いつも通うジムのクールなお姉さんは、恥ずかしがり屋さんで僕が好きみたいです。
〇〇:はぁ〜、終わった。
長下〇〇、25歳。
来週のミーティングで使用する書類の整理を終えて、会社のPCの電源を落とした。
〇〇:さて、帰りますか。
誰もいないオフィスで独り言を呟いて、鞄を持ち部屋から出て電子パスを機械に触れさせて鍵を閉めた。
華の金曜日。
1週間の苦労を労う為に、居酒屋で同僚たちと酒を飲んだりご馳走を食べたりするものなのか。
或いは早めに家に帰り、家族との団欒を楽しむものなのか。
独り身の自分にとっては、どちらにせよ縁が無かった。
けれど、惨めな気持ちにはならなかった。
家に着くとスーツを脱いで風呂に入り、部屋着に着替え平日に溜まった洗濯を済ませる。
それから、軽く茶漬けを食べてから瞑想をしてリラックスさせてから眠る。
金曜日の夜に敢えて控えめなのには、訳があった。
〜次の日〜
(小鳥の囀り声)
〇〇:ふぁ〜…
目が覚めて時計を見ると、6時半を指していた。
〇〇:よしっ。
いつも通り早起き出来て心の中でガッツポーズして、ベッドから起き上がった。
顔を洗い軽く朝のシャワーを浴びてから、スポーツウェアに着替えたりして、これから行く場所の為の準備を始めた。
〇〇:さて、今日もジムで鍛えてくるぞ。
意気揚々として家を出た。
ー△△ジムー
?:あ、おはよう長下さん。
ジムに到着すると、受付から挨拶された。
〇〇:あ、おはようございます!
名前は、田村保乃さん。
ここのスタッフさんで、自分が初めてこのジムに入会した時に手続きを担当してくれた方だ。
毎週土曜の朝にここのジムに来ると、いつも受付から声をかけてくれる。
保乃:今日も来てくれたんやな。
〇〇:ええ、いつも通りに。
〇〇:ここで鍛えるの、楽しみですから。
保乃:そう言ってくれて嬉しいわ。
保乃:ここに来てた人、大抵は最初のうちは通ってくれるんやけど、筋トレキツい言うて辞めてしまうんや。
保乃:ほんま、長下さんだけやで?今のところ続けて来てくれるの。
〇〇:言われてみると、そうですね…笑
でも確かに筋トレって結構大変だったりする。
自分だって、始めた頃は…
〜1年前〜
ガシャンッ
〇〇:わっ⁉️
保乃:だ、大丈夫⁉️
〇〇:す、すいません…重過ぎてつい離してしまって…
細過ぎる腕のせいで、ダンベルを落としてしまった。
保乃:無理したら危ないで。怪我したらえらいことになるんやし。
〇〇:でも、少しくらい無理しないと筋肉って鍛えられないって…
保乃:せやけど、焦ったらあかんで。
保乃:まずは自分が出来そうなところから始めるんや。
とまぁ…始めた当初は筋トレの器具を落として壊しかけたり、怪我しかけたりと危なっかしかった。
初めて田村さんと会った時、見た目からか少し怖い印象があった。
けどいざトレーニング始めると、結構丁寧に筋肉を鍛える為のコツとかを教えてくれて優しかった。
それに、何より凄く美人さんだった。
初めてジムに行った日から3日後に再びジムに行くと、
保乃:あ、また来てくれたんやな。
〇〇:あ、はい!
保乃:しかも、仕事帰りやろ?
〇〇:そう、ですね…
保乃:偉いわ、ほんまに偉い。
保乃:じゃあ、今日も色々教えたる。
〇〇:あ、じゃあ…お願いします。
田村さんがまた筋トレのコーチになってくれて、
色々と教えてもらった。
最初に筋トレした日に田村さんから、定期的にジムに通った方が良いと勧められて、それから土曜の朝と月曜・木曜の夜にジムに通うようになった。
確か、筋肉の超回復がどうとか教えてもらってそんな風にスケジュールがなったのだろう。
そうして、田村さんから色々アドバイスを受けてジムへ通うのを続けていくうちに、徐々に変化が起き始めた。
ー会社ー
上司:長下、お前なんかデカくなってないか?
〇〇:え、そうですか?
上司:うん、なんか身体全体的に。
上司:ちょっと、シャツの袖捲ってみろよ。
〇〇:あぁ、はい。
上司:うわ、筋肉凄ッ!?
〇〇:ああ、最近ジム通ってまして。
上司:へぇ…触って良い?
〇〇:ああ、もちろんです。
上司:硬っ!
〇〇:ここまで半年くらい、ジム通ってきて…
上司:凄いな長下。昔ちょっとジム通ったことあるけど、俺なんかダメだったのに。
ー飲み会ー
女A:なんか、長下さん変わりました?
女B:うんうん、逞しくなったっていうか。
〇〇:ああ、ジム通っていまして。
男A:マジ⁉️初めて知ったわ。
女A:え、腕触っても良いですか?
〇〇:あ、ええ。
女A:わ、凄い!
女B:え、どれどれ。
女B:硬っ!
女A:え〜、長下さん凄ーい。
女B:男Aさんも見習わないとですね〜
男A:良いんだよ、んなこと言わなくて!笑
男A:でも、すげぇなぁ〜…
ジムに通い続けたおかげか、周りから容姿を褒められるようになった。
そのことを田村さんに報告すると、
保乃:ええやん!
