『十六番目の月影』(オリジナル曲)

十六番目の月影(original song) - YouTube

五線譜とAIシンガーに助けられている

 AIシンガーというのはとても便利なもので、ひとまず音符を入力して適切なフォーマットに置き換えてしまえばそれで歌ってくれる。
 音符の入力もMusescoreという五線譜式のソフト(基本無料)を利用することで、NeutrinoAIシンガーに歌ってもらうデータを作成できるので、義務教育段階で覚えた基礎的なことが役に立つという有難い状況にある。
 ただ、AIそれぞれの癖や独自の学習データがあるので、自分が思ったような仕上がりにはならない。その辺はいじってある程度思い通りに動いてもらうような方法があるみたいなのだが、そこまでのことをこちらが学習していないので、最も簡便な入力の結果を享受するに留まっている。

 留まっているとは言っても、己の環境や手持ちの駒で組み上げられない部分をコマンドして従ってくれるのだから実にありがたいものなのだ。
 というようなことはあちらこちらに書き散らかしているように思うが、まあとにかく「歌ってもらった」をできるので重宝している。

めたん・ずん子・めろうの安定感

 今回は11月に新規実装されたNeutrino四国めたんを軸に、やはり20年くらい温めていた曲に参加してもらった。音程がぶれにくい東北ずん子めろうを、今回も登用している。めたんの安定感はとても良く、この曲を仕上げるにあたり大変助かった。ずんだもんもチャレンジしてみたのだが、曲調と声質が合わなかった。これは筆者の癖で、もともと音を伸ばす時にもビブラートの出にくい声であり、音を切る際にもしゃくりあげることがないため、AIシンガーにもそれを求めないということなのだと思う。
 本当は男声曲としての構想だったのだが、世情は女声ボーカルをより求めるようでNeutrinoにもSynthesizerVにも、自分が使おうと思える男声AIシンガーがいない。開拓し甲斐はあると思うのだが。
 というわけで、無理を承知で女声を設定から加工することで男声らしく聞こえるようにして、ツインボーカルめいた状態で歌ってもらった感じに仕立てたものである。

 この曲で初めて挑戦したことが、コーラスワーク。今まで歌詞のあるボーカルパートを担当してもらうことはあったが、歌詞のないコーラスを入れるということがなかった。だいたい編曲に耳を持っていかれて、音の余白的な部分を作ることをせずにやってきたもので。こうしたところは、自分の声で録音していたら至れない発想だったかもしれない。

曲のタイトルと主題について

十六番目の月影』というタイトルだが、まあ安易な付け方だと自分では思っている。
 そもそも月齢というのはそんな単純な推移ではなく、月が地球の周囲を回る瞬間瞬間でその数字は変化していくものなので、歌詞にもある「十六夜」というのが月齢16.0を指すものではない。およそ近似値的に「まるめた」整数が、月の満ち欠けの進行につれて1日ごとに割り当てられている。
 また月の満ち欠けを元にしたいわゆる「陰暦」というものの上でも、月齢およそ16の日が16日になっている訳ではない。これは月齢およそゼロ台の新月が朔日」として「数え1日」とされていることからも理解可能なことと思う。もっと言えば太陽日を1日の基準としているため「太陽太陰暦」という呼び名の暦法が明治5年まで実用されていた「旧暦」にあたる訳だが、そこまで行くと筆者の知識も追いつかなくなる部分があるのでこれくらいにしておく。

 ただ「十六夜」という、月の進行度に雅にも名前が付いている、その満ち終えて欠け始めた月の存在感に馳せた思いを、やや過剰なまでの悲哀として捉え、それをメロディと詞にして、伴奏が合わさった形に整えたものであるというのが味気のない説明となろう。

歌詞とことばの使い方の拘り

 あとは歌詞を以下に記しておくので、見て頂ければ幸甚である。
 言葉の紡ぎ方として、自身で割と心がけている部分が必要十分に反映されたものとなっている。
 すなわち、「重複する語を極力使用しない」「音読みの言葉をできるだけ使わない」の2点であるのだが、1番と2番で各1か所、まる1行の重複と音読みの語の採用がある。また「夢」という語は各サビに1度ずつ登場する。これは全て意図したもので、特に音読みの言葉は対になるものとして、位置も近い場所に配置するに至った。
 このエントリを読まれる方の腑に落ちるものであるかは分からないが、筆者自身として法則を持たせようとするとこういうことになるのだ、という話である。世の作詞家諸氏がこうしたことに拘る人ばかりではなかろうが、理解していただける方はそれなりに居られると信じる。

十六番目の月影(歌詞)

何ひとつ失わず 歩いてゆけるなら
永遠の誓いなど 要らなかったろうか
暦なら幾度も 等しく巡るのに
縁あるそれぞれは 全て愛おしく

一つずつ進むごと 近づくはずの影
遙かに凍りつく

抱きしめた夢は ただ虚しくて
花の色のように 零れ落ちてゆく
刻まれゆく痛みを覚えた
欠け初めの月
開きかけた夜の 何処から呼んでいるの

再びを望むほど 刹那の時ならば
その姿 留めんと乞う故もなく

一つずつ進むごと 近づく闇の翳
儚く沈みゆく

瞬きの夢はただ 目眩ゆくて
寄せて返す彩り 映し出してる
溢れだした涙 滲んだ
藍色の空
立ちすくんだ僕に 何を語りかけるの

幻がやがて霞むように
朧気に移ろう有明の空 噫々

過ぎ去りし夢はただ 煌めいて
忘れじの灯火と 果ててしまう
囚われゆく定めと知った
十六夜の月
また一つ 夜が閉ざされる悲しみに
惹き込まれた僕を 何処まで連れて行くの

作詞・作曲 Hequisen(碧泉亭)

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