姉に溺愛されているお嬢様を助けただけなのに… 2話
〜彩の寝室〜
彩:ふぁ〜、もう朝か。
中世の西欧の装飾が施された寝室で寝ていた彩が目を覚ますと、窓から日差しが差し込んでいた。
(部屋の扉が開けられる音)
彩を起こしにきたメイドが入ってきた。
メイド:お嬢様、朝になり…失礼しました、もうお目覚めでしたか。
彩:うん、今日は天気が良くて早く起きられたみたい。
メイド:それは良かったです。お食事の用意が出来てますので。
彩:うん。ありがとう、真美さん。
真美:それでは失礼します。
メイドの真美がお辞儀をすると、部屋から出ていった。
窓を開けて外の空気を吸った彩が、一枚の紙切れを見つめていた。
彩:〇〇さん…
〇〇が渡した住所が書かれた紙を見ながら、彩が呟いた。
彩:夢、じゃないよね…
三日前、彩は初めて親の言いつけを破って1人で外に出た。
それまでお嬢様として生きてきた彩はすぐに不安にかられた。しかし、足を躓いて転んだところを〇〇に助けられ、そのままの流れで〇〇と一緒に街を見てまわった。
彩:〇〇さん、とっても優しかった…
外のことをほとんど知らない彩の為に〇〇は一緒にアクセサリー屋さんに入ったり、可愛い洋服屋さんに入ったりした。
(回想)
彩:は〜、凄く楽しかったです!
〇〇:良かった。
彩:外の世界が危険なんて、嘘ですね。こんな楽しいのに。
彩:あっ!(足がフラつく彩)
〇〇:疲れちゃったのかな?
彩:そうみたいです…
〇〇:じゃあ。
彩:え?
〇〇:ほら、背中に乗って。
(ここまで回想)
彩:帰る時、おんぶしてもらっちゃった♪
〇〇との思い出に浸り、笑みが溢れていた。
彩:それに…
〇〇と住所先を教え合って別れる時に、咄嗟に彩は〇〇と唇を重ねた…
そのことを考えた瞬間、彩の心臓の鼓動が激しくなり顔が赤くなった。
彩:なんであんなことを…私…
高校の制服に着替えた彩がブレザーを着て、〇〇に買ってもらったサファイア色の石のキーホルダーをつけた鞄を持って下の広間に降りた。
〜流通センター 倉庫内〜
〇〇:クシュンッ!
松下:お、風邪か?〇〇。
〇〇:いや…多分違うと思うんですけど。
バイト先の先輩・松下に声を掛けられた〇〇が鼻を啜る。
松下:ってか、それより今日お前ずっとなんか笑ってないか?
〇〇:え?そうですか?
松下:なんか良いことあったんだろ?
〇〇:え、まぁ…
誤魔化すように、〇〇は商品の入った段ボールを運んでその場から去っていく。
松下:あっ、逃げたな〇〇の奴。笑
その〇〇の背中を、松下は笑いながら見送っていた。
〜歩道〜
高校までの通学に使う道を、彩は美波に付き添われながら歩いていた。
彩:♪〜
美波:ご機嫌ね、彩。
彩:ふふ、なんかお姉様と一緒で嬉しいからかな。
美波:え?う、嬉しい?
彩:うん、いつもは学校行く時ゴンさんとゲンさんが付き添うけど、今日はお姉様と一緒に学校行けるから。
美波:そ、そっか…
妹の満面の笑みを朝から拝めて、美波は悶えていた。
美波:(なんて可愛い顔なの!国宝級よ、この笑顔は!)
彩:あ、お花さんみーっけ。
途中で花を見つけた彩が立ち止まって、鼻を摘む。
美波:綺麗な花ね。
すると彩が美波のもとに来て、美波の着ていたスーツの胸ポケットに摘んだ花を差し入れた。
美波:え?
彩:お姉様にプレゼント。いつもお仕事頑張っているから。
美波:あ、ありがとう❗️(はぁ〜、もう彩を今すぐに抱き締めたい❗️❗️)
どうにかなりそうな美波だった。
〇〇:ふ〜、今日も無事に終えられたっと。
バイトが終わった〇〇は、家に帰えるべく1人歩いていた。
〇〇:・・・元気かな、彩ちゃん。
三日前、道端でたまたま出会った怪我をしていたお嬢様を助けた〇〇。
そのお嬢様こそが彩で、生まれて一度も1人で外に出たことがなかったという。
そんな彩の為に、〇〇は彩を街に連れて行った。
一緒にいる時、ずっと笑っていた彩の顔を思い出して〇〇は微笑を浮かべた。
〇〇:楽しそうにしてて、可愛かったな〜
その後、〇〇は彩の家まで送ったところを姉の美波に連行され危うく死にかけた。
〇〇:本当、あのお姉さまは妄想が凄かったな…
そして、彩と別れる時に…
〇〇:彩ちゃん…
人生で初めてのキスが、まさかお嬢様とすることになるとは思ってもいなかった。
〇〇:どういうつもりで…
一緒に街を散策してくれたお礼か?
