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第十七集

1
00:00:24,980 --> 00:00:27,580
──背の高い覆面の男が戸口に立った

2
00:00:28,080 --> 00:00:33,080
扉が開き一陣の風が吹き込むと、中途半端に
衣を羽織って跪いていた少年たちは身を縮ませた

3
00:00:33,080 --> 00:00:35,840
蝎:だめだ 女っぽい

4
00:00:36,160 --> 00:00:37,240
下がりなさい

5
00:00:37,240 --> 00:00:39,160
少年二人:はい

6
00:00:44,000 --> 00:00:45,960
覆面の男:二人はただの兎なだけ
(*兔子=男妓の隠語)

7
00:00:45,960 --> 00:00:48,480
皆このように女々しいのではないのか?

8
00:00:55,040 --> 00:00:57,600
蝎:男がもし女と同じだったら

9
00:00:57,600 --> 00:01:00,640
男で遊ぶ必要などあるか?

10
00:01:00,960 --> 00:01:02,720
しかし惜しいことに……

11
00:01:02,720 --> 00:01:05,160
前回あの二人を逃してしまった

12
00:01:05,160 --> 00:01:09,160
覆面の男:お前が飼ってるチビどもは
自ら逃げ出せるのか?

13
00:01:10,360 --> 00:01:12,120
蝎:私の者じゃない

14
00:01:12,120 --> 00:01:15,520
二人は友好的でない客人だった──

15
00:01:16,320 --> 00:01:19,120
そう言えば そのうちの一人は
あなたもおおよそ面識のある

16
00:01:19,120 --> 00:01:23,880
あなたたちのところの大人物みたいだった

17
00:01:26,140 --> 00:01:28,200
覆面の男:……彼か?

18
00:01:30,800 --> 00:01:33,400
彼はしばらく前に忽然と姿を消したが

19
00:01:33,400 --> 00:01:36,360
それがここに来たとは……

20
00:01:36,360 --> 00:01:39,160
彼は薛方を捕らえ 鍵を回収したら

21
00:01:39,160 --> 00:01:42,360
なるべく大門派の注意を引くなと言っていたが

22
00:01:42,360 --> 00:01:46,400
今に至って 彼自身が神出鬼没になるとは

23
00:01:46,760 --> 00:01:49,640
一体どういうつもりだ?

24
00:01:49,640 --> 00:01:52,200
蝎:誰か分かるというんだ……

25
00:01:53,600 --> 00:01:56,040
覆面の男:まあいい それは言うまい

26
00:01:56,040 --> 00:01:58,280
孫鼎は片付けたか?

27
00:01:58,280 --> 00:01:59,520
蝎:ん

28
00:01:59,520 --> 00:02:01,680
──蝎は卓の下から男の前に箱を蹴り出した

29
00:02:01,680 --> 00:02:04,080
蝎:あんまり新鮮な鬼の首じゃないが

30
00:02:04,080 --> 00:02:05,560
見てみるか?

31
00:02:07,060 --> 00:02:10,060
──腐りかけていたが頬の赤い痣はまだ見えた

32
00:02:10,840 --> 00:02:14,800
覆面の男:喜喪鬼が片付けば
その他の事がやりやすい

33
00:02:14,800 --> 00:02:16,200
はははは……

34
00:02:16,200 --> 00:02:19,320
趙敬が偽の薛方の情報を流せば

35
00:02:19,320 --> 00:02:20,760
他の者は何もなく

36
00:02:20,760 --> 00:02:22,640
この馬鹿はまんまと引っ掛かり

37
00:02:22,640 --> 00:02:25,680
ちょうど俺に一網打尽にされた

38
00:02:26,780 --> 00:02:28,840
蝎:余計な話はしないが

39
00:02:28,840 --> 00:02:32,960
本物の薛方と いわゆる”鍵”は一体どこにあるんだ?

40
00:02:32,960 --> 00:02:35,200
今 手がかりはあるのか?

41
00:02:35,620 --> 00:02:37,480
覆面の男:ないね

42
00:02:38,400 --> 00:02:40,320
蝎:なんと奇怪な……

43
00:02:40,320 --> 00:02:43,520
この者はまるで世間から蒸発したかのようだ

44
00:02:43,520 --> 00:02:45,480
彼はどこに行った?

45
00:02:45,480 --> 00:02:46,840
覆面の男:探すのは急がぬ

46
00:02:46,840 --> 00:02:49,920
先に琉璃甲を全部手に入れてからまた話そう

47
00:02:50,520 --> 00:02:52,840
趙敬はますます図に乗って

48
00:02:52,840 --> 00:02:56,760
俺が“鍵”を隠したと思い込んでいるようだ……

49
00:02:57,640 --> 00:03:00,640
中原武林が混乱を極めている最中に

50
00:03:00,640 --> 00:03:06,440
彼は次の一手で琉璃甲の行方を
鬼谷になすりつけるはずだ

51
00:03:09,160 --> 00:03:13,680
趙敬との協力は 俺もこんな日が
来るだろうと とうに分かっていたが

52
00:03:13,680 --> 00:03:14,680
しかし……

53
00:03:15,200 --> 00:03:16,720
蝎:どうした

54
00:03:16,720 --> 00:03:19,100
あなたのところの谷主の対策は?

55
00:03:19,100 --> 00:03:20,960
覆面の男:一人の狂人に過ぎぬ

56
00:03:20,960 --> 00:03:25,920
せいぜい面の皮が厚く 殴ったり
殺したりする腕があるだけだ

57
00:03:25,920 --> 00:03:28,600
そのうち彼を使う時が来たら

58
00:03:28,600 --> 00:03:32,560
彼には趙敬とやり合わせてやるさ

59
00:03:33,960 --> 00:03:35,440
蝎:よい事だ

60
00:03:37,040 --> 00:03:39,120
覆面の男:ここでは俺は介入はせぬが

61
00:03:39,120 --> 00:03:43,040
かのご老人を“どうぞ”と動かしたのはご苦労だったな

62
00:03:43,040 --> 00:03:45,400
その他は焦る必要はない

63
00:03:45,840 --> 00:03:48,080
先に失礼する

64
00:04:00,000 --> 00:04:01,600
蝎:そうだ

65
00:04:01,600 --> 00:04:04,120
その他の事に焦る必要はない

66
00:04:04,120 --> 00:04:07,200
そのうち一つ一つ片付くのだ

67
00:04:09,560 --> 00:04:11,800
来たか

68
00:04:11,800 --> 00:04:12,820
少年:うん

69
00:04:15,600 --> 00:04:19,200
我々もあちらの大人物には少し注意せねば

70
00:04:19,200 --> 00:04:22,080
彼があの運のいい小僧を守っている以上は

71
00:04:22,080 --> 00:04:28,640
彼に“この生 終まで温柔にして
白雲は仙郷を羨まず”させるわけにいかない
(*此处终老温柔 白云不羡仙乡=あなたの優しい愛の中で年を取りたい《長生殿》)

72
00:04:28,640 --> 00:04:31,400
英雄でさえこのように大志を胸に抱いてなければ

73
00:04:31,400 --> 00:04:35,240
誰があの大侠の正体を暴きに行くのか

74
00:04:35,520 --> 00:04:39,780
そうだろう? おチビさん

75
00:04:41,840 --> 00:04:43,440
少年:うん

76
00:04:47,000 --> 00:04:54,160
晋江文学城 Priest原作 猫耳FM
音熊聯萌連合出品

77
00:04:54,560 --> 00:05:02,000
古風武侠ラジオドラマ《天涯客》
第十七集「前夜」

78
00:05:13,380 --> 00:05:18,660
──客桟での七日目、真夜中を過ぎ周子舒は眠れず
酒瓶と欠けた碗を持ち屋根に座って飲んでいた

79
00:05:20,120 --> 00:05:25,620
顧湘は小さな中庭に細い足を伸ばして座り
握りしめた一本の草をゆらゆら揺らしながら
ぼんやりと空を見上げていた

80
00:05:25,920 --> 00:05:30,140
背後の屋根に周子舒がいることは
彼女の能力では気付かなかった

81
00:05:30,960 --> 00:05:32,840
温客行:何のため息だ?

82
00:05:33,320 --> 00:05:37,000
顧湘:主人 どうして出てきたんだ?

83
00:05:37,880 --> 00:05:40,520
温客行:なんで一人で庭に座ってる

84
00:05:42,080 --> 00:05:44,960
曹大才子と口喧嘩したのか?

85
00:05:44,960 --> 00:05:46,360
お前を怒らせたか?

86
00:05:46,360 --> 00:05:49,320
顧湘:できたら あたしが去勢してやる

87
00:05:50,680 --> 00:05:53,160
(温客行):れっきとした年頃の姑娘で

88
00:05:53,160 --> 00:05:57,240
犬みたいなものでも目鼻は備わってるのに
(人模狗样=一人前のふり 有鼻子有眼=本物っぽい)

89
00:05:57,240 --> 00:06:01,000
どうしてこんな徳行を身に着けさせてしまったのか

90
00:06:05,200 --> 00:06:07,040
顧湘:主人……

91
00:06:08,080 --> 00:06:09,760
温客行:どうしたというんだ

92
00:06:09,760 --> 00:06:11,880
真夜中に眠れないのは

93
00:06:11,880 --> 00:06:14,960
それは春を傷付けるとか秋を悲しむとかか?

94
00:06:14,960 --> 00:06:17,580
──顧湘は力なく彼を一瞥し、両手で頬杖をついた

95
00:06:22,440 --> 00:06:24,120
温客行:そう言えば

96
00:06:24,120 --> 00:06:28,920
どうしてお前も曹蔚寧の阿呆に付いて
四方で人助けをし始めたんだ

97
00:06:28,920 --> 00:06:31,320
やはり善行の積徳か……

98
00:06:31,320 --> 00:06:32,920
どうした

99
00:06:33,280 --> 00:06:37,440
清風剣派の爺さまたちが曹蔚寧に
お前をやるのを許さないと恐れてるのか?

100
00:06:37,440 --> 00:06:38,640
顧湘:あたし

101
00:06:38,720 --> 00:06:40,480
あたしは怖くないもん……

102
00:06:40,480 --> 00:06:42,000
腕だろうと顔だろうと

103
00:06:42,000 --> 00:06:43,720
誰があたしに敵うんだ?

