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幸せになっていいって君が言ってくれて、嬉しくて、気づいたら君が好きになった…


今日もまた来た、この時間が…



バシャッ



放課後あの人たちにトイレに閉じ込められて、いつものようにバケツの汚い水を浴びせられた…


女子1:お〜ら、暑いから冷やしてやったぞ〜

女子2:キャハハハハッ!

女子3:ほら、なんか言うことねーのか??

瑛紗:え、あ、あ、りがとうござ…

女子3:声小せぇんだよぉ!!!!

瑛紗:きゃっ!?

怒鳴られて襟を掴まれて、怖くて仕方なくても、

女子3:早く言えよ!

瑛紗:あ、ありがとうございます!!

従うしかなかった。



けど、今日はいつもより時間が短かった。


いつもより早く飽きた彼女たちはバケツを投げ捨てて、女子トイレからいなくなった。


ちょっとだけ、嬉しかった。

嬉しい?

何言ってるんだろう…馬鹿みたい…


他の人に見られるのが嫌で、人の気配が感じなくなってから静かにトイレを出た。

けど最近、気になることがあった。

トイレで1軍女子たちに虐められている時、トイレの外から視線を感じることがある。

最初はいじめっ子たちの仲間かと思っていた。

けど、それも違う気がした。


こんなことを考えるのも、現実から目を背けたいって気持ちがそうさせているだけかもしれないのに…

でも虚しい希望でも持っていたかった…

そうでもしないと、今にもどうにかなりそうだから…




次の日。


またトイレに閉じ込められた。

理由は、自販機で買うよう頼まれた飲み物が違っていたから。


パァンッ


女子1:ったく、うちらの頼みも聞けないのかよ〜

女子2:こりゃ〜今日はとびっきりの罰を与えないとだね〜

瑛紗:す、すいませんでした…

女子3:え、何?聞こえないんだけど〜笑

これからどんな目に遭うのか、考えただけでも怖くて声が小さくなってしまう。

女子1:で、どうする?

女子2:そりゃあ、決まってるじゃん!


ビリッ


瑛紗:!?

いきなり目の前に来たかと思いきや、制服のシャツを破られた。

下に身につけている物がうっすら見えてしまっていた。

女子2:へ〜、地味な見た目してるくせに良いの付けてんじゃん。

瑛紗:嫌、やめて…

女子3:あはは、良いね〜こいつの服めちゃくちゃにしてやろうよ!!

女子1:大変だね〜、池田さん。これからすっごく恥ずかしくなるからさ〜笑笑

気味の悪い笑みが3つ、私に近づいてきた。


瑛紗:(助けて…)


声にならず、ただ心の中で虚しく叫んでいた。

もうどうすることも出来ないんだ、きっと…






?:おーい、誰かいるのぉ!?

女子1:!?

女子2:ねぇ、隠れないと。

女子3:う、うん。

?:なんで隠れるのぉ!?

女子1〜3:!?

?:あ、良かった。あのさ〜、人探しているんだけど〜

女子1:な、何アンタ?

突然トイレの外から男の子の声が聞こえたかと思うと、女子トイレにその男の子が入ってきた。


女子2:ちょっと、ここ女子トイレなんですけど?

?:知ってるよ、その女子トイレに探している子が入っていったはずだからさ〜

女子3:はぁ?あたしらしかいないんだけど!?

?:え?奥に人いる気配するけどな〜

女子1〜3:!?

瑛紗:!?

?:あ、いた!ちょっと一緒に来てくれる?

瑛紗:え?あっ…

その男の子は私を見つけると、手を掴んで引っ張っていった。

?:はいはい〜、失礼しました〜!!

女子1〜3:な、ちょっ…

男の子はそのままトイレから私を連れ出して、走っていく。

瑛紗:(な、なんなの!?この子??)


訳も分からず付いて行くしかなかったけど、その時初めて心臓がドキドキしていた。




瑛紗:あ、あのぉ❗️

走っていて呼吸が乱れそうなのに、今までで1番大きな声が出た。

?:何ぃー?

瑛紗:どこに行くんですかぁー⁉️

?:秘密ー!

?:楽しみにしててよー!


秘密って…


でも、

今私の手を引っ張っているこの男の子とは初対面な筈なのに、

何故か信用できる気がしていた。



?:っし、着いたー!