あるいは、もしかしてだけど本当に…
〇〇:って、何考えてるんだ?俺は…
立ち止まっていた〇〇は、妄想を中断して再び歩き始めた。
そして、〇〇の住むアパートが見えてきた時、
〇〇:え⁉️
〇〇の住む部屋の前に、彩と美波が立っていた。
彩:留守、みたい?
美波:全く、彩が礼をしに来たというのに無礼な!
彩:お姉様、そんな言い方しないで。
〇〇:あの〜…お2人が何故?
彩・美波:うわぁ⁉️
後ろから現れた〇〇に驚いたのか、2人して大声をあげた。
〇〇:いや、そんな驚かなくても…ここ俺の家だし…
彩:ああ、すいません。勝手に〇〇さんの家に来ちゃって。
〇〇:いや、全然!また会えて嬉しいよ。でも、どうして俺の家に来たのかな?って。
彩:あ、その…実はお礼をしたくて…
持っていた紙袋を彩が〇〇に渡した。
〇〇:お礼?
美波:そうだ、彩が貴方のおかげで街のこと知れて良かったと言っててな。それでお礼がしたいというから、私は付き添っていた。
〇〇:なるほど…(今日は特攻隊の服じゃ無いんだ…お姉さん。)
彩:あの…つまらないモノですが、良ければ。
〇〇:うん、ありがとう。
〇〇は彩から渡された紙袋を受け取った。中を見ると、店の名前が書かれた白い箱が入っていた。
〇〇:え、これってあの超高いマカロンの店のじゃ…
彩:〇〇さんの好みが分からなくて、その適当に選んだのですが。
〇〇:ありがとう、彩ちゃん。凄く嬉しいよ!
彩:本当ですか⁉️良かったです♪
〇〇:うん。
美波:ありがたく受け取れ。
〇〇:そ、そうさせてもらいます…(やっぱり怖い…)
彩:じゃあ、私たちはこれで。
と〇〇と別れようとした瞬間、
(お腹の鳴る音)
彩:あっ…
美波:(やばい…お腹なって恥ずかしがる彩、可愛い過ぎる!)
〇〇:もう夜だし、夕食作るからここで食べてきなよ。
彩:いや、でもそういう訳には…
美波:そこまでする必要ない、彩帰ろ…
(お腹の鳴る音)
美波:⁉️
2人して腹が空いていたのか音が鳴り、顔を赤らめていた。
〇〇:お姉さんもお腹空いてるみたいですし、食べてきませんか?
美波:うぅ…仕方ない…
彩:じゃあ、〇〇さんのお言葉に甘えて。
〇〇:うん、狭いけど上がって。
〇〇は家の鍵を開け、彩と美波を先に家に入れた。
食卓で待っていた彩と美波のもとに、〇〇が作ったグラタンが運ばれてきた。
彩:うわぁ〜、とっても美味しそうですね♪
美波:み、見た目は…悪くない。
〇〇:とりあえず冷蔵庫に残っていたもので作ってみたよ。食べてみて。
彩:では、いただきます。
美波:いただき…ます。
2人がグラタンをよそったスプーンを口に頬張る。
〇〇:どう?
彩:ん〜、美味しいです!ミニトマト入れてるんですね。
〇〇:彩ちゃん、トマト好きって聞いてたから入れてみた。
彩:覚えててくれたんですね!トマト甘くて美味しいです。
〇〇:ふふ、良かった。
美波:(な、彩の好みまで知っているの⁉️解せぬ)
美波:(が、美味い…)
1人、悔しさと美味さに挟まれていた美波。
彩:ご馳走様でした。
美波:ご馳走、様…
〇〇は2人の皿をさげて、キッチンの洗い場で洗っていた。
彩:ありがとうございます、〇〇さん。わざわざお料理まで出して頂いて。
〇〇:ううん、わざわざ足運んでもらったのに、お腹空かせたまま帰す訳にはいかないし。
彩:あ、お手洗いを借りても良いですか?
〇〇:ああ、うん。もちろん。
彩が居なくなった後、食卓にいた美波と洗い場にいた〇〇は無言のままでいた。
美波:(今のところ、怪しい素振りはない…)
〇〇:よし、洗い物終わった。
美波:ん?
〇〇が洗い物をしていた近くに、花がティッシュに包まれて置かれていた。
その花は、今朝彩が美波にくれた花だった。
美波:その花…
〇〇:ああ、さっきそこの廊下に落ちてたんです。可愛い花ですよね。でもなんで廊下の床に落ちてたのかな…?
美波:彩が、くれたのなの。多分、スーツのポケットから落ちて…
〇〇:そうでしたか。良かった、とっておいといて。
〇〇は花をティッシュに包んだ状態で美波に返した。
美波:あ、ありがとう…
〇〇:彩ちゃん、お姉さんのこと大好きなんですね。
美波:え?ま、まあそうだな…当たり前だ。
〇〇:ふふ、なんか羨ましいです。俺なんか兄弟なんていないから…
美波:羨ましい…か。
彩:あれ?どうかしたの、お姉様?
