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ホラーに純粋なエドガー・アラン・ポーEdgar Allan Poeアッシャー家の崩壊

🖋Pdf版もございます。

 幻想ホラーの大古典は読んで楽しめるかは人によって様々でも、とかく純粋に美しく、かけがえがありません。
 名だたる作家がアッシャー家の崩壊をひな型にしてスリラーホラーを作り込みました。身の回りの物が馴染みの姿で登場し、形容し難い変貌を遂げて、恐怖となって人々に襲いかかるのです。
 朽ちかけた屋敷、神経衰弱に侵された人々、健やかな時代の回顧、死の気配、月、闇、耽美なモチーフが不安を予言し、巨大な恐怖となって渦のように全てを呑み込み跡形もなく消えて行くのです。
 アッシャー家と言えば、姓をアッシャーと名乗る家族と、一家の住む屋敷のどちらの意味もありました。一家は代々の当主の息子が家督を継ぎ、外戚は一人もいません。というのも、アッシャー家の人々は芳香な神経衰弱を遺伝しており、芸術家のような優れた人々を多く輩出する一方で、病気がちだったのです。家族は全員が屋敷に住み、アッシャー家から出た世界とは繋がりがありませんでした。最後に残されていた双生児の兄と妹だけがアッシャーを冠する最後の屋敷の居住者でした。
 兄のアッシャーから便りを受け取った彼と友人のわたし(・・・)が屋敷を訪ねた時には、兄妹を失う直前のアッシャー家は崩壊寸前でした。死の凶兆と同化し終えた後で、屋敷の居住者は美しさも恐怖も同じように恐れていました。まるで、どちらにも暴力を振るわれると思っているのか、混濁した意識にあって異様に反応して怯えるのです。アッシャー家は恐怖に呑みこまれて、文字通り跡形も無く消え失せてしまいました。
 立ち退いた恐怖の後には、危険のない平和が訪れます。物語は恐怖から安全な印象に移り変わり、最後には恐怖を呑み込んで消えた恐怖に安堵する屈折した読後感が生まれます。
 物語は些細な起伏が積み重なってやがて確かな躍動を生み、自然な成り行きは作品のエネルギーになって物語に命を吹き込みます。
 新しくなくても、鉄板の魅力を整然と楽しめる古典には良さがあり、とても有意義でかけがえがありません。

「ホラーに純粋なEdgar Allan Poeアッシャー家の崩壊」完

©2024陣野薫


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