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SFアンソロジー『五年後に小学六年生になるキミにおくる物語』の感想・前半

あんまり言ってなかった気がするんですが、柚子ハッカさんが企画・編集されたSFアンソロに寄稿させて頂いてました。
11作、11人の作者によるS(少し)F(不思議な)作品集です。

テーマは『五年後に小学六年生になるキミにおくる物語』

こちらから購入できるようです。

私も見本を送っていただくまで、他の方の作品は読んでいなかったので、今、少しずつ拝読しています。
もともと、企画編集の柚子ハッカさん以外の方は、前の企画の作品読んだことあるかなくらいで、皆さんあまり存じ上げていないこともあり、こんな作品書かれるんだなーととても楽しんでいます。
まとめて感想書こうと思っていたのですが、全部だと時間がかかってしまう気がしたので、まずは前半6作の感想をまとめました。
なんか感想書き足りてない!!という気もするのですが、ひとまず今出てくるものを……。

◆影つまみ(左海舞さん)

一般的なS(Science)F(Fiction)と言うよりは、今回のテーマであるS(少し)F(不思議)な物語。

影をつまむ、という幻想的であり少しとぼけた面白みがある「遊び」の中に、秘密を持った子どものときめき、年を重ねるにつれてそれが薄くなっていく切なさ、そしてやってくる喪失が描かれていました。
幼い子が大人になっていく姿を、少し不思議な物語を通して柔らかく伝えてくれる作品です。

特に好きだなと思ったのは、語り手が「母親が面白いと感じたことを、息子もそのまま面白いと感じるわけではない」と言い、それを「大切なこと」と言っているところです。
本当にその通りだ、と思うし、包容力を感じます。

影をつまむ、つまめなくなる。
そこにある幼さ、無垢さ、別れや成長――様々な余韻が楽しめる作品でした。

作品についてではありませんが、書き手の方が小説を書き始めて間もないということに驚きました。
語彙も表現も、気取らず平易だけれど豊かで素敵でした。
唯一、語尾の表現が単調になりがちかなと思ったので、その点をクリアされると、さらに読み心地の良いものになるように思いました。
ともあれ、1作目からすごく好きだな好みだなと思える作品が読めました…!

◆嘘つき天使(猫隼さん)

私自身がSFのアンソロに作品提出しておきながら、SFにあんまり強くなく、哲学にも疎いためちょっと難しい部分がありました。
ただ、読み込んでみると哲学や科学の深い考察がなされていて、とても興味深いものでした。
特に世界が世界から造られたというくだり、面白いなと思いました。

語り部の柔らかな口調とミィという名前の響から感じられるイメージは可愛らしいものですが、描かれるのキャラクターは「俺」という一人称の男性。
性格も口調も、「可愛い」よりも「かっこいい」の方がしっくりきます。
そこにあるギャップに楽しさを感じました。

仲良しの友達がいれば、世の中の複雑さも理不尽も楽しめるんだというメッセージの通りのラストが爽やかです。
バディ感。

カロがどうしてミィの元へやって来たのか読み取れず……すみません……(読解力…)

◆夜のメロディ(両目洞窟人間さん)

語り部調の柔らかな地の文が心地良く、ほわほわしていて、物語の持つ温かなユーモアと優しさによく合っていました。
力の抜けるようなオノマトペがとても効果的で、ちょっと違うかもしれませんが宮沢賢治の巧みなオノマトペの表現を連想しました。
ぽぽぽぽぽ。
すごくよく分かります。
私の母がギターを弾く人で(今は処分してしまいましたが)、私が試しに引いたら、ぽぽぽぽぽ、でした。

散りばめられたユーモアも素敵で、特ににゃんみさんが「うにゃーあ!」と叫んだものの耐性がついてしまって失神できなかったというくだりが、ちょっとの怖さとユーモアとがケミストリーを生み出していて、とても面白かったです。
また、幽霊さんの容姿は怖そうなのに、気質は優しくとぼけた感じがあるので、そこにもユーモアを感じました。
怪異×優しい笑いが、とてもよく機能した作品です。

ラストの方は少し切なく、けれど優しい包容力に溢れていて未来に広がりを感じさせてくれます。
大好きな作品でした。

◆捩れる起承転結(げんなりさん)※ネタバレ?あり

すごいです。
全く関係のなさそうなAのお話とBのお話。
それぞれ交互に起承転結を展開させて、浮き上がって来るのはアイデンティティの物語でした。
少なくとも、私はそう読みました。
宇宙のどこかのように描かれていたAの世界は心宇宙であり、その主こそがBの語り手、そんな風にも感じたりして、「サタンの子」など同じ言葉が登場することで、両者の繋がりを感じた時に、大きなカタルシスがありました。
自身を獲得したことへの爽快感が素晴らしいです。
髪の毛1本が意志を持ち独立した命となる。
それを暗示するかのような空に舞う髪の毛を描いたAの結が、未来へ広がりを感じさせるBの結に重なって、小さな物語に大きな、壮大な可能性を感じました。

