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大好きだったハコの音。

かつて大阪の十三に、ファンダンゴというライブハウスがありました。

いや、かつてというにはまだ早いか。

今年の7月いっぱいで十三での営業を終了し、堺へ移転してしまった。
うん、実際にはそこそこ最近の出来事。

しかし、私にはかなり時間が経過してしまったように思う。
これは喪失感のせい、おそらく。

移転の理由は、まぁ都市部近くで営業しているライブハウスにはありがちな、土地・建物の持ち主によるもの。
どうやら、いつの間にか売却されていたらしい。ビックリよね。
その場で営業し続ける権利とか法的にはあるんじゃないかと思うんだけど、いっちょ弁護士に相談するとかすれば良かったんじゃないかと思うんだけど、意外にも店側は潔く移転を決めたように見受けられた。
もちろん、結論にいたるまで色々あったかもしれない。
けど客の一人である私には、アッサリ、カラッと移転が発表された印象だった。

当初は「それも選択だよな…」と感じた。
何せ長年あの地で営業し続けてきた、お店、そのオーナーが決めたことだ。

私達に言えるのは「ありがとう」という言葉のみ。

営業終了を知ったのはいつ頃だったか。
素直に、仕方ないよなーと思っていた。

今までいくつかのライブハウスやライブを主体として営業しているカフェなどの、移転もしくは存続騒動を見てきたけど、最終的には「仕方ない」ことが多い。
客と店が一丸となって勝ち取った記憶があるのは、旧バナナホールの現AKASOだけだろうか。

実は、十三ファンダンゴは私の一番のお気に入りのハコだった。
通い出した頃からお店のスタッフさんも変わってしまって、雰囲気が少し違うようになっても、やっぱり私のホームだった。
多い時は月に3回は誰かのライブを観に行ってたように思う。

そして、あのハコの音が大好きだった。

別に全国のライブハウスの中でも抜きん出て音が良い、とかではない。
けど、ひたすら好きな音だった。

ステージからフロアにいる客を、その全身を、撃ち抜くような音をしていた。

空気に流れができると風圧になるように、音にもベクトルがあると「音圧」というものが存在する。
真っ向から、その音圧があった。
全身で音楽を聴くことができるハコだった。

ただ音がデカいのではない。
そんなの防音張り巡らしてアンプの音量上げればいいだけ。そうではない。

4ピースバンド、ギター&ボーカルとベースとドラムのトリオ、ソロの弾き語り。
どんな形態のアーティストがステージに上がっても、真正面から音がキタ。

そんなハコだった。

実は昔、演者のバンドのドラマーに
「ここ、音のバランス難しいんだよ」と教えてもらったことがある。
客席からステージに向かって左側の天井がゴッソリ抜けてほぼ吹き抜けになっていたのだ。
かなり広い空間だった。
階上の楽屋に続く階段とかあったせいなんだけどね。
この空間がクセ者だったらしい。

確かに、自分の好みの音で聴けるフロアの位置は広くはなかったもんなぁ。
いっつも同じ場所で聴いていたよ。

そんなハコだった。

色んなバンドを聴いた。

いつもいつも大好きなバンドが演るのを楽しみにしていたし、対バンで知らないアーティストにもいっぱい出会わせてくれた。
あと、別にファンではなくても対バンでかかることが多いバンドは、いつしか「十三ファンダンゴに行ったら会えるバンド」になった。

そんなハコだった。

とてもとても寂しかったけど、7月であの大好きな場所はなくなってしまった。

移転先の堺の新しいファンダンゴにも行ってみたのですよ。
ちょうど観たいバンドのワンマンがあって。

どんな音で聴かせてくれるのか、楽しみでもあり怖くもありました。
結果は…どう言えばいいんだろう?
完全に別物でしたねぇ、私にとっては。

そりゃ同じ音で聴けるわけはないけど、音が上に拡散しすぎてちょっと訳わからない感じだった。
ソロのアコースティックとかだと綺麗に聴こえそうだけど、バンドサウンドとして真正面から撃ち抜いてくる感触がなかった。フワッとしてたなぁ…

そのライブで、改めて
「あぁ、あのハコの音はもう二度と戻ってこないんだなぁ……」って全身で実感しました。

100%何かを失う体験って、実は日常にはあまりない。

好きなバンドが解散しても、ソロで活動を開始してくれたり。
好きな女優さんがテレビ界を追われても、映画や舞台やネットで活躍してくれたり。
財布を落としても、現金は諦めるとして、カード類なんて今や即日再発行だって可能だし。
スマホを落としても機種変すればいい。データはクラウドに全部残ってたりする。スマホを落としただけなのに、ってことにならなければ別に安心安全だ。

けれど、あのハコの音は永遠に戻ってこない。

悲しくて、寂しくて、やるせない。

私にとって十三ファンダンゴは、

そんなハコだった。

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