女子B:この前はどこほっつき歩いてたんだ〜?

女子C:アタシたちから逃げようとしても無駄だからな。

女子D:今日も金渡してもらうから。

奈於:もう渡すお金なんて、ないわ…

女子A:はぁ??

女子B:何、分かりやすい嘘言ってんだ?

奈於:大体、いくらあなたたちに渡してきたと思ってるのよ…

女子C:は、知るかよそんなもん。

女子D:いや覚えてるよ〜、確かざっと50万とか??

女子B:へ〜、やっば笑

女子A:なんでも良いけど、さっさと金寄越しな弓木。

奈於:無理よ…これ以上渡したら、もう貯金0なの…

女子C:じゃ、またバイトして稼いでもらうしかないな…

奈於:それも無理なの、今月はもうシフト他の人で埋まっちゃって入れないの…

女子A:あっそ、なら…

ガシッ

奈於:キャッ!?

女子A:アタシたちのサンドバックになってもらおうか…

〇〇:おい、お前らぁあああ!!!

女子たち:!?

奈於:!


物陰に隠れて見守っていた俺は、急いで奈於さんを助けに向かい叫んだ。


女子A:んだ、お前??

その瞬間女子Aが掴んでいた奈於さんの髪から手を離し、その隙に奈於さんはこっちに逃げてきた。

奈於:うぅ…グスンっ…

〇〇:すいません、無理させちゃって。

奈於:ううん…

奈於さんをそっと片腕で抱き抱えて、俺は女子たちを睨みつけた。



女子A:は、急に現れてヒーロー気取り?ダッさ…

〇〇:なんとでも言え。けど、お前ら奈於さんを脅してタダで済むと思うなよ?

女子B:ああ??どういう意味だよおら?

〇〇:お前らが奈於さんから恐喝していたこと、警察に言うからな。

女子C:は、何を根拠に言ってんのかな〜?第一、証拠が無…

〇〇:おいおい、証拠ならお前らが勝手に出してくれたじゃないか〜

女子A:は?どういうことだよ!?

〇〇:まだ気づかないの〜??さっき、ちゃんとあんたたちが言ってくれたじゃ〜ん。

爽やかな笑みのまま、俺は奈於さんの鞄から録音機を取り出した。



女子たち:!?

それを見た女子たちは、表情が固まった。

女子D:やば…アタイ、言っちまった…今まで弓木から奪った金の額…

女子C:なっ…くっそぉおお!!

女子B:寄越せ!!それを!!

目をギラギラさせて女子たちがこっちに向かって走るのと同時に、奈於さんを連れて俺は走り出した。

女子A:逃すなぁあああ!!!!



奈於:はぁ…はぁ…

奈於:ねぇ、これからどうするの!?

〇〇:大丈夫ですから。

奈於:この状況のどこが大丈夫なの!?

〇〇:あと少しで、来るはずです。

奈於:え?

〇〇:だから、それまで逃げ続けて時間稼いで、それから合流するんですよ。



そして、その時が来た…



女子C:くそ…どこ逃げたんだよ…

女子B:ん?居たぞ!!あそこだ!!

女子A:急げ、とっ捕まえろ!!!

ダッ ダッ ダッ

女子D:え!?


女子たちが俺と奈於さんを追いかけた先には…



遥香:コラァあああ!!そこ止まりなさあああい!!!

さくら:観念して、そこで両腕上げなさあああい!!!

複数のパトカーと警官が待機していた。

女子たち:!?

驚きのあまりか、それとも諦めからか、奈於さんを恐喝した女子たちは立ち止まって両腕を上げて膝をついた。

そして、彼女たちは逮捕され警察署に連行された。

証拠品を持っていた俺と被害者の奈於さんも、事情聴取のためにパトカーに乗って警察署に連れて行かれた。




事情聴取を終えた俺と奈於さんの元に、田村先輩が来た。


真佑:奈於!!

奈於さんを見つけるや、田村先輩は奈於さんに抱きついた。

真佑:ごめんね奈於!本当ごめん!!

奈於:うぅ…真佑…

真佑:こんなに一人で苦しい思いさせて…

奈於:ううん、〇〇君が助けてくれたから…

真佑:〇〇くん、本当ありがとう!!

