鈍臭いけど一生懸命な新卒ちゃんは、教育係に恋して…
去年の4月、〇〇の勤める会社に1人の新卒が入社した。
?:はじめまして!
?:あ、佐藤…璃果です!
璃果:今日から齋藤さんのもとで、その…お世話になります!
緊張のあまり、語尾が大声になりがちになっていた璃果だった。
〇〇:はじめまして、齋藤〇〇です。
〇〇:今日から佐藤さんの教育係として、色々教えていくからよろしくね。
璃果:は、はい!
璃果:よろしくお願いします!!
〇〇が頭を下げたのを見て、璃果は深くお辞儀をした。
〇〇:緊張してる?
璃果:え、いやぁ…その…
璃果:申し訳ないです…
〇〇:ふふ、分かるよ。初めはそうだよね。
〇〇:俺もこの会社に入った時も、緊張し過ぎて最初の仕事で色々やらかしたからね笑
〇〇は璃果の緊張を解そうと、新人時代の話をした。
璃果:そう…なんですか?
〇〇:うん。
璃果:意外です…
〇〇:そうかな?
璃果:はい、だって…
璃果:齋藤さん、凄く出来る人って感じですし!
〇〇:え?
璃果:え?
一瞬気まずい雰囲気になり、璃果が慌てて謝った。
璃果:あ、いやぁ…その、すいません!
璃果:まだ入社したばかりなのに、その…知ったような口を聞いて…
〇〇:ふふ、大丈夫だよ。
〇〇:でも嬉しいな、そう言ってもらえて。
璃果:え?
〇〇:昔は周りの皆んなから、頼りない奴なんて散々言われてきたから。
璃果:そう、だったんですね。
〇〇:ま、お喋りはここまでにしよっか。
〇〇:そろそろ仕事しないと、怒られちゃうし笑
と〇〇から話を切り上げて、仕事を始めた。
〇〇:良いかい?これはこうで…
璃果:はい!
〇〇:そしたらこうなって…
璃果:はい!
〇〇が仕事の手順を教える度、璃果は声量が大きい返事をした。
〜昼休み〜
璃果:はぁ…
午前中で覚える仕事の内容の多さに圧倒されて、璃果は疲れ果てていた。
〇〇:お疲れ様。
璃果:お疲れ様…です。
〇〇:どう?結構大変でしょ?
璃果:は、はい…
璃果:覚えなきゃいけないことが沢山あるのに、全然ついていけなくて…
璃果:はぁ…こんなんじゃダメですよね…
〇〇:まぁ、最初はそんなだよ。
〇〇:焦らず、少しずつ身につけていけば良いよ。
璃果:齋藤さん。
しかし、それから暫くは仕事で失敗を立て続けに起こしてしまう璃果だった。
ある日には…
〇〇:佐藤さん、これ全部違う番号になっている。
璃果:え?
璃果:ああ!
〇〇:しょうがない、一緒に直そっか。
璃果:すいません…
別の日には…
〇〇:佐藤さん、取引先に資料送った?
璃果:資料…
璃果:あっ!
璃果:まだです…
〇〇:マジ⁉️
〇〇:と、とりあえず急いでメールで送って!
璃果:は、はい!
少しして、
璃果:齋藤さん、資料が見つかりません!
〇〇:嘘⁉️
また別の日には…
璃果:大変です!
璃果:昨日完成させたプレゼン用のパワポ、データ消えました!
〇〇:え⁉️
〇〇:バックアップは取ってない?
璃果:そ、その…
〇〇:無いんだね…
璃果:は、はい…
仕事でミスをする度、心折れそうになりながらも璃果は〇〇に助けられていた。
璃果:はぁ…
〇〇:どうした?溜め息ついて。
璃果:私、この仕事向いてないのかなって…皆さんに迷惑かけてばかりだし。特に齋藤先輩には凄く。
璃果:私なんかお荷物ですよね…
〇〇:まぁまぁ、そんな気を落とさないで。
〇〇:佐藤さんは、ノートとか取ったりしてる?
璃果:ノート…ですか?
〇〇:うん、例えば前に失敗したことをノートに書いて、次に同じ失敗をしないようにするためにどうしたら良いかとか書く。
璃果:う〜ん、書いてないですね。
〇〇:そっか、ならこれからノートに書いた方が良いね。そうすると、失敗減って仕事のパフォーマンスが上がるからさ。
璃果:分かりました。
璃果:やってみます!
