シンエヴァのおっさん感想会
※これはネタバレ全開です。
みんなは『シンエヴァンゲリオン』もう見たかな? まだ見てない?
じゃあ早く見に行こうか、そしていっしょに考えて欲しい。
以下は筆者(35歳)と、学生の頃から付き合いのあるA先輩とのLINE会話を一部再構成したものだ。
いろいろあったが今でもこんな
会話をしている。
つまりダメな中年のおっさん二人である。
これは、こんな二人が公開日の夜から「この映画なんなの?」ということをわりと真剣に考察した記録である。
内容は二人で話しながら深堀していくので、同じ話を繰り返すことや、前後で矛盾していることを言っていることが多々ある。
しかし、最初と最後では全く違う角度から映画を見るようになっているので、ぜひその変化を楽しんでもらいたい。
難しいことは特に話してないので、喫茶店でオタクがでけえ声でしゃべってるのを背中で聞いてる感覚で読んでくれるとうれしい。
第一夜 見た、考えた、悩んだ
ヨ=筆者 A=A先輩
ヨ「最高の映画でしたね、こんなに楽しくなったのは久しぶりです。ありがとう監督」
A「みんなが文句ばっかり言うからちゃんと全部やっちゃったよ。みんなの要望にすべて応えてクソ映画になったSW ep.9っぽくなるかと途中は心配したけど・・・。最後は爽やかに終わったね。明るくポップで親切な『エヴァ』だった」
ヨ「帰りの車の中で、あんまりにもショボい話だったんで一人で爆笑してしまったんですが、この映画大好きですね。信じられないクソ映画をどうとうと出してきた」
A「これはep.9なんだよ」
ヨ「庵野監督が、『みんなエヴァで苦しんだこと、今思い出すと楽しかったよな?』ってのをゴリゴリに押し付けてきてるわけです。ノスタルジーの世界に『エヴァ』を押しこめることで、『昔の悩みって今思うと小さいことだったよねえ』って言ってて、勝手にいい思い出にするんじゃないよ!と。エイブラムスが作ったのならば怒りますが、本人が作っているからキュートな映画です」
A「わかるようにわかりやすく作ったから、あんな風になるしかないんでしょう。そこに初老フィルターがかかってる」
ヨ「庵野監督、本気で『旧劇』とか『Q』のことを、もうパロする対象のいい思い出ボックスにしまったんですよ。高畑勲のしょぼいパクリの農村パートも、本気でいいと信じてる」
A「庵野監督、農村は素人だからな」
ヨ「だから最後は自分の実家から再スタートするんでしょう。農村には住めないからですよ」
A「あんまり映画のストーリー的な内容について話すことないよな、『シンエヴァ』」
ヨ「ラスト30分のパンチがありすぎて、それ以外のことの記憶があんまりないです」
A「俺的には構成点を全て満たしてしまったから100点としか言えないなあ。意外と面白かったよ。『破』より見せ場とか盛り上げ方が少しつまらないくらい」
ヨ「『破』今見るとツライですよ。パチンコみたいなアニメだもの」
A「今回は意外に楽しいし、やれって言われたことは全部やったから、テストの点としては満点。でも何回か見返すけど円盤はいらないかなって出来だった」
ヨ「あと二回くらい映画館で見たいです。小さい画面で見ると意味考えちゃうのでダメな映画だと思いました」
A「ただの答え合わせとしてはアレで良い。ちゃんと主要キャラはフォローしたし」
ヨ「記憶捏造されていい人になった加持くん最高に笑えましたね。あの映画が堂々たるクソ映画たるゆえんです。ずっとマリのことなんやねんこいつって思ってたんですが、あれ監督の奥さんだったんですね」
A「嫁になったの最近じゃない? 『破』は違うし『Q』でも違うでしょ?」
ヨ「違います」
A「そういうことに当てはめて落としどころが付いたって話だよね。だからやっぱりオジサン補完計画だよね。作中のゲンドウだけじゃなくて、だんだんジイサンの補完計画になっていくの」
ヨ「無理やりいい思い出にされてしまった」
A「テレビは若者アニメだよね」
ヨ「私は『旧劇』までは『中年期の危機』の話だと思います」
A「そう、若者がおじさんになる間の葛藤。それで『破』まではオジサンとしてどう生きるかだったじゃない。今回はオジサンの更に先の年代になってる。今回の違和感ってそこじゃない?」
ヨ「今回は完全に人生終わらせにかかってます」
A「俺たちも赤いチャンチャンコ着れば、『シンエヴァ』の良さわかるよ」
ヨ「あの監督が『赤ちゃんかわいいね』って言いだしたのこの世の終わりだと思います」
A「俺たちは置いていかれたのよ」
ヨ「そうです」
A「大丈夫、すぐ追いつくから」
ヨ「うわあ・・・」
A「今はわからないけどわかる予感したもの。君も5年たてば俺の気持ちがわかる。どう思ったかは違うけど二人の解釈は一致してるね」
ヨ「とにかくこの映画、話を追いかけるとただの監督の思い出語りで、絵的に見ると高水準にまとまってるけど、目を引くところは『旧劇』のパロばっかじゃないですか。総合的に見るとバカバカしくて笑えるよねって映画だと感じました」
A「テーマ的には愚直にやってるよね」
ヨ「いつも通り正直に話しています。一番その時かっこいいと思うことをしています」
A「絵作りと、パロディがアンバランスだから笑っちゃうんでしょ?」
ヨ「あの野郎、大人になった自分であるはずの、宇部新川駅にいるシンジくんの声を神木隆之介にしやがって! 宮崎駿は謙虚だから庵野監督にしたじゃん。ちゃんと自分で当てなさいよ! わざわざ実家にロケにいっておいて何かっこつけてんだ」
