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美人な音楽の先生に初恋をした話

ー音楽室ー

ふと、ここのピアノの前に来て鍵盤に手を触れる。

〇〇:…

その鍵盤を押すと、曲を成さない音が辺りに響く。

その音が消えかかるタイミングで、僕は一曲弾き始めた。

〇〇:先生…


曲を弾きながら、ある人を思い浮かべていた。


その人は数ヶ月前に他の学校に異動した音楽の先生だった。

異動する直前まで、放課後になると一緒にピアノを連弾していた人で、

そして、僕が初恋をした人であった…




初めて先生と知り合った日…


廊下を歩いていると、音楽室からピアノを弾く音が聴こえてきた。

聴いたことのない曲だったが、昔ピアノを習っていたのと、その音が神秘的に感じたのがあって、僕はそのまま音楽室の方へ脚が進んでいた。


音楽室の扉を開けると、綺麗な女性がピアノを弾いていた。

〇〇:生田先生。

顔を見た瞬間、音楽の教師の生田絵梨花先生だと分かった。


絵梨花:あら、こんにちは。

〇〇:どうも。

絵梨花:君、たしか…1年A組の。

〇〇:赤井〇〇です。 


絵梨花:ねぇ赤井くん、君ってピアノ弾ける?

〇〇:あ、はい!弾けます。

〇〇:小学生の時に習っていたので。

絵梨花:良かった、この曲本当は連弾で弾くものなんだけど一緒に弾く人が居なくてね。

すると、生田先生が椅子からズレて僕に座るスペースを作ってくれた。

絵梨花:一緒に弾いてくれるかな?

〇〇:あ、ええ…

先生の隣に座ると、華やかな匂いがした。


初めて聴いた曲だったので、僕はピアノに置かれていた楽譜を見ながら、先生と弾き始めた。

初めてということもあって、最初は曲のテンポがぎこちなかった。


〇〇:すいません、先生。

絵梨花:ふふ、良いのよ。

絵梨花:でも赤井くんの弾く音を聴いていたら、ちょっと練習すればすぐ弾けるようになるの分かる。

流石、音楽の先生だと思った。


それから、何度も繰り返し弾いて漸く曲全体の音の感じを掴めた。


絵梨花:ふふ、ほらね。

絵梨花:もう弾けるようになったでしょ?

〇〇:ええ、なんとか。

〇〇:弾いていて、心地良いからかも。

絵梨花:なんか嬉しい。

絵梨花:赤井くんみたいな、若い子にこの曲が良いって思ってもらえるの。


学校が閉まる時間になり、僕は生田先生と別れた。


それまで高校生活が始まってから少しの間、自分にとって刺激的なことが起きるなど微塵も期待していなかった。

それがその日から一変した。


〇〇:早く、また一緒に弾きたいな。

などと思いながら、帰り道を歩いていた。



それから何度も、放課後に生田先生が音楽室でピアノを弾いているところにやって来ては、2人で曲を連弾した。


そうしているうちに、僕は先生に秘めたる想いを抱いてしまった。


もちろん、決してそれは許されないことだが…


絵梨花:あ、来てくれたね!

〇〇:先生。

絵梨花:ふふ、おいで。

先生の隣に座って、新しい曲を2人連弾した。


曲を弾いていると、日常で溜まった何かが浄化されて心地よくなるのを毎回感じていた。


曲を弾き終わると、

絵梨花:まだこのままでいたいな〜

〇〇:先生?

絵梨花:〇〇くんと弾いていると、毎日溜まる疲れとか嫌なものが全部消えて、幸せだけが残る気がしてさ。

〇〇:僕もです。

〇〇:先生と一緒に弾いていると、癒されている感じがします。

絵梨花:ふふ、両想いだね。

〇〇:え?

