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(超要訳)カッコいい老人と海「The Old Man and the Sea」 Ernest Hemingway

🖋Pdf版もございます。

 「老人と海」は、サンチャゴと呼ばれる漁師の老人と、サンチャゴを慕う漁師見習いの少年が登場するヘミングウェイの名作小説です。
 老人は過去には大魚を掴まえる力自慢の名漁師でした。少年は老人から魚を捕まえる基礎を習い、老人をとても慕っていましたが、今は違う親方の下で働いています。少年の両親が、運に見放されて以前のように大漁に成功する見込みのない老人と海に出るよりも、今が盛りの漁師の下で働いて欲しいと少年に望んだからです。少年は老人より凄い漁師はいないと信じて尊敬していましたが、親がそう言えば従うしか仕方ありません。
 少年と老人は一緒に海に出て漁をすることは無くなりましたが、陸の生活では相棒でした。少年は不漁で稼げない老人のために食べ物を調達しましたし、老人は一人で朝起きれない少年を起しに少年の自宅まで通ってあげていました。そのお陰で、老人は孤独ではありませんでした。陸にいれば少年と互いの世話を焼けあえましたし、海に出ればそこではいつも獲物と一緒でした。
 老人はいつも誰も行かない遠くの海まで船を出します。老人は過去の漁師です。今では将来のある少年にビールを奢ってもらう、いわゆる世話してきた者に労わられる立場です。しかし、いつも大魚を求めて漁に出る老人に負い目はありません。老人は、老いるまでに培った経験から、老いた肉体なりに漁のやり方は色々あると知っていました。過ぎた年月のぶんだけ肉体は痛んでいても、その日その日を新しい日と思って過去を振り返らない老人の中身は少年と変わりません。腕が一番経験を積んでいて、精神が一番若い。それが海に出る時の老人でした。それなので、今でも大物を掴まえるつもりの老人が大魚のいる遠くの海で漁をするのは自然なことでした。
 老人は海の狩りを楽しんでおり、過去に何十日も不漁がつづいた後に大物を掴まえたこともありました。そのときと今でも老人の漁に向ける熱意は変わっていません。
 老人は海の食物連鎖のなかに身を置いていました。他の漁師連中は陸の人間らしく海の旨味だけを好んで吸っていましたが、老人は海の生物から栄養を得て、食した生物の力を糧に海の強者との戦いに挑んでいました。老人が海の魚を食うのは、海にいて自分よりも強い生物に戦いを挑むためでした。
 そして、年老いた老人は、だれの助けも呼べない陸から遠く離れた大海原で、助手もいない小船で一人、過去最大の強敵になる大魚を罠に掛けます。大魚は賢く勇猛で、丸二日もの時間をかけて老人から体力を奪い、罠を引き千切って逃げ果そうと抵抗します。老人は飲まず食わずのままロープを握って夜を徹し、太陽と月が交代する間も大魚と挌闘し続け、ついに老人が海に出て3日たった日に大魚を掴まえることに成功します。
 ところがやっと海辺に戻ろうとした老人の船を血の匂いに釣られた何匹ものサメが襲い、大魚は骨を残して肉は奪われ、船をボロボロにされ、漁に必要な道具もサメを追い払って失い、老人は身一つにされてしまいます。
 やっと海辺に戻った老人の肉体は大魚との格闘で疲れ果て、サメの襲来に合って疲労困憊でした。老人は、一人の海で起きたことを誰かに伝える間もなく、疲れ果てて眠ってしまいました。
 何日も海から戻らない老人を心配していた少年は、死んだように眠る老人を見つけると涙を流しました。海辺には老人が持ち帰ったサメに食われた大魚の骨に人が群がっており、港の人間がそのあまりの大きさに驚いて骨を計っていました。港を通りかかった観光客が砂浜の骨が何なのか傍の漁師に尋ねると、漁師はサンチャゴが掴まえた魚をサメに食われた流れを説明できず、観光客は外国人の言葉を解せないままサメの骨を見たと思うのでした。
 そのあいだ老人は、自分のベッドで眠りながらライオンの夢を見ていました。老人は少年と同じ年の頃、アフリカ行きの船で水夫をしていました。船から見る陸地にはライオンがいて、夢の中で老人は漁港に暮らす漁師ではありませんでした。夢は夢ではないのか、記憶の中の水夫に戻った老人は、いつも老人と心が繋がっている少年の存在を忘れていました。水夫をしていた頃は知る由もなかったことは、老人の夢に表れませんでした。それはなにも少年だけではなく、港の観光客も、漁港の漁師連中も、港にいるだれもかもはアフリカでライオンを見つめた少年時代の老人を知りませんでしたし、港にいない時間の老人が何者であったのか知りません。
 老人が誰にも知られずにライオンの夢を見ている間も、海辺では大魚の骨が人々をショックたらしめていましたが、その骨が生きた魚であった頃の姿は誰も知らないままでした。港で暮らす老人と人々との間には、ついには一度も共有されないままの現実が数々ありました。
 しかし、老人は孤独ではありませんでした。だれも老人が海でなにをしていたのか知らなくても、そのあいだ老人は夢の中でライオンと一緒でした。老人には陸と、海と、夢の世界があり、そのどこにいても一人ではありませんでした。

「(超要訳)カッコいい老人と海「The Old Man and the Sea」 Ernest Hemingway」完

©2024陣野薫

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