〇〇:うん。
それから璃果は仕事でのミスが徐々に減っていき、ようやく会社に馴染めていった。
璃果:部長、頼まれていた資料が出来ました。
部長:おー、お疲れ様。じゃあ、ちょっと見させてもらうね。
少しして、部長が資料を読み終えた。
部長:うん、これなら大丈夫だね。
部長:前より、凄く見やすくなっているよ。
璃果:あ、ありがとうございます!
部長:この調子で頑張ってね。
璃果:はい!
ウキウキした様子で璃果がデスクに戻ると、〇〇がやって来た。
〇〇:佐藤さん、嬉しそうだね。
璃果:齋藤先輩。いや〜、さっき部長に褒められてちょっと気分が上がっています。
〇〇:ふふ、そっか。
〇〇:なんか嬉しいよ。
璃果:先輩も何か良いことあったんですか?
〇〇:そりゃ〜、もちろん。
〇〇:佐藤さんが日に日に成長して、仕事楽しそうにしているから。
璃果:えへへ、なんか恥ずかしいです。
〇〇:えー?恥ずかしがらないでよ笑
璃果:でも凄く嬉しいです。先輩にそう思ってもらえて。
そんな〇〇と璃果を、離れたところから覗く者たちが…
?:何よ、あの女…
?:本当、つい最近までこの会社の厄病神だったのに。
?:ちょっと出来るようになったからって、調子に乗ってない?
?:しかも、〇〇さんとイチャイチャしてさ。
?:生意気よね?
〇〇:じゃ、また。
璃果:はい。
〇〇と別れてから、璃果は1人心の中で呟いていた。
璃果:(齋藤先輩のおかげで、本当最近仕事楽しいな。今までずっと迷惑かけてきたけど…)
璃果:(でも失敗しても先輩は優しく教えてくれて、だからそれに応えようって思って頑張れたな〜)
璃果:(齋藤先輩、本当カッコ良いな〜。彼女さんとか居るのかな?)
璃果:(もし居ないなら…)
などと、1人淡い想いを抱いていた。
すぐ近くで、そんな自分に憎悪の眼差しが向けられているとも知らずに…
ある日のこと…
〇〇:ふ〜、ちょっと休むか。
デスクから離れ、〇〇は缶コーヒーを買いに行った。
プシュッ
〇〇:ふ〜、良い仕事は良い休息から。
〇〇:な〜んてね笑
コーヒーを飲みながら、〇〇はここ最近の璃果の成長ぶりに嬉しさを噛み締めていた。
〇〇:最初はちょっと不安だったけど…
〇〇:でも一生懸命になって仕事覚えてくれて。
〇〇:今では、部長からも褒められるようになって。
(回想)
璃果:あ、ありがとうございます!
部長:うん、凄く良い案だったよ。
部長:もう齋藤なんか追い越しちゃうかもしれないな笑笑
〇〇:はは、そうかもしれません。
部長:何笑ってんだ、お前は。
部長:気抜いて良いわけじゃないからな?笑
〇〇:すいません、調子に乗離ました笑
璃果:でも、今の私があるのは齋藤先輩をはじめ皆さんのお陰です。
璃果:私なんかまだまだですから、もっと頑張ります。
部長:おお、良い意気込み。
部長:でも、無茶はしないで良いからね。佐藤さん。
部長:齋藤も佐藤さん見習え?
〇〇:はは、そうですね〜
(ここまで回想)
〇〇:さてと…
〇〇が自販機前から移動して、オフィスに戻るための通路を歩いていると、女子トイレから啜り泣く声が聞こえてきた。
〇〇:!
〇〇が立ち止まって、耳を澄ませると…
〇〇:(佐藤さん⁉️)
声は璃果のだと判明した。
先に自分の仕事デスクに戻ってきた〇〇は、璃果のデスクの方に目をやる。
〇〇:(大丈夫かな…)
少しして、璃果が戻ってきた。
璃果の服の袖が濡れているのが見えた。
璃果:…
〇〇:佐藤さん。
璃果:あ、先輩…
〇〇:はい、これ。
璃果:え、ああ…
璃果に買ってきた缶コーヒーを、〇〇は差し出した。
璃果:ありがとうございます!
〇〇:いえいえ。
〇〇:ちゃんと休まないとね。
璃果:はい!
璃果:残り少ないので頑張ります。
〇〇:うん。
〇〇と話している時は笑顔になっていた璃果だが、〇〇がデスクに戻っていくとまた表情が暗くなっていた。
もちろん、遠くから〇〇はそれを見ていた。
仕事が終わった〇〇は、同じく仕事を終えて帰ろうとする璃果のもとに向かった。
璃果:先輩?
