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アメリカ文学の最高峰「The Great Gatsby」てきアメリカ黄金期の魔力


 ‘グレート・ギャッツビー’‘華麗なるギャッツビー’と聞いて、F・スコット・フィッツジェラルドScott Fitzgeraldの小説と、バズ・ラーマンBaz Luhrmann監督の映画を思い出される方が大勢いらっしゃると思います。しかし、フィッツジェラルドが物語を発表した時には、作品への反応があまり良くなかったことはご存じですか?作家の代表作として名高い作品にしては以外な気も致しますね。
 「グレート・ギャッツビー」は、1920年代に頂点を迎えたアメリカ全盛の時代の只中の1925年に発表されました。批評家と作家仲間の間で小説は高く評価されたそうですが、出版物の売れ行きは当時としてはあまり好調ではなかったそうです。
 リアルな時代を生きていた生身の読者層には、現実のアメリカ社会を如実に表した小説に面白味が感じられなかったのかもしれません。さらに、ニューヨークの摩天楼の幻想が世界を覆っていた時代では、悲しい登場人物の結末が時代の空気に合っていなかったのかもしれません。
 しかし、1930年におこる世界恐慌を切掛けに不景気に陥るアメリカ社会と「グレート・ギャッツビー」の結末はピタリと重なります。ニューヨークの栄光を謳歌し破滅したギャッツビーの運命は、黄金の20年代を終えて恐慌の30年代を迎えたアメリカ国民の境遇そのものでした。
 主人公のジェイ・ギャッツビーは、過去に愛し合っていた恋人のデイジーの前に姿を表せば、彼女が財産目当てで仕方なく結婚した夫と別れて、財力も地位もある自分と幸せになってくれると信じて疑いませんでした。しかし、ギャッツビーが追い求めていた未来はギャッツビーの過去の記憶が膨らんだ非現実的な夢で、現実にはギャッツビーの信じていた幸福は訪れませんでした。ギャッツビーの葬式には親友のニックしか訪れず、そのニックだけが、過ぎ去った過去を彩る都会の目の眩むような刺激と幻想の記憶の中でギャッツビーの輝きだけが本物であったと讃えるのでした。
 一人の作家が書いた文学作品に登場するフィクションの登場人物が受けた痛みは、もう二度と訪れない時代の繁栄を懐かしむアメリカ人の精神と文化に刻まれた本物の記憶です。「グレート・ギャッツビー」はアメリカ社会の歴史の一部になり、名文と名高い最後の数行は、ギャッツビーが手を伸ばしたデイジーの屋敷に点っていたグリーンライトを比喩に、永久の栄光を手に入れようとしたギャッツビーの人生を称えています。
 曰く、過去の偉業は歴史的に評価されるだけでなく、その栄光を欲する人々にとっては、心を捉えて離さない未来の到達目標のようです。過去は二度と戻りませんが、努力を諦めなければ一度逃してしまった過去を未来で手にすることができるかもしれません。ギャッツビーの挑戦は彼の死によって強制的に終えられてしまいましたが、いまも尚、輝かしい人物を象徴する模範的な響きでギャツビーの名前は前向きな意味を含んでいます。

「アメリカ文学の最高峰「The Great Gatsby」てきアメリカ黄金期の魔力」完

©2024陣野薫



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