辿り着いた場所は、海岸沿いの堤防だった。

目の前に広がる景色を見た瞬間、


初めて世界が輝いて見えた。


目の前に広がる海も、少し離れたところにある浜辺も、空に浮かぶ島みたいな雲たちも、



全てが美しかった。



瑛紗:綺麗…

声が溢れた。

?:ふふ、でしょ?

瑛紗:あっ…

恥ずかしくなって、つい目を逸らした。

その勢いで、

カタッ

瑛紗:あっ。

掛けていた眼鏡が落ちてしまった。


眼鏡を拾おうとしゃがんだら、先にその子が拾っていた。

その子が拾った私の眼鏡を渡そうと手を伸ばし、顔を上げてきた。

?:はい。

瑛紗:あっ。

目が合った瞬間、

時の流れが急に遅く感じられた。


?:あ、あの…

瑛紗:え、あ、ごめん!

その子から眼鏡を受け取った。

?:ううん、大丈夫だけど。

瑛紗:あ、ありがとう。

?:どういたしまして。

瑛紗:あ…

?:ああ、僕は桐山〇〇。よろしくね。

瑛紗:あ、い、池田、て、瑛紗です!

〇〇:へ〜、なんか良い名前だね。

瑛紗:へ?

名前で褒められたことなんか初めてだったからか、変な声が出てしまった。


〇〇:あ、そうだ。

何かを思い出したのか、自分の鞄を漁り始め黒い服を出してきた。

〇〇:はい、これ着なよ。

瑛紗:え、なんで?

〇〇:だってほら、服破れているし。

そう言われたことで思い出し、胸元に目をやる。

瑛紗:あっ。

破れた制服のシャツの隙間から、下に身につけていたのが見えて思わず腕で隠した。

〇〇:あ、ごめん!!

気を遣ってくれたのか、腕で顔を隠してくれていた。


〇〇:き、着替えられる??

瑛紗:あ、うん…

破れたシャツを脱ぎ、貸してもらった服に着替えた。

瑛紗:(いい匂い…)

借りた服から、恐らく洗剤のものと思われる匂いがしてきた。

〇〇:お、終わった??

瑛紗:あ、うん!

いつまでも腕で顔を隠してもらっては申し訳ないと思い、急いで答えた。



瑛紗:ありがとう。

〇〇:ふふ、良いって。

〇〇:ねぇ、座らない?

瑛紗:あ、うん。

二人して隣になり、堤防のコンクリートに腰を下ろして座った。


宙に垂らした足を揺らすその様は少しやんちゃな感じがして、でもその感じが嫌いにはなれなかった。




〇〇:ふ〜、ここはいつ来ても良いところだな〜

瑛紗:よくここに来るの?

先ほどまで相槌程度の言葉しか発していなかった私が、初めて会話らしい言葉を発した。

〇〇:うん、あの日からね。

〇〇:あの人に、僕が虐められているのを助けてもらった日から。

瑛紗:え?

〇〇:池田さんもそうなんでしょ?

そう聞かれ、小さく頷いた。


〇〇:僕が虐められた時ね、ずっと思っていたんだ。

〇〇:もうダメだ、早く死にたいって。

その言葉で、私と同じくらい苦痛だったのがよく伝わった。

〇〇:でも、そんな時にあの人が僕を助けてくれた。

〇〇:言ってたんだ、あの人。君には幸せになる権利があるって。

〇〇:すごく嬉しかったんだ。

瑛紗:桐山君…

その横顔はとても穏やかで、私は見惚れていた。


〇〇:池田さん?

瑛紗:え、何?

〇〇:眼鏡、かけないの?

瑛紗:あ、うん。これ度が入ってないんだ。

〇〇:そうなんだ、もしかして伊達眼鏡?

瑛紗:ううん、違うの。あの人たちにかけろって。

〇〇:あの人たちって、トイレにいた?

瑛紗:うん…

そう、あのいじめっ子たちから眼鏡を渡された。

それをかけていれば地味に見えるからと。



〇〇:へ〜、なんか可哀想な子たちだね。

瑛紗:え?

〇〇:だって、眼鏡かけてる人って地味って思い込んじゃってるんでしょ?そうしか思えないのが、なんか哀れだな〜って。

〇〇:それに世の中には、眼鏡かけた方がカッコ良く見えたり綺麗に見えたりする人、沢山いるんだよ?

