見出し画像

INA先生の『牛乳配達DIARY』を読んで

「漫画みたいなことがあって面白かったので漫画にしました」と作者がいうこの漫画を読んで、「ほんとだ、漫画みたいだ」と思った。

主人公は地方都市の牛乳配達員。配達の日は調子がいいけど新規契約の飛び込み営業は苦手。お得意さんの軒先や、知らない人の玄関、そして休憩に立ち止まった街角で、いろんな目に遭い、いろんなものを見て、いろんなことを思う。

この冴えない牛乳配達員の生活の漫画を通勤電車の中で少しずつ眺めるように読み、ラッシュアワーの人混みで隠れて笑ったり泣いたりしながら、気がつけば僕の生活は、このおよそジャンプのヒーローにはなり得ぬ主人公にいつも救われていた。そしてふと、

「自分の生活だって捨てたものではないぞ」

と思った。

辛いことや、辛いけど忘れたくないこと、辛いからこそ忘れたくないこと、楽しかったことや思い出したいことなど、不本意な生活の中にも書きとめたい一瞬って沢山あるのだなあとハッとした。

それは僕にもある。僕にだってあるし誰にだってある。それらがこんな愛くるしい一冊の本になるのかと思うと、途端に自分の生活が愛おしく感じられたのだ。

ネタバレで台無しになるような弱い漫画ではないと思うので、38あるエピソードから一編だけ例をとりこの漫画の好きなところを説明させて下さい。

〜〜

p.43 chapter10.「沈丁花」より

春が始まり、日なたの暖かさや日かげの涼しさや、まあまあ吹いてくる風を「最高だ!」と感じながら、お馴染みのお客さんの配達先の庭の花の匂いで「おばあちゃん家を思い出す」主人公。思わずお客さんにその花の名前を聞いてその花の香りと姿を沈丁花と覚える。

それからはその花を見るにつけ「お〜 立派な沈丁花だねぇ」とひとりごち、その花が香るたび、「ややっ!この香りは…」と鼻ざとく気がつくようになる。ここでこの短いスケッチが終わる。

〜〜

花に限らずだけど匂いってさり気ないようでいてたまに「この匂い…」と意識を遠くへ連れて行くことがあって、僕にとっては花だとそれは金木犀でした。そしてそれを金木犀という名前だと知ると、この匂いとこの姿は僕に何か関係があるものなんだなと勝手に思い入れてしまう。

そして日常に戻って、何もなかった日の帰り道などに金木犀を見たり嗅いだりすると、
「あっ、君は金木犀だね」
と思って茫漠とした生活の中に栞を挟むことができるのです。

だからこの漫画のとにかくすごいところは、繰り返しになるのですが、何気ない生活の中でそれを自分の人生だと実感出来るような瞬間って気づかないけど沢山あって、それってあったよなって思い出させてくれるところだと思います。

だから全ての生活者は読むべき漫画だと思います。

急に終わります。お風呂に入ります。

#INA #牛乳配達DIARY

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?