104
00:06:43,720 --> 00:06:45,120
あたし

105
00:06:46,240 --> 00:06:47,480
あたしは──

106
00:06:47,480 --> 00:06:48,920
武林人士:鬼谷の者は悪事の限りを尽くし

107
00:06:48,920 --> 00:06:50,800
武林に災いをもたらし続けるならば 誅するべきだ

108
00:06:50,800 --> 00:06:52,560
封暁峰:あんたも清風剣派の若者だろ
武林に災いをもたらし続けるならば 誅するべきだ

109
00:06:52,560 --> 00:06:53,040
封暁峰:あんたも清風剣派の若者だろ
 

110
00:06:53,040 --> 00:06:54,360
どうしてずっと彼らと一緒なんだ?
 

111
00:06:54,360 --> 00:06:55,320
どうしてずっと彼らと一緒なんだ?
武林人士:年端も行かぬ女子が

112
00:06:55,320 --> 00:06:55,920
武林人士:年端も行かぬ女子が

113
00:06:55,920 --> 00:06:57,440
手を出すとこのように悪辣なのだ

114
00:06:57,440 --> 00:06:57,880
曹少侠は何ゆえこの類の者と一緒だったのか
手を出すとこのように悪辣なのだ

115
00:06:57,880 --> 00:07:00,520
曹少侠は何ゆえこの類の者と一緒だったのか
 

116
00:07:02,040 --> 00:07:05,280
──顧湘は目を伏せて、指で地面の煉瓦を穿った

117
00:07:05,280 --> 00:07:06,600
温客行:どうした?

118
00:07:07,520 --> 00:07:09,560
(顧湘):あたしは小さい時に主人に拾われ

119
00:07:09,560 --> 00:07:12,560
鬼谷で育てられて 父さんも母さんもない

120
00:07:12,560 --> 00:07:16,760
目を開けたなら 人を殺さなければ殺されるだけ──

121
00:07:17,400 --> 00:07:21,160
風崖山の下では 人さえいないのに

122
00:07:21,160 --> 00:07:23,760
良い姑娘がいるか?

123
00:07:24,620 --> 00:07:27,220
──顧湘自身も困惑していた

124
00:07:29,000 --> 00:07:30,160
顧湘:主人

125
00:07:30,160 --> 00:07:31,240
温客行:ん?

126
00:07:32,800 --> 00:07:34,360
顧湘:あたし……

127
00:07:35,840 --> 00:07:38,320
あたしは良い姑娘かな?

128
00:07:38,320 --> 00:07:40,000
温客行:もちろんだ

129
00:07:40,560 --> 00:07:44,440
我らの阿湘は 話があまり上手でない以外は

130
00:07:44,440 --> 00:07:46,520
どこも素晴らしい

131
00:07:46,760 --> 00:07:48,800
どうしてそんなことを聞く?

132
00:07:49,160 --> 00:07:50,840
誰かがお前をいじめたのか?

133
00:07:50,840 --> 00:07:54,440
──これまでは何かを得るのに手段を選ばず
わがままや不機嫌になったりしていた

134
00:07:54,440 --> 00:07:57,320
(顧湘):醜い嫁は舅と姑に会えるけど

135
00:07:57,320 --> 00:07:59,640
あたしは紫煞だぞ

136
00:07:59,640 --> 00:08:02,400
あたしは光に触れてはいけない女だ

137
00:08:02,600 --> 00:08:04,040
あたしは……

138
00:08:04,040 --> 00:08:06,000
無理だ……

139
00:08:09,840 --> 00:08:11,040
顧湘:なんでもない

140
00:08:11,040 --> 00:08:13,160
やっぱりあなたのとこの人でいい

141
00:08:13,160 --> 00:08:15,080
一人が腹を満たせば一家が飢えたりしないし

142
00:08:15,080 --> 00:08:17,600
家の中に うるさいばあさん連中もいない……

143
00:08:17,600 --> 00:08:19,320
アイヨ!

144
00:08:24,160 --> 00:08:25,400
周絮?

145
00:08:25,400 --> 00:08:26,760
あんた いつの間に来たんだ?

146
00:08:26,760 --> 00:08:27,840
なんでぶつけるんだよ!

147
00:08:27,840 --> 00:08:29,760
温客行:私よりかなり早くに来ていた

148
00:08:29,760 --> 00:08:32,320
ずっと屋根の上で酒を飲んでいたんだ

149
00:08:32,800 --> 00:08:35,060
顧湘:主人 あなたも彼を放っておいたのか!

150
00:08:35,060 --> 00:08:37,400
温客行:彼を連れ戻して
寝かせようと呼びに出て来たら

151
00:08:37,400 --> 00:08:39,960
その結果 お前にここで出くわしたんじゃないか……

152
00:08:40,800 --> 00:08:42,080
周子舒:行け

153
00:08:42,280 --> 00:08:44,340
旦那さまに牀を暖めて差し上げろ

154
00:08:44,340 --> 00:08:45,400
温客行:はいな

155
00:08:45,620 --> 00:08:47,000
顧湘:主人!

156
00:08:51,220 --> 00:08:54,040
彼はこんなにあんたの言うことを聞くのか……

157
00:08:54,040 --> 00:08:56,000
世の中が逆さまになったんじゃなけりゃ

158
00:08:56,000 --> 00:08:58,120
あたしの悪い夢だな

159
00:09:07,200 --> 00:09:08,640
周子舒:嬢ちゃん

160
00:09:08,640 --> 00:09:10,680
何を無駄に不安になってるんだ

161
00:09:10,680 --> 00:09:12,380
俺はまだ心配してないぞ──

162
00:09:12,380 --> 00:09:13,540
顧湘:え?

163
00:09:22,200 --> 00:09:26,320
俺は本来 あと一年半は生きられると思っていた

164
00:09:26,960 --> 00:09:30,520
今はどうやら 実際そんなに長くないようだ

165
00:09:32,760 --> 00:09:37,600
大巫の話によると 俺の経脈は
俺の内力に持ちこたえられない……

166
00:09:37,600 --> 00:09:41,520
この身の功夫が却って足手まといとなった

167
00:09:42,600 --> 00:09:44,320
いつとは言えずとも

168
00:09:44,320 --> 00:09:48,720
蝋燭の火を消してかまどを蹴れば
閻王に会いに行くのだろう

169
00:09:54,320 --> 00:09:55,680
顧湘:あんたは

170
00:09:56,160 --> 00:09:58,760
あんたは本当に不運を背負い込んでるんだな

171
00:09:59,260 --> 00:10:01,200
周子舒:くそったれ

172
00:10:01,960 --> 00:10:03,160
顧湘

173
00:10:03,160 --> 00:10:04,880
君が小娘じゃなかったら

174
00:10:04,880 --> 00:10:07,360
俺は一日に八回は殴ってるはずだ

175
00:10:08,540 --> 00:10:15,620
──顧湘は慎重にお尻を横にずらしたが
この人はお酒を飲んでるだけで本気で
殴る気がないことに気付いてようやくホッとした

176
00:10:16,640 --> 00:10:19,600
顧湘:七爺は 大巫が
方法を考えだしたって言ってたけど

177
00:10:19,600 --> 00:10:22,280
あんたの命を助けられるとは限らないのか?

178
00:10:25,800 --> 00:10:27,480
周子舒:難しい

179
00:10:28,340 --> 00:10:29,440
顧湘:なあ

180
00:10:29,440 --> 00:10:31,640
あんたは生きたくないのか?

181
00:10:31,640 --> 00:10:32,760
周子舒:生きたくないわけないだろ

182
00:10:32,760 --> 00:10:34,520
顧湘:ならあんた あの時どうして……

183
00:10:40,960 --> 00:10:42,920
なんで笑うんだ……

184
00:10:45,000 --> 00:10:47,120
(顧湘):俗に紅顔は厄災だと言うけど

185
00:10:47,120 --> 00:10:50,120
見目好い男も厄災だったのか──

186
00:10:51,600 --> 00:10:53,640
周子舒:俺にとっては

187
00:10:54,200 --> 00:10:56,240
この人生はただ二つの道しかない──

188
00:10:59,320 --> 00:11:01,600
しっかり生きるか

189
00:11:01,600 --> 00:11:04,800
それとも きっちり死ぬかだ

190
00:11:05,640 --> 00:11:09,400
これのために 俺はしばらく辛抱できるが

191
00:11:10,480 --> 00:11:12,760
だが誰も俺を引き止められると思うな

192
00:11:13,980 --> 00:11:19,300
──彼は計算高く、時に情深くもあるが
情けをかけるべきでない時は盤石な心で
人にも自分にも冷酷になれた

193
00:11:19,300 --> 00:11:24,320
欲しいものは我慢せず、傍から見て
価値がないものでも代価を払い
決して振り返らず後悔しない

194
00:11:24,820 --> 00:11:26,200
顧湘:あんた……

195
00:11:28,200 --> 00:11:29,520
周子舒:嬢ちゃん

196
00:11:30,320 --> 00:11:33,360
振り返らず 後悔しない

197
00:11:33,360 --> 00:11:34,860
分かるか?

198
00:11:34,860 --> 00:11:36,440
顧湘:だけど──

199
00:11:36,960 --> 00:11:40,400
だけど あたしは……

200
00:11:41,580 --> 00:11:43,160
周子舒:嬢ちゃん

201
00:11:43,160 --> 00:11:44,480
どうしたんだ

202
00:11:44,480 --> 00:11:48,000
他人は責任を持たない 君自身が決めることだ

203
00:11:48,280 --> 00:11:50,120
かなり利口に見えて

204
00:11:50,120 --> 00:11:53,560
どうしてこの道理を 理解する気がないんだ?

205
00:11:53,840 --> 00:11:55,400
顧湘:あたし──

206
00:12:02,760 --> 00:12:04,440
周子舒:じっくり考えてみろ

207
00:12:04,760 --> 00:12:06,240
行くぞ

208
00:12:06,760 --> 00:12:08,815
もう寝るぞ

209
00:12:14,060 --> 00:12:16,160
顧湘:あたしはどうなんだ

210
00:12:16,160 --> 00:12:18,760
他人には決められないこと……

211
00:12:32,620 --> 00:12:37,020
──彼が扉を開けた途端、暗闇の中から伸びた手が
彼をきつく締めつけて、扉を勢いよく閉めた

212
00:12:37,020 --> 00:12:41,920
周子舒は抵抗せず、投げ落とされた牀の上で
ゆっくり目を上げ温客行と向き合った

213
00:12:41,920 --> 00:12:43,600
温客行:阿絮……

214
00:12:45,440 --> 00:12:47,760
阿絮……

215
00:12:50,420 --> 00:12:54,380
──彼は突然頭を下げて
噛み付くような口付けをした

216
00:12:56,740 --> 00:13:00,500
彼の吐息は僅かに狂乱していて
言いようのない危険な香りを帯びていた

217
00:13:11,000 --> 00:13:12,640
周子舒:温客行!