トイレから戻ってきた彩が、美波の顔を覗き込む。
美波:へ?いや、なんでもないよ!
彩:そっか。〇〇さん、私たちそろそろ帰りますね。
〇〇:うん。ありがとうね、お礼にマカロンくれて。
彩:いえ、こちらこそご馳走様させてもらいましたし。
美波:では、失礼させてもらう。
〇〇は彩と美波を見送りに外に出た。
彩:あの…
〇〇:どうした?
彩:また、会えますよね?
彩が小声で〇〇に聞いた。
美波:聞こえてるわよ、彩。
彩:お姉様…その…
美波:他の男だったら許せないけど、この人なら良いわ。
彩:え?良いの?
美波:ただし、ちゃんと会う時は教えてね。何かあったら困るし。
彩:ありがとう、お姉様!
彩が美波に抱きつくと、美波はまた悶えていた。
美波:(うっ…か、可愛いい❗️)
〇〇:俺からもありがとうございます。
美波:ああ。その代わり、彩に何かあった時は覚悟しておくんだな。
〇〇:え…(まさか、またあの木刀で首斬る気⁉️)
〇〇と別れて、我が家の屋敷までの帰り道を彩と美波が歩いていた。
彩:お姉様、どうして〇〇さんとまた会うこと許してくれたの?
美波:どうしてって…別に私だって鬼じゃないし。
彩:てっきりダメって言うと思った。
美波:んまぁ…あの男、そんなに悪くないというか…
彩:良い人でしょ?とっても優しくて丁寧な方だし。
美波:そうね、それは認めるわ。
彩:ふふ、ありがとうお姉様。
美波:(それに…)
ニコニコしてくる彩に美波は微笑み返しながら、スーツの胸ポケットに入った花に触った。
〇〇:ふ〜、とりあえず何も起きないで良かった…
突然彩が訪問してきたのは嬉しかったが、隣に姉の美波がいたので、〇〇は気が抜けなかった。もし失礼なことでもしたら、本当に首が飛びそうだからだ…
〇〇:でも、悪い人じゃなさそうだよな…
と美波に対する警戒を多少緩めた〇〇のスマホに電話がかかってきた。
〇〇:ん?誰だろう…
電話に出ると、
彩:もしもし、〇〇さん?
彩だった。
〇〇:やぁ、彩ちゃん。
彩:すいません、さっき別れたばかりなのに電話しちゃって。
〇〇:ふふ、大丈夫だよ?
彩:なんかまた〇〇さんと話したくなって…
〇〇:(なんて可愛い理由なんだ…)
そんなことを思いながら、〇〇は彩の話を聞く。
彩:あの、良かったらまたいつか一緒に…
〇〇:良いよ、どこか行こう。
彩:良いんですか?嬉しいです!これで明日のテスト頑張れます!
〇〇:テスト…、明日学校なんだね?
彩:はい、一応高2です。
〇〇:そっか。頑張ってね、テスト。
彩:はい、ありがとうございます!
話しているだけで、〇〇自身がまるで彩から元気を貰っている気さえした。
本当に彩は〇〇にとって不思議な子だった。
〇〇:じゃあ、もう遅いしまた明日にでもどこ行くか話し合おっか?
彩:そうですね。
〇〇:うん、じゃあまた…
彩:あの❗️最後に一つ言いたいことが…
急に彩の声が大きくなり、〇〇は驚いた。
〇〇:ああ、うん。ごめんね、切ろうとしちゃって…
彩:いえ…。その、この前のことで…
彩の声のトーンが変わったので、〇〇は何となく彩が言おうとしていることを察した。
彩:門で別れた時に、その…あんなことしちゃって…
〇〇:彩ちゃん…
彩:〇〇さん、びっくりしましたよね?
〇〇:う、うん…そうだね、びっくりした…
〇〇:(でも、それより…)
彩:でも、あれが私の、その…
少し静かになったが、〇〇は彩が再び喋るのを待っていた。
彩:〇〇さんへの気持ち、なんです!
〇〇:…、うん。分かった、ちゃんと受け取っておく。
彩:え?
〇〇:彩ちゃんからの気持ち、ちゃんと受け取っておくよ。
彩:〇〇さん…
〇〇:もう話しておきたいことは無い?
彩:え、あぁ…はい。
〇〇:じゃ、またね。おやすみ。
彩:はい…おやすみ、なさい。
そして、彩との通話が切れた。
〇〇との通話を切った彩は、また心臓の鼓動が激しくなっていた。
彩:どうしよう、〇〇さんとまた話したくて寝られないから電話したのに、もっと寝られなくなったよ…
独り言を呟く彩。
彩:でも、嬉しかった…
「彩ちゃんの気持ち、ちゃんと受け取っておくよ。」
彩:ふふ、早く明日にならないかな♪
興奮が冷めないまま、彩は瞼を閉じて1人ベッドの上で微笑を浮かべていた…
ーto be continued.
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