しとやかな雰囲気で温かいあなたに恋して、恋されて。
〇〇:絢音さん。
絢音:何?
〇〇:いや、その…
絢音:ほら〜、勿体ぶらない!
絢音:思ったことは、ちゃんと言う。
絢音:約束したじゃん。ね?
ああ、また情けないところを見せてしまった…
でも、それでもいつも絢音さんは優しい。
その優しさに甘えてしまう。
ダメだと分かっていても…
初めて絢音さんに会った日、春が到来したばかりで、空が晴れていて暖かった。
僕はいつも通り市内の図書館に行って、読みたいと思っていた本を借りようとしていた。
〇〇:今日はあるかな?
その時借りようとしていた本は三部作の話の中巻で、その日の2日前にも図書館に来てその中巻を読もうと所定の場所に来たが、本棚に置いてあった上巻と下巻の間に中巻が無かったのだ…
〇〇:あ、あった。
しかし、その日は目当ての中巻が本棚に置いてあり、僕はその本を取った。
〇〇:(ん?下巻が今日無いな…)
その代わり、下巻が本棚から無くなっていた。
〇〇:(誰が借りてるのかな?)
などと想いながら、その場から移動して貸出の受付をしているカウンターに向かおうとした。
?:わ⁉️
〇〇:あ⁉️
よく前を見ていなくて、ぶつかってしまった。
?:あ、大丈夫ですか⁉️
〇〇:あ、はい…ぜんぜ…
初めてその顔を見た時、あまりの美しさに息を呑んだ。
?:あ、これからそれ読むんですね?
〇〇:え、ああ…そうです。
よく見ると、その人の片手に今読もうとしていた作品の下巻が持たれていた。
〇〇:あっ。
思わず本に指差してしまったが、
?:あ、今日ちょうど読み終わったので返しに来ていたところなんです。
?:面白いですよね、このお話。
柔らかい笑顔で、僕に話してくれた。
〇〇:ですよね!
〇〇:なんかこう!まるで、見た目は凄く甘そうなケーキだけど、食べてみたら意外と味が薄くて!!
同じ作品が好きな人と話せた喜びからか、興奮して早口になって、変な喩えを出してしまった。
?:ふふ。
〇〇:あ!って…何言ってるんだろう…
〇〇:すいません!変なこと言って…
?:いえ、言いたいことは凄く分かりますよ。
その人はまた柔らかい笑顔を見せながら、話を続けた。
?:甘々な恋系の話が苦手な私も、この話なら読んでて凄く共感出来ちゃうのが沢山あるんですよね。
?:書いてある内容はほぼ甘々な筈なのに、それが全く感じないくらいで。
?:それが良いんですよね♪
その人はスラスラと、僕が言いたかったことを述べてくれていた。
〇〇:そ、そうです!
?:ふふ、良かったです。同じ解釈だったみたいで。
それから、お互い軽く自己紹介をした。
どうやら、二人とも学部こそ違うもの同じ大学の同期だということが判明した。
絢音:まさか〇〇くんと同じ大学だったなんて。
〇〇:僕もびっくりしているよ。
絢音:なんか嬉しい。
〇〇:そ、そっか…
絢音:え、ああごめんね!勝手に盛り上がって。
〇〇:い、いやぁぁ…そういうわけじゃないよ!?
絢音:ふふ、なら良かった。
またやってしまった…
と一人心の中で悔やんでいた。
絢音:ねえ、良かったら私のお気に入りの場所で、本読まない?
〇〇:お気に入り…の?
絢音:うん、絶対気にいると思うんだ!
〇〇:へ?
〇〇:わ!?
何と手を掴まれ、そのまま連れて行かれたのだ。
絢音:着いた!
どこに行くのか分からずに連れて行かれ、辿り着いた場所は湖が目の前に広がる野原だった。
〇〇:(綺麗…)
見た瞬間、すぐそう思った。
先ほどまで都会にいたのが嘘かと思うくらい、そこには緑と水が広がっていた。
絢音:ここで本読むのが好きなんだ〜
〇〇:分かるかも、その気持ち…
心の中で同意したつもりが、声に出ていたらしい。
絢音さんにしっかりそれを聞かれて、またあのフワフワした笑みを見せられた。
絢音:良かった、〇〇くんにも気に入ってもらえたみたいで。
〇〇:あ、う、うん…
それから、野原に腰を下ろして、二人でそれぞれ読もうとしていた本を開いて読み始めた。
しばらく黙っていたが、ふと絢音さんの方が気になって横を向いた。
〇〇:(絢音さん…)
〇〇:(今どこ読んでいるのかな…)
読書するその姿に見惚れながら、絢音さんが見ている世界が気になってしまった。
〇〇:(って、邪魔しちゃいけないよね…)
と目をそらして、自分の本に視線を戻すと、
絢音:ねぇ、今どこ読んでいるの?
