動物園の大きな役割「調査・研究」

 動物園には4つの役割があると言われています。
 1つ目は、絶滅の危機に瀕した野生生物や環境を守り後世につなげるための「種の保存」
 2つ目は、動物や環境についての気づきや学びの機会を作り、それらを守るために行動に移せる人を育てる「環境教育」
 3つ目は、動物と人とのより良い関係構築や保全活動、動物福祉向上のために不可欠な、動物のことをもっと知るための「調査・研究」
 そして、来園して下さった方々の憩いの場としての役割「レクリエーション」です。

 今回は、その中でもみなさんにはあまり馴染みが無いかもしれない「調査・研究」についてお話をしたいと思います。

 ZOOMOでは毎年、全国各地の大学や研究機関と連携して、飼育動物の福祉向上に資する基礎調査や、野生動物と人とのより良い関係のための行動調査、教育プログラムの開発と評価の研究などを行っています。

 現在行っている研究をいくつかご紹介します。(SNSでも飼育スタッフが発信をしているので目にしている方もいると思います。)
 1つ目は、秋田県立大学の木材高度加工研究所と昨年から行っているニホンツキノワグマの忌避剤開発の研究です。
 東北地方には野生のニホンツキノワグマが多く生息していますが、近年里山の荒廃などが原因で市街地と山林との境目が曖昧になり、畑の農作物を食べてしまったり、人と出会って怪我をさせてしまう悲しい事故が毎年起きています。
 また、一般にはあまり知られていませんが、林道に案内看板などを設置した際に防腐剤を塗布すると、ニホンツキノワグマが匂いに反応して看板をすぐに壊してしまうという問題も起きています。そこで、唐辛子成分を使った忌避剤を開発し、すぐ壊されないようにすることは出来ないかを調べ始めたのが発端で、忌避剤の開発が進められています。
 これまでの調査である程度の効果が確認できたことから、今度はその忌避剤を使って、果樹園などの農作物被害も防除できるのではないかということで調査が続けられています。今年度はニホンツキノワグマの運動場内に忌避剤を染みこませた木栓を付けた木柵を設置して、クマたちの反応を調査しています。

ツキノワグマ試験2021.5.30 (2)

※チェーンにぶら下がっているオレンジ色のものが忌避剤を染みこませた木栓。柵の真ん中に置かれている筒に食べものが入っています。

ツキノワグマ試験2021.5.30 (3)

※メスの“リオ”が柵の中にあった竹筒を取っていった時の様子。飼育下のニホンツキノワグマには忌避剤の効果は弱いのかもしれません。

 2つ目は、野生動物の暮らしを知るための基礎調査として、岩手大学が行っているハクビシン、ホンドタヌキ、ニホンアナグマの嗜好性調査に研究協力をしています。
  ハクビシンは中国や東南アジアなどに生息するジャコウネコの仲間で、日本には70年以上前に移入されたと考えられています。岩手県でもその生息域は拡大しており、畑の作物を食べてしまう農作物被害だけでなく、同じような環境で暮らす在来の野生動物と競合してしまうことなども懸念されています。
 彼らがどのような暮らしをして、どのような移動ルートで移動しているのかを調べることで生息域の拡大を防ぐことを目的に、発信機を付けて生態を調べるラジオテレメトリー調査が行われています。しかし、発信機を付けるためにハクビシンを捕まえようと箱型の罠を仕掛けると、同じような環境に棲み、同じようなものを食べて暮らすホンドタヌキやニホンアナグマが間違って罠にかかってしまうことがあります。そこで、ハクビシンは好むけれど他の動物は好まない食べ物が分かれば、罠に誤って入ってしまうことを防ぐことが出来るのではないかということで、3種の嗜好性の調査を行っているのです。

ハクビシン調査

※ニホンアナグマの調査中の研究者

 もう一つ、最近始まった面白い調査としてご紹介したいのは、飼育動物ではなく園内の野生動物での調査です。
 ZOOMOは里山の中にある動物公園で、飼育展示されている動物だけではなく、園内にはニホンカモシカやホンドテン、ニホンアナグマ、ホンドギツネ、ニホンリスなど多くの野生動物が生息しています。
 その中でも、ホンドタヌキは「ため糞」と呼ばれる共同トイレを作ることが知られており、個体間のコミュニケーションの場として使われていると考えられています。そんな「ため糞」が園内にも複数みられるのですが、それらを野生動物たちがどのように利用しているのかについて調査をしている岩手県立博物館に研究協力をして、園内の「ため糞」に集まる野生動物をカメラトラップで撮影する調査を行っています。

センサーカメラ

※「ため糞」に集まる野生動物を撮影するために設置されたセンサーカメラ

 こんなにもたくさんの調査・研究をZOOMOが行っていたことを、みなさんは知っていましたか?
 あまり知られていない取り組みかも知れませんが、動物園の持つ大きな役割の1つです。もし園内で調査をしている研究者や学生を見かけたら、邪魔をしない範囲で、どんなことをしているのかな?と覗いてみるのも面白いかもしれません。

 紹介した3つの研究以外にも、飼育動物の環境をより良くするための行動調査や、野生動物の現状や人との関わりを伝えるための教育プログラムを開発・評価する研究などを今年は行う予定です。

 そのお話はまた別の機会に。

 最後まで読んでいただきありがとうございます。次回もお楽しみに。

企画営業広報担当 荒井