嫌われたと思っていた憧れの人の本心は…
今、自分はアメリカにいる。
そして、日付を見てふと思い出した事があった。
3年前の今日、あの人の送別会を皆んなでした。
大学のサークルの先輩だったあの人は、夢だった海外でのデザイナーとしての仕事に就くことが決まり、日本を旅立つ前に彼女を祝おうと皆んなで集まって馬鹿騒ぎした。
宴の間はずっと笑い声が絶えず、しかし宴が終わる頃には皆んな寂しくなって泣く人もいた。
でもそれは皆んなあの人が大好きで、一緒にいられた時間が何よりの宝だったからだと思う。
そして、あの人を空港で見送る日が来た。
皆んな握手したり、ハグしたりして別れを惜しんだ。
皆んなが、あの人との思いを分かち合っていけたんだろう。
寂しくても、暖かく彼女を見送ろうとなっていた。
でも、僕は違った…
送別会の日も、空港で見送る日も、
ずっと僕は、あの人と距離を感じていた。
いや、まるで向こうから存在を忘れられている感じがした。
あの人に僕は見えてなかったのかと思うくらい、話すこともなく、目を合わせることさえなかった。
実は僕の姿が見えていなくて、本当は僕のことを探そうとしてくれた…
そんな素振りでも見えたら、まだ希望はあったかもしれない。
でも、そんなことは微塵も感じられなかった。
いや、こんなの被害妄想に過ぎないんだ。
自分から話しかけたら良かったじゃないか。
そう思うのは、至極当然である。
でも、あの時何故か話しかけに行ってはいけない気がした。
あの人に話しかけに行ったら、折角の祝いが台無しになる気がした。
僕なんかが、あの人に近づいたらいけない。
そんな気がした。
そう、それはまるで有名人の一ファンがその憧れの人と関係を持つことを夢見るみたいに…
でも、そんな幻想を持つ理由は確かにあった。
サークル時代、あの人は何故か僕が集まりの場で1人になっていると必ず話しかけに来た。
そして、何故か物凄くあの人と話すのが楽しかった。
同じ趣味を持つ者同士だから話が合うはずなのに、僕はサークルに入った時から何故か馴染めなかった。
同期とすら話が合わなかった。
そんな僕にあの人は毎回話しかけに来ては、気付いたら2人で爆笑していた。
そしてある時、一緒に出掛けるのに誘われた。
ー4年前ー
〇〇:ドライブ、ですか?
奈々未:そうだよ。自然を感じに行くのも良いかなって。
〇〇:是非、行きたいです!
奈々未:よし、決まりだね。
そして、レンタカーを借りて2人でドライブの旅に出た。
あの人の言う通り、その旅は最高だった。
海岸線沿いをレンタカーで走っている時、窓を開けると潮風が気持ち良かった。
途中で気になる店を見つけたら適当な場所でUターンして向かい、その地方ならではのグルメを堪能したりした。
辺りが田んぼの道を進んだ時は、居たことがないはずなのに何故か懐かしさを感じた。
あの人との旅は、日々の生活の騒々しさを忘れさせ、穏やかな時がずっと流れていた。
〜砂浜〜
〇〇:ふあ〜、それにしても綺麗ですね。ここは。
奈々未:ね。夕陽も綺麗だし。海に赤い宝石がキラキラ浮いているみたい。
〇〇:そうですね。僕もそう思います。
奈々未:本当に思った?笑
〇〇:いや、嘘じゃないですよ!
奈々未:ふふ、分かっているよ。
目が合った時、奈々未さんは僕に温かい眼差しを向けてくれた。
奈々未:こういう所に来ると思うんだ。
〇〇:何をですか?
奈々未:人生って、もっと気楽に生きて良いんだって。
〇〇:もっと、気楽に…
奈々未:時々あるじゃない?なんかもうどうしようもなくて、息が詰まっちゃうこととか。
〇〇:ありますね。
奈々未:でもさ、今海がこんなに綺麗なの見たら何か悩みとかがさ、ちっぽけに見えるんだ。
海を見つめながらそう語る奈々未さんは、いつも以上に微笑んでいた。
奈々未:そう思うと、悩んでいたのが可笑しく思えて、それで前に進めるんだ。
〇〇:奈々未さんにも、悩みとかあるんですか?
奈々未:あるよー、そりゃ!
