見出し画像

飛行機

年始に小学校来の友達と会った時、
ふとこんなことを言われた。

『中学校のとき、卒業文集ってあったやん。
 それ、定時の書いたやつがすごい好きでさ、
 写真に撮っていまだに見てるんよな。』

天丼の最後まで取っておいた海老をくわえている私は、
きっと間抜けな顔だった。

..................え?...............卒業文集?
あ〜あったなそんなやつ。懐かしいな。

急いで海老を飲み込んで、聞いてみた。

「なんで好きなん?」

『なんかさ、すごい素直なんよな。
 素直で良い文章やと思った。』

"素直で良い文章"
端的なのにグッときた。
自分が書いた文章に対してもらう言葉で、
これ以上嬉しい言葉はきっとない。
多分、" その言葉 " を " その子 " が言ってくれたから。
どんなに綺麗な形容詞を並べ立てられるよりも、
この言葉が私の心には刺さったんだ。

でも自分が何を書いたのか全く思い出せなかった私は、
家に帰って中学校の卒業アルバムを引っ張り出し、
8年ぶりに自分の卒業文集を読んだ。

そこには、" 修学旅行の思い出 " というお題で、
400字いっぱいに
「初めて飛行機に乗った感想」が書いてあった。

それしか書いてなかった。
なんてこった。
修学旅行の行き先は沖縄だ。
沖縄まで行っておいて、
飛行機の思い出しか書いてないやつなんか
前代未聞に違いない。

でもそこに書かれた文章は
確かにすごく " 素直 " だった。

読んでいたら初めて飛行機に乗った感動を
鮮明に思い出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


まだ滑走路にも入っていないのに、
少し早く動き出しただけで
「うわ〜〜〜!どうしよう!!!
 もう飛ぶ!??飛ぶんかな!!!??」
とバカ騒ぎして
隣の子にまだだよとなだめられて恥ずかしかった。

滑走路はそれまでと比にならないくらい、
嘘みたいに速かった。
グッと身体がシートに押し付けられる
びっくりして顔が引き攣った。
思わずギュッと目を閉じてしまった。

フワッと浮いた感じがした。
恐る恐る目を開けてみる
みるみる小さくなっていく人と建物
なんだあれ、嘘みたいだ
ミニチュアの世界を見てるみたいだった

あ〜〜〜、私は今、ほんとに空を飛んでるんだ

通路を挟んで隣が好きな人だった。
ブックカバーをつけた本を読んでいたら、
『何読んでんの?』
と覗き込まれてちょっとドキドキした。
「...............なんでもいいじゃん。」
と答えた、ような気がする。

可愛くねえなあ。だめだよ。素直にならないと。

"万能鑑定士Qの事件簿を読んでる!
毎月文庫の最新刊がでるの楽しみにしてて、
いつも発売日に本屋に行ってんだよね!
めちゃくちゃ面白いんだよ!!!
ミステリー好きだったよね?
今度貸そか???"

心の中では言えたけど
口には出せなかったんだ

素直じゃないね〜〜〜あんたは!
あ〜〜〜まったく!!!!
しょうがないやつだ!

でもその時はそれが精一杯だったんだ

それが初恋ってもんだ

いいよ

ここで私が代わりに言っておいてあげる


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


真面目に読んでるフリしてたけど
全然入ってこなかった。
心なしか右の頬が熱い。
もう早く着いてよ~


.......................................................あれ


雲の中に入った
うわ、真っ白だ。当たり前か。
結構揺れるなあ
あ〜もう、本とかいいや。


......................................あ、もうすぐ出そうだ


言葉にならなかった


.........................................................うわ、すごい


太陽が近いな、眩しい
光で雲がキラキラしてる
雲の海だ。いや布団かな?


うわ〜ふかふかだよ
あの上で寝たい
あそこポコポコしてる
歩いてみたい
海みたいだもん
ダイブできそうだよ
あ、あそこの雲は波みたいだ
泳げるかも


時を忘れて窓の外を見てた
隣に好きな人がいることも忘れてた


あ、下がっていってしまう
もう見れないのか


ああ、もう着いてしまうの?


...............帰りは確か窓際の席だった
また見れる。
なんならもっとよく見れる。
良かった。
あ〜、うん。良かった。

早く帰りの飛行機に乗りたい
もう最終日でもいいな


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうだ。そうだった。
沖縄についてからのどの思い出も
あの、" 飛行機が雲の上に出る瞬間 " に
勝るものなんか一つもなかった。

だから、
飛行機の思い出しか書かなかったんだね。
素直じゃんか、珍しく。
良い文章だよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私は昔から文章を書くのが得意だった。
いや、正確には
" 大人が喜ぶ文章 " を書くのが得意だった。

どうすれば先生の心に刺さり、
選ばれるのか分かっていた。
読書感想文も、道徳の時間に書かされる感想文も
全部 " そういう風 " に書いた。
だから選ばれたり、
みんなの代表として読まれたりするのは
当然だと思ったし、選ばれても全然嬉しくなかった。

あれ?文章でも素直じゃなかったのか、私。
どこまでもどうしようもないやつだね。

だけど、思えば卒業文集は中学3年間で、
唯一私が素直に書くことができた文章かもしれない。

誰の評価も受けない、私だけのものだったから。

それを『素直で良い文章だ』と言ってくれて、
私に素直な文章を書くことの喜びを教えてくれた
友人に、ありったけの「ありがとう」を伝えよう


文字の上でくらい、素直でいなきゃね。


あの卒業文集は
もうみんな忘れてしまっているかもしれない
一度も読んでない人もいるかも
私だって、8年間眠らせてしまっていたからね

でも、いや、だから

" 素直で良い文章だ "
そう言ってくれた友人の
カメラロールにだけ残っていてくれたらそれでいい

それでさ、

彼女がふと思い出したときに読んでくれたら、

私はそれで十分なんだ。


...................................................................................................✈

最後まで読んでくれたそこのあなた、ありがとうございます。うれし涙でプールを溜めれるほどに喜んでいます。ウソです。ちょっと盛りました。 いいねもうれしいです。コメントはもっともっとも〜〜〜〜〜〜っとうれしいです❗️