〇〇:お疲れ様。
璃果:あ、お疲れ様でした!
〇〇:今日さ、この後焼き鳥が美味しい店に行こうと思うんだけど。
〇〇:佐藤さん、一緒にどうかな?俺が奢るからさ。
璃果:え、ああ…
璃果:良いんですか?
〇〇:うん。
璃果:ありがとうございます。
会社を出て、2人は仕事帰りの人々が行き交う道を歩いた。
〇〇:あの佐藤さん。
璃果:何ですか、先輩?
〇〇:謝らなきゃいけないことがあるんだ…
璃果:え?
〇〇:その、さっき佐藤さんがトイレで泣いてるの聞いちゃって…
璃果:あ…
そのことかと言わんばかしに、璃果は表情が暗くなっていく。
〇〇:本当、ごめんね!
璃果:先輩、私…
途中まで言いかけて、璃果はそのまま〇〇の胸元に引き寄せられるように顔を埋めた。
璃果:うぅ…
〇〇の胸元で璃果は嗚咽していた。
〇〇:(佐藤さん…)
そんな璃果を、〇〇はただそっと抱きしめた。
暫くして璃果が泣き止み、〇〇に事情を話した。
〇〇:佐藤さんをあの人たちが…
璃果:先輩に気に入られて良い気になるなって…
璃果:私怖くて…
璃果:でも、先輩に迷惑かけたくなくて…
璃果:本当に、すいません!
同じ会社の女子たちに陰湿な嫌がらせを受けていたにも関わらず、璃果は〇〇に謝った。
〇〇:ううん、佐藤さんは何も悪くないよ!
〇〇:寧ろ、俺こそ済まないことしたよ…
〇〇:佐藤さんが虐められているのに、気づくのが遅くて。
璃果:そんなことないです!
璃果:私も心の中で、先輩に認められて良い気になっていたかもしれないし…
〇〇から目を逸らして璃果は言った。
〇〇:良いじゃん、そう思ってもさ。
璃果:え?
〇〇:だって俺は、佐藤さんが1番の後輩だって思うよ?
〇〇:いつも仕事に全力で、礼儀正しくて、愛嬌があって。
〇〇:俺、佐藤さんの教育係になれて本当に良かったと思っているよ。
璃果にまっすぐな眼差しを向けて〇〇は言った。
璃果:齋藤先輩…
璃果:うぅ…
泣き止んでいた筈の璃果が再び目がウルウルしてきたのを見て、〇〇は慌てた。
〇〇:あぁ…
〇〇:ごめん佐藤さん!
謝る〇〇に、璃果は顔を横に振る。
璃果:いえ…違うんです。
璃果:その、嬉しくて。
涙を垂らしながら、〇〇に笑みを見せる璃果だった。
ー居酒屋ー
璃果:ぷは〜、最高です!
ジョッキに入ったビールを飲む璃果を、〇〇は微笑んで見ていた。
〇〇:ふふ、そうだね。
焼き鳥が運ばれてきて、璃果が塩ダレを頬張る。
璃果:んー、美味しい!
〇〇:美味しいよね!
璃果:こんなに美味しい焼き鳥、初めてです!
〇〇:ふふ、良かった。
酒と焼き鳥で、〇〇と璃果は話が弾んでいた。
〇〇:あはは、それは無いよー
璃果:なんでですかー!
璃果:絶対いけますってー!
それから2時間くらい経ち、2人は店を出た。
璃果:は〜、楽しかったです!
〇〇:良かった、そう思ってもらえて。
璃果:あ〜、明日から会社行きたくないです〜
璃果:転職しちゃおうかな〜
酔った勢いで、璃果は言った。
〇〇:あ、そのことなんだけど…
璃果:え?
〇〇:本当にさ、違う会社で働いてみない?
璃果:違う会社、ですか?
〇〇:うん、あとで部長とかに話つけるからさ。
〇〇:俺の姉が勤めている会社なんだけど、多分佐藤さん気にいると思うんだ。
璃果:う〜ん。
璃果:行きたいです!
〇〇:おっけー、じゃあ部長に明日話してみるね。
璃果:ありがとうございます!
話が決まり、2人は駅まで歩き出した。
少しして、璃果は立ち止まった。
璃果:齋藤先輩!
〇〇:ん?
璃果に呼び止められ、〇〇は振り返った。
璃果:あの、どうしても伝えたいことが…
〇〇:え、ああ…うん。
璃果:私、齋藤先輩のもとで働けて凄く楽しかったです!
