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みんなで「いただきます」をやめたら、給食嫌いな子が給食が好きになった話

給食の時間
「手を合わせて、いたーだきます!」
日直や当番のかけ声で、みんなが一斉に食べ始める。

どこの学校でも、あたり前に見かけるこの光景。

ただ、これは本当に必要でしょうか?

もし、合わせない方がメリットがあるとしたら、あなたはどうしますか?

今回は、賛否あるかもしれませんが、
みんな揃って「いただきます」をやめた理由と
やめたことで起きた変化について紹介します。

一度立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。

結論から言うと、タイトルにあるように、子どもは喜びます。

なぜなら、いただきますを揃えることより、揃えない方がメリットが多いからです。

そしていただきますを合わせるのをやめた結果、給食が嫌いだった子が給食が好きになったと言ってくれました。

ただ、同僚からは批判的な意見もありました。
「いただきますを揃えないのは、ありえない」
「食育上良くない」
「1クラスだけ勝手なことをしないでほしい」
など。

学校という場所は、あたりまえを変えること、合わせないことに、過剰に反応する方もいます。

ですから、この方法は、ご自身で賛否を判断し、それでもいいなと思った方は、周囲とよく話し合った上で行ってください。もしくは何を言われても気にしないという方だけ参考にしてくださいね。

きっかけ

なぜ、「揃っていただきます」をやめようと思ったのか。
それは、ある児童の一言がきっかけでした。

いつも給食が時間内に間に合わない子。
休み時間になっても食べ続けていたので、

「そろそろ終わりにする?」と声をかけると
「もう少し時間があったらな、、」
と少し悲しげな顔で答えました。

そう、この子は嫌々食べていたわけでも、強制的に休み時間も食べさせられていたわけでもなく、食べる時間が足りなくて困っていたんです。

ただ特別量が多いわけでもありません。むしろ量も減らしていたし、残してもいいとも伝えていました。ただ飲み込むのに時間がかかる子だったんです。

そこで、給食の時間を増やすためにできることはないかと考えたのがきっかけでした。


日本の給食時間は短い?

そこで、まずは現状の給食時間は適切なのかを考えてみました。

日本の学校の給食時間は、12:15〜13:00の45分間(学校により若干異なる)
この中に準備や配膳、片付けも含まれます。

手洗い、着替え、配膳、これら全ての準備を完了するには、どれだけ急いでも15分はかかります。

さらに、片付けも10分程度かかるので、
実際食べる時間は20分程度しかありません。
さらに、4時間目が体育や音楽など移動教室だとスタートはさらに遅れます。

だから45分の時間内で全員が完食するというのは時間設定的に無理があります。

では、一方海外は、どうなのか。
調べてみると、例えばアメリカのランチタイムは、同じように45分間でした。
ただ、ランチを食べるカフェテリアには専属スッタフがおり、配膳、片付けの手間はかかりません。

また、フランスや中国では、昼食の時間が2時間近くあり、一度家に帰ってから家族で食事をし、再び学校に来るようです。

他にも、お弁当という国も多く、海外と比較しても20分の食事時間というのはかなり短いことが分かりました。

ちなみに、医学的には、1回の適正な食事時間は20分以上と言われています。20分を超えないと満腹中枢が刺激されず過食に繋がるからです。

ですから本来は、食育や健康のためにも、給食時間は30分は必要だと思います。

ただ時間を生み出すには多くを変えなくてはいけません。準備やサポートをしてくれる大人も日本の学校には足りてません。

これまでの給食対策

それでも、なんとか時間内に完食を目指すため、
これまで「もぐもぐタイム」「プチセルフ配膳」など様々な工夫を取り入れてきました。

「もぐもぐタイム」は、黙って食べる時間の設定
「プチセルフ配膳」は、食べられる量に自分で調整する方法です。

おそらく多くの教室でもこのような工夫をされていると思います。
ただ、これらは時間内に食べ終えるための工夫であり、時間を増やす工夫ではありませんでした。

時間内に食べ終われない子への対応

時間内に食べ終わらない子への対応は大きく2つあります。
「続けて食べさせるか」「食事を残して終わらせるか」です。

続けて食べさせる場合は、休み時間や掃除中に食べさせます。

昔は、残飯0を目指していた学校も多く、強制的に残して食べさせるケースもありました。

しかし最近は居残りして食べさせることがかわいそうだという声も多くなり、このようなケースは少なくなりました。

一方、食事を終わらせるパターンは、時間内になったら食べ残っていても片付けます。
特に給食が、センターなどから運搬される場合、回収の時間が決まっていることがあり、時間を延長できない理由があります。

食べるのが遅い4つの理由

「時間内に食べ終わらない」と言っても、その理由は子どもによって様々です。
食べるのが遅い理由は、大きく分けて4つの理由があります。

①おしゃべりに夢中で食べるのが遅くなる
②嫌いなものがあって、手が進まない
③少食でたくさん食べられない
④飲み込む力が弱く、咀嚼に時間がかかる

「おしゃべり」や「好き嫌い」「少食」という問題は、「もぐもぐタイム」や「プチセルフ配膳」などの工夫で改善できます。

ただ、それらでは解決できないのが、飲み込む力が弱い子です。
おしゃべりをするわけでも、好き嫌いが多いわけでもなく、
本当は、もっと食べたいけれど、時間が足りないという子への対応。
ここへの対応が、私自身これまで足りてなかったと反省しています。