218
00:13:12,640 --> 00:13:17,180
──周子舒は彼を押しのけ彼の脇腹を肘で打つと
身を翻し彼を下にして押さえつけた

219
00:13:17,940 --> 00:13:24,440
両手を彼の両側につくと、乱れた髪が
鬢から垂れて温客行の胸の上に落ち
暗闇にその両目だけが驚くほど輝いていた

220
00:13:24,440 --> 00:13:26,080
温客行:阿絮……

221
00:13:28,760 --> 00:13:30,900
周子舒:俺が死んだら

222
00:13:31,300 --> 00:13:33,480
お前は損しないか?

223
00:13:36,140 --> 00:13:39,780
──温客行は顔を横に向け、血を飲み
肉を食うかのように周子舒の手首に噛み付いた

224
00:13:39,780 --> 00:13:42,140
周子舒は痛みに眉をひそめた

225
00:13:43,080 --> 00:13:46,700
温客行の口元を伝って流れた血が
瞬く間に布団の上を濡らして広がった

226
00:13:49,620 --> 00:13:54,360
周子舒の支えていた手が小刻みに震え出すと
温客行はゆっくり目を閉じ歯を緩めた

227
00:13:54,360 --> 00:13:58,700
噛んた傷を舐めると、体を起こし
彼を自分の懐に引き寄せた

228
00:13:58,700 --> 00:14:00,200
温客行:損だ

229
00:14:01,600 --> 00:14:04,520
私の人生でこんな損失はなかった

230
00:14:07,120 --> 00:14:09,120
周子舒:狂人め

231
00:14:17,240 --> 00:14:18,680
周子舒:チッ──

232
00:14:21,280 --> 00:14:22,960
温客行:痛む?

233
00:14:26,080 --> 00:14:28,400
周子舒:自分で咬んで試してみろ

234
00:14:29,860 --> 00:14:34,120
──狂人は自分の内衣から布を裂いて彼の
手首に巻くと、布団をめくって二人をくるんだ

235
00:14:34,120 --> 00:14:36,360
温客行:……阿絮

236
00:14:36,760 --> 00:14:38,520
阿湘が言うには

237
00:14:39,360 --> 00:14:41,800
大巫には方法があるそうだ

238
00:14:43,200 --> 00:14:44,840
周子舒:ん

239
00:14:47,180 --> 00:14:48,840
温客行:阿絮

240
00:14:49,400 --> 00:14:51,600
数日したら彼らが来るだろう

241
00:14:53,160 --> 00:14:54,720
周子舒:……ん

242
00:14:57,440 --> 00:14:59,040
温客行:阿絮──

243
00:15:05,920 --> 00:15:07,640
周子舒:寝ろ

244
00:15:15,180 --> 00:15:18,500
──血生臭い匂いの中で抱き合って眠った

245
00:15:44,620 --> 00:15:48,020
また三日経った

246
00:15:52,460 --> 00:15:54,800
顧湘:主人 七爺たちが着いたよ!

247
00:15:59,540 --> 00:16:03,680
──彼ら二人は中原を一周したかのように
風塵を被って少しくたびれた印象だった

248
00:16:03,680 --> 00:16:05,920
周子舒:七爺 大巫

249
00:16:05,920 --> 00:16:07,080
大巫:うむ

250
00:16:07,720 --> 00:16:11,320
七爺:子舒 君はどうして
こんなほっそりしたのか……

251
00:16:11,320 --> 00:16:13,280
ちゃんと面倒を見てなかった?

252
00:16:13,280 --> 00:16:14,240
温客行:私は──

253
00:16:14,240 --> 00:16:17,240
七爺:小毒物 さっさと子舒を看てやって

254
00:16:19,320 --> 00:16:21,040
大巫:周荘主

255
00:16:21,920 --> 00:16:23,440
周子舒:手数をかける

256
00:16:24,920 --> 00:16:27,240
大巫:腕の怪我はどうしたのだ?

257
00:16:28,120 --> 00:16:30,400
(周子舒):こっちの腕には
傷があるのを忘れていた……

258
00:16:31,500 --> 00:16:32,640
周子舒:なんでもない

259
00:16:32,640 --> 00:16:34,240
犬に咬まれた

260
00:16:35,280 --> 00:16:36,920
七爺:犬に?

261
00:16:37,960 --> 00:16:41,200
大巫:脈門は武を習う者が
厳重に守るべき急所の一つである

262
00:16:41,200 --> 00:16:43,080
どのような品種の犬がこのように手酷く

263
00:16:43,080 --> 00:16:45,000
あなたを咬むことができるのか

264
00:16:46,200 --> 00:16:49,080
温客行:あなたみたいにケチ臭いのは
根に持つと分かってたけど

265
00:16:49,080 --> 00:16:53,960
これしきの事で 三日間私を部屋に入れなかったよね

266
00:16:54,760 --> 00:16:57,640
どうぞ 咬み返せば?

267
00:16:57,680 --> 00:16:59,040
曹蔚寧:ぶっ……ゲホゲホ

268
00:16:59,040 --> 00:17:00,680
顧湘:いやぁ──

269
00:17:01,520 --> 00:17:03,240
張成嶺:あぁ……

270
00:17:05,440 --> 00:17:06,920
周子舒:公衆の面前だぞ

271
00:17:06,920 --> 00:17:09,080
少しは体面を気にしろ

272
00:17:11,120 --> 00:17:12,560
温客行:大巫お願いします

273
00:17:12,560 --> 00:17:13,920
大巫:うん

274
00:17:24,560 --> 00:17:26,320
温客行:どうです?

275
00:17:26,920 --> 00:17:30,680
大巫:私の想像よりまだ少し深刻だが──

276
00:17:31,280 --> 00:17:32,640
周荘主

277
00:17:32,640 --> 00:17:36,480
この数日でまた負傷したのでは?

278
00:17:38,880 --> 00:17:43,840
周子舒:江湖を漂う者
刀を受けずにはおれないのでは?

279
00:17:43,840 --> 00:17:46,440
──大巫は南疆人らしい、彫り深く
色の濃い瞳で見透かすように彼を見た

280
00:17:46,440 --> 00:17:48,040
大巫:周荘主

281
00:17:48,040 --> 00:17:50,080
もし少しの見込みもなければ

282
00:17:50,080 --> 00:17:52,600
会いに来て あなたを不快にさせたりはせぬ

283
00:17:52,600 --> 00:17:54,560
大いに安心するがいい

284
00:17:56,360 --> 00:17:58,000
周子舒:もし私の武功の類を廃するならば……

285
00:17:58,000 --> 00:18:00,440
大巫:その話はもう持ち出しはせぬ

286
00:18:00,440 --> 00:18:01,840
私の方法では

287
00:18:01,840 --> 00:18:03,880
あなたの武功と命を保たせることができる

288
00:18:03,880 --> 00:18:04,320
温客行:できるのか

289
00:18:04,320 --> 00:18:04,840
周子舒:命を保たせられるのか
温客行:できるのか

290
00:18:04,840 --> 00:18:05,800
周子舒:命を保たせられるのか
 

291
00:18:05,800 --> 00:18:08,000
周子舒:更に武功も残せる……

292
00:18:08,600 --> 00:18:10,720
ならば私は何を引き換えにするんだ?

293
00:18:11,600 --> 00:18:14,920
(周子舒):魚と熊の手は同時には得られぬ
(*鱼与熊掌不可兼得=二兎を追う者は一兎をも得ず)

294
00:18:15,400 --> 00:18:19,640
俺は空から落ちてきた餡餅(シャンビン)が
うまい具合に頭に当たるとは信じていない

295
00:18:20,360 --> 00:18:23,480
たとえ七爺と大巫が辛うじて
友人だと称せたとしても

296
00:18:23,480 --> 00:18:26,400
たとえ大巫の確かな神通力があろうとも……

297
00:18:26,840 --> 00:18:28,540
ただ

298
00:18:28,540 --> 00:18:32,480
希望というものは 人を傷付けるんだ

299
00:18:32,600 --> 00:18:34,000
七爺:子舒

300
00:18:34,280 --> 00:18:35,560
この半年で

301
00:18:35,560 --> 00:18:37,560
我らは多くの場所を尋ねた──

302
00:18:37,560 --> 00:18:39,680
巫医谷の勢力は君も知っているね

303
00:18:39,680 --> 00:18:42,920
当時 君が手を貸して創立したものだ

304
00:18:43,240 --> 00:18:45,280
これらの薬は 比較して希少で

305
00:18:45,280 --> 00:18:48,360
結局のところ 我らが探し出し全て集まった

306
00:18:48,360 --> 00:18:49,440
周子舒:うん

307
00:18:49,440 --> 00:18:51,240
大巫:この瓶薬を取っておけ

308
00:18:51,240 --> 00:18:53,360
毎日子夜時分に服用せよ

309
00:18:53,360 --> 00:18:55,840
七竅三秋釘の発作を抑えるのに良い

310
00:18:55,840 --> 00:18:58,840
ゆっくり釘の毒を溶かすこともできる

311
00:18:58,840 --> 00:18:59,960
七爺:毒は面倒だが

312
00:18:59,960 --> 00:19:01,600
やはり些細なこと

313
00:19:01,600 --> 00:19:03,680
肝心なのは君の経脈に釘が刺さってることだ

314
00:19:03,680 --> 00:19:08,160
抜き取れば 経脈は君の内力に堪えられぬ

315
00:19:10,000 --> 00:19:11,360
君は武功が散ることを望まない

316
00:19:11,360 --> 00:19:14,060
治すのには功夫を一等費やすことになる

317
00:19:14,060 --> 00:19:15,920
恐らく耐え難かろう

318
00:19:16,360 --> 00:19:17,760
しかし……

319
00:19:17,760 --> 00:19:20,020
他の者ならば耐えられぬだろうが

320
00:19:20,020 --> 00:19:24,080
私は むしろ君は試すのがいいと思う

321
00:19:24,560 --> 00:19:26,860
大巫:我らには功力の深厚たる者

322
00:19:26,860 --> 00:19:30,000
あなたの身の経脈を一瞬で
砕き断つことができる者が必要だ──

323
00:19:30,000 --> 00:19:32,800
これはあなた自身でもできる

324
00:19:32,800 --> 00:19:34,520
曹蔚寧:じゃあ……

325
00:19:34,520 --> 00:19:37,660
顧湘:砕き断つ……全身の経脈を?

