「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」の感想

まえがき

クレヨンしんちゃんはテレビ朝日が世界に誇るテレビアニメの一つです。今回考察するクレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲(以下オトナ帝国)は劇場映画9作目である。

詳しいあらすじ等の説明はしないのでWikipediaを参照していただきたい。

オトナ帝国の総評

 序盤でケンの「未来を取り戻す」や「高度経済成長的な頑張り」、という言葉が印象的である。ここからケンが戻りたい時代は、誰もが未来を信じ歩むことができた時代であり、その時代こそが劇中からは高度経済成長期と読み取れることができる。

 そして、ケンが取り戻したい未来とは誰もが社会の成長を信じ歩むことができる未来なのだろう。

 だからこそ、21世紀はそうならない社会にどんな手を使ってでもしたかった。それは20世紀を生きた大人の反省でもある。なぜなら、ケン達が駆け抜けた時代の帰結は、結局は閉塞感に満ちた社会になってしまったからだ。

 ケンをはじめとする若者達は、当時の大人達に頑張れば希望ある未来が待っていると喧伝され、その喧伝された未来を目指すべく努力したのだ。その結果訪れた世界は、街のニオイがしない世界であり、味のない世界なのだろう。このような世界にした大人達が許せなかった

 ケン達が逆襲したかった相手は彼ら/彼女らが戻りたいと願った未来でもあり、その当時の大人たちだったのだろう。しかし、その当時の大人たちはもういない。さらに、当時というものもやってこない。そのために、当時のニオイを再現することにより、当時の希望を胸に生きていくことを願ったのだろう。

 しかし、ケンには迷いがあった。それが野原一家を見ての一言である。最近走ってないな、である。これは時代(自分)が進んでいないことの暗喩である。

 この認識はケンだけでなく、団員や街の住人にも少なからずあったのであろう。それゆえ、野原一家を見て街のニオイが消えたのだ。そして、それは彼ら/彼女らが上を向いて歩いていく覚悟をする瞬間である。

 ケンは本当に逆襲したい相手が誰かなのか薄々気づきながらもそれを認めることができなかった。だからこそ、未来を返すぞ、という言葉を置き土産に心中しよとした。だが、未来を返す相手は最も身近にいた。ケンはチェコと二人車に乗り走っていく。どこ行くんだよと声をかければ、ちょっと21世紀まで、と返ってきそうである。

 オトナ帝国はクレヨンしんちゃんの映画で唯一大人の為に作られた映画であり、そして20世紀を生きた大人たちの総括と言える。


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