A「10代20代だったから神木くん使っただけで、シンジくんが30、40代だったら岩井俊二とかで、50過ぎてたら本人やったかもよ」
ヨ「とにかくあの長尺を退屈させないのはすごい。でも中身は何にもないんです」
A「そうなんだ。面白いから長く感じない。いまさら綾波がかわいいことしても萌えないけど面白い。面白いだけだけど」
ヨ「この映画のキュートなところって、プラグスーツ農業とか、なんもしたくなくてふてくされてるはずなのに雨宿りだけはするシンジくんとかそういうのじゃないですか」
A「10年前ならそれでポカポカしたけど、もうしねえよな。ちょっと賞味期限が切れてるポカポカ」
ヨ「あれはポカポカじゃなくて、孫とか新入社員を見る大人の目線ですよ」
A「そこらへんをわかっていても理解はまだできていない。なぜなら監督に置いていかれたから。10年後の楽しみだね。今の正直な感想は『ちょっとダサいかな?』ってところ」
第二夜 忖度、善意、あるいは天然
A「ネタバレしないようにしよう!ってブームがあってみんな過剰になにもいわないね」
ヨ「でも『俺は許したぜ』って大人の対応するのが正解みたいな空気で概ね好評ですね。早くクソ映画って言いたい」
A「『エヴァ』が『エヴァ』たりえたのってスタイリッシュであることだって面もあったじゃない」
ヨ「今回はそれがない」
A「空戦シーンが楽しいのを加点しても、この映画に点数をつけると、『エヴァ』としても20点くらいなのかもしれない」
ヨ「音楽、プロダクトデザイン、ターム、全部ダサいです」
A「音楽とくによくないね」
ヨ「一曲も印象に残ってなくて」
A「他もよくないけどデザインはダサさのレベルが同じだから統一感がある。音楽だけダサい。テレビの焼き直しでいいのに」
ヨ「たぶん突出したものが無いようにしたいんだと思うんです。特撮音楽使っても『シンゴジラ』の時みたいに爆音で流さないし」
A「演出としてはコントロールできているから正解なんだよな。でもコントロールしたラインが少し低い」
ヨ「低いですね」
A「今の若者にわかりやすくしたかったのかな。富野さんがよく言うみたいに『今の若者に!』って。あの人のわかりやすいはわかりにくいけど」
ヨ「ストレートに語ることが一番おもしろいって思ったんでしょうね。ストレートすぎてゲンドウのバックグランドなんて5分で全部語れて、チンチンなえなえのクソみたいなヤツって晒されて。それを言っちゃおしめえよ」
A「あれ書かなくてもわかるじゃん。主人公を描けば、その目線で想像できてるじゃん」
ヨ「見りゃわかんのに書くのは、『ごめん俺の悩みしょぼかったわ』って懺悔というかワル自慢ですよ」
A「そこまでわかりやすくしたのは、ゲンドウに庵野監督が感情移入しちゃったか、感情移入させたいのかってことでしょ?」
ヨ「『察してよ!』『言ってくれなきゃわかんないよ!』でダメになっちゃうのが『エヴァ』って作品でしょ? そうならないように口に出してるんですよ」
A「やっぱりep.9なんだよ。周りから言われた課題を、今までの流れをぶち壊しにしてもクリアしていく作品だよこれ」
ヨ「ある時点からシンジは監督じゃなくって、監督にコントロールされるのを拒絶した『息子』になってるんです。だから父親が懺悔するわけでしょう?」
A「シンジなのか父なのか視点がボケてる。どうせなら父の映画でやりきればよかったのに。息子から見た父なのか、自分語りがしたいだけなのか」
ヨ「それは『この映画の登場人物はみんな俺のことだってわかってるよな?』ってことを監督に忖度させられているんですよ。『みんな俺のこと大好きだからなにがしたいかわかってるよな?』って」
A「向こうの気持ち的には忖度じゃなくて、ナチュラルなんだよ。下手したら善意の可能性すらある」
ヨ「ゲンドウに見ればわかることをわざわざ言わせるのって、『ここはエヴァと向き合うのが怖かったオレが、今からそれを乗り越えるって意味で読んでね』って強要してきてませんか?」
A「違うよ、これ初老の映画なんだよ。強要はしていないよ」
ヨ「説教映画ってことか、善意ですね確かに・・・。」
A「説教なのかわからないけどさ、映画館で、俺も『エヴァ』と向き合おうって思ってたの、庵野監督と一緒に向きあおうとしてたの」
ヨ「全然ちがかったですね」
A「そしてら向こうは卒業してたの。あいつだけふんわりと」
ヨ「僕らのことも勝手にあいつの中のいい思い出にされてた」
A「でもさ、庵野監督はそこを抜けたのかもしれないけど、『俺たちは今なんだよ!!』ってことじゃない。でもあんなに優しく上から言われたら文句言えないじゃん」
ヨ「監督は映画の中でニコニコしてるように思えましたねえ・・・」
A「じいさん目線で『大人になりなさい』って言われるとさ、実際こっちもいい歳だし、反論できないじゃん」
ヨ「ようは『エヴァ』を見に行ったら監督に般若心経を聞かされた」
A「え!? 監督、もう出家してたの!?」
ヨ「そうなると監督が真剣に般若心経を唱えてるのを笑うか、色即是空じゃねえんだよ! バカ野郎!ってキレるか、般若心経いいよねって受け入れるしかないじゃないですか」
A「でもそれはズルいよね」
ヨ「マジで許せないクソ映画」
A「正しいんだけど童貞サークルで女性ヘイトをみんなでムンムンたぎらせてたら、会長だけ彼女とセックスして『お前らもうちょっとちゃんとしろよ』って言ってくるようなもんじゃない」
ヨ「その通り」
A「いっしょに卒業してくださいよ、そうじゃなければいっしょに留年しようぜ~」
ヨ「そこが罠で、監督はもとからそっち側ですよ」