326
00:19:37,660 --> 00:19:39,640
なら死んじゃうんじゃないか?

327
00:19:39,640 --> 00:19:41,380
張成嶺:師父……

328
00:19:44,280 --> 00:19:46,420
大巫:その可能性もあるが

329
00:19:47,020 --> 00:19:49,540
周荘主のように功力が深厚であれば

330
00:19:49,540 --> 00:19:52,060
却って早速と息絶えたりはせぬだろう

331
00:19:52,460 --> 00:19:54,180
この段階のうちに

332
00:19:54,180 --> 00:19:56,980
誰かが彼の心脈を保護すれば良い……

333
00:19:57,080 --> 00:19:58,540
温客行:あなたの言いたいのは

334
00:19:58,540 --> 00:20:00,600
経脈の再構築ですか?

335
00:20:00,600 --> 00:20:01,960
大巫:うむ

336
00:20:05,960 --> 00:20:07,940
温客行:あなたはできるんですか?

337
00:20:08,080 --> 00:20:10,300
大巫:単に私がやるだけなら

338
00:20:10,300 --> 00:20:12,180
三割の見込みだ

339
00:20:12,180 --> 00:20:14,820
ただしその間は……

340
00:20:15,580 --> 00:20:18,420
周荘主が持ち堪えられるかどうか次第だ

341
00:20:19,680 --> 00:20:21,660
温客行:三割……

342
00:20:22,980 --> 00:20:25,000
たった三割しかないんですか?

343
00:20:26,080 --> 00:20:28,460
大巫:浅学非才を許せ

344
00:20:32,800 --> 00:20:34,100
周子舒:分かった

345
00:20:34,100 --> 00:20:35,740
三割と言わず

346
00:20:35,980 --> 00:20:37,780
一割でも私は賭けたい

347
00:20:37,780 --> 00:20:39,720
どうせ何も失うものはない

348
00:20:43,120 --> 00:20:44,360
お二人に感謝を

349
00:20:44,360 --> 00:20:44,940
七爺:やあ

350
00:20:44,940 --> 00:20:46,180
何が感謝だ

351
00:20:46,180 --> 00:20:48,100
烏渓のお馬鹿さんは

352
00:20:48,100 --> 00:20:50,740
あの時我らが君に借りていた義理を返せなければ

353
00:20:50,740 --> 00:20:53,560
恐らくその一生が落ち着かないものになるだろう

354
00:20:53,560 --> 00:20:55,860
大巫:経脈の再構築は決してそんな容易くはなく

355
00:20:55,860 --> 00:20:58,100
極寒の地を必要とする

356
00:20:58,100 --> 00:21:02,740
そうすると 将来的に畏寒(いかん)の症状が
出る可能性が高まる

357
00:21:02,860 --> 00:21:05,500
だがあなたの功力が回復し 徐々に調整すれば

358
00:21:05,500 --> 00:21:07,877
むしろ問題だとも言えまい

359
00:21:09,760 --> 00:21:12,166
温客行:長明山の頂はいかがです?

360
00:21:12,166 --> 00:21:13,620
大巫:うむ

361
00:21:14,960 --> 00:21:19,020
長明山の頂は万年氷雪が融けぬ──

362
00:21:19,020 --> 00:21:20,800
悪くなかろう

363
00:21:20,940 --> 00:21:22,300
温客行:ちょうどいい

364
00:21:22,300 --> 00:21:25,020
あの老いぼれ食道楽にどれだけ
飯代の貸しがあるか分からない

365
00:21:25,020 --> 00:21:26,780
我々で彼の古巣へ行って

366
00:21:26,780 --> 00:21:28,460
彼に飯を奢らせよう──

367
00:21:28,460 --> 00:21:29,200
阿湘

368
00:21:29,200 --> 00:21:30,120
顧湘:あい

369
00:21:30,760 --> 00:21:32,460
温客行:ちょっと使い走りに行って

370
00:21:32,460 --> 00:21:34,260
葉白衣を探して来い

371
00:21:34,260 --> 00:21:37,660
戻ってくればお前に通り二条の嫁荷を準備してやる

372
00:21:37,660 --> 00:21:38,820
どうだ?

373
00:21:39,680 --> 00:21:40,480
顧湘:……通り三条

374
00:21:42,000 --> 00:21:44,920
温客行:二条半だ 行くのか?

375
00:21:44,920 --> 00:21:46,980
得してるのに損したふりをするな

376
00:21:46,980 --> 00:21:48,240
出て行け

377
00:21:48,240 --> 00:21:49,900
顧湘:はい

378
00:21:50,100 --> 00:21:51,420
曹兄さん 行くよ

379
00:21:51,420 --> 00:21:52,340
荷造りしよう……

380
00:21:52,340 --> 00:21:52,880
曹蔚寧:あぁ
荷造りしよう……

381
00:21:52,880 --> 00:21:53,140
曹蔚寧:あぁ
温客行:おい

382
00:21:53,140 --> 00:21:53,900
温客行:おい

383
00:21:54,500 --> 00:21:56,820
自分で片付けろ

384
00:21:56,820 --> 00:21:58,020
曹公子

385
00:21:58,020 --> 00:21:59,060
従わなくていい

386
00:21:59,060 --> 00:22:00,900
甘やかすときちんとしない

387
00:22:00,900 --> 00:22:02,560
付いてきて

388
00:22:02,560 --> 00:22:03,660
曹蔚寧:あぁ……

389
00:22:03,920 --> 00:22:05,200
温客行:それから坊主も

390
00:22:05,200 --> 00:22:05,480
張成嶺:あっ

391
00:22:05,480 --> 00:22:06,260
温客行;不学無術はやめなさい
(*不学无术=無学無能なこと)
張成嶺:あっ

392
00:22:06,260 --> 00:22:07,380
温客行;不学無術はやめなさい
(*不学无术=無学無能なこと)
 

393
00:22:07,380 --> 00:22:09,220
この数日は練功もたるんでる

394
00:22:09,220 --> 00:22:10,860
師父に叱られるのを待ってるのか?

395
00:22:10,860 --> 00:22:11,760
まだ行かないか

396
00:22:11,760 --> 00:22:12,880
張成嶺:はい

397
00:22:13,140 --> 00:22:14,300
温客行:阿絮

398
00:22:14,300 --> 00:22:15,740
一先ず話してて

399
00:22:15,740 --> 00:22:16,460
周子舒:うん

400
00:22:16,460 --> 00:22:16,820
七爺:気を付けて
周子舒:うん

401
00:22:16,820 --> 00:22:17,860
七爺:気を付けて
 

402
00:22:20,060 --> 00:22:23,000
──束の間、部屋が静かになって三人だけが残った

403
00:22:23,000 --> 00:22:24,740
七爺:子舒

404
00:22:24,740 --> 00:22:25,820
君のその……

405
00:22:25,820 --> 00:22:27,460
江湖の友人は

406
00:22:27,460 --> 00:22:29,380
経緯は複雑なのかい?

407
00:22:29,380 --> 00:22:31,500
ずっと彼と一緒だったのかな?

408
00:22:31,940 --> 00:22:33,260
周子舒:あ……

409
00:22:33,260 --> 00:22:36,460
七爺:しかし君にとってはまことに良いことだ

410
00:22:36,620 --> 00:22:38,540
ほかに……

411
00:22:39,500 --> 00:22:43,260
君が誰かに対してこのように
思い遣るのを見たことがなかった

412
00:22:43,580 --> 00:22:45,340
なかなか良いな

413
00:22:50,480 --> 00:22:51,760
周子舒:うん

414
00:23:01,340 --> 00:23:06,740
──張成嶺は中庭できっちり功夫を
鍛えているようでいて、実際は沢山の出来事で
知らず知らず心が浮ついていた

415
00:23:06,740 --> 00:23:09,640
彼も顧湘と曹蔚寧について行きたかった

416
00:23:09,640 --> 00:23:15,720
周子舒は男に傷の一つもないのはクズだと常々思い
張成嶺も外に出て何かをすべきだとあれこれ
考え、型が乱れたが温客行は何も言わなかった

417
00:23:15,720 --> 00:23:16,800
(温客行):三割……

418
00:23:16,800 --> 00:23:18,740
大巫:単に私がやるだけなら

419
00:23:18,740 --> 00:23:20,660
三割の見込みだ

420
00:23:20,660 --> 00:23:23,260
ただしその間は……

421
00:23:23,980 --> 00:23:25,720
周荘主が持ち堪えられるかどうか次第だ

422
00:23:25,720 --> 00:23:30,300
(温客行):私の人生には 無数の
生死の境い目があったが

423
00:23:30,780 --> 00:23:34,860
毎度 三割生き延びる勝算があれば
それでも上等だった──

424
00:23:36,780 --> 00:23:39,300
でもあれは阿絮だ

425
00:23:39,420 --> 00:23:41,140
曹蔚寧:温兄

426
00:23:41,780 --> 00:23:42,840
温兄?

427
00:23:42,840 --> 00:23:42,940
温客行:あっ?

428
00:23:42,940 --> 00:23:43,840
張成嶺:呑吐を続け 任督を廻らせ
温客行:あっ?

429
00:23:43,840 --> 00:23:46,380
張成嶺:呑吐を続け 任督を廻らせ
 

430
00:23:47,340 --> 00:23:48,440
張成嶺:百川が海に入るが如く 痕跡を残さず
 
 

431
00:23:48,440 --> 00:23:51,300
張成嶺:百川が海に入るが如く 痕跡を残さず
曹蔚寧:温兄が私を呼んだのは
何か相談があったのでは?

432
00:23:51,300 --> 00:23:51,880
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く
曹蔚寧:温兄が私を呼んだのは
何か相談があったのでは?

