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動物園の4つの役割と獣医師

みなさんこんにちは。
 獣医師、あるいは動物園の役割について興味を持っていただけたようであれば幸いです。今回は、それらの役割の中で、獣医師がどのように関わっていけるか、どのように関われば野生動物を絶滅から救うという夢に近づけるのかについて個人的な考えではありますが、具体的に紹介していきたいと思います。

1.種の保存

種の保存

    これは名称からもかなり直接的でイメージしやすいかと思います。「種」は「しゅ」と読み、生き物の分類の一番基本となる単位です。種が違うもの同士は基本的に子どもを作ることができません。様々な種を地球上に残していくこと、絶滅しないように守ることを「種の保存」と言います。当園では、環境省により絶滅危惧種、国内希少野生動植物種に指定されている「ニホンイヌワシ」の繁殖に取り組んだり、国際自然保護連合が定めるレッドリストで絶滅危惧種に指定されているアフリカゾウの日本初の人工授精を目指したりしています。中でもアフリカゾウの”マオ”は我々獣医師をはじめとしたスタッフで週1回以上採血・採尿を行い、大学とも連携して発情の状態を調べています。
海外や国内でもすでに実績がありますが、動物によっては、動物園や繁殖施設等そして野生個体群をモニターしている研究者と連携しながら計画的に増やし、野生復帰まで丁寧なプロセスを経て自然界に放すことにより、個体数が減少している野生の個体群の絶滅の恐れをなくすために補強する場合もあります。
 このように動物園は種の保存に直接関わる事業もあり、そこにはその動物の健康管理や感染症予防などで獣医師の活躍の場もあります。例えば動物園で飼育している動物が感染症にかからないよう飼育スタッフと知識を共有し予防に努めること。また動物を介してスタッフや来園するお客様に病原体をうつしてしまうことはあってはならないことですので、病原体を正しく理解し、防ぎ、どういうものかわかるよう説明すること、などです。


2.教育・環境教育

教育

これについては特別獣医師でなければ伝えられないことというのは少ないかもしれません。それでもその動物の魅力や実際におかれている状況、それに対してどのようなことが行われているのか、どのようなことが問題となっているのか、さらにその問題を解決するには何ができるのかなど、お伝えできることはたくさんあると思います。当園ではSNSやイベントなどを通して皆さまにこれらのことをお伝えしていけるよう心がけています。
 自分たちで一所懸命に手を動かすことも大切ですが、皆さまにも興味を持っていただき、一緒に動物たちを守る仲間になっていただければとても心強いです。
 獣医師ならではの目線でも、ただの動物に関わる仕事をしている動物好きとしても、皆さまに動物たちのおかれている状況・その解決方法について発信、あるいは一緒に考えていけるよう努力してまいります。


3.調査・研究

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動物の生態や生理について調査・研究をすることで、飼っている動物たちが長生きできるようになったり、野生の動物たちとヒトとの問題を回避したりすることができます。当園では大学と連携して行動等の調査の場を提供しています。また、動物園の動物たちがかかりやすい病気やそれに対する治療法など経験をまとめて他の動物園や水族館と共有することで、動物たちがより健康でより長く暮らせるようにすることを目指しています。
 動物園では動物たちが身近にいるので、野生ではできないような調査を行うことも可能です。日々の調査や研究によって新しい事実がわかったり、新しい治療薬を用いられることがわかったりすれば、動物園にいる動物たちを助けられる確率が上がるのはもちろんのこと、野生の動物も同様に長生きできるようになるかもしれません。


4.レクリエーション

レクリエーション

デートや家族でのお出かけに、あるいは一人ででもお休みの日に動物園へ出かけて楽しく過ごす方々も多いでしょう。動物園がレクリエーションの場を提供していることは想像に難くないと思います。レクリエーション単体では動物の保全に対して果たせる役割は多くないですが、レクリエーションとして多くの方を惹きつけられればそれだけ多くの方に「教育・環境教育」で述べたことをお伝えできたり、「種の保存」や「調査・研究」をご支援いただくことができます。
 楽しみながら学ぶことはとても有意義だと考えています。

 このように、動物園では4つの役割を通じて動物たちを絶滅から救うことに貢献できると考えています。それぞれの役割に対して獣医師ならではの役割を果たすことはもちろんのこと、他の動物園スタッフと協力して、1スタッフとしてできることをしていけば微力ながらも動物たちを絶滅の危機から遠ざける助けになるのではないかと考え、仕事に取り組みます。

動物病院
獣医師 滝本