美濃路は一軒、家の側にある
何ごとも特になく、昼過ぎからぼんやりと過ごした火曜日に、ものぐさに過ごしたいが贅沢にはなりたくない。手を濡らさずに八合ぐらいの酒と塩っぱいものがほしい。
そんなときに家の近くに美濃路があってよかった。
焼き鳥の美濃路は前に住んでいた黒川にもあったのだが機会がなく、行ったことがなかった。しかしずっと心の奥でこずんでいて、熾火のようにチリチリと燃えていたのだ。
こんな日に焼肉なんか食べたらバチが当たるし、焼き鳥でいいんだけどなんかないかな。
そういう気持ちで初めて美濃路を訪れたのだが、すごくなんというか、フィットしてしまった。下ろしたての靴を土間で履いた瞬間に「これにしてよかったな」と思う瞬間があなたにもあったとして、それぐらいのほのぼのとした温かさがあった。
取り急ぎ今日のお勘定をあれします。
3,212円。「メガホワイトホース」が少し高くついたが、ジョッキ一杯で四合ぐらいの量があったのでお得だったということは言い添えておきたい。
たらふく飲み、たらふく食べる。理想的な外食だった。
1人で外でお酒を飲むときに何よりも大事にしたいのが「いろいろ食べたいんだよな…」という気持ちである。美濃路ではこれが思う存分叶った。何しろ一品が安く、駄菓子屋でお菓子を見繕ってるときみたいな気持ちで気安く注文できる。
しかし侮りがたし。漬物の盛り合わせ(200円)などは最初から最後までずっと居てくれるような量があったし、「フリーオーダー」となっている新玉ねぎ鶏モモポン酢には小松菜の茹でたやつまであってうまかった。もちろん串焼きも一つ一つきちんと丁寧に時間をかけて焼いてくださるので、デカいハイボールを飲みながら小鉢の細かいおつまみをつまみつつ、文庫本なんか読んで、ずっーと時間を持て余すことがないのだ。
こんなに豊かで面白い時間を小1時間過ごして税込の3,212円なのである。
そりゃ僕だって人間であるから「秋吉が家のそばにあったらな」と思ったことはある。
しかし、秋吉が家の側にあったら人間ダメになる。秋吉はやはり、おいしすぎるのだ。あれはハレの日にとっておきたい。
「今日はちょうどよく飲めたな。3000円ちょっとか。明日からはちゃんと家でご飯つくって食べよう。」
甘やかされすぎないからこそそう思うのだ。
なんでもない日にしゃぶしゃぶの木曽路を歩いて行けるような人生ではないけれど、僕には焼き鳥の美濃路があって良かったなあと思う。これからも踏み外すことなく、実直にこの道を往こうと思う。
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