見出し画像

大好きな君と共に過ごした時間(フライト)の続きを…


〇〇:はぁ…はぁ…

絢音:ほら、早くしないと見れないよ!

先を走る絢音が振り返り、手を伸ばす。

〇〇:キツいって、この坂道…

息切れをしながら、俺は絢音の手を握った。

〇〇:はぁ…本当に上まで登んなきゃダメ?

絢音:うん。だって、ここの頂上からが一番綺麗に見えるから。

〇〇:そっか、分かった。

絢音:よし、急ごう!

そして、また絢音が走り出した。

〇〇:あ、ちょっと待ってって!

絢音:ほら、早く早く!!笑

絢音について行くのに苦労を感じながらも、どこか愛おしさを感じた。





絢音と初めて出会ったのは、今年の春だった。

新学期が始まったばかりの大学の図書室で棚の高い位置にある本に背伸びをして取ろうとするも、手が届かなくて困っていた女の子がいた。

?:…あっ!

その子は身体のバランスが崩れて転びそうになった。

〇〇:おっと。

転びそうになったその子の身体を、俺が受け止めて転ぶのを防いだ。

?:す、すいません…

〇〇:良いよ、全然。あ、あの本取れば良い?

?:あ、お願いします…

背が高い俺がその子が取りたかった本を代わりに取ってあげた。


〇〇:へ〜、飛行機の図鑑か。

?:はい…

〇〇:君、飛行機好きなんだね。

?:はい、小さい頃からよく飛行場近くまで両親に連れてってもらったりしてて…

〇〇:ふ〜ん。あ、俺の名前は大空〇〇。

?:鈴木、絢音です…

〇〇:ねぇ、よかったらさ聞かせてよ。

絢音:え?

〇〇:その、飛行機のこととかさ。

絢音:あ、ええ…


自分でも、なんでこんなこと言ったのか分からなかったけど、このまま絢音とお別れするのはなんか違う気がした。


絢音:この機体の羽のエッジがもう堪らなくて好きなんです!

物静かなイメージが最初はあった絢音だが、飛行機のことを話し出した瞬間、トークの勢いが止まらなかった。

絢音:で、ボーイングくんはもう最高のボディーの持ち主で…

でも、聞いてて楽しかった。


〇〇:絢音ちゃん、凄いね。そんなに詳しいんだ、飛行機のこと。

絢音:え、そ、そうですか??

褒められて絢音が目を逸らして照れていた。

〇〇:うん。俺さ、小さい時飛行機のプラモデル作ってたんだ。でもね、ある日友だちにダサいって言われたんだ…

絢音:そんな、酷いですよ!その友だち。

〇〇:それが凄いショックでさ、それ以来飛行機のプラモデルは作らなくなったんだ…

〇〇:でも、こうして今絢音ちゃんが熱心に飛行機のこと話してくれたからさ、なんか嬉しくなっちゃった。飛行機のこと好きな人がいるって思ったらさ。

絢音:〇〇くん…

〇〇:絢音ちゃんの話聞いていたら、またプラモデル作りたくなったよ。

絢音:それなら…良かったです!私、〇〇くんの作った飛行機のプラモデル、見てみたいです。

〇〇:え、ほ、本当に?

絢音:はい。




私はよく、変わっている人って言われてきた。

別にそこまで気にすることもなかったけど、そのせいか友だちは少なかった。


けど、去年の春に図書室でつい最近入ったばかりで読んでいた図鑑を読もうとその図鑑が置いてある棚まで行くと、前より高い位置に置いてあって取れなかった。


無理して取ろうと爪先立ちして腕を上に伸ばしたら、バランスを崩して図書室の床に転びそうになった。

その時、たまたま近くにいた〇〇が助けてくれた。

〇〇に助けてもらった時、胸がドキっとしたのは今でも覚えている。


お礼をして名前を教え合うと、〇〇が私に飛行機のことを聞きたいと言ってくれた。

話している時は全然意識していなかったけど、録音してあとで誰かに聞かれたら引かれるくらい私はずっと飛行機のことを夢中で語っていた。

でも、〇〇は真剣に話を聞いてくれて面白いって言ってくれた。

それが凄く嬉しかった。

〇〇が飛行機のプラモデルを作れると聞いて、私はすぐ彼の作った飛行機を見たいと思った。


後日、〇〇の家に招待された。

〇〇の部屋に案内され、〇〇が作った飛行機のプラモデルを見せてもらった。

絢音:え?これ…

〇〇:そう、絢音ちゃんが好きって言ってたボーイング787だよ。

絢音:凄いです!!こんなに再現度が高いなんて…

〇〇:良かったら、そのボーイング絢音ちゃんにあげるよ。

絢音:え、い、良いんですか!?