給食時間を伸ばすためにできること

そこで、給食の時間を確保するために、できることはないかと考えました。

4時間目を少し早めに終わるという方法もありますが、ただ、専科が多いとそれも難しく、最終的にたどり着いたのが、「みんなでいただきます」をやめるという選択です。

給食の配膳には、最初の1人から、最後の30人目までが終わるまでにタイムラグがあります。
計測してみると、だいたい平均8分ほどのラグがありました。

そこで、この8分間を「待っている時間」から「食べる時間」に変えることができればと考えました。そしてそのために、みんな揃っていただきますをやめることにしました。

「いただきます」は日本だけの文化

「みんな揃っていただきます」は、本当に必要なのでしょうか?

いただきますの文化について調べてみると、日本独自の文化で、英語には、そもそもいただきますの言葉がないことが分かりました。

「食材や命に感謝する」「育てた人や作った人に感謝する」そうした食を通して感謝の心を育てるのは、日本の美徳です。

ただ「食を通して感謝を感じること」を目的とするならば、全員が揃っていう必要はないのではないでしょうか。

個別でいただきますをしても、感謝の思いを持つことはできるからです。


「いただきます」をやめると伝えた日

最初は、クラスのみんなに相談をしました。

「全員揃っていただきます」をするよりも「みんなそろってごちそうさま」を目指さないかと。

最初は、子どもたちは、何を言い出すのかという顔をしていましたが、飲み込む力は個人差があること、食べたいけれど時間が足りない子もいることを伝えると、子供たちは理解を示してくれました。

また、全員が揃ってごちそう様ができれば、片付けがスムーズにできること、みんなで遊ぶことができることなどメリットも大きいことを伝えると、「協力する」という声があがり、全員納得した状態でスタートできました。


「アイデアは子どもと一緒に」

具体的な方法は、学級会で子供たちにアイデアを募集しました。

・食べるのに時間がかかる子から配膳をする。
・食べるのが早い子は譲ってあげる。
・準備ができたら食べ始める。
・「いただきます」はちゃんと心を込めて言う。
・給食当番の仕事は、相談して決める。

これがクラスで決まったことです。


「教室の変化」

教室に起こった変化に目を見張りました。
みんなバラバラに食べ始めることに、不満もあるかと思っていたのですが、

「俺食べるの、早いからあとは任せといて」
「〇〇くん、配膳やっておくから先食べなよ」
「今日のメニューは早く食べれそうだから、今日は私が変わるね」

と言う思いやりの言葉が飛び交うようになりました。

早く食べ始める子も、「ありがとう」と言う気持ちで、時間内に間に合うように頑張って食べています。

たった数分間ですが、食べる時間に余裕が生まれ、時間内にみんなが揃ってごちそう様ができる日も増えました。

そんな日は決まって、「今日は、みんなでドッジしよう」とクラスみんなで遊んでいます。

ある日一人の子が作文に給食のことを書いていました。

私は今まで給食を食べるのが遅くて、休み時間に残って食べたり、まだ食べたいけれど、片付けの時間になってお腹いっぱい食べれませんでした。遅いことをからかわれたこともありました。それが嫌で学校に行きたくない日もありました。
でも、今は「食べる時間や食べれる量は人によって違う」ってことをみんなが分かってくれて、そのためにみんなが時間を作ってくれて、食べ終われる日が増えました。私も前より早く食べれるようになって、時々、代わりに譲ってあげたりしています。最近は休み時間も一緒に遊べるし、今では給食の時間が大好きになりました。

最後に

もちろん、アレルギーの対応など、給食中には配慮しなければいけないこともたくさんあります。学校のルール的にもできないと言う方も多いと思います。
管理的にも揃えることのほうがメリットがあるかもしれません。

ただ、その一方で、もしみんなで揃えることが弊害になっている子がいるのであれば、見直したり改善する余地は残しておくべきだと思います。

もちろんみんな揃っていただきますをすることを否定したいわけではありません。

気持ちを揃える。全員に感謝の気持ちをもつ。それらは日本の文化の良さでもあります。

ただ、その揃えるという価値に盲目になり、その背後で苦しんだり困ったりしている子がいるならば、みんなで揃えることは最優先事項ではないと思うのです。

学校の中には、いただきます以外にも「みんな揃って」が当たり前にされる価値観がたくさんあります。そして、揃えることが美徳とされ、人権的な視点が盲目になっているケースは少なくありません。

そういう結果から、苦しんだり困っている子に目を瞑ってきたのも事実多くあるのではないでしょうか。

皆さんの学校でも、ぜひ当たり前を見直し、目の前のこどもたちにとってベストな選択を探してみてください。

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