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村上少年、川の終わりを見に行く。

東京、杉並区。
近所のセブンイレブン、じいさんが店員に質問を投げかけている。
「あのな、麺にな、栗が乗っている奴、ある?」

秋は好きだ。季節の中で、一番好きだと思う。

そしてモンブランが2つ袋に包まれる頃、村上は檸檬堂チューハイのはちみつレモン味を買い、自転車にまたがり、まだ住んで半年ほどの東京の街を漕いでいる。どこかで「パフー」とラッパの音が聞こえる。
そして東京を流れる名前も知らない川を渡る。

○●○

人は好奇心を忘れてはならない。「初期衝動」は「三日坊主」と喧嘩し、「慣れ」に寄生され、死ぬ。もしくは華麗な変身を遂げる。

川、村上の住んでいた大阪の海沿いの町、堺にも川があった。西に少し歩けば海、東に歩けば未知の地域であった。今日の話は、村上少年9歳くらいが、禁断の「校区外」に出た話である。しかも、「川の終わり」を見に。

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実際の地元の川

村上は友達はいたが、生粋の一人っ子であった。マウンテンバイクを卒業して買ったばかりのママチャリで川沿いを海と逆側に一人ひた走った。

慣れ親しんだ校区を抜け、川沿いに、この街に高くそびえ立つゴルフ練習場のポールの方面へ向かった。そして「行ってはいけない場所」に自分が一人でいる興奮を覚えた。確かにそこは人生で一度も見たことがない風景だった。

そのあとはとにかく興奮していた。ただ、相当遠いところまできたことは分かった。本当に骨の折れる思いをして、どうやら山奥らしい、巨大な坂のふもとまで来たところで折り返した。川の終わりにたどり着くことはできなかった。

そこで分かったことは1つ。「途中で川の名前が変わる。」

信じられなかったが、本当だった。9歳くらいの村上少年にとって、その川の名前は異国の言葉のようにも思え、恐怖すら感じたものであった。

○●○

後からわかる話なのだが、その川は地元から車でたったの5分のところだった。
歳を重ね、行動範囲が増え、世界の狭さを知った。
しかし、奇しくもそこは、後の花柄ランタンの相棒である、ぷきさんの地元であった。9歳の村上少年がタブーを破り、汗水を垂らして勝ち得たその瞬間は、花柄ランタンの結成の10年以上も前に、最も二人の点が近づいていた瞬間であったらしい。

○●○

子供は『不自由』に守られている。
そんな不自由という蛹をちょっとだけ破った日の話。
あの時のような興奮にあと何回出会えるだろうか。足を動かし続けないといけないと思った。退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。

そんなことをなんとなく思った。東京のこの川はなんという名前で、どこから来て、どこへ行くのだろう。思えばあの時から、えらく遠いところまで来たもんだ。家に帰って檸檬堂チューハイのはちみつレモン味を飲む。「はちみつの味はいらねぇな。」東京弁でつぶやいたところでこの話は

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