周りから物静かだと思われていた先輩は、僕といる時は積極的で可愛い過ぎるんです。
あやめ:着いてこい、少年!
〇〇:わっ!?
いきなり少年呼ばわりされ、腕を掴まれ引っ張られて走らされた。
あやめ:ふふ。
でも、その時斜め後ろから見えるあやめさんの笑みが可愛らしくて、心臓がドキッとした。
〇〇:今日はどこに行くんですか?
あやめ:秘密〜〜♪
こういう風に言う時、あやめさんはご機嫌なのだ。
あやめさんと知り合ったのは、去年の春頃だ。
目指していた高校に合格し友だちも何人かできて、どの部活に入ろうかと悩んで悩んだ末に、走るのが好きということで陸上部に入った。
入部したての頃に、部活が終わった後他の部員たちが帰ってから一人で練習していたことがあった。
その時に、
あやめ:君、一年生の日向くん?
声をかけてきたのが、一つ学年が上の筒井あやめさんだった。
〇〇:あ、はい。そうです。
〇〇:え〜っと…
あやめ:ああごめん。私、筒井あやめね。
〇〇:ああ、筒井先輩。
〇〇:すいません、名前知らなくて。
あやめ:ふふ、面白いね君。
〇〇:へ?
あやめ:だってまだ名前なんか教えてないから知らなくても仕方ないのに…笑
〇〇:いや〜、でもほら先輩ですし名前とかちゃんと覚えてないといけないと思ってて…
あやめ:へ〜、真面目だね。
〇〇:あ、お疲れ様です!
あやめ:お疲れ様。
あやめ:ふふ、本当に真面目だね。
入部した当初から、あやめさんの顔は知っていたが名前は知らなかった。
それに、他の先輩たちが後輩である僕たちに積極的に話しかけてくる中、あやめさんはただ1人静かにしていてこちらに来る様子は微塵も無かった。
物静かな人だな〜としか、最初は思わなかった。
そんなあやめさんに急に声をかけられたものだから、びっくりした。
それと同時に、その端正な顔立ちに一目惚れしてしまった。
それから、度々部活終わりになって自主練をしていると、あやめさんに声をかけられた。
あやめ:やっほ〜
〇〇:筒井先輩、お疲れ様です!
あやめ:今日も自主練してるの?
〇〇:はい、今度の大会に向けて。
あやめ:じゃあ〜さ、一緒に競争しようよ!
〇〇:え、競争ですか?
あやめ:うん、その方が本気でタイムとか上げられそうじゃん?
〇〇:分かりました。
あやめ:あ、勝った方に負けた方がご褒美何奢るか決めようよ。
〇〇:え?競うだけじゃないんですか?
あやめ:うん、だってその方が面白いじゃん?
〇〇:はぁ…
あやめ:じゃあ、アイスね!負けた方は勝った方にアイス奢るね。
〇〇:えぇ…(てか、勝手に決めてるし…)
さっきまで、部活中はほぼ無口で同学年ともあまり喋っていなかったのに、部活終わりの自主練のこの時だけよく喋る人だった。
不思議でならなかったが、あやめさんの提案を受け入れて、100メートルのタイムを競うことになった。
が、スタート位置に着いた時にあることに気づいた。
〇〇:(あれ?タイム測る人いないじゃん…)
そして、横を見るとあやめさんがニコニコしていた。
〇〇:(え、まさか…最初からご褒美目当て?)
あやめ:本気の勝負だからね?
〇〇:(絶対この人アイス目当てだ!)
あやめ:よーい…
〇〇:(でも、負けてられないな。)
あやめ:スタート!
同時に土煙を発して走り出した。
が、先にゴールしたのはあやめさんだった。
あやめ:いぇーい!私の勝ちだね。
〇〇:ま、参りました…(てか、めっちゃ速いな…あやめさん。)
あやめ:じゃ、約束通りアイス奢りね?
〇〇:うっ…は、はい…
少しショボくれながら、コンビニにあやめさんと向かった。
コンビニに着き、アイスコーナーのところに行きあやめさんが食べたいと言ったバニラアイスを取って、かごに入れた。
あやめ:〇〇くんは選ばないの?
〇〇:え、いやぁ…僕は別にいらな…
あやめ:折角だし、一緒に食べようよ。
〇〇:は、はい。
一応先輩だ。変に逆らったらノリが悪いと思われ、今後居づらくなるかもしれない。
仕方なく、抹茶のアイスを選んだ。
あやめ:へ〜、日向くん抹茶好きなんだ〜
〇〇:まぁ…そうですね。
そして、レジに向かった。
肩を叩かれて後ろを向くと、
あやめ:はい。
〇〇:え?
