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リンタと共に

 “リンタ”は2009年7月に埼玉県こども動物自然公園より来園しました。来園当初はメスの“リリー”と過ごし、その後、東京都多摩動物公園より来園したメスの“ユズ”との間に2頭のメスの子どもが産まれ、父親となりました。現在、東京都恩賜上野動物園で飼育されている“リンゴ”と富山市ファミリーパークで飼育されている“カリン”がその子どもたちです。

リンタと赤ちゃん1

※リンタ(上)とリンゴ(下)

 “リンタ”は大人しく穏やかな優しい性格で、給餌体験では多くの方に間近で見るキリンの迫力を体感していただき、キリンの魅力や野生のキリンが置かれている状況を伝える役割を果たしてきました。

リンタ0814

 しかし、8年前より右前肢の手根部(人でいう手首の部分)の変形性関節症となり、関節がX脚のように内側に曲がった状態になっていったため、炎症などによる痛みが出る都度、鎮痛剤により症状を和らげる治療を行ってきました。
 2017年“リンタ”のパートナーである“ユズ”が関節炎や蹄の伸びすぎなどが原因で亡くなったことをきっかけに、飼育方法を見直し、“リンタ”や今後飼育していくキリンたちが心身ともに健康で暮らせるように健康管理のためのトレーニングも始めました。
 “リンタ”にも自発的に協力してもらい、今までは出来なかった注射をすることができるようになったことで、定期的な採血により健康状態を把握することができるようになったほか、変形性関節症に効果が期待できるヒアルロン酸の注射も行うこともできました。

リンタヒアルロン酸

※ヒアルロン酸注射をしている様子

 また、飼育下のキリンは野生の個体に比べ運動量が少なく、それが原因で蹄が伸びすぎることがあるので、運動場にはザラザラとした蹄が削れる効果のある火山礫を敷き詰めるなどの工夫もしてきました。

キリン火山礫 (1)

キリン火山礫 (3)

※火山礫を敷いている様子

 しかし、“リンタ”は関節の変形によって蹄が本来伸びる方向ではなく横へねじれて伸びてしまうため、定期的な削蹄が必要と考え、削蹄のトレーニングも行い、少しずつではありますが“リンタ”のためにできることを増やしてきました。

リンタ放送(松原7.26)

※リンタの削蹄を行っている様子

 2021年4月中旬より夜間座って休まないことが度々見られるようになりました。同じ時期に娘の“カリン”が他園へ引越し、今まではなかった単独での飼育となり不安になってしまったことや、気温が高くなったことで外での運動量が増え、肢への負担が多くなってしまったことが原因の一つと考えられました。5月にはメスの“ユン”が多摩動物公園より来園し、‟リンタ”の状態も良い方に向かえばと期待したのですが、その後も夜間座って休む頻度は少なく、6月に入ってからは一度も座らなくなりました。

リンタお初同居

※リンタ(右)とユン(左)

 鎮痛剤の種類を症状に応じて変更し、適度に運動させることなど試行錯誤した結果、7月半ば頃より歩様はぎこちないものの自発的に歩く様子も見られ状態は少し安定しました。しかし、その後も夜間座って休む行動は見られませんでした。

リンタおが粉

※肢の負担を軽減するために寝室の床材を川砂からにおが粉に変えたときの様子

 8月には関節炎は発症していない左前肢への負担も徐々に現れ始め、起立姿勢も両前肢をかばうような歪んだ姿勢が目立つようになりました。8月9日には寝室から出たがらない様子や食欲不振が見られ、その後数日は歩行時にバランスを崩し転倒しそうになることが度々ありました。そのため、8月13日に詳しい経過を動物公園ホームページで皆様に報告して治療に専念することにしましたが、翌14日朝7時半ごろに‟リンタ”が座っている状態を発見し、その後死亡を確認しました。

リンタにお花 (1)

※リンタの献花台

 キリンの13歳という年齢は飼育下ではまだ寿命とは言えず、ここ数年は日々のトレーニングの成果もあり多くの治療や採血検査なども行っておりましたので、治療のご報告などに対し皆様から応援を頂いていました。また亡くなった後もたくさんのお悔やみのお言葉を頂戴しました。“リンタ”は皆様に可愛がっていただいたことを改めて感じるとともに、心から御礼申し上げます。

 “リンタ”と“ユズ”2頭とも蹄の伸びすぎに伴う疾患が亡くなる原因となってしまったことはとても残念です。私がキリン担当になって3年ほど経ちますが、担当になってすぐのころ、“リンタ”と娘の“カリン”の2頭を飼育していました。すでに“リンタ”は肢の痛みが度々見られ治療を行っており、“カリン”は生まれてすぐから人工哺育で飼育していましたが、母親の“ユズ”も亡くなり、まだ1歳になっていない状態でしたので、とても不安だったのを覚えています。キリンのためにできることを模索しつつ、全国のキリン飼育園の飼育係や獣医師が集まり、キリンのより良い飼育管理のために情報共有するキリン研究会にも参加し他の動物園の方と交流を深め、トレーニングのことや餌についてなど飼育方法について教わりました。今でも困ったことを相談できる仲間がいるのでとても頼りになります。

 “リンタ”の伸びすぎた蹄について相談し助言いただいていた、岩手大学の岡田先生にも大変お世話になりました。今まで削蹄のトレーニングを行ってきましたが思うような結果を残すことができず悔やまれます。
 “リンタ”が亡くなった後、岡田先生の協力のもと伸びすぎとなっていた蹄も正常な状態に削蹄をして今後キリンの削蹄をする際の参考にしました。今後このようなことが起きないように飼育方法を改善し、健康管理のトレーニングにもさらに力を入れて、今後盛岡で暮らすキリンが心身ともに健康に暮らせるように努力していきたいと思います。
 まずは、喫緊の目標として、5月に来園した“ユン”との信頼関係を築きつつ、トレーニングに取り組んでいきたいと思います。

キリン担当 丸山孝作