シマウマ“ラガー”の採血トレーニング
今回はグレビーシマウマのオス“ラガー”が取り組んでいるハズバンダリートレーニングについて紹介します。
ハズバンダリートレーニングとは、動物の健康管理と福祉向上のため、動物が自発的に採血や体重測定に協力してくれるようにするトレーニングのことです。職員は現在、動物にやさしい飼育管理やハズバンダリートレーニングの基礎となる応用行動分析学を学びながら、園内の様々な動物種でトレーニングに取り組んでいます。今回、“ラガー”がハズバンダリートレーニングを通して無麻酔下での採血に成功しましたのでのその経過について少し紹介します。
“ラガー”は2012年に東京都多摩動物公園から繁殖を目的に来園し、今年で10才(2011年7月6日生)です。グレビーシマウマは細かく美しい縞模様があるのが特徴で、開発による生息地の破壊や、乱獲等で個体数が減少し、絶滅の危機に瀕しています。国内では8園で20頭を飼育しています。
“ラガー”がハズバンダリートレーニングを本格的に始めたのは、メス“キララ” が今年の8月に亡くなったことがきっかけでした。‟キララ”の場合、ハズバンダリートレーニングを行っていれば、麻酔などの負担をかけずに検査や点滴治療を行えていた可能性もあり、他にもっとしてあげられたことがたくさんあっただろうという思いが残ったからです。
ハズバンダリートレーニングは、今年の9月に入ってすぐに開始しました。まず柵越しにターゲットの棒をかざし、鼻先をつけたら合図(ホイッスル)が鳴って、好きな食べ物が貰える!というのを繰り返して”ラガー“にとって良いイメージを作りました。焦らずに少しずつ出来るように慎重に一歩ずつ進めました。
次にマッサージ用の手袋をはめた手に向かって体を横づけする行動です。採血ができるようになることを想定してここからは獣医師にも立ち会ってもらいました。横づけができたら合図(ホイッスル)がなって、撫でる!を繰り返します。元々“ラガー”は体を撫でられるのが好きなので、これはすぐに習得しました。
ここまでは割と早い段階でクリアできたので、場所や時間帯、人数などを変えて様々な条件下でもできるように試しました。夕方に屋内へ収容する前や、ハエなどの虫が多いと集中力がなくなることがわかりました。
そして、最後はいよいよ採血の実践を想定し、注射針を刺す段階に向けて、アルコール綿消毒、指→爪→つまようじ→先端を切った針→注射針(細)→注射針 (太)の順に、徐々に細いものを採血部位に当て、針を刺す刺激に慣らす練習を行います。
しかし、ここまで順調だった“ラガー”ですが、アルコール綿での消毒を嫌いました。スースーした感じが嫌なのか?臭いなのか?でもここは焦らないで一歩後戻りし、手で撫でる段階からやり直し→乾いた脱脂綿で擦る→水で濡らした脱脂綿で擦る→アルコール綿で擦る、の順に徐々に慣らしていきました。
ここまでできるようになるのに、ハズバンダリートレーニングを始めてからおよそ2か月かかりました。あとは採血日を設定し、その日に向けていつも通りトレーニングを行いました。
そして、11月19日についに採血に成功しました(動画はこちら)。血液検査の結果は肝機能の数値が少しだけ高かったものの、経過観察で問題ない程度で特に大きな異常はありませんでした。
シマウマの無麻酔での採血は国内では2例目、グレビーシマウマとしては国内初の成功です。日ごろのハズバンダリートレーニングの大きな成果として採血ができたことはとても良かったと思います。
今後は定期的な採血検査によって健康管理を行うと共に、更に削蹄もできるよう、“ラガー”の協力のもと頑張っていきたいと思います。
(グレビーシマウマ担当:川目)