433
00:23:51,880 --> 00:23:52,180
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く
 
 

434
00:23:52,180 --> 00:23:53,740
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く
 
温客行:あぁ

435
00:23:53,740 --> 00:23:54,300
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く
 
 

436
00:23:54,300 --> 00:23:55,480
張成嶺:内息を意識し 精神は遊蛇の如く
 
温客行:掛けて

437
00:23:55,480 --> 00:23:55,800
曹蔚寧:はい

438
00:23:55,800 --> 00:23:57,600
張成嶺:絶えず断たず 自在に来往する──
曹蔚寧:はい

439
00:23:57,600 --> 00:24:00,420
張成嶺:絶えず断たず 自在に来往する──
 

440
00:24:05,280 --> 00:24:07,220
温客行:私が……

441
00:24:08,900 --> 00:24:10,540
私が十ほどの歳の

442
00:24:10,540 --> 00:24:12,780
自分も半分子供の頃に

443
00:24:12,780 --> 00:24:14,580
阿湘を拾った

444
00:24:15,500 --> 00:24:18,340
彼女の両親は私も知っていたが

445
00:24:18,700 --> 00:24:20,180
死んだ

446
00:24:22,960 --> 00:24:25,260
彼女は当時あまりにも小さくて

447
00:24:25,260 --> 00:24:27,700
まだおくるみの中にいて

448
00:24:27,700 --> 00:24:29,820
彼女の母上に隠されていて

449
00:24:29,820 --> 00:24:31,500
敵の注意を引かなかったからこそ

450
00:24:31,500 --> 00:24:33,700
彼女は命拾いした

451
00:24:36,880 --> 00:24:39,900
彼女は実は 私の侍女じゃない……

452
00:24:40,220 --> 00:24:43,020
我々はずっと主従でやって来たが

453
00:24:43,020 --> 00:24:45,940
私はあの娘を他人として扱ったことはない

454
00:24:46,260 --> 00:24:48,860
私にとっては自分の妹と同じだ

455
00:24:50,920 --> 00:24:53,420
年長者振るならば

456
00:24:53,420 --> 00:24:55,780
彼女の成長を見守ったので

457
00:24:55,780 --> 00:24:58,340
少し私の娘のようでもある

458
00:24:59,540 --> 00:25:02,340
私たちが小さい頃に住んでいた場所は

459
00:25:02,340 --> 00:25:04,820
とても人の居るところではなかった

460
00:25:05,180 --> 00:25:07,380
私自身も子供だったが

461
00:25:07,380 --> 00:25:10,140
彼女はよたよたと付いて来て

462
00:25:10,540 --> 00:25:14,820
初めて彼女にお粥を与えた時は
口をやけどさせてしまった

463
00:25:17,540 --> 00:25:20,380
今 阿湘は生き延びてこんな大きくなった

464
00:25:22,020 --> 00:25:23,740
容易くはなかった

465
00:25:23,740 --> 00:25:25,380
実際……

466
00:25:26,220 --> 00:25:28,700
彼女もかなり大変だっただろう

467
00:25:30,880 --> 00:25:32,420
曹蔚寧:温兄ご安心を

468
00:25:32,420 --> 00:25:34,580
私のこの一生 今から死に至るまで

469
00:25:34,580 --> 00:25:36,140
一日一刻数え上げても

470
00:25:36,140 --> 00:25:39,260
片時も絶対に阿湘を裏切ることはありません

471
00:25:41,400 --> 00:25:44,220
温客行:そこまで言う必要はない

472
00:25:45,160 --> 00:25:48,060
曹蔚寧:皇天后土は明察であられる
(*皇天后土 实所共鉴=天地神明に誓う言葉)

473
00:25:48,060 --> 00:25:50,040
天長く地久しきも時有りて尽くとも

474
00:25:50,040 --> 00:25:52,540
此の情 綿々と絶える期なし
(*天长地久有时尽 此恨无绝期=天地の尽きる時が来ても悲しみは続く《長恨歌》白居易)

475
00:25:55,080 --> 00:25:58,780
温客行:たとえ彼女が君の想像と
違う可能性があっても?

476
00:25:59,460 --> 00:26:00,940
たとえ……

477
00:26:01,940 --> 00:26:05,760
君が実際に 知りもしなかった
彼女に気付いたとしても?

478
00:26:05,920 --> 00:26:09,180
曹蔚寧:温兄ご安心を 私は
当然彼女を理解しています

479
00:26:11,880 --> 00:26:13,420
温客行:分かった

480
00:26:13,900 --> 00:26:15,460
覚えておこう

481
00:26:16,300 --> 00:26:19,440
──温客行は笑って小石を拾い
張成嶺に投げつけた

482
00:26:19,440 --> 00:26:20,980
坊主

483
00:26:20,980 --> 00:26:22,700
白昼夢でも見てるのか?

484
00:26:22,700 --> 00:26:24,640
ぼんやりするな! しっかり練功しろ!

485
00:26:24,640 --> 00:26:25,960
張成嶺:は……はい!

486
00:26:29,800 --> 00:26:31,620
(温客行):阿湘

487
00:26:32,180 --> 00:26:34,300
余計な心配だったな

488
00:26:50,860 --> 00:26:53,800
──張成嶺は温客行から学んだように
しつこく付き纏って一日中周子舒に話しかけた

489
00:26:53,800 --> 00:26:56,060
張成嶺:師父……

490
00:26:57,300 --> 00:26:59,020
師父 閉めないで──

491
00:26:59,020 --> 00:27:02,660
師父 私を顧湘姐さんたちと一緒に行かせてください

492
00:27:02,660 --> 00:27:04,220
私も何かお手伝いがしたいです

493
00:27:04,220 --> 00:27:05,500
自分の面倒は見れますから!

494
00:27:05,500 --> 00:27:06,520
周子舒:馬鹿言え

495
00:27:08,920 --> 00:27:10,540
張成嶺:師父 躱しましたよ

496
00:27:10,540 --> 00:27:12,280
考試を通過したかどうか──

497
00:27:12,860 --> 00:27:13,980
あぁ

498
00:27:17,440 --> 00:27:19,500
温客行:いいじゃないの

499
00:27:19,620 --> 00:27:21,440
今回は扉の通過ならずでも

500
00:27:21,440 --> 00:27:23,420
張成嶺:温前輩……

501
00:27:23,540 --> 00:27:25,420
すみません……

502
00:27:26,240 --> 00:27:28,220
温客行:男とは

503
00:27:28,380 --> 00:27:30,820
常に空房を一人で守り

504
00:27:30,820 --> 00:27:33,620
容易く欲求不満になる

505
00:27:33,940 --> 00:27:36,020
欲求不満は

506
00:27:36,020 --> 00:27:39,380
容易く理性的なことを見失いがちで

507
00:27:39,380 --> 00:27:41,600
理性を失えば

508
00:27:41,600 --> 00:27:41,620
張成嶺:前輩 師父に用事があるんでしょう
 

509
00:27:41,620 --> 00:27:43,420
張成嶺:前輩 師父に用事があるんでしょう
温客行:すなわち……

510
00:27:43,420 --> 00:27:44,500
張成嶺:前輩 師父に用事があるんでしょう
 

511
00:27:44,500 --> 00:27:46,560
張成嶺:私はもう行きます!

512
00:27:46,860 --> 00:27:48,500
温客行:あの坊主

513
00:27:48,500 --> 00:27:51,020
お化けに遭ったみたいにどうした?

514
00:27:51,740 --> 00:27:53,220
阿絮

515
00:27:55,460 --> 00:27:57,460
(温客行):もし今日もまだ開けないなら

516
00:27:57,460 --> 00:27:59,620
窓を破って入って

517
00:27:59,620 --> 00:28:02,380
花摘み強盗を堪能するまで

518
00:28:03,100 --> 00:28:04,340
温客行:あ

519
00:28:04,340 --> 00:28:05,600
阿絮?

520
00:28:05,600 --> 00:28:06,900
周子舒:うん

521
00:28:08,720 --> 00:28:10,340
温客行:あなたは……

522
00:28:10,340 --> 00:28:11,560
私を入れてくれるの?

523
00:28:11,560 --> 00:28:13,340
周子舒:入らんのか?

524
00:28:13,340 --> 00:28:14,200
入らんならまあいい

525
00:28:14,200 --> 00:28:16,100
温客行:もちろん入る!

526
00:28:17,380 --> 00:28:18,580
阿絮

527
00:28:18,580 --> 00:28:21,080
もう怒ってない?

528
00:28:23,800 --> 00:28:25,040
周子舒:座れ

529
00:28:26,600 --> 00:28:29,440
温客行:どうしてそんなに真剣なの……

530
00:28:39,380 --> 00:28:43,900
──周子舒は灯りをつけたまま、腰をかがめて
茶を二杯注ぎ、卓の傍に座った

531
00:28:43,900 --> 00:28:49,880
温客行はしばらくにやにやと彼を眺めていたが
次第に収め、茶杯を持ったまま飲まずに
椅子の背に凭れて足を伸ばして重ねた

532
00:28:49,880 --> 00:28:51,940
温客行:……どうしたの

533
00:28:52,420 --> 00:28:55,140
あなた 私に話があるの?

534
00:28:56,300 --> 00:28:58,080
身も心も委ねることに決めたか それとも……

535
00:28:58,080 --> 00:29:00,660
周子舒:俺に話があるんじゃないのか?

536
00:29:00,880 --> 00:29:02,980
温谷主

537
00:29:04,420 --> 00:29:09,020
──温客行は言葉に詰まって口を開いたまま
だったが、しばらくして首を振って笑った

538
00:29:13,640 --> 00:29:17,140
温客行:南疆の大巫はすごい人物だ

539
00:29:17,140 --> 00:29:20,980
彼に従っておけば 私は安心だ

540
00:29:21,000 --> 00:29:22,360
周子舒:うん

541
00:29:22,960 --> 00:29:25,900
──周子舒は指先に茶をつけて卓の上に落書きした

542
00:29:26,640 --> 00:29:28,120
周子舒:終わりか?