A「みんなこんな話してるのかな? 『エヴァ』を見てきたんだよ? もっとアスカがレイみたいな存在でびっくりしたとか、ミサトさんがコブつきになったからもう萌えないとか、そういうのを話すのが健全なのかな・・・」
ヨ「いやあ・・・?」
A「今回はちゃんと説明してるから、『エヴァの謎』みたいなのはあんまりないよね。もっというとわかんなくても話に関係ない」
ヨ「だってこの映画って作中で『これは監督の絵日記です』ってはっきり言ってるんだもの。監督の気持ちになって考えて!って強制されてるんだもの。監督の気持ちの話するしかないじゃん。だってキャラクターは監督と奥さんしかいないんだもん。どのキャラの話しても庵野の気持ちなんだもん」
A「気持ちになって考えるまでもなく全部言ってるだろ。こっちはそうですかって聞くだけだよ」
ヨ「独演会」
A「人柄が出るよな。押井監督も独演会するけど」
ヨ「庵野監督はかわいげがあるから僕はそこは嫌いじゃない」
A「かわいいから傾聴しちゃう」
ヨ「奥さんの気持ちがわかっちゃう。この人純粋でかわいいなって」
A「やっぱり『風立ちぬ』は庵野さんでよかったよね。人柄が声に出てるじゃん。『シンエヴァ』も人柄がフィルムを貫通して出てきてる。だから聞いてあげたくなっちゃう」
ヨ「だから、結論に至る過程が、鎌倉で自然ってきれいだなって思ったら田んぼ出すし、赤ちゃんかわいいねえって思ったら出す」
A「かっこつけてないから僕らでも理解できるわけじゃん」
ヨ「わかっちゃうんだよなあ」
A「『もののけ姫』なんかわかんねえよ。『俺は勉強してるんだから、お前ら勉強しろ!』じゃん」
ヨ「『風立ちぬ』はわかっちゃう。宮崎駿が『ごめん俺庵野だったわ!』って言ってる」
A「あれ、わかりたくなかったよな。わかっちゃうと前時代的で傲慢な男のファンタジーしかない」
ヨ「だからみんな好きなんでしょ?」
A「『もののけ姫』はわかんねえし、見返したくねえよ」
ヨ「『もののけ姫』はですね、理解しちゃうと、『あ、これ高畑勲でいいや』ってなるんです」
A「やっぱり高畑さんは筋が通っててかっこいいよな。危険な人だけど」
ヨ「高畑勲は最高ですね。周りのものすべてを自分の道具に変えてしまう怖い人」
A「ああいうのに惹かれちゃだめだよ。危ない」
ヨ「他人の人生を破壊して映画を作ることに罪悪感がないですからね」
A「何の話しても高畑勲にたどりつくのやめない?」
ヨ「これはエヴァの話ですよ。庵野監督はかわいさで周りの人間を奴隷に変えるんです。鈴木敏夫抜きでも金が集まる天然愛され体質」
A「庵野監督はいい若者だったんだよ。あとはいいジジイになれるか次回作に期待したい」
ヨ「ジジイになっていいことしたくなったから博物館とかやってるんでしょ?」
A「庵野監督って思想の人じゃなくて、面白さと技術がスタート地点の人じゃない」
ヨ「でも意地と意地のぶつかり合い、自分をさらけ出したラップバトルするアニメがかっこいいから『エヴァ』つくったわけでしょう?」
A「今のところの感覚は、『置いていかれてしまった』『先に行っちまいやがった』だな。寝かせれば新しいのでるかな」
ヨ「僕はまだもう一段階レイヤーがあると思います」
A「作中の設定考察とか知らなくていいよね」
ヨ「意味ないでしょそんなこと。作中でも意味がないって言ってますよ」
A「24年前はそれが映画館に行く目的だったわけじゃん」
ヨ「そこがわかっても理解は深まらない。だってあれって富野アニメの専門用語が飛び交ってる意味の分からない感じかっこいいよねって以上の意味ないもの」
A「『なんか設定がある』でいいよな」
ヨ「『すごく素敵な洋楽の歌詞を翻訳したら、全然素敵に感じられなくなってしまった』みたいになりますよ。どうでもいい」
A「誰も言わないから言うけどさ、面白みのない模範解答より、不合格だけど個性的な解答をみたかったよね」
ヨ「それです」
A「97年に一回見たからいいんだけどさ。でも戦自VSネルフ、弐号機VS量産機の面白さの分だけ前の方が良かったな。庵野アニメに期待するのってそれだけだからさ、俺は『エヴァ』じゃなくて『トップ』とか『ナディア』が見たかったんだねえ」
ヨ「『エヴァ』で金集めて、面白い映像技術をバンバン実験するぞ~ってのが最初の企画だったのにそっちはしらけちゃいましたね」
A「錦織さんも農村のシーンいいけどさ、やっぱ農村で萌えるより戦自に燃やされるネルフ職員の方が楽しいよね」
ヨ「無慈悲に人生は終わるってのがクールだったのにあいつ死ぬのが惜しくなった」
A「近藤喜文じゃなくて庵野アニメ見にいってるからね」
ヨ「農村パートは話的には失笑ものなんですけど、あの映画の一番の見どころあそこだし、一番見入るのもあそこだと思うんです」
A「ジブリならそれでいいんだけど、ステーキ喰いに行ったのに、監督が野菜は体にいいよ?って煮物出してきたから」
ヨ「野菜そんなに好きじゃないくせにね」
A「でも体にいいって言われると文句言えないんだよね。だからズルい」
ヨ「でもあれってやっぱり「俺農村無理だわ」って話で、だから死ぬかもしれないけど、カチコミにいくんでしょ?」
A「宇部市くらいならなんとかって言ってんだよ」
ヨ「それが奥さんと買った『鎌倉の家』です」
A「なんか昨日と同じこと言ってるな」
ヨ「まじめに話したら文句しか出ないですよ」
A「俺はあんまり文句はない。あえて言うなら肉を食いたかった。何せ退屈しなかったし」
ヨ「頭つかうから楽しい映画体験でしたね」
A「あれは人徳だよ」
ヨ「良い人ですね。だから許せないけど怒れない」