〇〇:へ〜。
奈々未:へ〜って、私別に仙人とかじゃないから!普通の人間だよ!
〇〇:僕は、奈々未さんって仙人みたいだなって思ってましたよ?
奈々未:嘘つけー、今とってつけて言ったでしょ?
〇〇:いやいや、本当ですよ。
奈々未:本当か?
〇〇:でも今取り乱している奈々未さんは人間っぽくて、それも好きです。
奈々未:本当にそう思ってくれてる?
〇〇:本当ですって!
奈々未:そっか、嬉しいな。
それから、しばらく2人で浜辺で組み立て式の椅子に腰掛けながら静かに海を眺めていた。
辺りが暗くなり、星の光が海に反射していた。
奈々未:綺麗だね。
〇〇:本当ですね。
奈々未:このままずっとここにいたい。〇〇くんと…
〇〇:え?
その時、自分の胸の奥がざわついた。
初めて感じた、その激しさに揺さぶられて思わず口が開いた。
〇〇:奈々未さん、僕…
奈々未:ん?
〇〇:その…
でも衝動に駆られてするべきではないって、理性というブレーキが掛かかった。
〇〇:本当にありがとうございます。今日のドライブに誘ってくれて。
奈々未:楽しんでくれたなら、何よりだよ。
〇〇:はい。
奈々未:でも一つ問題があって…
〇〇:え?
奈々未:帰るの面倒くさいから泊まりたいけど、何処に泊まるか決めてない。
〇〇:と、泊まるんですか⁉️
奈々未:うん、だって楽しいじゃん?その方が。
〇〇:はぁ…
奈々未:でも宿とか予約してないから、今から空いているとこ探さなきゃだけど、見つかるかな…
〇〇:あぁ…時期も時期ですし、どこも満室かも…
奈々未:そうなんだよ…
〇〇:じゃ、野宿します?
奈々未:ん、それもアリか!
〇〇:いや、冗談です。しかも無いですよね?テントとか。
奈々未:え、ビニールシート敷いて寝れば。
〇〇:風邪引きますよ⁉️流石に夜は…
奈々未:なんだよー、釣れないな〜笑
〇〇:いやいや…
奈々未:てか、最悪車で寝れば良いじゃない?
〇〇:あ、確かに…
奈々未:ぶふっ!
〇〇:え、なんで吹いているんですか?
奈々未:いや、だって…ぶふっ!なんでこんな馬鹿みたいな会話してんのかなって、思ったらさ…ぶふっ!笑
〇〇:ふっ…笑
そのまま釣られて、2人で爆笑していた。
結局、その日はなんとか安い宿の部屋を確保することが出来た。
でも、その秘密のドライブ以降からだろうか。
あの人と僕とが話す機会が減っていった。
僕はあの日に、何か自分がやらかしたのではと思い謝りに行こうとしこともあったが、よくよく振り返ってみると思い当たる節が全然無かった…
それで謝りに行っても、寧ろ不誠実さを露わにしてしまうことになる…
僕は、結局自分からもあの人に話しかけることは出来なかった。
そんな過去を思い出しながら、僕はこの異国の地での1人旅を再開した。
カフェに入り淹れたコーヒーの香りを嗅いでいると、1人の女性の後ろ姿に注目した。
〇〇:え…
髪は茶髪で、時々見える横顔はどこかあの人に似ていた。
〇〇:まさか…
カフェを出て行く彼女を見て、僕はすぐ後を追い掛けようとした。
注文をしていたが、コーヒーは飲めそうになかったのでチップを多めに置いて僕は店を飛び出した。
彼女を追いかけて、人混みの激しい大通りを通り、路地裏に出た。
後をつけられていると気付いた向こうが、警戒して走り出そうとした。
〇〇:奈々未さん‼️
大声を出されて驚いたのか、向こうはピタリと足を止めた。
そして、こちらを振り返った。
?:〇〇、くん?
追いかけた彼女は、紛れもなくあの人だった。
〇〇:は、はい…
奈々未:どうしてここに…?
〇〇:あ、それは…
奈々未:私を探しに来たの?