〇〇:勿論。絢音ちゃんなら大切にしてくれると思うから。

絢音:え…あ、ありがとうございます!!


嬉しかった。

〇〇がちゃんと私が一番好きな飛行機のことを覚えててくれて。

しかも、私のために作ってくれた。


それから、〇〇と段々親しくなっていった。


〇〇:あ、おはよう絢音ちゃん。

絢音:おはよう、〇〇くん。

いつの間にかタメ口になっていた〇〇と私だった。私は〇〇の元に寄って、一枚のチケットを見せた。

〇〇:ん?飛行機の展覧会?

絢音:あ、あの…良かったら今度一緒に行かない?

急すぎたかな…っとその時は思った。



〇〇:もちろんだよ、絢音ちゃん!一緒に行こう。

絢音:じゃあ、これを。

〇〇:うん。

〇〇に博覧会のチケットを渡して、それから展覧会に行く日の待ち合わせ場所なんかを話し合って決めた。

絢音:(やったー、ついに〇〇くんと。)

気分が舞い上がっていた。




絢音が俺に展覧会のチケットを渡してくれた。

その日から、毎日大学で絢音と会う度にずっと夢中で飛行機のことを話した。


そしてその週の土曜日、待ち合わせにした駅に約束した時間の5分前に到着した。

駅の周辺を見渡すと、絢音が手を振って近づいてきた。

絢音:〇〇くん!

〇〇:絢音ちゃん!


絢音:今日が楽しみ過ぎて、早く来ちゃった!

〇〇:そっか。俺も楽しみだよ!

絢音:あ、あっちが会場みたいだよ。

〇〇:オッケー、じゃ行こうか。

絢音:うん。

その時、

〇〇:え?

絢音:はぐれないように、手繋がない?

〇〇:あ、ああ…そうだね。


絢音に言われ、俺は彼女と手を繋いだ。


〇〇:(うわ、なんかこれ…)

恋人同士みたい…

〇〇:(って、何考えてるんだ俺。まだ友だちなだけだろうが…)

絢音:なんか恋人みたいだね、私たち。

〇〇:うぐっ⁉️

絢音:だ、大丈夫⁉️

〇〇:あ、う、うん!平気平気。


一瞬心を読まれたかと、その時思った。


まさか、絢音の方からそんな言葉が出るとは…


顔が熱いまま、俺は絢音と一緒に飛行機の展覧会の会場に着いた。


絢音:はぁ〜、会いたかったよー!ボーイングくん!

実際には、本物より小さいサイズだが見た目は本物そっくりのボーイング787が目の前に展示されていた。

絢音がボーイング787に触れるのを見て、思わず声を上げた。

〇〇:ああ、絢音ちゃん!それ触っちゃダメじゃ…

絢音:あ、これ特別に触って大丈夫な展示物なんだよ?

〇〇:あ、そうなの??

よく見ると、看板に「この展示物は触れます」と書かれていた。


会場にいる間、絢音は終始興奮していた。

大好きな飛行機たちに囲まれて。

でも、それは俺も同じだった。


見渡すと、展示物の中にはプラモデルで昔作った飛行機とかがあり、懐かしさとその迫力に見入ってしまった。


〇〇:く〜、飛行機って良いねー!

絢音:本当だね、ここにずっと居られるよ笑

〇〇:そうだね。

会場から出た同じ飛行機好き同士、気が合った。


駅に着いた俺は、絢音と別れの挨拶を交わそうとした。


〇〇:ありがとう、絢音ちゃん。凄く楽しかったよ。

絢音:良かった。

〇〇:また今度、こんな感じの展覧会行きたいね。

絢音:あ、そのことなんだけど…

〇〇:おっ、もう次の展覧会行くところ決まっているの?

絢音:あ、ううん…そうじゃなくて。今度また、一緒に出かけたいなって。次は展覧会じゃなくて…

〇〇:え?