A「でもさ、『シンエヴァ』の原画はいらないなあ。『旧劇』の原画は欲しいけど」
ヨ「そのことですけど、ずっとずっと不満で、『新劇』になってからの『エヴァ』はプラモもフィギュアもひとつも欲しくならない!!」
A「俺がおじさんになったからかもしれないけど、フィギュアというより、綾波でもアスカでもミサトさんでも抜けない。抜けるかもしれないけど抜こうと思わない」
ヨ「チンチン立たないし、オマンコもなめたくならない」
A「マリはいけるかな」
ヨ「マリと委員長はハネましたね」
A「そこが初老映画のエロス」
ヨ「委員長のエロスってセックスをにおわせてるからなんですけど、どんなオマンコしてるのかなって気になることはない。でもしょうがないんですよ。あれって「じいさんが考える理想の若夫婦」だから」
A「先にセックスから卒業されてもなあ。だって『エヴァ』なんだよ? これじゃエロ同人誌でないよ。綾波なんて性消費の象徴のはずじゃない。勝手に綾波とアスカがそこから足抜けするんじゃないよ」
ヨ「そういう作品じゃないですからね」
A「24年たつとチンコ使う回数減るのかなあ。もっと新しく見た若者に配慮してほしいよね」
ヨ「だって「オナニーは体に良くないぞ!」って映画ですから」
A「しかし俺たちも枯れてるからなあ。まじめにやる気のある人は加持くんの役割とか考察してるわけでしょう? そんな気力もないから庵野監督のこと考えて、怒りもしないで許して終わる。枯れてるよね。問題あるのは俺たちだなんだよ」
ヨ「あの映画って、本来作られるはずだった完結編である『急』のストーリーが何の説明もなしにあったかのように差し込まれてるんです。でも庵野監督の中で『急』製作に失敗したのもいい思い出になってるから、俺たちが見てないことなんてどうでもいいんですよ」
A「今回長いのって、あの見せてもらえなかった予告の『急』をやる尺の分なんじゃないかって期待しなかった?長いからさ。そしたら農村でしょ? 毒気抜かれるよねえ」
ヨ「覚えてる? なっつかしい! こんなことあったよね~。って俺たちの記憶まで改ざんしていい思い出になるように強要されてるんですよ!」
A「何度も言うけど置いていかれてるだけで、それは君の解釈なの」
ヨ「本来僕ら怒らなきゃいけないんですよ。だって未完成のものみせられてるんですよ」
A「でも悪意がないじゃん。上から目線でナチュラルにやってるから」
ヨ「そうなんです。へなへな~ってなる」
A「相手が年寄りだと思うと張り合いがないよね」
ヨ「何言っても「そのうちわかる」って言われるだけだもん」
A「年上といえば、君の10歳上のMさんはまだ感想言わないんだな。ネタバレ絶対禁止ってよくないブームだなあ」
ヨ「コロナの悪い影響ですね。過剰なモラルと自粛を受け入れちゃってる」
A「みんな、ネタバレしなくても『クソ!』とか『最高!』とかくらい言えばいいのにね」
ヨ「見る前に先入観を与えることすらタブー視されてますよねえ」
A「誰も『映画の話』しないの異常だよ。結果的に逆応援にしかならないもの」
ヨ「僕は雰囲気で察してほしくて楽しそうにしてるんですけど、ネット断つとか言うくらいなら初日に見なさいよ。人の感想で楽しめなくなるようなヤワな感性で映画を語るんじゃないよって言いたい。これは僕がもう変われないおっさんだからなのかなあ」
A「あ、いいところ思い出した!! あのやっすいCGの辺り! パイプ椅子始まったぞ!!! ってドキドキした」
ヨ「てらいもなく初代プレステのローポリぶち込んできたところ! あそこはガッツポーズしましたよ。ローポリはクールだった」
A「隣の席の若者は知らないから『やらかし・・・?』みたいに不安になっててよかったね。でももう散々やったことだから、さらっとやって終わりだったね」
ヨ「巨大綾波のCGがクソ雑なのとかローポリなところは、あそこだけいつもの嫌な監督だった」
A「もっとクオリティ落とさないとわかんない人いるんじゃない? 白黒線画まではやってないから、ん? これは? って違和感で不安になるのがいい」
ヨ「不安になれてうれしかったです」
A「ファンサービスだよねあれ」
ヨ「あれってローポリの綾波だすことで、種明かしするとこんなの作りもんですよって言いたいわけで、『エヴァ』そのものをパロディにすることが目的でしょう? たしかに『旧劇』のこと忘れてないよって目くばせは感じたけども、そうじゃないと思う」
A「それがつまんない模範解答じゃないのかな。パロディにするならもっと悪のりとか逸脱する必要あるんじゃない?」
ヨ「ローポリでくすってしませんでしたか?」
A「ところでさ」
ヨ「はい?」
A「俺とこんな枯れたおっさんトークしてて大丈夫? 本当は若い娘と『アスカがクローンでびっくりしたね!』とか『マリがマリアってどういう意味なんですか?』みたいな話したいんじゃないの?」
ヨ「若い人の感想は聞いてみたいけど、あの映画みたいにニコニコできるとは思えないんです。でも敵を作りたくないからそれすらいえない」
A「みんなで『エヴァ』の話しないのもったいないよねえ」
ヨ「世紀のクソ映画みたのに、腹の探り合いしてさ。これじゃ被害者がどんどん増えちゃうよ」
A「いまさら気になってきたんだけど、『Q』でミサトさんとかアスカとかシンジにあれほど冷たくしてたのに、今回『実はあれってね』って言われても、これレイが実はパルパティーンの孫でした! みたいな今までのぶち壊し感ない?」