543
00:29:33,080 --> 00:29:35,180
(温客行):終わりなわけない

544
00:29:35,180 --> 00:29:40,040
話したいことが 多過ぎる……

545
00:29:40,040 --> 00:29:42,440
──温客行は目の前の柔和で鋭く美しい顔を見た

546
00:29:42,440 --> 00:29:45,500
(温客行):初めはこの人の背後の骨を見て

547
00:29:45,500 --> 00:29:48,140
胸がドキリとした

548
00:29:48,620 --> 00:29:50,260
それから

549
00:29:50,260 --> 00:29:52,580
彼の正体を知って

550
00:29:52,980 --> 00:29:57,860
天窗の首領は こんな人だったのかと思った

551
00:29:58,380 --> 00:30:00,660
彼はまるで……

552
00:30:00,660 --> 00:30:03,280
この世でのもう一人の私だ

553
00:30:03,280 --> 00:30:05,300
周子舒:大路の李を採る者はいない

554
00:30:05,300 --> 00:30:06,500
きっと苦い

555
00:30:06,500 --> 00:30:10,080
お前も要らないのに 俺がこの
面倒を抱えてどうするんだ?

556
00:30:10,080 --> 00:30:13,300
(温客行):我ら二人 虎挟みに挟まれた一匹狼で

557
00:30:13,300 --> 00:30:16,140
必死になっても抜け出せず

558
00:30:16,140 --> 00:30:18,900
むしろ己の脚を食いちぎろうと心に決めた

559
00:30:18,900 --> 00:30:20,980
大巫:あなたは三月ごとに一本打ち入れ

560
00:30:20,980 --> 00:30:23,260
それを体内で発展させた

561
00:30:23,260 --> 00:30:25,500
経脈は少しずつ枯死してゆくが

562
00:30:25,500 --> 00:30:27,780
精神の転倒には至っておらぬ

563
00:30:27,780 --> 00:30:29,300
ではないか?

564
00:30:29,300 --> 00:30:31,740
(温客行):でも誰が予想できたか

565
00:30:31,740 --> 00:30:34,260
彼みたいに高い地位と大きな権力を持つ者が

566
00:30:34,260 --> 00:30:39,060
血生臭い風雨の中 長き浮生に
一場の夢の如き経験をしてもなお

567
00:30:39,060 --> 00:30:42,080
どうしてこのように
赤子(せきし)の心を持つことができる?

568
00:30:42,080 --> 00:30:43,820
周子舒:もし一人の人が

569
00:30:43,820 --> 00:30:47,780
一生常に己以外の全ての人を警戒して

570
00:30:47,780 --> 00:30:51,740
誰にも親しまず 誰にも感情を示さず

571
00:30:51,740 --> 00:30:54,020
己で慈しむしかないなら──

572
00:30:54,020 --> 00:30:56,080
あまりにも哀れじゃないか?

573
00:30:56,560 --> 00:31:00,820
(温客行):ずっと一緒にいて 見ていた

574
00:31:00,820 --> 00:31:03,620
この人生で初めて知った

575
00:31:04,140 --> 00:31:08,440
本来 人はこのように生きてもいいのだと

576
00:31:08,440 --> 00:31:12,280
周子舒:壁の隅を陣取って日向ぼっこしてるだけだ

577
00:31:13,040 --> 00:31:14,980
(温客行):ならば私も

578
00:31:14,980 --> 00:31:17,560
このように過ごしていいのでは?

579
00:31:18,000 --> 00:31:20,340
阿絮……

580
00:31:22,520 --> 00:31:25,060
周子舒:この二、三年だ

581
00:31:26,660 --> 00:31:28,860
俺が初めてお前に会った時

582
00:31:28,860 --> 00:31:32,140
七竅三秋釘が俺の内力の半分を封じていた

583
00:31:32,820 --> 00:31:37,140
今は全盛時の八割まで回復している

584
00:31:37,940 --> 00:31:39,940
俺が死ぬ時までには

585
00:31:39,940 --> 00:31:44,300
全盛時の功力が 全て戻ってくるさ

586
00:31:46,160 --> 00:31:49,580
温客行:死なずにいることはできない?

587
00:31:50,120 --> 00:31:55,060
──温客行は無意識に伸ばした手で周子舒の
顔を撫で、僅かに指先を曲げるとそっと擦った

588
00:31:55,060 --> 00:32:00,080
男の繊細でない肌と、タコや傷に覆われた
手のひらが接触して、少し冷たく感じた

589
00:32:00,080 --> 00:32:02,420
温客行:死んではいけない

590
00:32:03,660 --> 00:32:05,780
あなたが死んでしまったら

591
00:32:06,700 --> 00:32:09,180
一人で生きていくのは

592
00:32:09,180 --> 00:32:12,160
とても孤独なのでは

593
00:32:12,160 --> 00:32:15,640
──周子舒は彼の手首を掴んだが振り払わなかった

594
00:32:15,640 --> 00:32:18,220
周子舒:一線で生きる可能性がある限りは

595
00:32:18,420 --> 00:32:20,860
俺は死ぬことはできない

596
00:32:21,340 --> 00:32:24,980
命は俺のもので 武功は俺のものだ

597
00:32:24,980 --> 00:32:27,420
老天が俺にこの道を与えたなら

598
00:32:27,420 --> 00:32:29,620
再び俺のを持っていくつもりでも

599
00:32:29,620 --> 00:32:31,620
そんな容易くはない

600
00:32:33,280 --> 00:32:36,540
──温客行は指先に彼の鼻息を感じて目を細めた

601
00:32:37,200 --> 00:32:39,180
温客行:その年

602
00:32:39,620 --> 00:32:41,780
一羽の梟が

603
00:32:41,780 --> 00:32:45,700
一人の村人の手の中の赤い水をひっくり返した……

604
00:32:46,880 --> 00:32:48,900
周子舒:村人はなぜ

605
00:32:49,620 --> 00:32:52,300
赤い水の碗を手にしていた?

606
00:32:55,560 --> 00:32:58,140
温客行:水に色はない

607
00:32:59,060 --> 00:33:01,900
でももし人の血が入ったら

608
00:33:02,140 --> 00:33:04,880
赤になるんじゃないの?

609
00:33:04,880 --> 00:33:07,740
──周子舒は彼を見て何も言わなかった

610
00:33:07,740 --> 00:33:12,120
温客行は突然意識が戻ったかのように
遊離の眼光が鮮明になった

611
00:33:12,120 --> 00:33:13,560
阿絮……

612
00:33:14,280 --> 00:33:17,060
私と一回寝てみたらいい

613
00:33:17,260 --> 00:33:20,180
そうすればあなたも私も心痛めて

614
00:33:20,180 --> 00:33:21,540
あなたは簡単に死なないし

615
00:33:21,540 --> 00:33:23,980
私も簡単に死なない

616
00:33:24,860 --> 00:33:27,260
いいと思わない?

617
00:33:30,760 --> 00:33:32,820
周子舒:お前は

618
00:33:33,420 --> 00:33:35,540
本心なのか?

619
00:33:40,760 --> 00:33:43,700
温客行:私が本心かどうか

620
00:33:44,740 --> 00:33:47,860
あなたはまさか分からないの?

621
00:33:50,120 --> 00:33:52,020
周子舒:俺は……

622
00:33:53,660 --> 00:33:56,140
本当に分からない

623
00:33:57,940 --> 00:34:00,780
これまで幾度も本心を見たことがなく

624
00:34:00,780 --> 00:34:03,220
区別がつかない

625
00:34:06,300 --> 00:34:08,900
お前は違うのか?

626
00:34:08,900 --> 00:34:12,840
──温客行の指は肩に沿って登り
彼の結い髪を引っ張ると黒絹が散った

627
00:34:12,840 --> 00:34:15,120
温客行:はい

628
00:34:20,340 --> 00:34:25,020
──それから目を閉じて、周子舒の唇に
くっつけると、波立って止まない心を落ち着けて
もう遠慮はしなかった

629
00:34:30,280 --> 00:34:34,660
周子舒はゆっくりと手を上げると
やがて彼の肩に留まり、彼の衣を掴んだ

630
00:34:40,520 --> 00:34:43,060
張成嶺:あ──誰だ!

631
00:34:43,060 --> 00:34:49,020
──周子舒の恍惚とした眼光はすぐに鮮明になり
温客行の動きが止まって、油断していた二人は
曖昧な姿勢のまま一緒になって地面に落ちた

632
00:34:51,000 --> 00:34:53,120
温客行は無表情で目を伏せて──

633
00:34:53,120 --> 00:34:55,780
温客行:こんな時に……

634
00:34:57,820 --> 00:34:59,420
ねえ

635
00:34:59,420 --> 00:35:03,640
来た者を空蒸ししてやろうか
それとも煮込んでやろうか?

636
00:35:03,640 --> 00:35:06,620
──自分と周子舒の開いた襟を引いた

637
00:35:15,380 --> 00:35:17,180
毒蝎:小僧止まれ!

638
00:35:17,180 --> 00:35:19,260
──蝎は冷ややかに眺めていた

639
00:35:22,280 --> 00:35:23,220
張成嶺:なんてこった

640
00:35:23,220 --> 00:35:25,300
どうしてまたこの黒ずくめの毒蝎どもは

641
00:35:25,300 --> 00:35:27,180
寝ても醒めてもまだいるんだ

642
00:35:27,180 --> 00:35:29,740
私はお前たちの墓穴を掘ってないぞ!

643
00:35:32,780 --> 00:35:36,580
──この少年は狼狽えていておかしかったが
歩法は乱れず絶妙な軽功を使った

644
00:35:36,800 --> 00:35:37,720
曹蔚寧:阿湘 危ない!

645
00:35:37,720 --> 00:35:38,260
顧湘:どこの孫があたしのいい夢を邪魔したんだ!
曹蔚寧:阿湘 危ない!

646
00:35:38,260 --> 00:35:39,860
顧湘:どこの孫があたしのいい夢を邪魔したんだ!
 

647
00:35:42,540 --> 00:35:46,720
──毒蝎の手から牛の毛のような針が放たれると
張成嶺は犬が泥に突っ込むような姿勢で
ドスンと四つん這いになった

648
00:35:46,720 --> 00:35:50,560
お尻を突き出し大芋虫のように蠢いて横転すると
飛び上がって木の柱を数歩登り体を捻った

649
00:35:50,560 --> 00:35:52,360
毒蝎:その小僧を捕まえろ!

650
00:35:52,360 --> 00:35:53,160
張成嶺:あぁ!

651
00:35:54,240 --> 00:35:55,860
針を喰らえ!

652
00:35:55,860 --> 00:35:58,080
──握った手を毒蝎に向けた

653
00:35:58,080 --> 00:35:59,380
張成嶺:大馬鹿だな

654
00:35:59,380 --> 00:36:01,040
これは私の師父が教えた人を騙す技だ

655
00:36:01,040 --> 00:36:02,140
周子舒:冗談だろ

656
00:36:02,140 --> 00:36:04,600
俺がいつお前にそんな下賤な技を教えたんだ?