瑛紗:そう、か…

〇〇:うん。それに池田さんが眼鏡かけてるの、凄く大人っぽくて良いな〜って思うよ。

瑛紗:え、あぁ…

また褒められて、あたふたしてしまった。

〇〇:でも、今の眼鏡かけてない池田さんも綺麗だな〜

瑛紗:か、揶揄ってる?

〇〇:え、ち、違うよ!

〇〇:ほ、本当にそう思っているよ!

瑛紗:そっか。ふふ…

本当は分かっているけど、恥ずかしさから素直になれずそう聞いてしまった。



それから、しばらくの間二人して静かに海を眺めていた。




瑛紗:綺麗だね、夕日。

〇〇:ふふ、そうだね。

空と海が紅く染まっていた。

〇〇:そろそろ帰ろっか。

瑛紗:う、うん。

堤防から立ち上がると、寂しさを感じた。


瑛紗:あ、ありがとう!桐山君!

〇〇:うん、どういたしまして。

気持ちがこもり過ぎて恥ずかしいくらい大声で言ってしまったが、微笑んでくれた。

〇〇:あ、あと〇〇でいいよ。

瑛紗:え、ああ…

瑛紗:ありがとう、〇〇くん!

別にそういうつもりで向こうが言ったんじゃないのは分かっていたけど、言い直したくてそうしてしまった。

〇〇:いえいえ。

また〇〇くんは優しく笑ってくれた。



先に〇〇くんが進み、彼の背中が見えた。

そしたら、無性にその背中を追いかけたくなった。


〇〇:!


走って追いつき、〇〇くんの手を掴んだ。

それに気付いて〇〇くんが歩みを止めた。


瑛紗:聞いても良い?

〇〇:う、うん…





瑛紗:幸せになる権利…あるかな?私にも…





今にも溢れ出そうな気持ちを抑えて、聞いた。






〇〇:もちろんだよ、池田さん。


手を繋いだまま振り返った〇〇くんは、また優しい笑顔で見つめてくれた。





迷いは消えた。




瑛紗:助けて、〇〇くん…!





目が熱くなりながら、そう言った。

次の瞬間、頭を優しく撫でられた。




〇〇:最初から、そのつもりだったよ。





その言葉は、今の私にとって何よりも暖かった。




目から涙が止まらず、鼻を啜った。



ぎゅっ



瑛紗:⁉️

〇〇:よく頑張ったね、ずっと耐えて。

暖かい胸に埋まり、背中を優しく摩られた。

〇〇:あとは任せて、瑛紗。

瑛紗:うぅ…

瑛紗:うぁああああん‼️



恥じらいを一切見せず、大号泣した。





数日後…





瑛紗:(本当に大丈夫かな…?)

〇〇君に言われた通りに、学校の応接室で待っていた。

コンコンッ

瑛紗:はい!

〇〇:お待たせ、瑛紗。

瑛紗:〇〇くん!


〇〇くんの姿を見て安心したのも束の間、


女子1:テメー、ふざけたこと抜かしやがって!!

直ぐに聞きたくない声が耳に入ってきた。


女子2:アタシらを勝手にいじめっ子呼ばわりしてさ!!

女子3:冤罪だぞ!覚悟しろよな!

3人は私を睨みつけながら叫んだけど、

担任:静かにしなさい!

先生からの怒号で静かになった。


担任:桐山君から、あなたたち3人が池田さんをトイレで虐めていると報告を受けたの。

女子1:ち、違います先生!

女子2:私たちはただトイレで楽しくお話ししていただけです!

担任:トイレで楽しくお話し!?

呆れた顔で先生が聞き返した。

女子3:そうです。まぁ、場所は変かもしれないですけど。



よくもまあ、のうのうと嘘を…

こっちは、思い出すだけで吐き気がしてくるのに…


ぎゅっ


瑛紗:え?

気がつくと、〇〇くんが手を握ってくれていた。

〇〇:僕が付いているから。(小声)

私は小さく頷いた。



担任:一応聞くけど、池田さん。この子たちに本当に…

瑛紗:毎日です。

担任:え?

瑛紗:毎日、毎日、靴を隠されたり、教科書を破られたり、トイレに無理矢理連れ込んでバケツに入った汚い水をかけられたり、ずっとです!