ヨ「あれはミサトさんたちが、道理をすっ飛ばして結論だけシンジに教えたから、シンジが納得しなかっただけで、最初からあの態度は優しさでしたよ。シンジがゼルエル倒さなければ人類全滅してたから、感謝してるってのは『Q』のときから変わってません。ただ、シンジに事情を説明するのが気まずいからああいう態度してるだけで」
A「えーーー!? 説明してないだけってこと!?」
ヨ「『Q』はそういうすれ違いの話でしたよ。それは見ればわかる。本気で嫌ってるならミサトが首ふっとばしてるでしょ」
A「でも全部後付くさいんだよねえ。没映画の設定なのかもしれないけど『それ今考えましたよね?』って感じちゃうもの。その辺があるから全部嘘くさいんだよ。農家だってさあ、なれないことしてるから嘘くさいし」
ヨ「嘘くさいじゃなくて嘘でしょあれ」
A「嘘くさいでなくて薄っぺらいってのかもな」
第三夜 疑心暗鬼、失われる正気
ヨ「僕、『シンエヴァ』のこと誤解してましたよ・・・。この映画説教してるんじゃなくて、監督といっしょに歳をとった人に、お互い頑張ったね! お疲れ様!って言ってたんだ」
A「うん、そうだよ」
ヨ「うわぁ・・・、善意だよこれ・・・、気持ちわりぃ、吐きそう・・・」
A「ずっと言ってるじゃん。説教なんじゃなくてナチュラルなんだって」
ヨ「わかりたくなかった・・・」
A「強制してるんじゃなくてね、もう少し優しい上から目線なの」
ヨ「それ違いますよ、僕最初から映画に呼ばれてなかった・・・」
A「あの映画が鎌倉の家への招待状なんでしょ?」
ヨ「あそこで羅列してたエピソードって50過ぎた人が当然通過したことの寄せ集めで・・・、うわあ・・・、気持ちわりぃ・・・」
A「卑屈にとらえすぎだと思うけどなあ」
ヨ「もうあの映画見て喜べない・・・、なんだよあの映画・・・」
A「結婚して自分だけじゃなくて嫁も充実してて、還暦になれば共感できるんじゃない? 鎌倉に家買わないといくつになってもわからないのかもよ」
ヨ「マジで気持ち悪い。そうじゃないやつは『死ね』って言ってるもの」
A「大事なことだけど『死ね!』とは言ってないのよ、ただ結果的にそういう意味なだけで」
ヨ「『まあ、死ぬしかないよね~』って」
A「俺たちからしたらどっちでも変わらないんだけど、言ってる方の気持ちは善意じゃない。だからヨシダくんは気持ち悪いんでしょ」
ヨ「だってですよ、俺たち招待されていないパーティにのこのこ行って、出された料理がまずいとか、ホストの服がダサいとかしたり顔で喚いてたんですよ。気持わりぃなあ・・・」
A「その辺は違うと思うけど、招待状が来てなかったんじゃなくて、誤発送されて来たって感じじゃないかな。結果的には「お呼びじゃない」ってことだから同じだけど」
ヨ「監督の還暦パーティで聞かされる思い出話なんですよこれ、だからみんな庵野のことが大好きで、宇部市って言えばすぐに実家じゃんってピンとくるくらい庵野のことわかってる前提なんだ・・・。招待客たちが「あったあった!」って談笑してるのに、それを聞いてる俺たちが説教って感じただけで、本人にはまるで悪気がないんだ。初老の映画、ボケの始まり、圧倒的自己肯定感です」
A「昔はみんな監督のこと『大丈夫?』って心配してたじゃん。それが元気になったから良かったじゃない。それでいいよ俺は。みんなからあんなに「シネシネ」言われた人いないよ。その人がブルジョワな小さな幸せを手に入れたんだから祝福してあげなさいよ」
ヨ「今僕はかつてないほど傷ついてますよ」
A「他人の幸せで傷つくんじゃないよ!」
ヨ「違います。監督が幸せなのはいい、置いていかれたのもいい、ただ最初から相手にされてないのにいい気になって見に行った自分がみじめというか、滑稽で悲しいんです」
A「もとから雲の上の人なのに勝手に仲間意識を持ってただけでしょ」
ヨ「そりゃそうですよ」
A「ちょっと期待が外れたからってもともと、モテモテ庵野さんのフィルムなんだからさあ」
ヨ「でも旧劇は僕らに『キモい!』『鏡みて出直せ!』って言ってくれたじゃないですか。今回は存在すら認識されてないですよ」
A「醜いアヒルの子が『白鳥だったわ俺って』って思いだしちゃったんだからアヒルはもうどうしようもないでしょ!」
ヨ「あとはもう、『あいついい気になりやがって許せねえ!』って叫ぶ」
A「みんな60になったら鎌倉に住むと思ってるのかな・・・。『俺は鎌倉に古民家を買ったぜ』って自慢ではないよね、もっと監督の無垢な何かが君を傷つけたんでしょう?」
ヨ「一生懸命生きなさいってことを言ってるんです。アヒルだって精一杯生きろって。そのための農村です」
A「もっと天然で、農村に行けばみんな目覚めるって思ってるよ」
ヨ「そうですよ。だから農村に招待してくれたんじゃないですか。しかも庵野の家に泊めてくれたんですよ。○してやりたい」
A「卑屈すぎるなあ。それはとらえ方の問題だよ。でも受け取り方の問題であっちの言ってる内容に変わりはないから、君にとっては正解だね!」
ヨ「ひどい! ひどい! 僕も鎌倉に住みたい! えーんえーん! 鎌倉の庵野の家に一晩泊めてもらって、モヨコが作ってくれた飯を食って、横須賀線に乗って東京のカラーに出勤して、頑張って映画作ったからやる還暦パーティしました! 『みんなよく頑張ったね! 俺も頑張った! みんなのこと愛してるよ!』って映画だもの」
A「ゲームうまいひとにさ、『ここは注意して進みます』とか言われても困るじゃん。そんな感じだよね」
ヨ「『こうやって稼ぎます』」
A「『頑張ってかわします』」
ヨ「庵野監督の声で聞こえた」
A「この話、もう少しでまた高畑勲になるな。そりゃ僕ら高畑勲についていくしかないじゃん」
