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国内初ゾウの人工授精プロジェクト

 現在、ZOOMOでは6月13日で19歳になったばかりのアフリカゾウのメス“マオ”を飼育しています。3年前まではオスの“たろう”も飼育していましたが、慢性肺炎により平成30年11月29日に亡くなりました。

たろうマオ

 たろうが亡くなった翌日からマオは一睡もせず、どうしていいのか分からない様子で、とにかく足を止めずにぐるぐると歩き続ける日々が続きました。
 職員が交代で遅くまで残ったり、早朝に出勤して安心させるように努め、数か月で睡眠も安定して見られるようになり安心していたのですが、ある日当然、無気力状態となり、ランブル(ゾウ特有の低い声)で鳴き続けるようになりました。たろうを思い出し、呼び続けていたのかもしれません。

 それからは職員が寄り添っても全く立ち直る様子は見られず、たくさんの枝を与えたり、泥浴びが大好きなマオのために黒土を大量に放飼場に搬入したりしましたが、なかなか回復は見られませんでした。
 そんなある日、コナラの大木を入れたところ、足で踏んで鼻で上手に樹皮を剥いで夢中になって食べ始めました。それからは毎日のように山に入って、コナラを切り出して与えました。マオの放飼場にある丸太や放飼場の脇に山のように積み上げてある丸太はその時のもので、全て樹皮が剥いであります。

マオの丸太 (1)

 努力も実り、すっかり元気になったマオですが、今度は新たな問題発生です。3500kgまで減少していた体重が3900kgまで増えているではありませんか。これはまずいという事で丸太を与えるのを止め、食べる量を減らし始めたのですが、何故か体重は増え続け、4100kgを超えてしまいました。

マオダイエット

※体重測定中のマオ

 そこで放飼場の中央にある水飲み場から離れた6か所に丸太で餌場を作り、1日2回乾草を散布し、餌場と水飲み場を移動させることで運動量を増やしました。また乾草も8種類に増やし、繊維質の多い乾草を多く与えるようにしました。作戦は見事的中し、4000kgを超えることはなくなりました。
 現在は来園者の方々にもマオのダイエットに協力してもらうイベントを平日に開催しています。「マオのダイエットをお手伝い」というイベントで、放飼場の両端で職員が交互にマオを呼び、来てくれたらご褒美の果物をプレゼントするというもので、片道約60メートルあるので、30分間で15往復、約1.8kmの運動を目標として実施しています。

ゾウのマオのダイエットをお手伝い

※「マオのダイエットをお手伝い」の様子

 実は、マオのダイエット大作戦には大きな目標があります。
 それは、日本初のゾウの人工授精でマオをお母さんにすることです。太っていると難産の危険性が高まるため、無事出産するための準備なのです。
 ZOOMOではこれまでも岐阜大学との共同研究として、マオの発情やアフリカゾウの繁殖の仕組みを継続的に調べてきましたが、オスのたろうが亡くなったことを受けて、新たな挑戦をする必要が出てきました。

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※マオのホルモン数値を測定し、発情周期を記録したもの

 ゾウは本来群れで生活をする社会性の高い動物です。1頭で飼育するということはそれ自体がマオにとって良いこととは言えません。少しでもマオの暮らしが豊かになるように出来る限りの手を尽くしてはいますが、やはり本来の野生での暮らしのように、親子を含む群れで飼育することが望ましいです。

マオヘイネット

※ヘイネットに入った乾草を食べるマオ。採食時間を延ばしてマオを退屈させないための取り組みです。

 昨年度に人工授精にチャレンジする予定でしたが、海外から人工授精のプロフェショナルに来日してもらわなければなりませんので、実施のためには新型コロナウイルス感染症の世界的な終息が必要となります。
 国内には現在22頭のメスのアフリカゾウが飼育されていますが、排卵があるのは僅か5頭。飼育下のゾウは妊娠経験がないと25歳くらいで排卵が止まってしまうケースが多く、20歳を超えるとそのリスクが高まるため、6月13日で19歳を迎えるマオは年齢的に排卵が止まる危険性が最も高いことから、急がなくてはなりません。

 マオを他の動物園に移すという案もありましたが、排卵が止まってしまうのを防ぐことを最優先に、日本で最も繁殖ホルモンの研究が進んでいる盛岡で人工授精に挑戦することになりました。
 現在、国内で飼育されているアフリカゾウのオスは3頭しかおらず、自然繁殖が難しいことから、近い将来日本の動物園でアフリカゾウが見られなくなるだろうと言われています。マオの人工授精プロジェクトが成功すれば、国内の他の園館にも広がり、群れで暮らす本来のアフリカゾウの姿を見られる日が来るかもしれません。

マオ笑顔

 ZOOMOの新たな挑戦をぜひ応援していただけたら嬉しいです。

アフリカゾウ担当 竹花