海はいつから星はどこまで③
コインランドリーの帰りにコンビニでポテトチップスと缶チューハイを買って
ああなんかダサい。
酒とお菓子で疲れをあやす
クサいなあ、クサい。
タバコとお酒とポテトチップスとYouTubeのためにしか元気が残っていない
そんな愚痴みたいなことばっかり書いていてもなにも価値がないんだぞ。
疲れながら笑うと思い出す
早く寝ればいいのに。
昔のこと
ちがうな。
どんどん昔になること
あわれっぽい言い方をするな。
今より楽しかったときのこと
それはそうだな。
サンガリアの缶チューハイは安い思い出話によく似合う。
釣りよか久しぶりに見ると面白いな
ポテトチップスばっかり食べている。
もう太っても別に困らないし
でもあのとき釣って殺して食べたマゴチのことがまだ忘れられない。YouTubeで釣りの番組を見ながらお酒を飲んでいる。マゴチ捌く動画ないかと探すとあって、台所に釣りのユーチューバーがちょうど僕が釣ったのと同じくらいの大きさのマゴチを出してきた。
「この世紀末的な部分は危ないのでハサミでとります。」
キッチンバサミで尖った背鰭をこりこりと切り取る。そのまま頸を切ってハサんだまま内臓を抜き取って頭を捨てて血を洗う。
「このくらいの大きさだとこのままハサミでやった方がやりやすいですね。」
体だけになった身を背骨に沿ってハサミで3つに分けてあばらをピンセットで抜いた。ミンチにしてシューマイを作るそうだ。
「もっと大きいのが釣れればよかったんですけどねー。」
だいぶ小さくなってしまった身の乗った紙皿に、もう一枚紙皿をかぶせてUFOみたいな形にして抱える。アラはジャンバーのポケットに入れて、包丁とまな板は後で取りに来ることにしてテントの方へ急ぐ。転ばないように慌てて急ぐ。マゴチの刺身ができました。マゴチ食べれます。ちゃんとおいしいです。
雨はまた止んでいた。もう台風は離れたらしい。なんとか火がついたようで焚き火もできていた。来るときにイオンで買ったラムチョップやステーキやテキーラやビールを少しずつどかして、目立たないようにみすぼらしいUFOみたいなものを置く。なんとなく心細くなり焚き火に薪をくべている佐藤さんの方へ寄る。
「焚き火いいですね。」
「雨止んで良かったよ本当に。刺身できた?」
「一応。」
「おっ、食べよか。」
「佐藤さん、コチっていう魚は骨が硬くて、多くて、骨つまり「コツ」が転じて「コチ」になったって言われるぐらいの魚でとにかく歩留まりが悪くて、しかも僕魚さばくの初めてで、刺身なんか作ったことなくてとにかく難しくて。」
宮本が薪を持って戻ってきたのでサシミのフタを取った。ペンライトで照らす。みんなに見られて刺身はもっと小さくなったような気がする。
「食べれるんですよ。少なくなっちゃったけど。アラはこれです。」
「それは明日の朝に味噌汁にしよう。」
こんなになっちゃうの?とか言われながらみんなで刺身を食べた。おいしいと言ってもらえてやっと心から安心できた。魚の味がさっきより濃く、甘く感じた。よかった。
生殖活動が得意なものはここを去れ。ここは神聖なる生命の搾取の場だ。おれはマゴチをおもしろ半分に釣り、先輩に殺させ、這々の体で刺身をとり、アラを味噌汁にしたものだ。しかし僕のような外道にも星はまたたくのだ。
薪は思いの外よくとれた。これも農学部の小林さんと宮本のおかげである。ゴミ捨て場みたいなところから端材を拾ってきて薪にするのだが、とにかく手際よく、誰1人として怪我をせずに燃やしやすい大きさの木っ端を集めることができた。
木っ端捨て場には丸太がたてに置いてあってそこにグリム童話みたいな斧が刺さっていた。これをむんずと掴み丸太から抜いて構えるともう誰も彼も居ても立っても居られなくてマンダムみたいに樵をしてしまうのだ。湿った木を鋸で切ろうとしていたら、
「縦にするんだよ。木の繊維に沿って斧を噛ませて、トン、トン、トン。ほら持っていけ。」
「はい!」
そうして僕が薪を運び、佐藤さんの焚き火台にくべる。
「対流を考えて隙間を作るんだよ。上からドサドサかぶせるんじゃなくてこのひらぺったい木は縦にして下からこう入れると空気の通り道ができるだろ?」
「はい!」
テントと廃材置き場を往復しながらたまに首をうんとしてそらのほうを見る。空には星が散らかっていてごみごみしていて美しい。雨は止んで火はメラメラと燃えている。地面はここにしかない。 ここにしかないのだ。
(続く)
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