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Jazz Fudge

土曜日、曇り。今年はまだ殆ど肉眼で桜を見れていないので行きつけのお店で買った白餡とクリームの今川焼き片手に、近所の桜スポットを知る為に近所を徘徊するも、この辺りは桜も猫もあまりない/いない地域のようだ。年明けまで住んでいたところは窓を開けたら目の前桜だったし、地域猫も溢れたところだったのだが。で、散歩をしながら昨夜盛り上がった事もあり、自分がヒップホップに惹かれていったきっかけはなんだったっけかなと思い出してみる。

初めはおそらくIndelible MC'sの12インチ、「Fire In Which You Burn」(これは当時一部界隈でものすごい盛り上がりを見せていて、自分もLOS APSON?で面出しされていたものを購入したし、MOODMANやL?K?O(はミックステープでも当然の様に使っていた)等がフックアップしていたという印象)やDJ KRUSHにMo'Wax、soup-diskや不知火周辺だった様に思う。当初はラップよりもインストのトラックに面白みと興味と中毒性を見出していたというか。

DJ Vadimが運営していたJazz Fudgeというレーベルもその流れにあり、令和になった今も常に身近に存在している。ミニマム(ル)/エクスペリメンタル/アブストラクトといったワードを含んだ禁欲的且つ野心的な、本流からは一寸逸脱した様にも思えるそのアプローチは、当時日本の不知火やsoup-disk周辺とも静かに共振を見せていたかと思う。事実双方は密接な繋がりを持っていて、DJ Vadimの招聘(共演はDJ KRUSHやDJ SHADOWだ)から始まり、soup-diskや不知火のコンピへの楽曲提供、その主宰の2人、原雅明&虹釜太郎コンパイルによる日本独自のコンピレーションアルバム、「Sculpture & Broken Sound」等この頃はとても濃密な関係だった様に思う。

DJ VadimがNinja Tuneからリリースしたファーストアルバム、「U.S.S.R. Repertoire (The Theory Of Verticality)」は、スリリングで実験精神旺盛なその選び抜かれたネタ/音作りには心底驚嘆させられたし、この頃DJ KRUSHもFADERのインタビューにて「おいおい遂に出てきたな」と嬉しそうに語っていたりと徐々にプロップスと知名度を上げていった印象が。現代音楽や物音なんてワードも飛び出す程に深みのあるプロダクションには評価や評判なんぞははなからスルーしていくという凄みみたいなものも当然持ち合わせていた様に思う。事実メインストリームなヒップホップへの嫌悪感みたいな発言もしていた筈。そんなヴァディムが運営するJazz Fudgeに惹かれていくのは半ば当然で、グラフィティアーティストでもあるPart 2やヴァディムの相方(当時)とも言えるプロデューサー、Mark Bのインストアルバム。ビートボクサーKilla Kera、The Rootsの様なバンドスタイルのThe Pelding、DJ Vadimのより実験的な別プロジェクト、Andre Gurov名義等忘れられないアーティスト/タイトルがずらりと並んでいた。

そんなレーベルのカタログ群の中でも特に抜きん出ている一枚と言えば(個人的にもだし、恐らくJazz Fudgeが好きな人の大半がそうであろう)、ヴァディムがAntipop Consortium(以下、APC)&DJ Prime Cutsと共にがっぷり四つで拵えたThe Isolationistのアルバム(何年か前にハードオフで¥100で見つけた盤をSnoop Doggなんかを好きな友人にあげたことがある。聴いてくれてたら嬉しいのだが。あともう一つ思い出した。むかしドムスタで置石くん達とDJした時にかけたら、遊びに来てくれたククナッケさんがIsolationistに反応&ラップしてくれた事を。セルダーン)。APCは後のデビュー盤となる「Tragic Epilogue」リリース前夜の段階でとんでもない傑作を世に放った訳だし、ヴァディムもラッパーと共に作り上げた作品の中では間違いなく最良の一枚だと思う(なんて書いてはいるが、2000年代以降のヴァディムの作品は殆ど未聴なので幾分強引ではあるのだが)。APC3人個々の巧みなスタイルは、所謂ラッパー然としたものからポエティックなものまでレンジは相当に広く、そこにヴァディムはプロデューサーとして様々なアプローチを試みている。真っ当なフォーマットは勿論、ストレンジなサウンドを散りばめたりといった、スキットに至る細部にまで拘り抜いていたと思うのだ。ヒップホップのプロデューサーらしからぬ側面も存分に発揮した紛う事なき私的ヒップホップクラシック。インストのベスト、ラップのベストを一枚ずつ挙げろと言われたら、「U.S.S.R. Repertoire (The Theory Of Verticality)」とThe Isolationistをピックアップするんじゃなかろうか?そしてそこには共にDJ Vadimが鎮座してるというね。

DJ Vadim – U.S.S.R. Repertoire (The Theory Of Verticality)(Ninja Tune)
The Isolationist(Jazz Fudge)

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