田村先輩に泣きながら感謝された。

〇〇:いえ、田村先輩のおかげでここまでできたんですから。



あの江ノ島で奈於さんに助けると約束した後に俺は田村先輩に連絡を取り、田村先輩が高校時代の友人で今は警察官の賀喜遥香さんと遠藤さくらさんに頼み込んでもらい、あの恐喝グループを逮捕することに成功した。



遥香:まゆたーん、終わったよ〜

さくら:皆んなお疲れ様。

真佑:かっきー、さくありがとね。

〇〇:あ、賀喜さん遠藤さん、色々ありがとうございました。

二人に向かって俺は深く頭を下げた。

奈於:あ、ありがとうございました!

奈於:こんな私なんかのために…

奈於さんも俺同様に深く頭を下げた。


遥香:ふふ、大丈夫ですよ。二人とも顔を上げてくださいな。

さくら:困っている人を助けるのが、警察官の仕事なので。

遥香:って…もうこんな時間!?

さくら:早く帰らないと!!

遥香・さくら:じゃ、お疲れ様で〜す!!!

そう言って、二人は警察署から家に帰っていった。


〇〇:なんか慌ただしいな…あの人たち…

真佑:ああ、あの二人ね弟くんがいるの。確か高校生くらいだったかな?

〇〇:へぇ〜、そうだったんですね。

真佑:その弟くん、毎日お姉さんたちが帰ってくる前にご飯作って待っててくれてるらしいの。

〇〇:え、めっちゃ良い子じゃないですか!

真佑:ね〜

奈於:真佑、今日は本当ありがとう。

真佑:うん、でも次からは一人で抱え込まないで良いんだからね?

奈於:分かった。

真佑:じゃ、私は先帰るね。

〇〇:あ、田村先輩ありがとうございました!

真佑:うん。じゃ、奈於よろしくね。

〇〇:え?

そう言って、田村先輩も先に帰っていった。




それから、俺たちは夜道を二人で歩いていた。

奈於:〇〇くん、本当色々迷惑かけてごめんね…

〇〇:ふふ、大丈夫ですよ。それに、困っている先輩を放っておけるわけないじゃ無いですか。

奈於:そっか、ふふ。

〇〇:?

奈於:私なんかより、ずっと頼もしいな…

〇〇:そんな無いですよ…

少しだけ話して、俺たちは黙っていた。


奈於:ねぇ、〇〇くん?

その沈黙を破ったのは、奈於さんだった。

〇〇:ん?なんですか?

奈於:あのね、聞いてほしいことがあるの…

奈於:ずっと、ずっと、言いたかったんだけどね…その、



〇〇くんが大好きなの。


〇〇:!?

時が一瞬止まった。

でも目の前で微笑むその顔を見て、また時が動き出した。


そしたら、頬が濡れていることに気がついた。


〇〇:え…?

頬に触れると、湿った感触があった。

泣いてたんだ、俺…


奈於:はい。

〇〇:!

見ると、この前俺が奈於さんに渡したハンカチだった。

奈於:この前のお返しだよ。

〇〇:す、すいません…

奈於:ふふ、謝らないでよ。〇〇くんのなんだし笑

ハンカチを受け取って、その中で涙が止まらなくなった。


今起きたことが信じられなくて…

でも、すごく嬉しくて…

それで…


〇〇:うぅ…

〇〇:すいません…

なんとか泣き止もうとした。



奈於:なんかこの前と逆だね?

〇〇:本当ですね…笑

奈於:じゃあ、今度は奈於がたくさん〇〇くんを慰めないとだね。

〇〇:そんなこと、しなくて良いっすよ…

奈於:え?

〇〇:だって、俺…今凄く嬉しいです!

〇〇:大好きな奈於さんに、好きって言ってもらえて…

奈於:〇〇くん…

〇〇:俺も、奈於さんが大好きです。

奈於:ふふ、両思いだったんだね。

〇〇:そうです……!?



その瞬間、奈於さんと唇を重ねた。



奈於:ふふ。

奈於:よろしくね、〇〇くん。

その微笑みに自然とこちらも微笑み返した。

〇〇:よろしくです、奈於さん。


fin.

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