小銭を、それも多分2人のアイス分の金額分を渡された。
あやめ:それで足りるでしょ?
〇〇:は、はい。え、でもさっき競争して負けたから、僕が奢らなきゃ…
あやめ:冗談だよ、さっきのは。
〇〇:へ?
あやめ:んな、後輩に奢らせようとかケチなことする訳ないでしょ?
あやめ:それに、さっき競争して楽しかったし。
〇〇:先輩…
あやめ:ふふ、外で待ってるね。
そう言って、先にあやめさんは外に出た。
〇〇:お待たせしました。
コンビニの袋を開けて、バニラアイスをあやめさんに渡した。
〇〇:どうぞ。
あやめ:ありがとう。
あやめ:ん〜、冷たい!でも美味しい!
あやめ:やっぱ身体動かした後は、アイスに限るね。
〇〇:なんか、ありがとうございます…奢ってもらって。
あやめ:良いってば。ほら、早く食べなよ。溶けちゃう前に。
〇〇:そうですね。
袋から抹茶のアイスを取り出して、食べ始めた。
アイスの冷たさと甘さが、疲れた身体を癒してくれた。
〇〇:ん〜、美味い。
あやめ:ねぇ、その抹茶アイス分けてくれない?
〇〇:え?ああ、どうぞ。
あやめさんが食べていたバニラアイスのカップを持ってあげで、代わりに抹茶アイスのカップを渡した。
あやめ:ありがと。
〇〇:いえ…
あやめ:ん、美味しい!
あやめ:この抹茶アイス、好き。
〇〇:それは良かったです。
あやめ:はい。
〇〇:ん?
見ると、スプーンに抹茶アイスを乗せて僕の前に運んできた。
あやめ:あげる。
〇〇:(え⁉️ど、ど、ど、どうする⁉️)
〇〇:(これって、あれだよね?カップルとかがやるヤツ…)
あやめ:要らないの?
〇〇:へ⁉️(どうしよう、緊張で胃が張り裂けそうなんだが⁉️)
〇〇:いや、い、要ります!
あやめ:良かった、じゃ、あーんして。
〇〇:あ、あーん…
顔を真っ赤にしてあやめさんにアイスを食べさせてもらった。
あやめ:んふふ、どう?
〇〇:めっちゃ…美味しいです。
あやめ:良かった、あ、バニラアイス食べて良いよ。
〇〇:いや、それは流石に…
あやめ:遠慮しないでって!あ、でも後で私に食べさせてね?
〇〇:へ?
バニラアイスを食べた後、あやめさんにバニラアイスを食べさせた。
あやめ:あーん。
パクッ
あやめ:んふ、美味しい!
あやめ:ありがと、食べさせてくれて。
〇〇:(はぁ…どうにかなりそうだ…)
身体が、走った時より熱くなっていた。
レイ:あやめ〜ん、水取って!
あやめ:ほい。
?:清宮先輩、筒井先輩お疲れっす!
レイ:うん、お疲れ様〜!
あやめ:おう…
レイ:熱中症にならないよう気をつけてね?皆んな。
?:ういーす!
あやめ:うんうん…
普段、部活中のあやめさんはほぼ口数が少ない。
だけど、最近では部活が休みの日になると…
あやめ:いた、〇〇くん!
〇〇:あ、あやめさん?
わざわざ僕の教室まで来て、どこかに連れて行くのだ。
〇〇:ちょ、どこに?
あやめ:んふふ、秘密〜♪
あやめさんがご機嫌そうにそう言った。
連れてこられたのは、立ち入り禁止の看板が付いたドアの前だった。
〇〇:ここ、入っちゃダメなんじゃ…
あやめ:だから、秘密なの。
あやめさんがドアノブを回すと、ドアは開いた。
〇〇:鍵、かかってないんですね…
あやめ:うん、早く入ろ?
意外とヤンチャなところがあるんだな〜と思った。
あやめ:ここ上ってくとね、景色すっごく綺麗なんだよ?
〇〇:そうなんですか?
あやめ:うん、早く早く!
〇〇:あ、はい!
急かされてはしごを上ると、学校の屋上から辺りが一望出来た。
〇〇:うわぁ、すっげぇ…
あやめ:ふふ、良いでしょ?ここ。
〇〇:知らなかったです、屋上からこんな景色見られるの。
あやめ:じゃ、2人だけの秘密ね?
