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ライファティックに就て

『ライフ・アクアティック』という映画をDVDで見ました。

海洋ドキュメンタリー映画を撮影するチームの冒険活劇が劇映画になっている映画で、しかしそのクルーの華々しい活躍の物語ではなく、かつて栄華を誇った監督と撮影隊が近作をインチキだと疑われながら金策に苦労しつつ海を股にかけて悪あがきするというストーリー。

映画を撮る映画の中でその映画は「本当なのか」ということが絶えず問われ続ける。

最新作で仲間が「ジャガーザメ」に食い殺されたシーンを撮影したが、肝心の「ジャガーザメ」は写っていない。映画祭でインチキだと言われて酷評された。仲間は本当に死んだのか。サメは実在するのか。そしてその映画祭のあとの船上パーティーの最中に、監督に「あなたの息子だ」と言って接近してきた若者は本当にかの女との間にできた子なのか。そもそもそんな海洋生物(撮影された24色のクレヨンみたいなタツノオトシゴや海に打ち上げられて光る電気クラゲも)は本当にいるのか。主人公たちが、俗な言い方をしてしまえば川口浩探検隊みたいなのである。

しかし、騙されないぞと思って見ていてのめり込んでしまってから気がついたのだが、そもそもこの映画は劇なのだ。真偽の俎上に載せてウンウン考えていたがそのドキュメンタリーはそういえば劇中劇だったのだ。胡散臭いドキュメンタリーだなあという気持ちで見ていたら地の文をまったくの本当のように思ってしまっていたのだ。正確にいうと「本当なのか」という問題にすらしていなかった。劇映画なのに。それぐらい没頭してしまっていた。

そもそも観客を騙そうとかそういう話じゃなくて、バレないようにリアルにとかせずにすごくキレイでカラフルな作り物がいっぱい使ってあるのに、なんかもう現実のことなんか考えてられなくて一生懸命見てしまった。

現実(映画(劇中劇(その撮影(撮られたドキュメンタリー)))

というすごく重層的な構造に翻弄されて現実がもはや

映画(現実)

ぐらいになってしまったのだと思う。

そうなってしまいたいくらいに物語が面白くて俳優が活躍していて映像がキマッていて音楽がカッコいいのだ。

すごい映画だ!ライフインアクアティック!しかもこの重層的な劇映画にはもうひとつ外側があるのだ…。ウィキペディアで調べて知ったのですが、「ジャック・イヴ・クストー 」という実在の海洋学者で記録映画を撮っていたフランス人がいて、その人に捧げるオマージュとしてのこの映画だというのだ。

なんと言えばいいのかもうわからないけど、嘘ばなしのセンスが良すぎてシビれてしまった。徹頭徹尾かっこよくてしみったれた現実を忘れさせてくれる2時間は何ものにも代え難い。いい映画だったのでたまに何回も見ます。DVD買ってよかった。

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