記憶
練習がてら、創作詩を投稿します。日常から社会情勢まで、様々なテーマで創作していきます。
2018年より人気バラエティ番組「プレバト!!」俳句コーナーの影響で、俳句を始めました。久しく句作から遠ざかってましたが、noteにて再開します。夏井いつき組長を敬愛しております。
「ウルトラセブン」の金城哲夫脚本の”問題作”「ノンマルトの使者」の後日談を、金城氏と同じ沖縄出身である作者の解釈を元に執筆してみました。
おさな子の手を引いて 金木犀の香る児童公園を訪れた おさな子は砂場を見つけると 弾けたように駆けていく そしてすぐに山をこしらえ始める 小さな体のそばに そっと 小さなスコップとバケツを置くと おさな子はわたしを見て ニッと笑う わたしは砂場の前のベンチに腰かけ おさな子を見つめる やがてどこからか 大小の無数のシャボン玉が 風に乗り流れるように飛んできた そのうちのひとつが おさな子の顔の前で弾ける おさな子は目をパチクリさせたあと 顔を上げてシャボン玉の行方を追う 五
突如として大地が激しく揺れ 人が 動植物が 家具が 自動車が 建物が 次々になぎ倒されていった 「助かった」と思ったその数分後 今度は海から黒く巨大が塊が 轟音を立て押し寄せてきた そして 束の間安堵した人々を 地上の生きとし生けるものを 街を 文化を 歴史を ありとあらゆるものを 飲み込んでいった 瓦礫と化した街 数多の魂が消え去った街 そこには 野球選手を夢見た少年がいた 教師を目指した少女がいた 毎日靴底を擦り減らし働く父がいた 乳飲み子に微笑みかける母がいた 孫の
透き通るような青 何もかも吸い込んでしまいそうな どこまでも澄んだ青 それはずっと高く遠くにあるよう 優しいようで 冷たいようで 突き放すようで 包み込むようで 一つだけ確かなのは あの下にぼくは歩んできたということ 凍てつく空気の中 ビル街を走り抜け 商店街のアーチをくぐり 住宅街の角を曲がる 少年期の光景が脳裏に浮かぶ いくつもの季節が通り過ぎていったはずなのに 記憶の景色の空は いつもあの澄んだ青 カモメの群れが飛んでいく その瞬間 現へと引き戻される いつの間に
龍鱗のやうな庭石秋時雨 (季語:秋時雨) キャンバスに香も描かんと胡桃割る (季語:胡桃) 工作の迷路に胡桃貼りつけり (季語:胡桃) 鬼胡桃あの子に当てるにはほどよい (季語:胡桃) 胡桃割るまた声濁る鳩時計 (季語:胡桃) 本当の青色はどれ色鳥来 (季語:色鳥) 色鳥来廃棄の陶器並ぶ庭 (季語:色鳥) 色鳥の羽に弾痕あるやうな (季語:色鳥) 色鳥や大人の対応なんて無理 (季語:色鳥) 梨かじるノートに素数散らばりぬ (季語:梨)
どんなに手を伸ばしても届かない それでいて 前だけ向いて進もうとしても ずっと纏わりついてくる 復元することはできない かといって 消去することもできない 今という時間は 次々に剥がれ落ちていく まばたきをした次の瞬間には すべてが過去となっていく 私はどこにいたのだろう 深海の底か 銀河の果てか 羊水の中か 雑踏の喧騒か 溢れんばかりの陽光か 漆黒の闇か 私はどこから来てどこへ行くのか 誰にも分からない 時間は巻き戻せない それでも一つ確かなこと 過ぎ去った一つ一つの時
廃線の鉄路の先の星月夜 季語:星月夜 次頁より白紙の日誌星月夜 季語:星月夜 星月夜父の遺品の羅針盤 季語:星月夜 喘息の子の背をなでて星月夜 季語:星月夜 この海に父は沈んだ星月夜 季語:星月夜 次々に折られるテント運動会 季語:運動会 撮影は線の内側運動会 季語:運動会 石灰の粉砕きをり運動会 季語:運動会 転んだ子助け起こす子運動会 季語:運動会 ラインカー係は走る運動会 季語:運動会 空さえも割れると知った原爆忌 季語:原爆忌
このふんは痩せた猪きんもくせい (季語:金木犀) 長靴の吐き出す蛙シャッター街 (季語:蛙) 行方不明児童無事保護秋の暮 (季語:秋の暮) 泳ぎ出す玩具のくらげ秋の暮 (季語:秋の暮) 壊れゆく学級マスクの口々くち (季語:マスク) 崩れゆく桃の香ホスピスの造花 (季語:桃) 逢引の声白桃の潰れる香 (季語:桃) 呼び鈴の♯が取れて雪解水 (季語:雪解) 雪解風誰か笑つた窓の向こう (季語:雪解) 姫女苑津波は展望台まで来た (季語:姫女苑