と向こうから聞かれた。
〇〇:え、ああ…
〇〇:今は〜〜〜したところで…
と、自分が読んでいるところを教えていた。
絢音:うわ〜、そこすっごく驚かされたところなんだよね!
〇〇:絢音さんも?
絢音:うん。
〇〇:僕もだよ。
〇〇:絶対〜〜〜〜だと思っていたのに…
絢音:分かる分かる!!
絢音:それでさ…
さっきまで無言で本を読んでいた二人だったのが、いつの間にかお互いの本のことで話が盛り上がっていた。
人と喋るのが苦手だから、小さい時から学校の休み時間に本を読んで一人で過ごすことが多かった自分だが、絢音さんと話している時はそんな自分が嘘みたいに思えた。
絢音:ねえ見て、〇〇くん。
〇〇:ん?
絢音さんが指差す先を見ると、夕陽とその夕陽に照らされて湖にできている赤い線が繋がって見えた。
〇〇:あ…
絢音:綺麗だよね〜
〇〇:うん、まるで…
〇〇:赤い階段が夕陽に続いているみたい…
絢音:え?
〇〇:え?
また変なこと言ってしまったと思い、すぐ謝った。
〇〇:ご、ごめん!!また変なこと言っちゃったよね…
絢音:いや…そんなことないよ。
絢音:ただ、私が思っていたのと違っていたな〜って思っただけだよ。
〇〇:そ、そうなんだ…
絢音:うん。
絢音:謝る必要なんかないのに、ふふ。
〇〇:そ、そっか。
絢音:うん。
絢音:みんな違った見方ができて、それが面白いからさ。
一瞬、空気が変になったのをすぐに和ませてしまう絢音さんに、僕はその時から何度も助けられていた。
絢音:もうそろそろ帰らなきゃだね。
〇〇:そう、だね…
〇〇:暗くなってきたし。
絢音:うん。
立ち上がってから、僕は絢音さんに言った。
〇〇:ありがとう、絢音さん。
絢音:ん?
〇〇:ここ、凄く良い場所だった。
絢音:でしょ?
絢音:図書館と違って、ずっと静かにしなきゃいけない訳でもないし。
絢音:静かにしたい時に静かになれるし、ちょっと騒ぎたいなって時に騒げるし。
絢音:自由ってのを体現しているな〜って思うんだよね〜
絢音さんの言葉一つ一つに、僕は心から頷いていた。
絢音:また、ここに来ようね。
〇〇:う、うん。もちろん!
手を振って絢音さんと別れてから、今日のことを振り返っていた。
その振り返っている内容は、専ら絢音さんのことしかなかったが。
時々見せる笑顔だったり、
図書館で自分の手を引いていくときの
まるで幼い子どもみたいなワクワクしている顔だったり、
野原に着いて本を読んでいる時の姿だったり。
あとは、こんな話下手な自分にも優しく接してくれるところだったり…
それから何度かあの野原に行って、二人だけの時間を楽しんできた。
ある時…
絢音:〇〇くんー!
大学の講義終わりに声をかけられ、振り返った。
〇〇:あ、やあ。絢音さん!
絢音:今日さ…
いつも通りに野原に行くのかと思い、今度は自分から言いだそうと思った。
〇〇:今日も行こうか、あそこ。
絢音:あ、違うの。
〇〇:え、ああ…
勝手に思い込みで言ってしまったので、また謝ろうとした。
けど、自分がそうするより先に絢音さんから口を開いた。
絢音:今日は野原じゃなくて、違うところに行きたいな〜って。
絢音:〇〇くんと。
〇〇:え、ああ…
〇〇:うん、良いよ。どこかな?
絢音:ふふ、ありがとう。
絢音:あのね、ずっと行きたいと思っていたカフェがあるんだ〜
そういうことで、僕は絢音さんとそのカフェに向かった。
店に入ると人は少なくて、でも変に気を張らないで良いくらいの落ち着いた雰囲気で、僕はすぐこのカフェが好きになりそうだと思った。
〇〇:素敵なところ、だね。
絢音:ふふ、私もそう思うよ。
注文して差し出されたカフェオレの表面には、猫の絵が描かれていて可愛らしかった。
〇〇:ふふ。
絢音:すごいよね、この猫ちゃんたちをこんな綺麗に描けるの。
〇〇:ね。
店には本も置いてあって、二人ともそれぞれ気になったのをカフェオレを飲みながら読んで、優雅な時を過ごしていた。
それから店を出て、道を歩いていると絢音さんから話しかけてきた。
絢音:ありがとうね〇〇くん。一緒に付いてきてくれて。
〇〇:え、ああ…
〇〇:凄く良い店だったよね。
絢音:ね。店長さんも優しくて。
〇〇:うん。
絢音:雰囲気が、なんか秘密の場所みたいで。
〇〇:うんうん。
それから、駅まで静かに二人で横に並びならが歩いていた。
絢音:じゃあ、またね。
〇〇:う、うん…また…
そのまま別れるつもりだった。
でも…
〇〇:あ…
〇〇:待って!