目が警戒を解いていないのが見えて、僕はやってしまったと思った。
〇〇:すいません…
1人旅にこの国を選んだのは、そう…
どこかで、まだ虚しい希望を抱いていたからだ。
〇〇:ここに来たら、あなたに会えると思って…
奈々未:そう…
〇〇:でも、多分意味無いんですよね。
奈々未:〇〇くん…
〇〇:ただ貴女に迷惑かけただけですよね…
僕とはもう関わりたくない貴女の気持ちを無視して僕は…馬鹿なことをしました。
そうだ。
これでいい。
これで、漸く吹っ切れ…
奈々未:そんなこと言わないでよ‼️
〇〇:え…?
奈々未:〇〇くんが私に迷惑かけたとか、私が〇〇くんと関わりたくないとか…そんなこと、言わないでよ…
〇〇:奈々未さん…
奈々未:やっと、やっと会えたのに…
一瞬で、身動きが取れないくらい抱き締められた。
〇〇:そんな、だって…だってあの時…
奈々未:ごめん、全部私のせいなの…
〇〇:え?
奈々未:あの時、〇〇くんを守りたくて。
温もりのある涙が僕の肌についた。
(回想)
?:奈々未、もし後輩くんたちから彼氏候補選ぶとしたら誰が良い?
?:あたし士くん!
?:あー、良いよね!あの子はイケメンだし。
奈々未:えー、私は〇〇くんかな。
?:え?マジで言ってる?
?:流石になくない?あんな陰キャな子は。
?:うん、罰ゲームでも無理。
奈々未:あっ…、っていうのは冗談で。
?:あはは、だよね奈々未。
?:ま、もし向こうが本気で奈々未に近づいたら思い知らせないとだね。
奈々未:(違う、冗談じゃなくて私は〇〇くんが本気で…)
(ここまで回想)
奈々未:友だちと冗談で話していたことだけど、私は本当は〇〇くんが好きだった。でも、付き合っているってバレたら〇〇くんが周りから虐められるんじゃないかって…だから私、〇〇くんのことを無理矢理避けてた…
耳元で奈々未さんは泣いていた。
奈々未:でも、結局それで〇〇くんを私は苦しめた…それに、私〇〇くんを守るためじゃなかったんだと思う…
奈々未:自分が弄られるのが怖くて、自分が可愛かっただけなんだ…
〇〇:奈々未さん…
奈々未:最低だよね、私って…本当に最低…
涙でぐじゃぐじゃになりながら、奈々未さんは言った。
〇〇:違いますよ!
〇〇:奈々未さんは悪くない!
奈々未:〇〇くん…
〇〇:僕が悪いんです!僕が奈々未さんの気持ちに気付いていれば!それか…
〇〇:あの日、海を一緒に見た時に奈々未さんが言ってくれたように、もっと気楽にいれば。横やり入れてくる人たちなんか気にしないくらい、僕が堂々として気楽にいれば…奈々未さんに辛い思いをさせなくて済んだ。
それから、どれくらい時間が経ったかは分からない。
落ち着いて路地裏から波止場に出ると、奈々未さんから口を開いた。
奈々未:ここ、綺麗でしょ?
〇〇:そうですね。
場所は違えど、夕陽に照らされた海があの場所とそっくりだった。
〇〇:奈々未さん。
そのことが後押ししてくれたのか、面と向かって僕は言った。
〇〇:2人でドライブした日。あの砂浜で僕は言うべきでした…
それから深呼吸して、再び口を開いた。
〇〇:奈々未さんのことが好きって。
その時、久しぶりに奈々未さんの微笑んでいる顔が見えた。
奈々未:わたしからも、ちゃんと言わなきゃだね。
奈々未:〇〇くんが、大好きって。
気楽とは程遠い4年を過ごした2人は、漸く安らぎを得て一つになれた。
その後、奈々未さんにカフェに戻ろうと提案された。
奈々未:注文してたのに、そのまま飛び出したままじゃ失礼だからね。
〇〇:そ、そうですね…お店の人に謝らなきゃ…笑
しかし戻ってみると、
パァーン🎉
クラッカーの音が鳴り、何故か店員さんたちとお客さんたちが皆んなして僕と奈々未さんを盛大に迎えてくれた。
どうやら僕の様子を見た店員さんが、もし僕ら2人が戻ってきたら祝えるようにしたかったらしく、仲間の店員さんに外で見張らせていたらしい。
店内に吊るされた垂れ幕には、こう書かれていた。
「2人の新しい人生に乾杯‼️」
奈々未さんとまた目を合わせてははにかむようにして笑うと、奈々子さんが僕に飛びついてキスを交わし、周りから歓声があがった。
fin.
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