〇〇:ですね。
ギュッ
〇〇:!
あやめ:ふふ。
隣に来て、あやめさんに手を握られた。
こうして、日に日にあやめさんが来てどこかに行くたびに、嬉しさとあやめさんへの想いが増していった。
そして、ある時…
偶然、あやめさんがお友だちの清宮先輩と一緒に帰るところを目撃した。
レイ:最近、あやめん日向くんにグイグイ行くじゃん?
あやめ:だって、初めて走るの見たときにね、凄く爽やかな子だな〜って。
あやめ:そのね…
レイ:あらあら、一目惚れってヤツですね〜
チョンチョンッ
あやめ:おい、揶揄うな!
レイ:でも良いな〜、好きな人ができるって。
あやめ:うん、だからね…〇〇くんと関わりたいな〜って思って。もっと仲良くなって、いつか…
あやめ:でも怖いんだ。もし、しつこいって思われていたら…
レイ:大丈夫だよ!それより早く伝えた方が良いよ?気持ちを。
レイ:最近、他の陸上女子が〇〇くん狙っているみたいだし。
あやめ:えぇ!?それは嫌だ嫌だ!
レイ:じゃ、早く伝えないと。
あやめ:でも…
草むらに隠れて、あやめさんたちの会話を聞いていた。
〇〇:あやめさん…
レイ:じゃ、私急いでるからさき帰るね!
あやめ:う、うん。
あやめさんが、清宮先輩と別れた。
〇〇:(どうしよう…)
〇〇:(でも、あやめさんが迷っているなら…)
〇〇:(よし。)
決心して、あやめさんのところに向かうことにした。
〇〇、行きまーす!
〇〇:あやめさぁっ…!
走って、歩いているあやめさんに向かって声をかけようとしたら、
ズデンッ
あやめ:⁉️
〇〇:うわっ⁉️
見事に石に躓いて転んだ。
〇〇:痛たたた…
あやめ:だ、大丈夫⁉️
心配されて、起き上がるのに手を貸してもらった。
〇〇:す、すいません…
あやめ:うん…良いけど。
何が、「〇〇、行きまーす!」だよ…
出撃する前にザ〇に撃沈させられているじゃないか…
〇〇:あの…あやめさん。
あやめ:何?
〇〇:一緒に、帰りませんか?
あやめ:うん、もちろん!
それから2人で歩きながら、他愛もない話をしていた。
あやめ:ふふ、じゃあ今度水族館行こっかな〜
〇〇:水族館ですね!良いですね。
あやめ:うん、〇〇くんと行きたいな〜って思ってたんだ。
〇〇:あやめさん。
あやめ:うん。
〇〇:僕の先輩が、あやめさんで良かったなって凄く思っています!
あやめ:本当?嬉しいな〜
〇〇:入部した頃はここまであやめさんと関わり持つなんて思ってなかったんですけど、あの日初めてあやめさんと100メートル競って、アイス一緒に食べてから、一緒にいることが増えましたよね。
あやめ:ふふ、そうだね。
〇〇:そうしていくうちに、あやめさんって凄く可愛いな〜って思ったり、意外とヤンチャなところがあるな〜って思ったりして、どれもあやめさんの魅力だな〜って思いました。
あやめ:〇〇くん…
〇〇:そんなあやめさんのことが僕…、その…好きなんです。
あやめ:⁉️
伝えられる限りのことは伝えたつもりだった。
〇〇:こんな僕なんかで良ければ…
手を差し出した。天に祈るのみだった、あとは…
ぎゅっ
〇〇:!
あやめ:よろしくね、〇〇くん。
あやめさんが微笑んで、手を握ってくれた。
あやめ:私ね、不安だったの。〇〇くんに嫌われてるんじゃないかって、しつこいって思われて。
〇〇:あやめさん…
あやめ:でも、初めて〇〇くんを見たときから、ドキッてしたの。走る姿がカッコ良くて。
あやめ:それに〇〇くんと話すようになったら、〇〇くんはいつでも私の話を笑顔で聞いてくれるし、どこに連れてっても楽しそうにしてくれて、嬉しかった。
あやめ:人関わるのが苦手だったの、私。だけど、〇〇くんといる時はそんな自分が変われていた気がした。
あやめ:多分、それがそういうことなんだなって思ったの。
あやめ:私も、〇〇くんが好きです。
その日の帰り、手を繋いでいるとあやめさんが僕の肩に頭を乗せてきた。
あやめ:んふふ、〇〇くんあったかい。
告白が成功した隣の天使さんに、癒されまくりました。
fin.
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