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読書完走#439『HOP TRAVEL』林伸次 2021

渋谷の名店Bar Bossa店主が、コロナ禍で休業中に“あの"ヱビスビールからのオファーを受けて書いた、特別なホップの物語。
小説は彼が実際に20数年前から営むバーの描写から始まる、かに見える。その店を知る読者は一瞬ノンフィクションかと錯覚するが、いくつかの違和感を経て、やはりフィクションだと気づく。物語を楽しむだけでなく、読み進める間にいつの間にかビールについてのあれこれの知識が身に付いている、一粒で2度美味しい小説だ。
期間限定のヱビスビールに使用されているホップはドイツの名産地ハラタウのもの。日本語っぽい響きの初めて聞くこの地名、漢字を当てるなら原多雨か、腹多憂か。ビールの味の個性を左右するのがホップだという。
お酒の神様=バッカスが登場して、恋の味は甘酸っぱいわけがなくて、ビールのホップのように苦い。そして主人公が恋人を探す旅は終わらない。続編に期待したい。
村上春樹はバーテンダーを経て小説家になった。以前から洒脱なエッセイが好評で本を何冊か出しているマスター林さんだが、さて。

#ヱビスの小説読書感想文