絵梨花:あ、それ意味違うか笑

〇〇:そ、そう…ですね。

絵梨花:ふふ。

〇〇:ふふ。


2人して微笑を浮かべていた。


僕が一瞬でも勘違いしかけたことなど、先生は多分気づいていなかっただろうけど…


でも、そんな日々はずっと続くわけではなかった。


ある日、生田先生が他の学校、それも遠いところの学校に異動することが決まってしまった。


元々、実ることなんてないものだったが、先生がいなくなるという事実に、僕は胸が締め付けられそうになった。




生田先生が学校を去る前日…


僕はいつも通り、音楽室に向かった。


絵梨花:〇〇くん。

教室に入ると、いつものように先生が笑顔を見せてきた。

〇〇:生田先生。

絵梨花:来てくれると思ってたよ。

〇〇:え、あぁ…はい。

〇〇:最後に、どうしても…

絵梨花:ふふ、じゃあ一緒に。

〇〇:はい。

いつものように、先生は椅子からズレて僕のために座るスペースを作ってくれた。


僕が先生の隣に座り、二人とも鍵盤に手を翳した。そして、いつものように連弾をし始めた。


先生と出会わなかったら聞かなかったであろう曲をいくつも弾いてきた。

もう楽譜なんか見なくても自然と僕も弾けるようになっていたからか、連弾すると時々先生と顔が合って微笑み合っていた。

それは、まるで僕と先生にしか通じない会話をしているように…


ここで演奏する度、ここにだけ何かが作られていた。

不思議で、でもどこか懐かしい感じの世界…

でも、そんな世界に居られるのも今日で最後…


〇〇:…

絵梨花:…

全ての曲を弾き終わると、二人して沈黙していた。




絵梨花:終わっちゃったね…

先に先生から口を開いた。

〇〇:そうですね…

〇〇:なんだか…

絵梨花:寂しい…

僕の気持ちを読んでいたかのように、先生が言った。


〇〇:ええ…

絵梨花:私もだよ。

その眼差しが僕をここに引き止めようとして見えて、僕は軽く会釈して椅子から立ち教室の扉に向かって歩き出した。

振り返ることなく、僕は歩みを進めた。

そうしないと、ここから出られない気がした。

振り返ったら、先生の方にまた戻ろうときっとするから…


絵梨花:待って。

背中から声をかけられ、歩みを止めた。

〇〇:…

振り返ったらいけない。

そうどこか理性を働かせようとしていても、僕は振り返ってしまった。

絵梨花:最後に、伝えたいことがあるの…

そして、さっきまで逸らしていたその眼差しに結局引き込まれ、先生のもとに戻ってきた。


僕と間近で話をしたいからか、先生はまた椅子からズレて座るスペースを作った。

そこに僕が座ると、先生が話し出した。

絵梨花:君と一緒に、ここでピアノを弾いてきた訳を。

〇〇:訳…ですか?

絵梨花:最初はね、私の好きな曲を一緒に弾こうとしてくれたのが嬉しかったの。

絵梨花:今までずっと、生徒からそんなことしようとしてくれる子なんていなくて。

〇〇:はじめて先生のピアノを聴いた時、凄く綺麗でした。

〇〇:先生のピアノを聴いていたら、僕も弾きたくなって。

絵梨花:うん。

絵梨花:そんな〇〇くんを見ていたらね、思い出すの。

絵梨花:彼を…

〇〇:え…?


彼、と口にした先生はどこか悲しげで、でもどこか嬉しそうだった。

絵梨花:昔、ちょうど今の〇〇くんと同じ高校生だった時に、放課後になると一緒に音楽室のピアノで連弾していた男の子がいたの。

絵梨花:彼はね、最初は〇〇くんみたいにピアノ経験者じゃなかったから全然弾けなかったんだけど、それでも一生懸命弾けるようになろうとしてくれた。

絵梨花:私と一緒にピアノ弾けるようになりたいからって、ピアノの教室にわざわざ通ってくれたんだ。それから、彼もピアノが弾けるようになって、一緒に弾くのがもっと楽しくなった。

絵梨花:でもある日、彼は突然転校してしまったの。違うクラスの子で、名前も知ることなく、私の想いも伝えず…

〇〇:生田先生…

絵梨花:でも、はじめて誰かにピアノが楽しいってことを伝えられた気がして、それが音楽の先生になるきっかけになったんだと思う。

絵梨花:そして音楽の先生になって、〇〇くんと出会って一緒にピアノ弾くようになったら、いつの間にか君と彼を重ねて見ていた。

教室の窓を見つめながら話していた先生が、僕の方に向く。


〇〇:そう、だったんですね…

絵梨花:うん。嬉しかったの、彼がまた戻ってきたみたいで。

絵梨花:ねぇ、〇〇くんにはいる?

〇〇:え?いるってのは…

絵梨花:その、好きな人。

僕が淡い想いを先生に抱いていたことなんて、先生はもちろん知らないだろう。

先生に見つめられ、僕は胸がざわついていた。

〇〇:え、ああ…

〇〇:それは…

なんて答えるか迷った結果、

〇〇:まだ、いません…

嘘をついた。


絵梨花:そっか。

〇〇:(ダメだ、言えない…)

〇〇:(だって、教師と生徒が…)

絵梨花:じゃあ…

その瞬間、先生が僕との距離を一気に縮めてきて、

〇〇:えっ…

目を瞑った先生の顔が目の前にあった。

そして…



〇〇:!




一瞬のことだったが、確かに先生の唇は僕の頰に触れた。




僕から離れた先生は、また女神のような笑みを見せてきた。

絵梨花:おまじないだよ。

〇〇:え?

絵梨花:いつか、〇〇くんが運命の人と結ばれるように。





生田先生が他の学校へ転勤して半年後。



?:〇〇〜

振り返ると、茉央が手を振って走ってきた。

〇〇:茉央!

茉央:今日も良い天気やな〜

〇〇:そうだね。

茉央:こんな日には、青い鳥さん手に乗せて歌いたいな〜

こんな可愛らしいことを言う茉央は歌声が綺麗で、よく二人でカラオケに行って茉央の歌声を聴くのが楽しみだった。

〇〇:茉央は可愛いし声も綺麗だから、今歌ったら来るんじゃない?

茉央:え、そうかな〜

茉央:てか、照れるやないか!

バシッ

茉央は笑いながら背中を叩いてきた。


〇〇:痛っ!

〇〇:そんな力入れて叩くとないだろ〜?

茉央:だって、恥ずかしいんやもん!

茉央:けど、嬉しいで。

そう言う茉央の笑顔を見る度、毎回ドキッとさせられていた。


茉央:〇〇〜

〇〇:何?

茉央:大好きやで。

白い歯を見せながら、茉央はニコニコして言った。

〇〇:うん。

〇〇:僕も、茉央が大好き。


先生からのおまじないのおかげか、僕には茉央という大切な人がで出来た。



〇〇:(先生、ありがとう。)


今もどこかで人に音楽の魅力を教えている恩人へ、

そして初恋の人へ、

僕は感謝を心の中で呟いた。



その直後、隣を歩く茉央に手を握られた。

茉央:んふふ。

〇〇:ふふ。

2人して見つめ合って、笑みを浮かべていた。


fin.

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