保乃:いや〜、ここまで長下さんを育てた甲斐があったわ。
〇〇:本当、田村さんのお陰ですよ。
保乃:じゃ、これからもジムきてな。
保乃:長下さんに会えるの、楽しみにしとるから。
〇〇:もちろんですよ!
こうして筋トレすることが楽しくなったのと、田村さんに会うのが楽しみになって今もジムに通い続けていた。
〜現在〜
保乃:そうだ、今どれくらい出来るんか見したってくれへん?
〇〇:良いですよ。
手始めにダンベル50kgを右手、左手にそれぞれ一つずつ持ち上げた。
保乃:凄ッ!
保乃:ほんま凄いわ!
それから背筋を鍛えてきたトレーニングマシンで80kgを持ち上げたり、腹筋を100回連続でするのを見せたりした。
〇〇:はぁ〜、疲れたー!
保乃:ふふ、お疲れさん。
ベンチに座ると、田村さんがスポーツ飲料水の入ったペットボトルを持ってきてくれた。
保乃:なんか変わったなぁ、長下さん。
保乃:最初は腕とか細っちくて、折れてまうやないかとかハラハラしたのに。
〇〇:そんなに⁉️笑
保乃:けど今じゃ、ボクサー選手並の体型やな。
〇〇:いやいや、そこまでは…笑笑
保乃:なぁ、今日この後暇やったりするん?
〇〇:え、あぁ…そうですね、この後は特に何も。
保乃:なら、うち今日12時に勤務終わるんや。
その後、その…
〇〇:?
保乃:一緒にどこか行かへん?
〇〇:え?
唐突過ぎて、一瞬思考が停止した。
〇〇:それって、デート…
保乃:ああ、もう言わんといてや!
〇〇:!?
保乃:恥ずかしくて息できひん!
あんなに落ち着いた感じの田村さんが動揺して、
受付デスクに逃げて隠れてしまった。
〇〇:(か、可愛い…)
不覚にもそんなことを思いながら、受付に近づいた。
〇〇:あ、あの…
保乃:ごめんな、こんなみっともないとこ見せて。
〇〇:いえ、全然そんなこと…
〇〇:あの、是非一緒に。
保乃:ほ、ほんまにええの⁉️
〇〇:はい、だって…嬉しかったですから。
〇〇:誘ってもらえて。
保乃:じ、じゃあ…後でな?
〇〇:はい、12時にまたここに来ますね。
保乃:う、うん!
ジムから出ていく時、田村さんが手を振ってニコニコしていた。
〜12時〜
ジムに着くと、スタッフの格好から私服に着替えた田村さんが出てきたのだが…
保乃:き、来てくれたんやね…
〇〇:もちろんですよ。
保乃:なんか、緊張してまう…
ジムでスタッフしている時とは打って変わって、
恥ずかしがりな感じを出していた。
〇〇:(可愛い…)
保乃:ど、どこ行こうか?
〇〇:ああ、そうですね…
デートなんて大学生の時以来したことなくて、社会人になってからの初デートはどこに連れて行けば良いか分からず…
〇〇:とりあえず、カフェでも行きますか?
と無難そうなのを提案した。
保乃:カフェ!ええな、それ!
〇〇:じゃあ、カフェに行きますか。
目的地を決めて一緒にジムを出ると、
ぎゅっ
保乃:手…、繋いでもええかな?
〇〇:もちろんですよ。
一緒に手を繋いだ。
保乃:ありがと、ふふっ。
隣を一緒に歩く田村さんが嬉しそうで、見ていて心臓がドキドキしていた。
カフェに着くと、2人してパフェを頼んだ。
〇〇:美味しそうですね!
保乃:せやね。
〇〇:じゃあ、いただき…
保乃:待って!
〇〇:?
保乃:そ、その…あれしたいなって…
〇〇:あれって?
保乃:ほら、カップルがよくやる…
と言いかけた田村さんの顔が赤くなっていた。
〇〇:もしかして、あーん?
と聞くと、微笑まれながら小さく頷かれた。
〇〇:じゃあ…
スプーンでパフェを掬って、田村さんの口元まで運ぶと、
保乃:!
〇〇:あーんしてください。
保乃:う、うん!
保乃:あ、あーん。
ぱくっ
保乃:んふふ。
〇〇:美味しいですか?
また微笑まれながら頷かれた。
保乃:あ、あのな…長下さん。
〇〇:ん、何ですか?
保乃:いきなりなんやけど、ウチな…その、長下さんが…
好き。
〇〇:!
保乃:好きやから、今日誘ったんや。
そう言い終えた田村さんは、いつも以上に楽しそうで乙女な顔をしていた。
〇〇:じゃあ、今日から宜しくお願いします。
保乃:!
〇〇:僕も好きです。
〇〇:いつもジムでお世話になっている田村さんのことが。
そう返事すると、田村さんにまた微笑まれて頷かれた。
保乃:ほんなら、今日から名前で呼ばなあかんな。
〇〇:え、ああ…
保乃:ま、〇〇くん…
〇〇:ほ、保乃さん…
下の名前で呼び合ったが、思いの他2人して顔が赤くなっていた。
保乃:は、恥ずかしいもんやな…笑
〇〇:で、ですね…笑
保乃:ふふっ。
〇〇:ふふっ。
保乃さんとの初々しいデートだった。
fin.
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