璃果:こんな鈍臭い私を先輩は優しく指導してくださって、仕事が終わるといつも笑ってお疲れ様って言ってくれて、仕事で上手くいくと真っ先に先輩は私のことを褒めてくれて。
璃果:そんな先輩が、私…
大好きなんです!
〇〇:!?
〇〇に想いを伝えたい璃果は、顔を赤らめていた。
璃果:転職したら、先輩と会う回数少なくなるから…今伝えたかったんです。
〇〇:佐藤さん…
璃果から想いを伝えられた〇〇は、璃果のもとに歩み寄った。
〇〇:俺も、佐藤さんに伝えたいことがあるんだ。
璃果:齋藤先輩。
〇〇:俺も、佐藤さんが好きなんだ。
その瞬間、璃果は〇〇に抱きついた。
〇〇:!
璃果:嬉しいです、先輩!
抱き合いながら、璃果は〇〇と顔を合わせ微笑んだ。
そんな璃果に、〇〇も微笑み返した。
次の日、〇〇は部長に璃果のことを話した。
部長:ん〜、それなら仕方ないな。
部長:うん、良いよ。
〇〇:ありがとうございます。
部長:まぁ、佐藤さんがいなくなっちゃうのは寂しいけど、彼女が働いて楽しいって思えるならそれが1番よ。
1週間後、璃果は〇〇の姉が勤めている会社に
転職した。
それから間もなく、向こうで璃果が大活躍だと言うのを〇〇は姉から伝えられた。
ー居酒屋ー
飛鳥:璃果ちゃん凄いよ。この前も、一緒に営業行ったんだけどさ、向こうが凄く璃果ちゃんの案に食いついて直ぐ契約取れちゃったもん。
〇〇:うん、聞いてるよ。
飛鳥:そっか、まぁ〜そうよね。
飛鳥:あんたたち、ラブラブだもんね〜
〇〇:ラブラブって…
飛鳥:良いじゃない、ラブラブでしょ?
〇〇:そりゃ、そうだけど…
〇〇:なんか姉さんに言われると嬉しくない。
飛鳥:何でよ〜褒めてるのに!
〇〇:だって、揶揄っているように聞こえるから。
飛鳥:ふ〜ん。やっぱりラブラブじゃん。
〇〇:話聞いてた?
飛鳥:いや、ちゃんとそう思っているから。だから、私に言われてムキになっているじゃん!
〇〇:え、ああ…
飛鳥:んふふ、どうだ?参った?笑
〇〇:ったく笑
飛鳥:璃果ちゃんのこと、大切にしなよ?
〇〇:うん、もちろん。
飛鳥:ふふ。
それから、姉弟で乾杯してビールを飲んだ。
ー現在ー
待ち合わせ場所の駅前広場に来た〇〇は、璃果を待っていた。
〇〇:(ちょっと早く来すぎたかな?)
腕時計を見ながら、そんなことを思っていると…
璃果:〇〇さーん!
璃果がニコニコしながら現れた。
〇〇:璃果ちゃん!
恋人同士になった2人は、お互いを名前で呼ぶようになった。
璃果:ちょっと早く来ちゃったと思ったんですけど、〇〇さん早いですね。
〇〇:今日が楽しみで、早く来ちゃったよ。
璃果:ふふ、私もです。
デートということもあってか、いつも以上に璃果が可愛らしい服装で来たのを、〇〇は見惚れていた。
璃果:〇〇さん?
〇〇:ん、ああ…ごめん、ちょっと。
璃果:あ、どうです?今日のこの格好。
〇〇:帽子、可愛いね。璃果ちゃんに、似合っているよ。
璃果:えへへ、これこの前買ったばかりなんです。
〇〇:それに、服も。
〇〇:だから、その…
一緒に会社にいた頃は璃果に見せることのなかった〇〇の動揺っぷりが、今は分かりやすいくらい出ていた。
〇〇:全部、可愛いよ。
璃果:ふふ、らしくないですね♪
〇〇:そ、そうかな…
璃果が手を差し出してきた。
璃果:手、繋ぎましょ?
〇〇:う、うん。
完全にペースを璃果に握られていた〇〇だった。
〇〇と手を繋いだ璃果は、歩きながら時々〇〇の肩に頭をくっつけてきた。
璃果:〇〇さん、あったかい。
璃果:ふふ。
〇〇:(あんな億劫だったのに…)
〇〇:(でも凄く可愛いくて、良い)
そんなことを璃果に対して思いながら〇〇は璃果に微笑みかけて、璃果も〇〇に微笑み返した。
fin.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?