耳をつんざく破裂音 響き渡る轟音 大地が砕け散る 建物が砕け散る 人も砕け散る 無色の景色と 人々の悲鳴と 死屍の腐臭と血の臭いと それでも 空はずっと青 ありとあらゆる正義 ありとあらゆる主張 ありとあらゆる神 それらの名の下に 果てなく殺戮は繰り返される 人はここまで堕ちるのか いやそもそも これが人の本性なのか そこには勝者も敗者もない あるのは数多の無機質な死のみ 日常は遠ざかり 今ではまぼろしのよう
断崖の色のヒヌカン寒雀 (季語:寒雀) 長き夜や原稿の語尾また直す (季語:長き夜) 長き夜図鑑に吾子の手垢かな (季語:長き夜) 屑籠の玩具の瞳こどもの日 (季語:子どもの日) 折檻の記憶こどもの日清らか (季語:子どもの日) 夕時雨拾ったのは墓石の欠片 (季語:時雨) この声は知らぬ子時雨のかくれんぼ (季語:時雨) 雲が剥がれる梅の散つてゆく音 (季語:梅) 梅の花骨を洗つたやうな白 (季語:梅) 鵺が鳴く死屍の形のグローバリズム (
喧騒の先に 友が呼んでいる 足音が連なる イチョウ並木から 木漏れ日が降り注ぐ 生垣に 朝露が光る バスのエンジン音 電柱の角を曲がる 商店街のアーチをくぐる 郵便ポストの十字路を真っすぐ進む そして あの坂道を上れば 校舎が見えてくる 白い光に包まれる 友の声が降り注ぐ あの日々が呼んでいる この坂道を上れば そこにはきっと……
すべての命はここから始まり すべての命はここで終わる 太陽の光を吸い込み 地球を浸す どこまでもどこまでも 広がっていく トビウオの群れが跳ねる クジラが潮を吹く シャチが食いちぎる クラゲが水面を漂う サンゴが卵を飛ばす イソギンチャクが揺れる クマノミがひょっこり顔を出す 貝が砂地を這う 白い砂浜 寄せては返す波 サンダルの足を止めて屈む 貝殻を拾う 砂の粒が指先に吸いつく ゆっくりと太陽が落ちてくる ほどなくして 辺りは夕闇に包まれ始める 波音がいつまでも静かに
ここはどこの国だろう 暖かな風 白い砂浜 寄せては返す白波 散らばる貝殻と珊瑚のかけら どこまでも広がる青空 その空間を切り裂くように飛び交う米軍機 断崖に残る無数の弾痕 ここはいつの時代だろう ヤマトグチとウチナーグチの入り混じる商店街 風に乗る三線の音色 響き渡るパーランクーの音 建ち並ぶ鉄筋コンクリートと 点在する赤瓦の屋根 子供が歩き回る深夜のコンビニ 自治体放送に流れる不発弾処理の知らせ 有刺鉄線の張り巡らされた米軍基地 これはなんの記憶だろう 雨あられと降
嘲笑と 教科書を裂く音と カバンを押し潰す音と 無数の「死ね」という文字と 手の甲にコンパスが刺さる痛みと 頬を蹴り上げられ 口の中に広がる血の味と 一度は助けを求めただろうか でも 助けてくれる人はいないと知った 誰もが素知らぬ顔で通り過ぎてゆく そう ここにはわたし一人 そこには無色の空があった そこには無風の景色があった もがけばもがくほど 落ちていく 這い上がれない けれど もがくのをやめてしまえば ただひたすら打たれるまま あの日までは当たり前だと思って
いくつもの声が いくつもの足音が 陽光と雨粒と一緒に 駆け抜けていく 友の声 先生の声 鳥の声 椅子を引く音 鉛筆を走らせる音 消しゴムをこする音 教科書をめくる音 チャイムの音 ふと顔を上げた時 たくさんの音が ここに流れ込んでくる もう二度と ここに戻ってくることはない さようなら ありがとう さようなら
ひきがえる洗剤の香のカルト村 (季語:ひきがえる) 石灰の粉砕きをり運動会 (季語:運動会) この石を去年も踏んだ赤蜻蛉 (季語:赤蜻蛉) 救急車停まる校門落葉降る (季語:落葉) 病室の床にクレヨン秋時雨 (季語:秋時雨) 重陽やマリア観音は冷たし (季語:重陽) 野分来る鉄路を打てばミの♯ (季語:野分) チェロの弾く印度の虎狩り野分来る (季語:野分) 寒海苔や神は夕日のほうに座す (季語:寒海苔) 寒海苔の青し有明海黒し (季語:寒
車椅子止めて蜜柑をむさぼりぬ (季語:蜜柑) 教室の椅子低くして秋の風 (季語:秋) 太陽の塔の冷たし月の蝕 (季語:月) 月光の染みゆく鍾乳石伸長 (季語:月) 石鹸がくずれ遅日の女子トイレ (季語:遅日) 赤い羽根地雷は一個五百円 (季語:赤い羽根) 赤い羽根チクチク異国の学生デモ (季語:赤い羽根) ポインセチアいびつな街頭募金の列 (季語:ポインセチア) ポインセチアiPadは聖書の頁 (季語:ポインセチア) 野焼跡運航は明日より再