657
00:36:04,600 --> 00:36:06,240
毒蝎:こせがれめ

658
00:36:06,240 --> 00:36:11,240
──可哀想な毒蝎がやっと反応して追い掛けようと
すると、後ろから一陣の風が襲い
振り向く暇もなく頭が首から離れて転がり落ちた

659
00:36:11,240 --> 00:36:12,680
張成嶺:温前輩……

660
00:36:14,580 --> 00:36:17,520
──空中を横切る残像だけが見え
毒蝎の首と胴体は切り離された

661
00:36:17,520 --> 00:36:21,400
温客行は俯いて漠然と立ち、衣服には一滴の
血痕もなく、左手の四本の指だけ血が滴っていた

662
00:36:21,400 --> 00:36:22,700
張成嶺:すごすぎる……

663
00:36:22,700 --> 00:36:24,580
私でもはっきり見えない……

664
00:36:24,680 --> 00:36:26,060
周子舒:小僧

665
00:36:26,260 --> 00:36:28,040
よそ見するな 自分に専念しろ

666
00:36:28,040 --> 00:36:28,920
張成嶺:はい

667
00:36:30,040 --> 00:36:33,780
──周子舒はゆっくり戸口に現れると
大巫にもらった丸薬を一粒、水もなしに飲み込んだ

668
00:36:33,780 --> 00:36:37,980
腰帯はまだ緩んでおり、視線は温客行らを
飛び越えて影に立つ蝎に直接向いていた

669
00:36:38,300 --> 00:36:42,200
大巫はまだ部屋の中から窓に凭れて眺めていて
その後ろには外衣を羽織った七爺がいた

670
00:36:42,200 --> 00:36:43,740
七爺:小毒物

671
00:36:43,740 --> 00:36:46,280
君はさっき子舒の部屋から
出てきたあちらさんを見たかい

672
00:36:46,280 --> 00:36:47,360
大巫:ん?

673
00:36:47,640 --> 00:36:49,400
七爺:彼の功夫はどうだい?

674
00:36:51,240 --> 00:36:53,180
大巫:まことの功夫についてであれば

675
00:36:53,180 --> 00:36:57,160
周荘主の全盛の頃なら彼と
やり合うのがいけないわけではないが

676
00:36:57,160 --> 00:37:01,400
純粋な打ち合いであれば この者には勝てまい

677
00:37:05,320 --> 00:37:06,900
七爺:なら君は?

678
00:37:07,620 --> 00:37:09,000
──大巫は首を振った

679
00:37:09,000 --> 00:37:10,900
大巫:もしやむを得ずでなければ

680
00:37:10,900 --> 00:37:13,660
絶対にこの者とは手合わせはせぬ

681
00:37:15,940 --> 00:37:17,220
私にしても

682
00:37:17,220 --> 00:37:19,220
周荘主にしても

683
00:37:19,220 --> 00:37:21,260
我らは師父に付いて学び

684
00:37:21,260 --> 00:37:24,780
またゆっくりと模索し 練功に精を出した……

685
00:37:25,220 --> 00:37:27,220
しかしこの者は違う

686
00:37:27,580 --> 00:37:28,820
彼の武功は

687
00:37:28,820 --> 00:37:33,340
数十年のうちに 血生臭い風雨の
生死の狭間で磨き上げたものだ──

688
00:37:33,460 --> 00:37:36,380
口訣はなく 型はなく

689
00:37:36,380 --> 00:37:42,000
一度また一度と 生きるか
それとも死ぬかの選択があるだけ

690
00:37:42,340 --> 00:37:45,220
──彼は真っ黒な瞳で、中庭の
真ん中に立つ温客行の方を見た

691
00:37:46,920 --> 00:37:48,660
七爺:彼は……

692
00:37:49,000 --> 00:37:51,020
大巫:それは恐らく

693
00:37:51,020 --> 00:37:53,580
天下で最も恐ろしい武功だ

694
00:37:54,240 --> 00:37:55,600
七爺:ふむ……

695
00:37:57,520 --> 00:38:01,620
だけど 子舒のあの衣服の乱れた様子を見れば

696
00:38:01,620 --> 00:38:04,660
我々はどんな心配も不要に違いない……

697
00:38:09,620 --> 00:38:13,500
──蝎は帽子のついた大袍を着て
月明かりの届かない暗がりで、首を鎖で繋がれた
夜行服を着た美貌の少年の顔を掴み上げた

698
00:38:13,500 --> 00:38:15,680
少年は苦しそうに顔を歪ませたが動かなかった

699
00:38:15,680 --> 00:38:18,460
蝎:ふふふふふふふ……

700
00:38:18,940 --> 00:38:24,180
今 彼が鬼谷の谷主でないと言われたら
私は殴り殺されようとも信じないね

701
00:38:25,060 --> 00:38:26,900
良い子だ

702
00:38:26,900 --> 00:38:30,380
お前はあのこの上なく幸運な
張家の坊やのところに行って

703
00:38:30,380 --> 00:38:32,340
彼と遊んでやりなさい

704
00:38:32,340 --> 00:38:35,840
我々大人は 世間話をしよう

705
00:38:35,840 --> 00:38:36,720
少年:うん

706
00:38:38,740 --> 00:38:43,220
──少年が声に応じて飛び出すと
意外にも彼の武功は弱くなかった

707
00:38:46,520 --> 00:38:47,960
曹蔚寧:彼らが退いたぞ

708
00:38:49,080 --> 00:38:51,600
顧湘:蝎が彼の手下を
張成嶺のところにやったんだ!

709
00:38:51,600 --> 00:38:52,640
高小怜:どうすれば?

710
00:38:53,120 --> 00:38:54,620
周子舒:手出しは無用だ

711
00:38:54,620 --> 00:38:56,300
彼ら二人 腕の差はあまりない

712
00:38:56,300 --> 00:38:59,660
張成嶺は追い詰められれば却って進境できる

713
00:38:59,660 --> 00:39:01,180
我々これだけの人が傍にいれば

714
00:39:01,180 --> 00:39:02,940
何の支障もない

715
00:39:04,400 --> 00:39:07,460
──生きている毒蝎は全員
戦線離脱し彼の身辺に整列した

716
00:39:07,460 --> 00:39:08,840
蝎は抱拳し──

717
00:39:08,840 --> 00:39:10,500
蝎:お二人に

718
00:39:10,500 --> 00:39:12,700
またお会いした

719
00:39:13,640 --> 00:39:15,480
温客行:あなたは死にに来たんです?

720
00:39:15,480 --> 00:39:17,780
蝎:ふふふ とんでもない

721
00:39:17,780 --> 00:39:20,380
私めはまだ命が惜しい

722
00:39:20,580 --> 00:39:24,140
我々の目標が 既に谷主である
あなたに守られている以上

723
00:39:24,140 --> 00:39:26,380
我々は熊心豹胆を食すだけだが
(吃了熊心豹子胆=無謀なほど度胸があること)

724
00:39:26,380 --> 00:39:29,740
しかし太歳(たいさい)の頭上で
土を動かすこともできない
(*太岁头上动土=強い者に楯突く)

725
00:39:30,180 --> 00:39:31,780
私がここにやって来たのは

726
00:39:31,780 --> 00:39:33,700
人に頼まれたに過ぎない

727
00:39:33,700 --> 00:39:37,420
そちらの張坊っちゃんに一言お伝えしたいだけだ

728
00:39:37,420 --> 00:39:40,520
──温客行は、無駄口を叩けばそのまま首を
捻りそうな様子で、我慢ならないように彼を見た

729
00:39:40,520 --> 00:39:42,040
周子舒:話は何だ?

730
00:39:43,640 --> 00:39:45,360
温客行:薬は飲んだの?

731
00:39:45,560 --> 00:39:46,580
周子舒:うん

732
00:39:46,740 --> 00:39:47,880
手を貸せ

733
00:39:47,880 --> 00:39:49,200
温客行:ん?

734
00:39:49,200 --> 00:39:50,760
周子舒:血が付いてる

735
00:39:56,360 --> 00:39:57,840
──蝎は後ろ手を組んで立った

736
00:39:57,840 --> 00:39:59,260
蝎:ほぅ?

737
00:39:59,260 --> 00:40:03,540
そちらの張小公子の歩法はなんとも興味深い……

738
00:40:04,280 --> 00:40:08,460
──先ほどまでは逃げ隠れしていたが、今は
狼狽しつつもいくつか技を返すことができている

739
00:40:17,240 --> 00:40:19,340
蝎:あの子供の使う剣技には

740
00:40:19,340 --> 00:40:22,140
意外にも二種類の極めて
卓越した剣法が隠されている

741
00:40:22,140 --> 00:40:26,900
そして彼は一種の不器用な
やり方で結合させている──

742
00:40:27,540 --> 00:40:30,340
名高き師は高弟を輩出する か?

743
00:40:31,240 --> 00:40:33,420
張の坊っちゃん

744
00:40:33,420 --> 00:40:35,420
知りたいと思わないか?

745
00:40:35,420 --> 00:40:39,400
あなたのうちの人を本当に害したのは誰か

746
00:40:39,400 --> 00:40:40,760
張成嶺:何を……

747
00:40:40,760 --> 00:40:43,360
──張成嶺が動揺すると、相手は
首の鎖を振って彼の剣に巻きつけて折った

748
00:40:43,360 --> 00:40:44,600
張成嶺:しまった

749
00:40:44,600 --> 00:40:47,580
──美貌の少年はすぐに追撃し
手にした長刀を振り上げ腰を狙った

750
00:40:47,580 --> 00:40:49,520
張成嶺は焦って横転すると少年の股間を蹴った

751
00:40:49,520 --> 00:40:52,820
蝎:なんと下三路を攻める型なのか……
(*下三路=人体の急所)

752
00:40:52,820 --> 00:40:54,400
これは……

753
00:40:54,400 --> 00:40:54,620
周子舒:お前は弟子に何を教えたんだ?

754
00:40:54,620 --> 00:40:56,560
温客行:弟子に何を教えてるの?
周子舒:お前は弟子に何を教えたんだ?