ヨ「そうだ、僕らには高畑勲がいた・・・」
A「鎌倉に招待してもらえないなら、高畑勲のもとで暗い革命闘争するしかないんだよ。汚いビルにこもって、社会を変えてやろうってルサンチマンをさあ・・・」
ヨ「何がムカつくって、押井守は熱海に移住して空手やったら幸せになってろくな映画作れなくなったんです」
A「やっぱ三鷹、いや立川までだな、神奈川まで行くとダメ」
ヨ「神奈川県マジでアニメクリエーターの墓場だな!!!」(※熱海は静岡です)
A「中央線はいい。湘南新宿ラインに乗っちゃだめだったんだな」
ヨ「これは『もののけ姫』なんですよ。なぜアシタカはタタラ場に住むのか。森や故郷じゃだめなのか。答えは面白いアニメが作れなくなるから!」
A「信州の別荘」
ヨ「そう、宮崎駿は、信州の別荘は愛人で、毎日ちゃんと東京の奥さんの家に帰ってたもの」
A「もう鎌倉に移住しろよ」
ヨ「『シンゴジラ』がなぜ、蒲田とか神奈川に上陸するのかまでわかっちゃいましたね。あれ、横須賀線で庵野が見たビジョンだったんだ。知らなきゃよかった。多摩川越えたら東京なんだって実感なんだ。東京駅で終わるのはそっから先のこと知らないからなんだ」
A「そういえば鎌倉に移住した先輩いたね」
ヨ「でもあの人は変わらなかったでしょ?」
A「一人で北鎌倉のワンルームだったからな・・・」
ヨ「あのひとのクリエイティビティは全く衰えなかった」
A「変わったから鎌倉に行く人と、なんとなく鎌倉に流れた人の差だな。つまりこのまま俺が熱海で空手やってもダメなんだ」
ヨ「これは残酷な天使からのテーゼですよ」
A「君が傷ついたってそれか」
ヨ「そうです」
A「まだ公開から三日だし、来週末くらいには新しい発見があるかもよ。今まで気が付いちゃったことは変わらないけど」
ヨ「これは怒れない」
A「もう若くないからな」
ヨ「プラグスーツ脱いで田植え頑張るしかない」
A「いまさら鎌倉とか言われても少し遠いから困るのよね。田植えするしかないかあ」
ヨ「そう、田植え」
A「だからね、50過ぎたひとと、若者に向けた映画なんだねこれ。TVシリーズのときにシンジくんと同じくらいの歳だった人には向けてない。俺たちだけ招待されてなかった」
ヨ「えーんえーん」
A「だとすると、Mさんは泣いて感動はしないんじゃないか?」
ヨ「あの人は還暦パーティに呼ばれてないでしょ」
A「俺たちも不動産投資はじめるか・・・」
ヨ「やっぱ庵野監督クレバーだわ・・・」
A「今Twitterで言質とれたんだけど、Mさん、10点満点で9点、今まで見た上位10%に入る映画って言ってるぞ!」
ヨ「はあ?」
A「何がよかったんだ? 黒綾波にポカポカしたのか・・・?」
ヨ「何言ってんの? なにを評価したの?」
A「あの人、つじつまが合ってることを重視するからねえ。今までの「わかんない」を一個づつ解決したから点数高いのかな」
ヨ「絶対僕たちより理解してるとは思えないですよ。それともあの人には鎌倉への招待状来てたの・・・?」
A「アクションしか見てないって可能性はどうよ」
ヨ「あの人悪意ってものがない根っからの善人ですからねえ」
A「そういえばあの人は高畑勲苦手なんだよね。気持ちはわかるけど」
ヨ「『かぐや姫の物語』ダメだダメだ言ってたなあ」
A「俺は作画がよければなんでもいいから、高畑さん好きだけど、思想に反感持つのかな」
ヨ「サヨクのにおいに敏感ですからねえ」
A「アレルギーは体質だからしかたないけど。オチがくだらないとキレて帰るって感じの人だよね」
ヨ「コスパ重視の人ですからねえ」
A「メインディッシュに肉がないとダメじゃない」
ヨ「映画もコスパで測ってるところがありません?」
A「このサラダ最高! だとどんなにおいしくてもキレて帰るでしょ?」
ヨ「そうそう、肉、もしくは寿司」
A「映画もコスパで評価してるかあ」
ヨ「プラモ狂四郎世代だから、アクティブさが尋常じゃない。つるっとした部品みてると、バーニアとミサイルつけたくなるんですよ」
A「宮崎駿は優しいよね、肉用意してくれるから。高畑勲だと『農家に嫁にいけ』じゃない。そりゃ怒るよね」
ヨ「あの人に『おもひでぽろぽろ』見せて、ここの紅花畑のシーンは、日本最高のアニメーターが一年かけて描いたんですよっていったら怒るでしょ」
A「怒るね」
ヨ「バカか! って。いやまあバカなんだけど」
A「宮崎駿はなんだかんだで肉好きだからね」
ヨ「その人が90点って言ってるんだから、これコスパよかったんですね」
A「そう! それな」
ヨ「僕には理解できないけどお得感あるんですね」
A「あの人の視点は素直だから重要なんだよ」
ヨ「二時間半見る価値があるって思ってくれたんですねえ。農村あれでよかったんだなあ」
A「『旧劇』は本田雄、黄瀬和哉、磯光雄で、最高だよね。今回も観てみたら意外とよくってね、味わい深くてさ。でも宇宙一ではなかった。やっぱり宇宙一のものが見たかった」
ヨ「宇宙ですか」
A「本音はね、監督なんてどうでもいいの、全部それで・・・。俺が見たかったのは『トップ』だったのかも。死ぬ前にもう一度『トップ』みたいなものを撮ってほしかった」
ヨ「大丈夫です、きっとやってくれます」
A「『エヴァ』が流行ってた時も謎なんてどうでもよかったの。カッコよくって面白いものが見たかったの」
ヨ「正直になってきましたね」
A「『ナディア』でもよかった。そういう意味で、「王立宇宙軍」よりダメでさ」
ヨ「ほら、文句あるじゃないですか」
A「『エヴァ』としては100点だけど、別に『エヴァ』が見たかったわけじゃなかったんだなって」