絢音:なんて言うか、その…

〇〇:あ、じゃあ今度映画とか。


絢音:そ、そう!そうしよう。

〇〇:オッケー、じゃあいつかはまた今度決めよう。

絢音:うん。

〇〇:じゃ、またね。

絢音:またね。


そして、絢音と別れて家に帰った。



〇〇と初めて展覧会に行った日、凄く楽しかった。

そして、その時私は〇〇と今度はどこか別の場所に行きたいと思った。展覧会じゃなくて、なんかこう普通に出かけたいなって…

まるでデートみたいに。


〇〇から映画を観に行くことを誘ってくれて、後日2人で観に行った。


2人とも上演中に号泣して、終わってからお互いの顔が涙まみれになっていた。

絢音:ねぇ、私たち泣き過ぎよね?笑

〇〇:やばいね、側から見られたら心配されそうだよ笑

絢音:だよね笑


その後、ちょっとお洒落な雰囲気のお店に入って〇〇とお茶をした。


絢音:ね〜、何読んでるの?それ。

〇〇:え、ああ…ジュール・ヴェルヌの海底二万マイル。

絢音:へ〜、〇〇くんってSF好きなんだ。

〇〇:うん、なんか面白いじゃん。絢音ちゃんこそ、何読んでいるの?

絢音:え、源氏物語だよ。

〇〇:なるほど〜、恋愛系か。

絢音:もう、今読み終わった部分の登場人物皆んな好きになっちゃいそう。

〇〇:今度読んでみようかな、源氏物語。

絢音:うんうん、〇〇くんなら絶対ハマると思うよ。


私たちがお茶している店は本が置いてあるカフェで、この落ち着いた雰囲気でお茶をしながら読書が楽しめるという優雅な空間だった。

二人とも読んでいるものは、普段好きな飛行機関連のものとは全く別の本だったが夢中になって読んでいて、時々どこまで読んだか教え合ってそれでお互いの感情を共有していた。


店を出ると、辺りは暗くなっていた。


絢音:もうこんな時間になってたんだ。

〇〇:早いよね、なんか思ったより。

絢音:そうだね。


折角だから、2人でイタリアンのお店に入ってディナーをした。

窓から見える外の風景が綺麗で、美味しいご馳走が私と〇〇との会話を弾ませてくれた。


〇〇:またね、絢音ちゃん。

絢音:うん、またね〇〇くん。

別れを惜しみながら、私は〇〇に手を振って家に帰った。


家に帰ったあとも、〇〇のことが頭から離れなかった。


絢音:やっぱり私、〇〇くんのことが…



カフェを出て絢音と別れた俺は、家に帰った。


〇〇:楽しかったな…

また絢音とどこか出かけたい。

そんなことを思った梅雨の時期だった。


ある日、講義が終わって大学を出ようとしたら、雨が降ってきた。

予報と違って急な雨だったが、折りたたみ傘を持っていたので傘をさした。

〇〇:ふ〜、持ってきて良かった。

ふと横を見ると、絢音が屋根の下で立っていた。

〇〇:絢音〜!


絢音:あ、〇〇。

〇〇:傘、無いんだろ?

そう言って、さした傘の中に絢音を入れてあげた。

絢音:ありがとう。


相合傘をして大学の門をくぐりぬけた。


隣の絢音が俺の腕に掴まっていると、鼓動の勢いが強くなっていた。

〇〇:(近い、絢音と…)

絢音:ごめんね、狭くなっちゃって。

〇〇:ううん、全然。早く梅雨終わって欲しいよね。

絢音:そうだね。


梅雨が終われば、晴れ晴れとした夏がやってくる。

そんなことを思っていると、絢音から話掛けてきた。

絢音:ねぇ〇〇?

〇〇:ん?

絢音:今度の夏休み、海に行かない?

〇〇:海か、いいね。

絢音:じゃあ、決まりだね。

〇〇:うん。


実は、夏休みに絢音を誘ってどこか行こうと思っていた。

ちょうど海もその候補に入っていた。

あとは、花火大会だったり、お祭りだったり。


そしたら絢音から海に行こうと誘われて、胸が高鳴った。



夏休みに入って、〇〇と近くの海に出かけた。


空も海も青くて、着いた瞬間声があがった。

絢音:うわ〜、凄い綺麗…

〇〇:凄いよな、ここ。

絢音:うん、早く海に入りたい。

〇〇:だな。


浜辺に着いた私たちは、水着に着替えてきて海に入った。

バシャーン!

波が浜辺を打つ音が響いた。


絢音:えい。

パシャ

〇〇:うわ!?

