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エイプリル・フールのことをすっかり忘れて、憧れの先輩に告白したら…

ずっと前から決めていた。

いつか、ちゃんと言葉にしようって。

後悔したくないって思っていたけど、

中々行動に起こすまで出来なかった。




しかし、どういう訳か今日このタイミングで

何故かしようと思った。

4月1日

世はエイプリル・フールということを自分はすっかり忘れて…




大学の新学期が始まる前の今日、サークルでよく借りる教室に、僕は朝7時に到着した。


普段なら、こんな早い時間に来る必要なんかない。


じゃあ、何故来たかって?


それは一個上の先輩の、梅澤美波さんに会うためだ。

会計係の美波先輩は、必ず朝7時に来てサークルの経費とかの計算をしている。

今日は、今年度の予算とかを見積もりするのかな…

などと思いながら何食わぬ顔で部屋のドアをノックした。


○○:すいません、一年の鈴芽です。今入っても…

美波:はぁ〜い。

ドアが開かれ美波先輩を見た瞬間、

その美しさに見惚れ、自分が小鳥のように小さく思えた。

美波:おっ、鈴芽○○くん?朝早くからとは感心、感心。ささっ、入って!


あれ? 下の名前なんて教えてたっけ?


教室の奥まで行き、恐らく美波先輩がこれから仕事をすると思われる机まで辿り着くと、美波先輩がこちらを振り返る。

美波:珍しいじゃん、こんな早くに。

○○:あ、いつもお世話になっています。これ、差し入れです。

と、一応持ってきた缶コーヒーを美波先輩に渡す。

美波:おっ、ありがとう。気が利くね!

小細工なんか働かせて図々しい気がしたが、もう腹に決めたことなので、思い切って口にした。


○○:あの、先輩!その、話を聞いてもらいたくて…今日、この時間に来たんです。

美波:ほほぉ〜ん、なるほどね。で、どんな相談かな?

○○:いや、その〜…



ここまで来たんだ、後戻りはしない。





○○:ずっと前から、先輩のことが好きでした!

〇〇:どうか、こんな自分でよければ付き合ってください!

〇〇:先輩を沢山、笑顔にします!



人間、行動する前はどうなるかと色々、長い時間思考していくが、いざ行動に移すと呆気なく時は過ぎるものだ。



美波:う〜ん、ごめん。今日は無理かな…


そりゃ、そうだよな…

これだけ美貌な先輩なら、彼氏さんくらいいるだろう。

ま、人生にはこういう経験も必要なんだろう…



○○:ですよね…先輩にも、彼氏さん…

美波:いや待て待て、今日は無理ってこと聞いてた?

○○:へ?今日…?

美波:今日だって、何の日か分からない?

先輩からノーの返事を貰ったショックもあって頭が回らなかったのもあるだろうが、それ以上にシンプルに今日が何の日か思い出せずにいた。


○○:今日、4月1日…え?

美波:エイプリル・フール、だよ!だから、今日じゃ嘘も許されるから、今日じゃ○○くんの気持ちは受け取れないってこと!

○○:え、いやぁ…これはマジですよ!本気ですよ!先輩に嘘なんて…

美波:はいはい、分かっているよ。けど、今日は無理。

そんなこと言いながら、頭をポンポン叩く先輩…

まるで、オモチャをなくして喚く子どもをあやすかのような。



美波先輩がすぐ戻ると言って教室から出て行った。


はぁ〜、よりにもよって何故エイプリル・フールの日に告白しようと思ったんだろう…

美波先輩は優しさからああ言ってくれたのかもしれないが、これじゃ、先輩を揶揄っていると思われても仕方なかった。

完全にやらかしたと自責の念にかられた…



○○:(この恥知らず、うすのろ、オタンコナス!)

などと自身を罵倒していると、美波先輩が帰ってきた。

美波:これ、受け取ってくれる?

先輩から渡されたのは、1通の小さな封筒だった。

美波:それ、明日になったら開けて。良い?
明日になるまでは、絶対に開けちゃ駄目だからね!

○○:これって…

美波:秘密、だから♪あ、折角だから色々手伝って貰うかな?

パソコンを持っているかと聞かれた○○は自身のノートパソコンを取り出すと、美波先輩に調べものを頼まれた。



4月1日 23時59分

結局、この封筒は何だ??

と思いながら、開けるのが怖くてそのままにしていた…

色々あり、疲れを感じた○○はそのまま机にうつ伏せで寝落ちした…




(スマホの着信音)

朝になり、○○のスマホから美波先輩から着信が来ていた。

○○:ふぁい…

目覚めたばかりで、寝惚けた声になってしまった。

美波:昨日の封筒、開けた?

○○:いや…まだです…

美波:なら、今から言う場所に来てくれる?


急いで身支度を整えて、先輩が指示したカフェへ向かった。

店の中に入ると、美波先輩が向こうで手で合図していた。

○○:持ってきましたよ、昨日の。

美波:それ、開けてくれる?

○○は美波先輩から渡された小さな封筒を開ける。中には、1通の手紙が入っていた。




「この手紙は、私にはじめてその想いを伝えようとしてくれた人にだけ読んでほしいと思い書きました。たとえそれが、巨人のような逞しい人でも
雀のような小さな人でも、その人の勇気を讃えて。

私は、あなたとこれからたくさん、楽しい時間を過ごしたいです。」






手紙を読み終えると、美波先輩が注文した菓子を手に取っていた。

○○:先輩、これ…

○○が手紙の内容、というより美波先輩の気持ちを聞こうとした瞬間、先輩が菓子をほおぼりだす。

○○:ず…ずるいですよ笑

○○に言われ、美波先輩はニヤケながら腹パンを軽く○○に食らわす。

そして、○○の耳元で美波先輩が囁く。

美波:これからは、美波…だからね?


fin.

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