ヨ「『新劇』の決意表明では『エヴァ』よりすごいのが出ないから俺が作るって言ってましたよ」
A「『旧劇』は面白かった。今見ても良い。だから『エヴァ』に宇宙一を期待しちゃったんだね」
ヨ「『君の名は』を見たときに、面白いけどつまんねえなあ、これからはこれなのかあってがっかりして、細田守の映画もですけど、あれじゃ宇宙一にはならないでしょう」
A「これは個人的な話なんだけど、最近あんまりアニメのキャラとセックスしたりしたいって思わなくなってきてさ?」
ヨ「そんなこと考えてたんですか!?」
A「『新劇』見ても楽しくないのは俺に問題があるのかなあって」
ヨ「かっこつけてました、僕も昔は思ってました」
A「恥ずかしいからセックスって言ったんだけど、ほんとは恋愛がしたかったの、アニメの女の子と」
ヨ「うわ、気持ちわりぃ」
A「そういう欲望がないからつまらないのかなあ」
ヨ「だって現実のセックスだって面倒だって思ってるでしょ。そこまでもっていくフェーズが面倒でしょ」
A「え!? めっちゃ女は抱きたいよ!?」
ヨ「風俗ならでしょ?」
A「違うよ」
ヨ「ちゃんとデートプラン組んで、君のことが好きなんだよ? だから君とセックスしたいんだっての、面倒と思ってないとは言わせませんよ」
A「二次元の女の子とデートする方が大変なんですよ」
ヨ「はぁ?」
A「気力と体力をつかって目の前に存在しない人を想像するわけでしょう? 大変だよ」
ヨ「あんたおかしいよ」
A「今までは範馬刃牙がカマキリと戦うクラスの努力で二次元の女のこと恋愛してたわけ、でももうトリケラトプスは召喚できないんだ」
ヨ「たとえば最近誰と恋愛したんですか」
A「それがいないから、『エヴァ』に期待したんだけど、誰もいなくって」
ヨ「僕は綾波とアスカで抜いたことはあったけど、恋愛しなかったです」
A「強いて言えば、映画館の受付のお姉ちゃんを抱きたいって思った」
ヨ「最悪だ。はやく農業したほうがいいです」
A「でも思い返すとあんまり昔も『エヴァ』にムラムラしなかったな」
ヨ「東京みたいなところに住んでるから映画館のお姉ちゃんにセックスを見るんですよ。鎌倉で丁寧な生活したほうがいいですよ」
A「何が言いたいかっていうとキャラも宇宙一じゃなかったってこと」
ヨ「でも今回の女体良かったですよ、大変凛々しくて」
A「そうかなあ」
ヨ「良かったですよ、全裸のマリとアスカ。見ててすがすがしい。なんですがすがしいかっていうといやらしくないから」
A「えー、ムラムラしたかったよ俺」
ヨ「アニメでムラムラしないでくださいよ」
A「ザーメン思念体って言葉があるけど、アスカと綾波なんてそれじゃん」
ヨ「そんな言葉ないです」
A「ニトロのソニ子が流行ったときに、あれをザーメン思念体って呼んでた人がいてね、言い得て妙だなって」
ヨ「でもそういう映画じゃないんだわコレ」
A「そうかあ、違うかあ」
ヨ「シンジくんもオナニーしなかったでしょ。あんだけ抑うつ状態でもチンチンはしっかり立ってた碇シンジでも」
A「まとめるとね、親父萌えもないし、カヲルくんとのホモもないし、あんまり楽しくなかったねえ」
ヨ「『映画』をみるとそうなりますよ」
A「これ、俺たちが全く興味ない『謎』を楽しむ映画なんじゃないか?」
ヨ「そんな、ことありますか」
A「Mさん、それで高評価なのかもよ」
ヨ「吐きそう」
A「現実逃避やめようか」
ヨ「気持ち悪い」
A「だって謎解きしなかったら監督ウォッチして終わりじゃん。実際俺たち三日間それしかしてないんだよ」
ヨ「手が震えてきた」
A「逃げてたの? つらい現実から」
ヨ「つらいことから逃げて何が悪いんだよ!」
A「現実に目を向けよう」
ヨ「だったら僕にもっと優しくしてよ! 僕にかまってよ!」
A「俺たちの補完がついに始まるのか」
ヨ「嫌だよ!」
A「二日目でだいたい出そろったかと思ったけど、Mさんの視点が一番大事な可能性がある」
ヨ「ファン接待映画だったのか・・・? 嘘だろ監督・・・?」
A「視野が狭かった。独善的な解釈で、自分に気持ちのいいことばかり」
ヨ「監督の気持ちを語るとみんなが褒めてくれるんだ!」
A「つらいのは嫌いかい?」
ヨ「楽しいこと見つけたんだ、それをやって何が悪いんだよ!」
A「俺も月曜以降で、今が一番動揺してる。存在を無かったことにしたい」
ヨ「寝ましょう、エヴァのことなんか忘れて」
第四夜 崩れ去る前提
A「ところで『シンエヴァ』が古参には高評価っぽい印象なんだけど、まさかみんな古民家買ってたのか? もしかして呼ばれてないの世界に俺たちだけなのか?」
ヨ「違うんです。今度こそわかっちゃったんです」
A「また?」
ヨ「あの映画って、『旧劇』見て『わけわかんねぇこと言って煙に巻きやがって! まともに映画つくれねえのかよボケ!』って言って理解を止めてた人には、ようやく出てきた解決編なんです」
A「えーー?」
ヨ「そしてもう一つ、『新劇』シリーズをちゃんと連続ドラマとして楽しんでた人は、シンジたちがみんな幸せになる、エロゲーのベストエンドのような満足感があるんです」
A「『貞本エヴァ』の最終巻でいいじゃん」
ヨ「読んでないの!」
A「俺も読んだの最近だけどさあ」
ヨ「映画ひとつで全部わかるからコスパいいでしょう」
A「そうかそうか、大事な視点が抜けていたな。三人寄ればうんぬんだよ。二人じゃダメ、こんな簡単なことだったんだ。「謎解き」映画ってのは半分で、もう半分はハッピーエンドか」
ヨ「そうなんです」