不意打ちで〇〇に水をかけた。

〇〇:やったな、絢音!


絢音:いえ〜い笑

〇〇が仕返しに水をかけてきた。

パシャ

絢音:キャ、冷たっ!

〇〇:うえ〜い!!

絢音:こら、倍返しだ!!

パシャ パシャ


海に入った私たちはずっとはしゃいでいた。


絢音:はぁ〜、疲れた。

浜辺に設置した私たちのビーチシートに座って腰を休めていた。

〇〇:久々にこんな動いたわ笑

絢音:あ!

空に、大好きなボーイングが飛んでいるのが見えて私は立ち上がった。

〇〇:ここ通るんだね。

絢音:ね。

〇〇も立ち上がって、一緒にボーイングを見守っていた。


〇〇:あのボーイングに乗っている人たち、どこ行くんだろうな。


絢音:どこだろうね。飛んでいる方向的には、九州とか?

〇〇:ああ、そっか。じゃあ、九州の海とかに行くのかな。

絢音:そうかもね。


そして夕方になり荷物を片付けて帰ろうとすると、夕陽によって海に赤い光が差し込んでいた。


絢音:みて、〇〇。

〇〇:ん?おお、すげ〜綺麗じゃん!海が。

絢音:うん。なんか吸い込まれちゃいそう。

〇〇:分かる、見てるとそう思っちゃうよ。


美しさに感動しているのと同時に、今日という楽しかった時間が終わっちゃうのが寂しい気がした。


そんなことを思っていたら、いつの間にか〇〇の手を握っていた。

〇〇:ん?絢音?

絢音:あ、ご、ごめん。つい…

悪いことしたなって思って、手を離そうとしたら〇〇がそれを止めた。

〇〇:あ…

絢音:あ…

〇〇:ごめん、でも…

絢音:ううん。



嬉しかった。

だから、そのまま手を繋いで歩き出した。

私の鼓動は激しくなっていた。




そして、現在。


大好きな飛行機を俺と一緒に見に行く時、絢音はまるで子どもみたいにはしゃいでいた。


丘の頂上に辿り着くと、夕陽で赤く染められた空が出迎えた。

〇〇:ふ〜、良い眺めだな。

絢音:綺麗でしょ?

〇〇:うん。


絢音:あ、あと少しでくるよ。

少しして、絢音の大好きなボーイング787が遠くの空から飛んできた。

その機体が夕陽に照らされるのが見えると、絢音だけじゃなく俺も思わず見惚れてしまった。


絢音:うわぁ〜、ボーイングくん綺麗。

〇〇:ああ…すっげぇ綺麗だな。

二人で空を飛ぶボーイングを眺めていたら、いつの間にか絢音が俺の腕に抱きついていた。

その時の絢音の顔を見たら、この前の海から帰る時のことを思い出して鼓動が激しくなっていた。


〇〇:(俺、やっぱり絢音のことが…)


そう思った瞬間、勝手に俺の口が動いていた。

〇〇:絢音、伝えたいことがあるんだ。

絢音:うん。

〇〇:ちょっと良い?

一旦絢音から離れて、絢音と正面で向き合った。


〇〇:ちゃんと、顔見て言いたいからさ…

絢音:う、うん。

〇〇:俺さ、絢音と出会えて良かった。絢音のおかげで大好きだった飛行機のことにまたハマれたし、それから毎日学校で絢音と話すのが楽しくて仕方なかった。

絢音:私もだよ、〇〇。

〇〇:それからさ、二人で色んなところ行ったじゃん。展覧会だったり、映画館だったり、海だったり。絢音と過ごすと、あっという間でさ。もっと絢音と一緒に居たいって毎回思っちゃうんだ。

絢音:〇〇…

〇〇:そ、その、俺…

絢音:うん。


言い出すのをためらっている俺を、絢音は優しい顔で待っててくれた。


〇〇:俺、絢音のことが…



好きなんだ。



想いを伝えて、一瞬静寂が訪れた。

怖くなって、俺は目を閉じた。


目を閉じていると、絢音がゆっくりこっちに近づくのが聞こえた。

そして…



ギュッ



〇〇:あ…

絢音:私もだよ、〇〇。

抱きしめながら、絢音が言った。

絢音:〇〇のことが、大好きだよ。

〇〇:絢音…!

