目薬に挑戦する先輩

「ふう…少し疲れたな…そろそろ休憩にしようかな」

僕の名前は木村。

立教大学の2年生だ。

いくらコロナ禍の中であろうと、学生の本文が勉強であることには変わらない。大学での本来あるはずの授業量を補完するためか去年では考えられないような量の課題図書とレポートの提出が求められている。

キリのいいところまで課題図書を読みすすめ、一息をつこうと目薬を差し、砂糖多めのコーヒーが入ったマグカップに手を付けた。コーヒーの味にうるさい方ではないが、根詰めた作業のお供は甘めの物に限る。


「お、木村ぁ いいもの使ってんじゃん」


この人は田所浩二。僕が所属している立教大学迫真空手部の先輩だ。周囲からは野獣と呼ばれている。はじめは野獣?なぜ?と思っていたが、1週間も共に過ごせばその所以は察することが出来るだろう。

いくら大学側から必要以上な人との接触を控えるよう言われても、気の合う人との交友をやめることは出来ない。この日は野獣先輩とそれぞれの課題に向き合っていた。


「あ、わかりますか?先輩。この目薬結構高いんですよ」

「俺にも使わせてくれよな~頼むよ~」


体は一度ダメになると気軽に修復できるものではない。僕は体のメンテナンスには結構気を使っているタイプだ。目薬関しても出費は惜しまない。


それにしても図々しいのがこの男だ。高い目薬だってわかっていながら使わせてくれと頼むのは些か非常識じゃないか?まあ、その明け透けな性格が多くの人を引き付けているのも事実なのだが。彼は気前もよく憎めない性格のうんこなのだ。僕も嫌いではない。


「いいですよ。使いすぎないでくださいね」

「大丈夫だって安心しろよ~」


本当に調子がいい人だ。そう思ってキャップをとって先輩に目薬を渡す。瞬間目を疑った。


この男、目薬を点眼するのではなく、まるで座薬のように肛門に挿入し始めたのだ。

まさにこれが野獣先輩と呼ばれる所以なのだ。おおよそ人間とは思えないような奇行を度々繰り返すのだ。もっとも、野獣にも失礼なレベルでおかしいとも思うが。


「先輩何やってんすか!!!!!」

「え、何って目薬使ってるだけだけど」

「目薬は目に差すものですよ!ケツ穴に入れても意味ないですよ!」


そうこう言ってる間に目薬は奴の肛門に吸い込まれ消えてしまった。俺は悪夢を見ているのか?眼精疲労がたまりすぎて変なものが見えているのか?目薬でも差して疲れをとらなければ…いや、目薬は今や奴の肛門の中だ。今から肛門から目薬を引っ張り出したとしても、もう点眼することは出来ないだろう。打つ手がない。


「馬鹿だな木村は。ステハゲか?目からよりも胃や腸からの方が目薬の成分の消化や吸収効率がいいに決まってるだろ?お前もそろそろ合理的に判断できるようにならなきゃな。」


ん?あれ?…そうなのか?この男と一緒にいると自分の常識が途端に疑わしくなってくる。目薬を点眼するのは誤りだった…?いや、仮にそうであったとしても人の目薬を使って断りもなくやることではないだろう。

そして一つだけ確実に言えることがある。ステハゲはお前だ。


「もうそれ先輩にあげますよ…でも新しいの弁償してくださいね!」

「わかったってもうしょうがねぇなぁ~。」


弁償されるなら過ぎたことはいいか。この男の傍にいればこんなのは日常茶飯事だ。いちいち腹を立てていては身が持たない。休憩するつもりがさらに疲れてしまったが、課題図書を読み進めることにしよう。この男に構って課題が進まないのでは本末転倒だ。



しばし集中して課題図書を読み進めていたが先輩の苦しそうな唸り声が耳に入った。肛門に異物を挿入するからそんなことになるのだと音の方に一瞥した。するとまたも信じがたい光景が広がっていた。


先輩の腹が異常なほど膨らんでいる。目薬の容器が肛門に栓をしたせいで便秘になってしまったのか?いや便秘の症状で腹が膨らむことはあるらしいが、この短時間でここまで進行するとは思えない。


まさかこの男、懐妊している?


いや懐妊していたとしてこの短時間で腹が膨らむはずもない…が


「どうしよう木村…俺、目薬の子供を孕んじゃった…」


この男に常識は通用しないのだ。


「きっと目薬の成分が子宮まで届いちゃったんだ…どうしよう、俺この年でまだママになりたくないよ…!」


目薬にそんな成分はないし、男に子宮もない。風評被害も大概にして欲しい。


「どうしよう…とりあえず養育費は小林製薬にでも請求すればいいかな?」



おわり

目薬なくしちゃったんで、やけになって書きなぐりました

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