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Anticon

遡るに初来日、今はなき新宿リキッドルームでのステージを最前列で当時の恋人(WHY?のヨニさんの事が好きで、二度目の来日も一緒に観ていて、その際は私撮影でヨニさん&恋人のツーショットを撮らせてもらった)と一緒に観た。そのライムに囚われない奔放な姿勢。デリバリーの豊富さ。アヴァンギャルドなスタイルに潜むユーモア。もう、完璧であった。なんというか、こんなにもかっこよくてチャーミングな、それでいて逸脱しながらもぎりぎりなところでヒップホップに回帰したりと短いパフォーマンスながらも完全にロックオンされたし、釘付けになった。そのロックオンの主はDose One、それからこの日パフォーマンスを観るまで完全スルーしていた事を先程当時の自分の文章で知ったWHY?ことヨニさん。2度目の来日ではDJ KRUSHとも一緒にステージに彼等は立ったけれど、後日DJ KRUSHの DVDでAnticonのみんなが、いかに彼がヒーローだったかを語る場面があって、その時のみんなの表情がただのヒップホップヘッズになっていてかわいかったんですよね。


レフトフィールドなアヴァンヒップホップを体現していた(本人達はそう意識していたかはともかく)Anticonというクルーは、とはいえ真っ当なヒップホップを披露する者もおり、絶妙なバランスでクルーは形成されていた様に思う。曲者揃いのAnticonのなかでも特にこの3人、Odd Nosdam、Dose One、WHY?はちょっぴり特別な存在。個々のソロは勿論3人によるcLOUDDEAD、NosdamとWHY?によるReaching Quiet、DoseとWHY?によるGreenthinkも格別だ。他にも彼等とAnticonクルーが流動的に組むグループ、例えばObject Beings、Stuffed Animals等幾つも存在するが、それらもまるっと格別。やっぱり本筋から意図的か否かはわからないけれど、このはみ出してしまった感はたまらない。ストレンジな事をやっていたかと思ったら突然急転直下のスキルフルなラップを披露し始めるとか確信犯なのか天然なのかはわからないけれど、よりかっこよさが際立つというか。ずるい。


ヒップホップをベースに置きながらも様々なスタイルを飲み込んだ音達は、ヒップホップシーン/リスナーからも当然異端的な扱いだっただろうけれど、まあ、だからこそ自分が惹かれていったというのもあり。が、徐々にポストロックやエレクトロニカ、インディーロック辺りまで貪欲に飲み込んだりしていく過程はしかし、個人的には迷走している様にも映り、音的にその時の好みではないものが増えてきたのもあり、殆ど聴かなくなってしまうんだけれど。なので、今回書き記すのは日本に初来日した前後の時期に集中する事をご理解下さい(あの頃は本当に本当に凄かったのだ)。


こんな最高のエピソードもあります。WHY?がバンドで来日した際、ライブ前にヨニさんにインタビューさせてもらう機会がありました(しかし諸々の事情で形に出来ず、各位申し訳ありませんでした…)。良い写真も撮らせて頂きハグもさせて頂き。更にこの年だったかは失念してますが、これまたWHY?来日に合わせてWHY?フリーペーパーを作成し、フライヤー群に折り込んで貰ったので、この日会場にいたお客さんは目にしてくれた方もいたかと思います(ヨニさんへのインタビュー、それからこの折り込みの件でmap小田さん福田さんには感謝の気持ちでいっぱいです。その節はありがとうございました)。そのフリーペーパーは自分のヨニ愛爆発テキストに加え、岡村詩野さん、ASUNAくん、微熱王子さん、hueのsinくん、イツロウさん達にも執筆頂き、デザインはmcatmはまちゃん(は、テキストも)表紙ヨニ画をフランスガムに描いてもらいました。久しぶりに読んで色んな意味でニヤニヤしてしまった。


Odd Nosdamの「親から拝借したレコードを使用しての奇妙なコラージュ集」Plan 9、これが最高にいかれた物件で、およそヒップホップのプロデューサー(という自覚すらないのだろうけど)とは思えぬチープでローファイなテープコラージュの妙を全編で堪能できる。その6年後にリリースされた「Burner」は、同一人物による作品なのかと驚かされる一代サイケドローン歌ものなんかで紡がれるAnticonクラシック。Anticon勢は勿論、Jessica BailiffやMike Pattonといった客演陣を巻き込んだ、実質的なデビューアルバムの位置付けがなされている模様。そのNosdamとWHY?によるReaching Quietは、まず国内流通盤にて読む事が出来るヨニさんのリリック、これに尽きる。変な事歌って&ラップしてるんだろなーという想像の遥か斜め上の上を行く珍妙なリリックの数々。無茶苦茶とも言えるその内容だけど、視点をほんのりずらすと詩的なものにも紙一重で映るという素晴らしい詩の世界。Dose One最初期のテープアルバム(後に自身のレーベルからCDリイシュー)Slow Deathの世界、これは今聴いてもものすごい境地の代物で、まずヒップホップリスナーは拒絶したりハテナが渦巻く歪な構築具合に驚かされる事必至。

cLOUDDEADの6枚の10インチを纏めたアルバムは、先日ここでJazz Fudgeについて書いた際、ラップアルバムのベストを挙げるとしたらThe Isolationistと書いたけれど、このcLOUDDEADも比肩する事を完全に忘れていた。という位に革新的なアルバム。ただ、ラップアルバムかと言われると「うーん」とならざるを得ないけれど、独特のくぐもり具合を孕んだそのプロダクションは、ドローンやサイケデリックな質感にヒップホップとラップが重なりあってとんでもない世界観を作り上げている。


WHY?はElephant Eyelashへ辿り着くまでのリリース全てに思い入れがあり、ミニアルバムもシングルもどれもこれも素晴らしい。元々インディロック的なものも好んでいた彼が、実兄含め気心の知れた者達とバンド編成で鳴らされる音達のまあまあ楽しそうな事よ。個人的にElephant Eyelashが一つの到達点と思ってしまっているのだけど、それは聴く度に毎度思わされる紛う事なきクラシック。

そのWHY?がNinja Tune等からもリリースするFogと共にHymie's Basementを結成し、Lexからリリースしたアルバムの一曲目「21st Century Pop Sog」は勝手に自分のテーマソングと言うか入場曲(?)みたいな特別な一曲。以前Anticon周辺の楽曲をかけるイベントでDJをした際、これをかけた時のフロアの歓喜をわたしは忘れない。鳥肌が立ったのも覚えているし、あーみんなもこの曲好きなんだなーと嬉しく思ったものです。


それからもう一枚。Deep Puddle DynamicsのアルバムもAnticonを語る上ではとてもとても重要。Sole,Dose,Alias(亡くなられた事が信じられない),Slugの4人のMCがマイクを回すという事実だけでごはん何杯でも食べられる…なんて今回もとっ散らかった文章になってしまって申し訳ないです。Anticonの中でも偏ったものばかりを書いてしまったけれど、彼等の独創的なヒップホップは色褪せぬ。ずっと聴き続けるんだろうなと思います。あとあと。3年前に突如Hymie's Basementが新曲を発表しましたが、セカンドアルバム待ってますそして。cLOUDDEADのリユニオン、「今」の3人が鳴らす事を聴きたいなとずっと願っております。そして再びヨニさんのラップも聴きたいぞ。

ヨニさんインタビュー後。写真BYわたくし
写真BYわたくし

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