間もなく、絢音と俺の唇が重なった。

それから、額同士をくっつけて二人で笑い合った。


俺と絢音、二人の幸せな時間の始まりだと思った。




バタンッ

〇〇:絢音⁉️

絢音:…

告白してから1週間後、

一緒に下校していると、突然絢音が倒れた。



救急搬送された病院先で、絢音は医師から心臓癌の宣告をされた。


絢音:…

病室のベッドの上で目を覚ました絢音に声をかけた。

〇〇:絢音!

絢音:〇〇…

〇〇:大丈夫か?

絢音:うん、大丈夫だよ。

〇〇:よ、良かった…

絢音:ごめんね〇〇、私がこんな病気なんか持ってて…

〇〇:気にするなって。

絢音:私、小さい時から身体弱くて…本当は10歳になる前に死んじゃうかもって言われたんだ…

〇〇:(知らなかった…そんなに大変だったなんて…)

絢音:でも段々体調が良くなってきて、お医者さんもびっくりしてた。私も皆んなも、もう大丈夫だって思ってた。

絢音:でも、そんなこと無かったみたい…今度はダメかもしれない…

〇〇:(絢音…)

不安そうな絢音を少しでも元気付けたくて、俺は言った。

〇〇:絢音なら大丈夫だよ !

絢音:え…

〇〇:まだ分かんないだろ?先生も、今はまだ癌の進行が遅いって言ってたし。

絢音:でも、早くなるかもっても…

〇〇:でも本当だったら10歳まで生きられなかったって言われたんだろ?

〇〇:でも、こうして絢音は生きてるじゃん!絢音なら、また乗り越えられるよ!

絢音:〇〇…

〇〇:今度は、俺も一緒にいるから。

そう言って、俺は絢音の手を握った。


〇〇:今は、ゆっくり休みな。

絢音:う、うん。

絢音がゆっくり近寄って抱きつき、俺の肩に顔を乗せてきた。


絢音:ありがとう…


その次の日から俺は学校帰りに絢音の入院している病院に通って、絢音に会い続けた。




私の癌が再発して、〇〇が離れちゃう気がした。


でもそんなことはなかった。


〇〇は毎日私に会いに来てくれた。

会って、今日学校でこんなことがあったとか、あんなことがあったって教えてくれた。

晴れの日には、私の為に飛行機の写真、特にボーイングのを撮ってきて見せてくれた。

絢音:ありがとう、〇〇。

〇〇:ううん、どう?上手く撮れてるかな?

絢音:うん、すっごく綺麗に撮れてるよ。

〇〇:良かった。

絢音:うん。

〇〇:俺さ、将来の夢決めたんだ。

絢音:将来の夢?

〇〇:俺、パイロットになって絢音を飛行機に乗せてあげるんだ。

そう〇〇から伝えられた瞬間、涙が出てきた。

〇〇:絢音、大丈夫か!?

絢音:う、うん。その、嬉しくて…


絢音:私も、頑張って退院するよ。

〇〇:うん。


〇〇と抱き合って約束した。




授業が終わると雨の日はすぐに、晴れの日には飛行機の、特にボーイング787が空を飛んでいるのを一眼レフで撮ってから、病院に向かった。


絢音の部屋に着いて、絢音に学校でのことを話したり、撮った写真を見せてきた。

高校卒業したら、いつかパイロットになって絢音を飛行機に乗せてあげると
約束した。


いつか絢音が元気になって、退院できるように…

そんなことを願って…

奇跡を信じて…

俺は毎日、絢音の入院してる病院に通った。





でも、現実は夢とは違った。



1週間後、


絢音は帰らぬ人となってしまった。



白い布に覆われた絢音の前で膝が崩れ、号泣した。




それから程なくして、絢音の葬儀が行われた。

ずっと絢音のご両親は泣いていた。

そして俺のスピーチの番が来て、喋った。


喋り終わって、目がうるうるし出した。

その時、無言で絢音の両親が立ち上がって俺の元に来て握手をしてくださった。

我慢して止めていたのが、溢れ出した。


絢音の母:あの、〇〇くん…

葬儀が終わって、俺の元にお二人が手紙を持って現れた。

〇〇:これは…

絢音の父:君にと、絢音が書いたものなんだ…

絢音の母:読んで…もらえるかしら?