女子1:てめー、よくも無いことを…

瑛紗:ふざけないで!!!

女子1〜3:!?

生まれて初めて、怒りを全開にして叫んだ。



瑛紗:私がどんな悪いこと、あなたたちにしたって言うの!?

瑛紗:何もしてないのに、毎日毎日苦しめられて、気がおかしくなりそうになって…

女子2:お、落ち着いてよ…

瑛紗:もうあなたたちの言うことなんか、聞かないんだから!!!

女子3:な…

言えることは全て、言ったつもりだ。



女子1:ていうか、証拠はあるの!?

女子2:そ、そうよ!見せなさいよ。



恐ろしいものだった。

ここまで言っても、まだ悔い改めようという姿勢を見せてこないなんて…



〇〇:んじゃ、これ聞いてみるかい??

女子3:はっ??

〇〇くんが私から離れて、懐から何かを取り出した。

女子1:!?それ…

〇〇:え、録音機だよ。

女子2:な、なんでそんなものを…

〇〇:さて、早速聞いてみよっか。

録音機のスイッチが押された。



「バシャッ」

「お〜ら、暑いから冷やしてやったぞ〜」

「キャハハハハッ!」

「ほら、なんか言うことねーのか??」

「え、あ、あ、りがとうござ…」

「声小せぇんだよぉ!!!!」

「きゃっ!?」



女子1〜3:!?



「また間違えてんのかよ!」

「ビリッ」

「や、やめて!」

「うっさいな!!」

「きゃっ」

「逆らうんじゃねーよ!!」


ピッ


〇〇:この声、間違いなく君たちのだよね〜???

女子1〜3:・・・・・

〇〇:あれれ〜、どうしたの?なんも言えないの??

追い詰められた彼女たちは、それから何も言葉を発さなかった。






それから程なくして、3人は退学処分となった。



〇〇:はぁ〜、スッキリしたな〜

瑛紗:本当にありがとう。

私は〇〇君に深く頭を下げた。

〇〇:うん。

〇〇:瑛紗も頑張ったね、最後にガツンと言ってやってさ!

瑛紗:え、いやぁ…あれは…

ただ思ったことを言っただけだ。

それも、〇〇くんが一緒にいてくれたからできたこと。




瑛紗:私なんか、何も頑張ってないよ…

〇〇:ううん、違うよ。

瑛紗:え?

〇〇:瑛紗がちゃんとあそこでああ言ったから、あいつらビビってたんだよ?

〇〇:カッコ良かったよ!

瑛紗:〇〇くん…

やっぱり、〇〇くんが言ってくれると安心できた。

素直に喜んでいいって、思えた。



帰り道、気づくと手をずっと繋いでいた。


時々、顔を合わせると何も言わずお互い笑った。


それで気づいたんだよ、〇〇くん。

私ね、その…





〇〇:ん?どうしたの?

私が歩みを止めたのに気がついて、〇〇くんも足を止めて聞いてきた。

瑛紗:ごめんね、急に止まって。

〇〇:あ、いやぁ…平気だよ。

瑛紗:あのね、〇〇くんにその…

瑛紗:伝えたいことがあるの。



深呼吸した。

〇〇くんと目を合わせた。

ちゃんと〇〇くんに伝えたいから…




瑛紗:わ、私ね…その…

いざ言おうと思うと、緊張ってすごいのだと初めて知った。

〇〇:うん。

優しく相槌を打ってくれた。

瑛紗:そのね…、〇〇くんのこと





好きなんだ。




最後の一言だけ、目を逸らしてしまった。けど…



〇〇:嬉しい。

瑛紗:え?

〇〇:すごく嬉しいよ!!

瑛紗:〇〇くん…

〇〇:僕、あの時からずっと思ってたんだ。

〇〇:あの海岸で瑛紗が眼鏡落として僕が拾ってあげた時から、





瑛紗のことが好きだって。




バッ


〇〇:わっ!?


嬉しくて、思わず〇〇くんに飛び付いた。


瑛紗:嬉しい、すっごく嬉しいよ!!!!


喜びのあまり、飛び付いて〇〇くんを軸にして一回転してしまった。


〇〇:両思いだったんだね。

瑛紗:ふふ、そうだね。

〇〇:あっ…


それからそっと、



〇〇くんと唇を重ねた。



fin.

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