また、描写のドライさが世界観によく合っていて、かっこよかったです。
このかっこよさがあるからこそ、カタルシスがより強まっているようにも感じます。
抑えた描写、その行間から溢れる感情が豊かでした。

性別のミスリードは何を意味していたのだろう?と思いました(読解力…………)。
ただ、そこに明確な意味を掴めなくても、性別が判明した時に生まれる物語への印象の違いは確かにあり、それでも十分なのかなとも思いました。

◆あいつはニノミヤ(梶原一郎さん)

とある理由により田舎での夏休みを過ごすことになった少年時代の語り手。
仲良くなった子が実は……という郷愁×不思議な体験の王道ストーリーで、気持ちよく読むことが出来ました。

物語として新味がある訳ではないのですが、それだからこそ、より郷愁が強まっているように思います。
ストーリー展開自体がある種の懐かしさのあるもので、こういう物語に触れたことのある大人(多分触れたことのある人は多いと思います)にとって、実体験とは別の、物語を通して追体験し心を躍らせたことへの郷愁を感じさせるのではないかなと思いました。
もちろん、田舎での生活の経験がある人にとっては、自身の実体験から来る郷愁を味わえると思います。

ものすごく贅沢なことを言うならば、あとほんの少し、ツルツルとの具体性のあるエピソードがあっても良かったかなと思いました。
前述した通り、ある意味普遍的な、多くの方が目にしたことのある王道展開だからこその郷愁が間違いなくある素敵な作品なのですが、その良さを残しつつ、もう一歩踏み込んで具体性のあるエピソードを加えることで、普遍的でありながら彼らだからこその物語へと昇華するのではないかなとか。
そんなわがままを考えたのでした…。

◆ねえちゃんとふろはいってる(ぞぞ)

まずそのタイトルなんだよと笑

なんと言うか、この「ねえちゃんとふろはいってる?」という、小学生のちょっとした悪ふざけに使われていた言葉遊びの軽い感じと、物語の間にギャップを作りたかった感じでしょうか……。

描きたかったのは自己肯定の物語で、それを描くためには一度自己否定の方へ向かわないとお話としては成立しにくいため、精神的に主人公をやや追い詰めた感じになりました。

にしても、前半、単調ですね…。
長い。実際の文章量より長く感じる気がします。
最近は改善されてきてはいたんですが、それでもやっぱり最初の方苦手ですね…。
尻上がりなタイプだったので、それが顕著に出てしまった気がします。反省。

後半、ビリーフとかその辺のSF要素が動きだしてからは、少なくとも分量以上の文章量を感じることはなかったと思います。

あと、会話や独白に頼りすぎですね。
もともとセリフやモノローグで色々処理しがちで、特に心情を「語らせちゃう」というのがすごく多かったのですが、今作でもかなり出てます……。
一人称って、そういうことしがちなので注意が必要だと思うんですけど、私のすごいところは三人称でも思っきしやるところです。
思っきしやります。反省はしてます…。でもなかなか直りません…。

ラストは柚子ハッカさんのご指摘で変更しました。
もともと「家族にただいまって言う」という件で終わっていたのですが、ここはちょっと改善の余地があるのではないか、という。
要するに、読者へぶん投げすぎていて伝わらない、ということなのだと解釈したのですが、言われてみればまさにその通りで……。
前述のように、そこまで書かなくてもいいところは、つらつら独白させてしまい、もっと言葉を尽くさないと伝わらないところを端折ってしまう。
この書くべきところと書くべきでないところの塩梅って、本当に難しいなと思います。
そういう部分は、本当に他者の目が入ると見えてきやすいので、人に読んでもらうって大事だなと思いました。

結局、アドバイスいただいた通りの変更にできなかった気もするのですが(すみません…)、自分の描きたかったものを崩さずに、ご指摘の箇所も改善されるように…と考えた結果、あのラストになりました。
最初のラストと比べると、修正したものの方が良いと思うので、ご指摘いただけて良かったです。

ラムネから取りだしたビー玉のエピソードとか、それをタイムカプセルに入れたところは気に入っています。
ああいう出来事を積み重ねて物語を書いていくことが好きです。
結果、ラストの変更どうしよう…となった時、そこに寄りかかる感じになったわけですが…
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以上、独断と偏見による6作品の感想でした!
後半は、残りの5作を完読したら、また書きたいと思います。

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