〇〇:勿論です。

手紙を受け取り、開くと絢音の綺麗な字が沢山の書かれていた。




〇〇へ

 もしこの手紙を貴方が読む時には、私はいないでしょう。本当はそうはならないで欲しいと私も思います。もっと、〇〇と沢山居たかったです。飛行機の展覧会や博物館に一緒に行ったり、私がもっと身体が丈夫になれたら、大好きな飛行機で海外になんか行ったりもしたかったです、〇〇と。

 でも、それ以上に私は〇〇に出会えたことが、生きていて一番の奇跡だと思っています。〇〇が私の好きな飛行機のことに興味を持ってくれて、真剣に私の話を聞いてくれて、楽しいって言ってくれたり、絢音ってすごいよねって言ってくれたり、〇〇が私にかけてくれる言葉全てが私の生きる燃料になってくれて、私が飛ぶのを助けてくれたんだと思います。

 〇〇と親しくなってから、〇〇と一緒に色んなことが出来て本当に楽しかったです。飛行機の展覧会に一緒に見に行ったり、映画館に行って映画観たり、真夏の海に二人で行って脚を一緒に海に浸からせたり水掛け合ったり。

 そしてあの丘の上で私に告白してくれた時、私は世界で一番幸せな女でした。大好きな〇〇に好きって言ってもらえたことが何より嬉しくて、これからの人生を〇〇と共に過ごすと思ったら、ずっと胸が高鳴っていました。

 私が病気を持っていると知ってからも〇〇は変わらず優しくて、それどころか毎日会いに来てくれてボーイングの写真を見せてくれて、〇〇がいつかパイロットになって私を飛行機に乗せてくれるって言ってくれたのが凄く嬉しかったです。〇〇との約束を果たす為に、私は毎日体調が良くなるように祈っていました。

 けどそんな思いとは裏腹に症状は悪くなってました。

 〇〇、あなたにとても申し訳ない気持ちで今は一杯です。

 でもこのまま、何も出来ずに終わりたくなくて…考えに考えた結果、こうして手紙に私の〇〇への気持ちを全部書こうと思いました。〇〇と過ごせた時間は短過ぎたけど、私にとっては掛け替えのないものでした。もし私がこの世からいなくなったとしても、私は空の上から〇〇が夢を叶えられるようにパワーを送ろうと思います。

 大好きな〇〇が空へ羽ばたけるように、願いを込めて。

〇〇の願いが叶ったら、その時は空から降りて一緒に隣にいようと思います。きっと、いや絶対その日は来ると私は信じています。

                               絢音



手紙を読み終わる頃には、紙と両手に涙がボロボロ落ちていた。

それは、絢音のご両親も同じだった。


絢音がこの手紙に精一杯気持ちを込めてくれたのを思うと、胸が張り裂けそうになった。

でも、それと同時に俺の中で決心が強くなった。

〇〇:(ありがとう、絢音!!!)

〇〇:(俺頑張るから!!!頑張って、夢叶えるから!!!)






あれから5年が経った。




副操縦士:機長、そろそろ出発ですね。

〇〇:ああ、そうだな。




俺は飛行機のパイロットになった。絢音との夢を叶える為に。



副操縦士:写真、ですか?

〇〇:ん?ああ。

副操縦士:もしかして、彼女さんですか?

〇〇:まぁ〜ね。

写真には絢音と俺が写っていた。

あの展望台で。

2人が交えた、最初で最後の場所で…


〇〇:(絢音、見てる?こんななんだよ、操縦席って。)

絢音:うん、見てるよ。

〇〇:え?

絢音:ほら、言ったじゃん。一緒にって。

〇〇:う、うん!

絢音:そろそろ出発だね。

〇〇:そうだな。

絢音:ふふ、本日もご安全に。

〇〇:ああ、ご安全に。

俺は隣にいる絢音に挨拶して、機内アナウンスをした。


〇〇:ふ〜。

副操縦士:機長、どうかしましたか?

〇〇:え?何が?

副操縦士:なんか、嬉しそうな顔してましたよ?

〇〇:え、ああ…そうかな。

副操縦士:でも晴れて良かったですね、今日天候荒れるって言ってましたから。

〇〇:ああ、そうだね。



隣に座っている副操縦士の子が、絢音に見えたらしい。


でもきっと、見えないけど絢音は今隣に座っているに違いない。


手紙に書いた通り、向こうから魂だけでも戻ってきて一緒にこの飛行機に乗ってくれたんだろう。


そう考えたら、やっと叶えられた気がする。

この世で一番大好きな君を乗せて、空を翔ぶという夢を…


fin.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?