絢音:ん?
自分から大声出しといてなんだが、自分でも驚いて一瞬たじろいでしまった。
〇〇:あ、あのさ…
絢音:うん。
〇〇:僕、絢音さんに出会えて本当に良かったと思っているんだ。
〇〇:そ、その…人と話すの苦手だったんだ。でも、絢音さんと話していると凄く楽しくてさ。本当に、自分なのかって疑っちゃうんだよね。
絢音:え、ああ…
〇〇:あ…
やらかしたと、頭を抱えそうになった。
また、感情的になるあまり、一方的に変なこと言って…
〇〇:ごめん!
〇〇:やっぱ今の聞かなかったことに…
絢音:いや…
絢音:言いたいこと、分かるよ!
〇〇:え?
少し距離があった二人の間を、絢音さんが近づいて縮めた。
絢音:私もね、人と話すのあまり得意じゃなくてさ…
絢音:でもね、〇〇くんと話している時は、自分が言いたいことをちゃんと伝えられて、話すのが凄く楽しいよ。
絢音:きっと、それは〇〇くんのおかげなんだなって思うんだ。
〇〇:僕の…?
絢音:うん。だから、それこそ本当に自分なの??って思っちゃうくらい、〇〇くんのお陰で私変われたと思うんだ。
また、助けられた。
絢音さんの優しさに、また甘えてしまった。
〇〇:ごめん。
絢音:え?
〇〇:本当にごめん、いつもいつも絢音さんに助けられて。
絢音:も〜う。
〇〇:ごめん、こんなんじゃダメだよね。
絢音:違うって。
〇〇:え?
絢音:助けてもらって良いじゃん。
絢音:私だって、〇〇くんに助けられているし。
絢音:なんでも、一人で抱え込まなくて良いと思うんだ。
〇〇:絢音さん…
絢音:今こうして思えるのも、間違いなく〇〇くんと出会えたからだと思うんだ。
絢音:これ、本当に思っているからね?
〇〇:え、ああ…
〇〇:うん。
目に涙が溜まっていた。
それは、自分が情けないと思っているからというのも多少はあるかもしれないが、それ以上に絢音さんの言葉にあたたかさを感じて生まれているのが大きいと思った。
〇〇:ありがとう…
絢音:ふふ、いえいえ。
少し間があって、涙を堪えることが出来た。
絢音:ねえ、〇〇くん?
〇〇:あ、な、何かな?
絢音:そのさ、その…
言うのを躊躇う様子からして、大事なことを伝えようとしているのが分かり、静かに見守っていた。
絢音:付き合うってのは、どうかなって。
〇〇:え…
絢音:そ、その、こんなこと言ったことないけど…
絢音:す、す…
〇〇:絢音さん。
僕は、その時初めて絢音さんにハグをした。
絢音:!
〇〇:僕、絢音さんのこと…好きだよ。
絢音:〇〇くん…
〇〇:今は、ちょっと頼りないけど…
〇〇:でもこれから頑張って、絢音さんが笑っていけるようにしたい。
自分でもびっくりするくらい、その時は想いをちゃんと伝えた。
絢音:〇〇くん。
〇〇:は、はい…!
絢音さんと顔を向き合い、目を見つめあった。
絢音:私も、〇〇くんが好きだよ。
絢音:それに、頼りないなんて思わないよ。
〇〇:絢音さん。
絢音:だってもう、頼りにしているから。
絢音:でも、一つ約束して。
〇〇:約束?
絢音:思ったことはちゃんと伝える。ね?
〇〇:思ったことを、ちゃんと…
〇〇:はい!
絢音:ふふ、じゃあこれからよろしくね!
そして、僕たちは付き合うことになった。
ー現在ー
〇〇:絢音さん。
絢音:何?
〇〇:その…凄く可愛い…
絢音:ふふ、顔赤いね〜
〇〇:な、だって…
〇〇:約束しちゃったから…
〇〇:でも恥ずかしい…
絢音:恥ずかしくなんかないって。笑
絢音:〇〇くんも、カッコ良いよ。
〇〇:え、ああ…
絢音:ぶふっ!(可愛い〇〇くん。)
小悪魔な絢音さんだったが、それもまた良いなと思ったデートの始まりだった。
fin.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?