755
00:40:56,560 --> 00:40:58,000
温客行:明らかにあなたの弟子だ
 

756
00:40:58,000 --> 00:40:58,420
温客行:明らかにあなたの弟子だ
周子舒:馬鹿言え

757
00:40:58,420 --> 00:40:59,400
周子舒:馬鹿言え

758
00:40:59,400 --> 00:41:03,220
この類の恥知らずで下品な以外 何も
できない弟子を どうして俺が教えられるんだ

759
00:41:03,220 --> 00:41:05,280
明らかにお前と同じ品種だ

760
00:41:05,640 --> 00:41:09,260
蝎:むしろこれは形式に拘らない子供だ──

761
00:41:09,260 --> 00:41:11,380
あなたの父親を殺した者

762
00:41:11,380 --> 00:41:13,660
泰山掌門を殺害した者

763
00:41:13,660 --> 00:41:16,300
密かに沈家家主を消した者

764
00:41:16,300 --> 00:41:19,100
高大侠を陥れた者

765
00:41:19,100 --> 00:41:22,320
実際は 全て一人だ

766
00:41:22,320 --> 00:41:24,260
張成嶺:それは誰だ?

767
00:41:24,560 --> 00:41:26,520
蝎:誰だと思う?

768
00:41:26,740 --> 00:41:30,460
現在まだ暗(ひそ)かに陳倉に
渡ることができ琉璃甲を持っていて
(*暗度陈仓=三十六計 偽装と奇襲を併せて敵を討つ)

769
00:41:30,460 --> 00:41:34,660
天下の英雄を集め鬼谷に攻め込み

770
00:41:34,660 --> 00:41:38,340
事情を知る者を殺し尽くさんとすることができ

771
00:41:38,340 --> 00:41:43,560
その鬼谷の“鍵”と琉璃甲を
ひと処に集めることができるのは誰か?

772
00:41:43,560 --> 00:41:46,440
張成嶺:ありえない! でたらめだ!

773
00:41:52,520 --> 00:41:55,420
ありえない ありえないぞ……

774
00:41:56,900 --> 00:41:58,160
あぁぁ──

775
00:41:58,160 --> 00:41:59,740
周子舒:小僧

776
00:41:59,740 --> 00:42:00,980
大道を成したくば

777
00:42:00,980 --> 00:42:02,960
志は揺らがせてはならない

778
00:42:04,420 --> 00:42:07,420
お前が明白だと思う事で
人を欺き自らも欺く必要はない

779
00:42:07,420 --> 00:42:08,660
屁だと思えば

780
00:42:08,660 --> 00:42:10,440
自ずと左耳から右耳に受け流すこともできる

781
00:42:10,440 --> 00:42:11,400
張成嶺:はい!

782
00:42:11,400 --> 00:42:14,640
──そう言うと何の動作も見せず、曹蔚寧の
横に来て無造作に彼の剣を外した

783
00:42:14,640 --> 00:42:17,380
周子舒:小僧 剣を取れ!

784
00:42:18,380 --> 00:42:20,460
お前は顧湘たちと行きたいんじゃないのか?

785
00:42:20,460 --> 00:42:22,580
その白面の娘もどきを殺せたら

786
00:42:22,580 --> 00:42:23,880
お前が行くことを許してやる

787
00:42:23,880 --> 00:42:24,720
張成嶺:はい!

788
00:42:24,720 --> 00:42:26,740
──長剣を鞘から抜き
躊躇うことなく少年に斬り掛かった

789
00:42:26,740 --> 00:42:30,560
誰にも教わってはいないが、曹蔚寧の剣を
金絲大環刀のように使うと、少年は慌てて退いた

790
00:42:30,560 --> 00:42:34,780
(張成嶺):この少年は 片足が不自由だ……

791
00:42:35,660 --> 00:42:37,240
足を引きずって──

792
00:42:37,920 --> 00:42:40,080
びっこの男:物はどこだ?

793
00:42:40,080 --> 00:42:41,900
(張成嶺):思い出したぞ

794
00:42:41,900 --> 00:42:45,280
あの者は足を引きずってた……

795
00:42:46,200 --> 00:42:47,920
張成嶺:やぁぁぁ

796
00:42:52,500 --> 00:42:56,380
──趙敬が彼を洞庭に連れて来てから
毒蝎どもが次第に現れ始めた

797
00:42:56,380 --> 00:43:01,160
得体の知れない周子舒に彼を連れ去らせたのは
身辺から離してこそ、実際に手を下せるからだ

798
00:43:01,160 --> 00:43:06,220
張成嶺:本当に 趙おじ上なのか?

799
00:43:06,620 --> 00:43:11,760
──当時を知る者は、傷を負った趙敬だけが
残り、目下徳望高き風光は二つとない

800
00:43:11,760 --> 00:43:14,300
これこそが真相である

801
00:43:17,280 --> 00:43:18,780
温客行:阿絮

802
00:43:19,220 --> 00:43:21,580
私も行かないと

803
00:43:21,740 --> 00:43:23,140
あなたは……

804
00:43:23,140 --> 00:43:25,380
しっかり傷を治して

805
00:43:25,500 --> 00:43:26,960
でも塀から紅杏を覗かせるのは許さない

806
00:43:26,960 --> 00:43:28,520
周子舒:分かってる

807
00:43:32,320 --> 00:43:33,640
出ていけ

808
00:43:34,400 --> 00:43:36,040
だが死ぬな

809
00:43:37,640 --> 00:43:40,040
老孟:お帰りなさいませ谷主

810
00:43:40,480 --> 00:43:46,000
“客行天涯谁敌谁友”
(天涯の客行 誰が敵で友なのか)

811
00:43:46,880 --> 00:43:52,600
“十载烟云一杯酒”
(雲烟る十年に一杯の酒)

812
00:43:53,360 --> 00:43:58,620
“身似飞絮过江南锦绣”
(飛絮のごとき身で江南錦繍を過れば)

813
00:43:58,620 --> 00:44:05,480
“冰销后 花月遥对平江柳”
(氷の融けたる後 花月遥か対う柳の平江)

814
00:44:05,880 --> 00:44:09,040
“江湖一醉大梦三秋”
(江湖に酔えば 三秋の大夢)

815
00:44:09,040 --> 00:44:12,820
“人心善恶只为情仇”
(人心の善悪ただ恩仇のため)

816
00:44:12,820 --> 00:44:19,600
“却不枉萍水知交许白首”
(それでも萍水の知己 白首なろうとも悔いはなし)

817
00:44:20,000 --> 00:44:22,160
“不过 蓬蒿旧梦”
(ただ 草葉の旧き夢に過ぎぬ)

818
00:44:22,160 --> 00:44:26,120
“自在余生 懒知欢与恨”
(自在なる余生に 愛憎を知ることなく)

819
00:44:26,120 --> 00:44:28,600
“偏要 刀剑交锋”
(ひとえに 刀剣を交え)

820
00:44:28,600 --> 00:44:32,880
“把盏笑问 慰这孤独人”
(盃を掲げ笑って問えば 孤独なる人の慰めになろう)

821
00:44:32,880 --> 00:44:36,120
“渺渺黄泉 只葬狂嗔”
(渺渺たる黄泉に ただ葬られし狂気)

822
00:44:36,120 --> 00:44:40,440
“茫茫鬼蜮 谁为谁掌灯”
(茫々たる悪意の中で 誰がために火を灯すのか)

823
00:44:40,440 --> 00:44:46,320
“此处长明 有红尘”
(ここは長明 紅塵に有り)

824
00:45:12,800 --> 00:45:19,240
“万鬼成窟寸光微漏”
(万鬼の巣窟 かすかな光を漏らす)

825
00:45:19,240 --> 00:45:25,880
“以免惊鸿白衣瘦”
(細き白衣の美しき君を離さぬよう)

826
00:45:25,880 --> 00:45:30,760
“倾心日久薄衾胜貉裘”
(日々心寄せれば毛皮に勝る薄衾)

827
00:45:30,760 --> 00:45:38,080
“如厮守 巴山夜雪也暖昼”
(寄り添い合えば 巴山の夜雪も昼は暖かく)

828
00:45:38,080 --> 00:45:41,320
“玉壶冰心碾转谁手”
(一片の氷心 誰の手に渡ろうとも)

829
00:45:41,320 --> 00:45:45,200
“情丝剥尽才知剔透”
(情の糸を解けば透徹たるを知る)

830
00:45:45,200 --> 00:45:51,760
“最不忍一眼春风难如旧”
(吹きゆく春風 耐え難くともいつかは変わる)

831
00:45:52,440 --> 00:45:54,560
“不过 蓬蒿旧梦”
(ただ 草葉の旧き夢に過ぎぬ)

832
00:45:54,560 --> 00:45:58,720
“自在余生 懒知欢与恨”
(自在なる余生に 愛憎を知ることなく)

833
00:45:58,720 --> 00:46:01,000
“偏要 刀剑交锋”
(ひとえに 刀剣を交え)

834
00:46:01,000 --> 00:46:05,400
“把盏笑问 慰这孤独人”
(盃を掲げ笑って問えば 孤独なる人の慰めになろう)

835
00:46:05,400 --> 00:46:08,520
“渺渺黄泉 只葬狂嗔”
(渺渺たる黄泉に ただ葬られし狂気)

836
00:46:08,520 --> 00:46:12,840
“茫茫鬼蜮 谁为谁掌灯”
(茫々たる悪意の中で 誰がために火を灯すのか)

837
00:46:12,840 --> 00:46:17,880
“此处长明 有红尘”
(ここは長明 紅塵に有り)

838
00:46:17,880 --> 00:46:20,520
“不过 天光一缕”
(ただ 一縷の天光に過ぎぬ)

839
00:46:20,520 --> 00:46:24,680
“生死几轮 何幸付热忱”
(重ねた生死に 情熱注ぐことの幸運を)

840
00:46:24,680 --> 00:46:26,960
“哪管 前尘旧闻”
(どんな過去の風聞でも)

841
00:46:26,960 --> 00:46:31,240
“是假是真 心动有余温”
(嘘か真か 心動かす余熱があり)

842
00:46:31,240 --> 00:46:34,360
“迢迢风崖 无可容身”
(迢迢たる風崖 身の置き場なく)

843
00:46:34,360 --> 00:46:38,600
“痴痴人间 从不止方寸”
(痴れたる人の世 思いのままに)

844
00:46:38,600 --> 00:46:44,680
“天涯解剑 好寻春”
(天涯に剣を放ち 春を尋ねる)








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