小渡のファミマで缶酒をのんだこと
初めましての方はお疲れさま、お久しぶりの奴らはあとでキスしに行くので住所を教えてください。食物繊維と申します。
このまえ、奇貨と言うべきオファーがあり野外でDJをするチャンスを得たので行ってきました。場所は「カントリーレストラン渓流荘」という山中にあるお食事処で、レストランあり、釣り堀あり、泳げるプライベート淵ありだしテントも張れる、夏休みの子どものためにあるような場所です。(だが秋冬もアツいぞ!もちろん春も!)
行かねば、となり、さて、と考えて、皆んな自家用車で来るけどほなわしはクルマないし運転もムズそう(山中なので)だからどうしよう、と思って、猿を投げると書くそのロケーションにどうにかクルマを運転せずに行ける道はないかと考えることにした。しました。
友だちをひとり誘い2人連れでまずは鶴舞駅に集まる。鶴舞線でトヨタの方まで行けるというのでそれに乗ろうという算段があったから。しかし、トヨタ市駅まで行く電車は少なく、結論から言うと駅で20分ほど待った。待つ間に「移動が多いから本を持って行くね、読んでね」と言って持っていったおれの漫画たち(和山やまの『カラオケ行こ!』と大橋裕之の『夏の手』)は読み尽くされてしまい、手持ち無沙汰から始まる旅もあるのだな、ほほ、と思っていたら電車がものすごいスピードと質量で来たのでしなんようにソッと乗った。
一席だけ座る場所があったので何某くん(同行者を以後このように呼ぶ)に座ってもらい、何某くん、私が渡した『夏の手』を一回読み終わったにも関わらず何度も読んでくれている。よかったね、うんうん。席がまばらに空いてきたので私もその1つに座る。
名古屋にはもう何年も住んでるんだけど、名古屋市を離れて愛知県内へ旅をすることはなかなか無くて、名古屋の市営地下鉄がトヨタ市まで行くということも今日はじめて知ったぐらいの体たらくであり、ほう、ほう、と思いながら車窓から外を見ていた。名古屋を離れるにつれ、故郷のキングストンみたいな茫漠とした田園風景が広がって行き、10月の田んぼのカサカサした様子になにか自分を急き立てられるような気持ちになった。赤トンボももういない。野焼きをたまにしていた。
ほうほうふむふむ言っている間にトヨタ市駅に着く。何某くんは『夏の手』をかなり読んで読み返して時間を潰してくれたので少しクルマ酔いみたいな状態になってて、「大丈夫かい?」と聞くと「大丈夫す」というのだけど、これはおれが「大丈夫」だと言ってほしいがための質問やったな。とか思う。
ここからバスに乗るんだけど、「小渡」行きのバスはあと15分ほどで来る。私はタバコを吸うのでその間に何某くんは『夏の手』をまた検してそのあとバス・ストップに並ぶ。思っていたよりたくさん並んどるな、と思った瞬間に同じことを思っていた何某くんと同じ感想を語り合う。
バスが来、さて乗るかと思ったら何某くんに「これじゃないす。たぶん次のやつす」と言われてよく見るとそのバスの行き先に「観察の森」みたいなことが書いてあり、びびった。沢山並んでいた人たちはこのバスが目当てであったようで行列が急に虚しくなる。これに乗ったらどこへ連れていかれたのかなあ、なに観察したらいいんすかね、とかポヤポヤしたことを言いながら次に来るバスをへらへらと待つ。2分できたのでそれに乗る。
何某くんと2人でイチバン後ろの席に座る。何某くんがクルマ酔いしてきたみたいで、『夏の手』をそんなに読むからだ…。と思いつつ僕になかった『夏の手』の読み方などを聞き、あまりに気分がすぐれない感じになってきたのでお互い少し、寝ることにしました。
バスはドコドコ山道を登っていく。歩いたら着くまでに10回ぐらいは死んでしまうような険しさがあった。車窓から眺めていてもだんだんと山、というか森、みたいな世界が窓越しに伝わってきて、肌がピリピリとする。旅にこの身を晒すのが久しぶりなので泣けてくる。
「小渡」は「おど」と読むらしい。終点のおどに着いたときに車掌さんの声で知る。さて、おどまできたな。バスから出たらバス停の明かり以外に光がなく、少し寒くて、川の音がえげつないぐらいに聞こえてくる。何某くんと2人で笑う。「えー!」「山じゃん!」「一回コンビニ行こう!」暗い道を何度も間違えて、こけつまろびつファミリーマートを目指した。
この話はここで終わりだ。人の話は急に終わる。人生もそうだ。
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