A「『わかりやすいハッピーエンド』ねえ」
ヨ「僕らさんざんTVシリーズと『旧劇』でキャラの精神分析とか文学的意味とか、20世紀のうちにやっちゃってて、人類補完計画がなんなのかなんて全員分かってて当然だと思ってたじゃないですか」
A「みんなわかってなかったんだなあ」
ヨ「だから、僕らが二時間半庵野秀明ゲームしてる間に、一生懸命あの映画と、『エヴァ』に向き合ってたんですよ。僕は昨日、『旧劇』見返して、これに気がついたときに、やっぱり僕はこの映画に呼ばれてないのに、しゃしゃったんだなって傷ついたんです」
A「『旧劇』はなんか抽象的な解答だったから、もっと手でつかみやすい解答があるって信じてた人のための映画だったってことか? でもそれって『シンエヴァ』だけで『Q』までは普通に新作じゃなかったか?」
ヨ「そんなことはないですよ」
A「『シンエヴァ』がテレビシリーズの続きだったってことにならないかそれ。それだと『新劇』シリーズが完結してないんじゃないか」
ヨ「僕らは頭おかしいから、『旧劇』は「ハッピーエンド」だよって自信を持って語れるし、古いのと『新劇』がごちゃまぜになってるんです。『新劇』のストーリーと『謎解き』を楽しみにしてる人たちがこの世には存在していたんですよ!! 我々はまったくそのことに無頓着だったでしょう」
A「あー、流して見てたから、例えば『アスカはクローンで、使徒でした!』って重大発表も無感動だったもんな」
ヨ「僕らは庵野秀明ゲームだけしてちゃんとキャラクターたちのことをキャラクターとして見てあげていなかったんです。」
A「俺たちって、『新劇』シリーズの『謎』をそれは表層的なことで本質ではないって切り捨てていたから、見ているようで見てなかったのか」
ヨ「そこ、わりと楽しみにしている人多いかったんですよ」
A「森を見て木を見ていなかったんだなあ。目の前の木をうるせえ、それより奥と全体見せろって相手にしてなかった」
ヨ「死ぬほど不誠実な見方をしてたんです。だから罰が当たった」
A「猛省しないとなあ」
ヨ「僕は真剣に傷ついたんですけど」
A「また?」
ヨ「あの『おはなし』に価値を見出してる人たちは、どうも鎌倉の家に招待されているんですよ。みんないままで応援ありがとうってことで」
A「ショックだ」
ヨ「でしょう?」
A「死にたい。初めて俺も死にたくなった。俺は呼ばれてなかったのか・・・」
ヨ「同世代ですら呼ばれてないのは俺だけだったって気がついて死にたくなりました」
A「24年前ならネットに『アンノシネ』って書き込めたけど、今は書けないよ、みじめだもん。R50映画なら問題なかったんだ。そうか、俺たちだけ、みんなで鎌倉で有機野菜食ってるのに・・・」
ヨ「もう手遅れです」
A「俺は招待状送る方が悪いと思ってたの、あっちのミスじゃないかってさ。でも違うんだな。本当に勘違いしてたんだ。僕らに来てほしくないゼミ生の誕生会に来ちゃってさ、ゼミの飲み会だから『お前ら仲良しの都合できめるなよ』とか言ってたら、俺なんて来ない前提だったって悟ったときのような感じだな」
ヨ「今の僕たちを客観的に見ると滑稽だよね、でも人生ってこうだよねってのが高畑勲。つまり高畑勲だけが正義」
A「高畑勲はちゃんと俺らの顔を殴りに来てくれるもんね」
ヨ「高畑勲は人類を愛していますからね」
A「呼ばれていなかったとか、いまさらねえよ。全人類に刃物突き付けて、後頭部を石で殴れよ!」
ヨ「でも僕らが庵野秀明ゲームを始めたのって『旧劇』とテレビシリーズがわからないから、わかるようにするためにじゃないですか。にもかかわらず、いまさら『ごめん、これそういう映画じゃないし、もうそういうの興味ないんだ』って言われたら怒るしかないじゃないですか」
A「俺は庵野監督個人にはそんなに興味ないから。演出と作画のキレみたいな場所にしか興味がないから、そういうの感じない『新劇』は監督のパーソナリティを味わうしかないって思ってたんだ。でもそれでこれだとなあ」
ヨ「僕たちに説教している気は庵野には全くなくて、シンジくんたちを作中レベルで助けてあげるために組まれたセラピープログラムを見て僕らが勝手にぎゃーぎゃー言ってただけなんです。観客にハッピーエンドで納得して帰ってもらうための作劇で100%善意だったんです」
A「もう俺は5月にやる逆襲のシャアに逃げるぜ。居心地がいいからな」
ヨ「明日また見てくる予定なんで、そういう演出上のキレみたいなものがないか探してみます」
A「うん、そろそろもう一度見た方がいい。だんだん俺たちの心の中の『シンエヴァ』になってきてるから」
ヨ「Aさんのツレは『エヴァ』見ないの」
A「『エヴァ』を呪ってるから見ないんじゃないかな」
終わりに
筆者とA氏による議論は、「この映画面白いな」という率直な感想から始まったはずであったのに、過剰に意味を考えすぎたことで、おかしな方向に進んでいってしまった。
しかし、これは「映画」を「映画」として見ない不誠実なものの見方であった。
『シンエヴァ』を見て、「置いていかれた」、「説教された」と傷ついた人は、一度庵野監督のライフヒストリーについては忘れ、素直に見てほしい。
この「映画」は監督の自己発見の物語でもなければ、観客へ提案された「人生の攻略本」でもない。純粋にエンターテイメントを志向して作られたものだ。
この意見は明日になったら180度回転している、かもしれない。もうしばらく、おっさんたちの眠れない夜は続く。
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